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篠崎さんは自分の尻尾を手に取り、撫でながら言う。その流し目と微笑む唇に、先程のキスを思い出してぞくりとする。ここで綺麗だとか、かっこいいとか思ったら負けだ。
「ところで霊力は、定期的に吸わないといけないからな?」
「は?」
「そりゃそうだろ。楓は温泉が湧き出るように無尽蔵に霊力が噴き出してんだから」
「な……な………」
尻尾をゆらゆら、さっさとオフィスを後にした篠崎さんは、ドアの前で鍵をチャラチャラと鳴らす。
「出るぞ」
「あの、キス以外の方法ってないんですか?」
「ねえんだよな、それが。他にあったら、こんなこと誰がするか」
「誰がするか、って酷くないですか!?」
彼は肩をすくめた。
「その代わり責任持って守ってやるよ。そのダダ漏れの霊力がなんとかなるまでは」
守ってやると言われるのは心強い。
とてもありがたいし、実際篠崎さんはとても優しくて親切だ。社員として頑張って働いて、早く彼に恩返ししたいと思う。
けれどキスは。キスはどうしよう。
ファーストキスとして良いシチュエーションだったのは確かだけど、まだ、その、混乱しかない。だって私篠崎さんと付き合ってる訳でも、篠崎さんに好かれてる訳でもないのに。
「おーい。楓」
「篠崎さん」
「ん?」
「……夕飯、ご馳走してくださるっておっしゃいましたよね?」
低い声で問いかける私に、篠崎さんは目を細めて苦笑う。
「ブランド牛とかやめてくれよ」
「川副さんの屋台の、おうどんが……また食べたいです……」
「安上がりで可愛いな、お前」
こうして。
『普通』の平穏を望んで慎ましやかに生きてきた私は、とんだ社長の下でで働くことになったのだった。




