12【第二章】
予約投稿失敗してました……もうしわけございません!
窓から鮮烈な朝日が差し込み、私は朝が来たことを知る。しかめながら日差しに背を向けたところで、枕元からホニャホニャとしたスマートフォンのアラーム。手探りで止めてディスプレイの表示を見ると、先日の歓迎会の写真を背景に時計が午前07:01を告げていた。
起きなくちゃ。思いながら体を曲げると、太腿のところに何か生き物がいるのに気づく。ざりざりとした毛並みの触感、柔らかい熱。
「んー……」
引っ張り上げると黒猫の夜さんが長く伸びて布団から出てきた。瀟洒な猫さんなのに、舌をしまい忘れたお間抜け顔でくぴくぴと鼻をひくつかせながら寝ている。
「夜さん、寝るときはせめてベッドに入らないでって言ったでしょ」
ぴくりと反応し、金色の瞳が寝ぼけ顔で開く。
「にゃあ」
「にゃあ、じゃないよ、もう……」
黒猫の猫又の夜さん。見た目は若々しいほっそりとした美猫さんだけど、姿を変えると成人男性、しかも切長の目元の和風美男子になるから困る。だからなるべくベッドで寝て欲しくないんだけど、この見た目だとどうにも許してしまう。というか、可愛いから許す。
彼は私と主従契約を結び、私の飼い猫となることで『此方』――人間界に居場所を持った猫又だ。元々何百年もどこかの旧家で飼い猫だったからか、今でも人の温もりと一緒に寝るのが落ち着くし、霊力が安定するのだとか。
一応彼の住まいは会社ということになっているし、会社のロッカーに彼の人間としてのスーツ一揃えは一式あるのだけれど、時々彼は勝手気ままに、主人である私の部屋にやってきてはこうして霊力をつまみ食いしている。
夜さんが部屋を出て行ったので、私はリクルートスーツに着替えて身支度をする。朝の実家は無人だ。母は近隣の子ども見守りボランティアに行っているし、父は朝が早い。
のんびりトーストを用意して、テレビをつけて朝のニュース番組を見ながら朝食だ。
福岡ローカル放送局の朝の報道バラエティでは、今週末に開催される市場の準備をする糸島の方々の様子が映し出されていた。
画面に映し出される美しい海岸の景色を背に、スタッフの若い女性がインタビューされている。真っ黒で長い髪をした、どきっとするほど美しい美女だ。
「海の美しさと住みやすさに惹かれて移住してきました。地元の方と一緒になって、こうして楽しいイベントを開催することができて嬉しいです」
「人魚姫みたいに綺麗な人だなあ……」
鮮やかな赤いTシャツを着て飾り気ない姿でありながら、品が良い物腰と声が色っぽい。Tシャツ一枚で美しい人が一番綺麗だって、誰かがどっかで言ってた気がする。
続いて芸能ニュース。新作ドラマのキスシーンが映され、私は思わずチャンネルを変える。
「あ――――……」
私はあのキスを、まだ引きずっている。
あれから入社し、私は篠崎さんと毎日顔を合わせている。
前職の事もあり、当初は今後何が起こるかとビクビクしていたが、篠崎さんは驚くほど普通に接してきた。
やはりあやかしの彼にとっては、私とキスするなんて大したことじゃないのだろう。
「……まずは仕事を頑張らなきゃ!」
「うむ、その気概や良し」
「ん?」
ふと隣を見ると、全裸の夜さん(人間の姿)がテレビを見ていた。
「ぎゃ――――!!!!!!!」
「どうした、楓殿」
「人間! 服! 男子! 目のやり場!」
カーテン越しの柔らかな朝の日差しを浴びた夜さんは、まるでグラビアピンナップみたいに非常に絵になる。絵になるのはいいから、とにかく、やめてほしい。
「俺にとってはこの姿も猫の姿も同じ俺だから、気にしないで構わないが」
「夜さん。例えば私が人間のメスですけど、私が猫のメスだったら、どう思うんですか」
「……そうか。そういうものか」
「そう。そういうこと」
「しかし楓殿は人間の雌だから、関係ないのでは」
「ごめん、わかってなかったね」
夜さんが立ち上がるので「ギャッ」と叫んで顔を覆うと、その間に夜さんは猫になり、するりと私の横を抜け、器用にサッシを開いて窓から降りていった。
「また会社で、楓殿」
「……頼むから、人間の格好でマッパで外に出ないように気をつけてね……」
私は朝からぐったりと疲労を覚えながら、簡単に片付けてテレビを消し、家を出た。
◇◇◇
「おはようございまーす」
「おはよう、楓ちゃん」
尻尾をぱたぱたさせながらお茶の準備をしているのは、黒柴の姿にOLの制服を着た、もふもふの可愛い経理総務担当羽犬塚さん。事務所の鍵を開けてくれている彼女も、私のことを「楓」と呼ぶ。篠崎さんの意向により、みんな私を下の名前で呼んでくれている。菊井は滅多にない名字だから、友達もだいたいそっちで呼んでくれてたので珍しい反応だと思う。
「井戸の嫌なこと、ねえ」
篠崎さんの発言に対して、羽犬塚さんは意味深に笑う。
業務が始まると、私は篠崎さんに真っ先に呼ばれた。
「今日はお前、これから糸島に行ってくれ」
「糸島ですか」
ちょうど朝テレビで観た美しい海岸と自然の風景を思い出す。五月晴れの今日はきっと気持ち良い景色が広がっているだろう。
「移住や転職の相談ごとですか?」
「いや。少し違う。もう既に5年前、石川からこっちに越してきた人だ。その人から相談事があるから、新人一人寄越してくれと言われた」
篠崎さんがPCの画面を示してきたので覗き込む。そこには簡単にお客様の情報が表示されていた。
――――――
種族 浜姫
名前 清音
生年 大体250年前くらいまで記憶あり
出身 加賀橋立(石川県加賀市)
移住先 糸島市
対応 磯女 瑛衣女の仲介により磯女の集落に移住。
――――――ー
「お客様が新人の顔を見たいって御所望なわけだ。丁重に挨拶しに行ってこい」
「承知いたしました」
私は頷きながら、気になったことを篠崎さんに尋ねてみる。
「篠崎さん、あの」
「ん?」
「弊社って、移住転職サービスという名目ですけど」
「ああ」




