第26話 電脳無双
オレの左手には龍を形取った痣がある。
あれはオレが厨……中二の時に交通事故に遭い生死の境を彷徨った(気になっている)時に異世界へと辿り着いた事がある。だがバキュームっぽい車に跳ねられたオレの全身には致命傷とも言える打撲があり、瀕死の状態で異世界の街道で倒れていた。
そんな重傷者が目の前で倒れているのに道行く旅人の誰もがオレの事を避けるように離れて行くのは、決してオレの身体から発せられる排泄物が腐ったような臭いのせいでは決して無く、オレが着ている衣服がどう見てもこの世界のものでは無かったからだと信じたい。
せっかく異世界へとやって来たのに何故か既に生命の炎が消えようとしていたオレの目の前に白いローブを纏った龍神様みたいな美女(?)が現れて一言こう呟いた。「これでは使い物にならないからリテイクだわ」と。あの時に異世界への転生を垣間見たオレは何時向うの世界へ再召喚されても困らないようにと、こちらの世界の知識を学び続ける宿命を負っている。
さて、これまでの検証によって異世界での快適生活に何が必要かを考えてきた。しかし考えれば考えるほど足りないモノが次々と思い浮かんで来てしまい、このままだと魔王との戦い以前に人間社会の発展に寄与しただけでオレの寿命が尽きてしまうかも知れない。
そこでオレの命令によって様々な業務をサポートをしてくれるメイド型ロボの必要性に気付くのだが、何しろ肥溜めレベルの文明しか持ってない異世界でイキナリそんなハイレベルな工業製品を生み出す事などいくら優秀で”持っている”オレでもムリゲーだと認めざるをえない。
だから今回はその基礎となる技術についていろいろと調べてみる事にしよう。
最初にロボテスク技術と言ってもその分野は数知れずでAIと呼ばれる人工頭脳を人型フレームに組み込んで、人と同じ動作を可能とする為に必要な様々なセンサー技術とそれらの制御アルゴリズムも必要になる。
カメラで捉えた映像から物体を認識してテキストコードに変換してメモリーに残したり、周りにある様々な音の中から一人又は複数の誰かの話し声を認識してテキストコードへと変換して文章解析を行う。そしてこれらのデータを元に返答に必要な単語を検索し、その単語を含めた文章を組立てて発音する。
最低でもこれくらいの性能が無ければロボとは呼べない。
あとは無線LANの電波を自動で拾って周りにある家電を制御したり、常時接続しているネットから相手が必要としている情報を教えてくれたりとこれら以外にも様々な機能が必要となるだろう。
それではそのロボの頭脳となるコンピューターについて学んでみよう。
コンピューターの過去を遡ってみると現在の64bitの前は32bitでその前が16bit、更にその前は8bitとなりこの頃からマイクロコンピューターと呼ばれるようになり一般に広く普及した。そして8bitの前は4bitのLSIとなるのだがこの頃のものは電子計算機のパーツとして認識されており集積回路そのものが一般人からクローズアップされた事は無い。
そもそも電気メーカーの下請けだったこれらの精密部品メーカーが、依頼された電子回路や電卓の部品をいちいち基板から設計するのが手間でコストを圧迫していたので、それらをLSIの中に焼いて記録させたのがROMの始まりだったと思う。
そのROMもROMライター等の特別な機材を使用するより、中身に何も書かれていないメモリーに電子情報を後から読み込ませて様々な計算をさせようといった発想からRAMが発明されるようになる。
しかしこれらの機器は電子式と呼ばれるもので、これらの機材が20世紀になり突然現れた訳では無くて、その更に前には機械式とかアナログ式と呼ばれた機械仕掛けの計算機があった事も知っておかねばなるまい。
この機械式計算機で最も古いとされるものはやはり”アンティキラ島の機械”と呼ばれる天文学用の歯車式計算機だろう。これは1901年にギリシャにあるアンティキラ島の沈没船の中から発見されて最初は何の為の機械なのか判らなかったらしいが、この機械には太陽と月それに黄道十二宮を表す記号が刻まれている事から天体観測用の計算機だと考えられた。
そしてこの機械が作られたと考えられるのが紀元前100年から150年前らしいんだけど、これってもしかすると異世界からオレたちの世界へやって来た誰かが作ったんじゃないかな? だってそうだろう、オレたちの住むこちらの世界で機械式の計算機と呼ばれるモノが発明されるのはこれより遥か先の未来である17世紀頃まで待つ事になるんだからな。
最も計算機なんて大層なシロモノでは無くて”算盤”みたいなモノなら、このアンティキア島の機械より遥か前から世界各地で使用されていた記録がある。その代表的なモノが”アバカス”と呼ばれる算盤の一種だろう。
