第24話 夢想無双
オレの左手には龍の形をした痣がある。それは決してただの痣ではなく異世界を司る黒龍の化身と魂の契約を結んだ時に刻まれたものだ。
あれはオレが厨……中二の時に交通事故に遭い生死の境を彷徨った(気になっている)時に異世界の龍神がオレの生命を惜しんで救ってくれた証で、あの時に異世界への転生を垣間見た(ような気がしている)オレは何時向うの世界へ再召喚されても困らないようにと、こちらの世界の知識を学び続ける宿命を負っている。
さて、これまでの検証によってオレが異世界で一大センセーショナルなレヴォューションの数々を巻き起こすのはほぼ間違いが無いと確証が得られた。これからも自己を磨き続けていつか本