恐らくだが最初は大きさの異なった小石をキャッシュとして使用し計算間違いを防ぐ事が目的だったんじゃないかと考えられる。今より人々の教育レベルが低い時代に普段は使用しないくらい大きな数を計算するのはなかなか難しかったんじゃないかな。
それで計算する度にいちいち小石を集めて来るのも面倒だと考えた誰かがいくつかの規則性を持たせて並べた小石に竹ひごや紐を通してバラけないようにしたんだと思う。そしてそれを見た別の誰かがそれを更に発展させて市中に流通させるようになったのだろう。
そのアバカスがメソポタミアで発明されて世界にある他の文明圏へと伝わり、エジプトやペルシャ、それにギリシアやローマを経て中国、そして日本にも伝わったみたいだ。
日本には16世紀後半には算盤を使用していた記録があるのだが、オレたちのご先祖様たちがせっせと算盤を”使う技術”のみを磨いていた頃に、海の向こうにある西洋では機械のしくみ――もっと細かく言えば歯車のギヤを使った半自動式計算機の開発に力を注いでいた。
もしかしたらこの時点でもう第二次世界大戦での敗戦が決まっていたのかも知れないと考えるくらいの差が計算技術の分野においては開いていたと考えるべきだろう。
1642年に世界初の歯車式計算機”パスカリーヌ”が発明されると、その後も次々に発展型の機械式計算機が開発されて行く。そして1834年には蒸気機関で動くとされる”解析機関”と呼ばれる自動式とまで称されるモノまで作られるようになるが、当時の工作精度が低く実用には至らなかったとされる。
しかしプログラムをパンチカードによって機械に読み込ませるなど現代のコンピューターと同様の理論をこの時点で実現していた事は驚嘆に値する。
これらの理論を元に科学と工業技術の発展により真空管が発明されると、それまではギアの数を元に計算していたものが電気信号へとその進化を遂げる。
電気回路に流れる電流の有無をそれぞれ”0”と”1”に置き換えてシグナルの処理を2進数によて演算する方向へと進化するが、複数の回路を同時に使用する事で”0”と”1”を用いてそれ以上の数を扱う事に成功する。この回路の数が8本だと8bitで、これが64本だったら64bitとなり回路の数をバス幅と呼ぶようになる。
そして1945年には”ノイマン型コンピューター”と呼ばれる現在使用されている全てのコンピューターのルーツとなるモノが発明され、それ以降は加速度的に進化を遂げる事となるがここまで調べて気づいた事がある。
――これと同じ発明を異世界でやっていたらオレの寿命が先に尽きるな……と。
現代の技術ではノイマン型の技術ではこれ以上の進化を望む事は出来ず、いずれ発展の終わりが来ると予測されている。だから来る現在の形態のコンピューターが行き詰まる前に量子コンピューター等の次世代技術に関する研究が続けられているのだが、元々コンピューター技術の専門家ではないこのオレが、何も無い異世界で一からこれだけの研究が出来る訳は無い。
だけど条件の違う異世界で、何もこちらと同じ進化の過程を辿る必要は無い。
そこで最初に想い浮かべたのは演算機能に特化したゴーレムなのだが、良く考えてみるとゴーレム自体が半自動式のロボなんだよな。だからオレより賢いゴーレムなんてそうそう作れる訳は無いし、石や鉄から作られたゴツイ体形のロボにメイド服は似合わないだろう。(却下だ、却下!)
だが”持ってる”オレには更なるアイデアがある。
――そう、人工生命体を作ればいいじゃん?
ネコミミを持った色白のエルフ娘に胸と脚はダークエルフのDNAを移植してボインボインにしよう、そして最高級カシミヤから縫製された黒いベルベット地には白いシルクとレースをあしらったちょっとエロいメイドを着せてやって、ウェストを絞るベルト部分はヘビかなんかの皮糸を織り込んでやれば暗いツヤが出る究極の一品が完成する。
そうして生まれた後は図書館や魔法学校にでも通わせておけば勝手に勉強して賢くなってオレの元に帰って来るというカンペキな計画だ。いつも思うのだがオレってもしかすると天才なんじゃなかろうか?
『勇者よ、その後ろにいるキメラは何なのだ?』
「魔王よ聞いてくれ。オレの考えた最強のメイドを作ろうと思っていろいろ混ぜていたら、ライオンの頭と身体、それに山羊の首から上と蛇の尻尾を持った最強最悪の生物が産まれてしまったのだ……」
『もし良ければだが、予の軍団で預かっておこうか?』
……オレの苦悩は続く。
(;´・ω・)「今回のテーマは確かコンピューターでしたよね?」
( ゜Д゜)「何でもかんでも最後はメイド服に行きつくがや……」
これまでの戦績
1勝17敗(不戦敗13・完封負け3)
1引き分け・無効試合6




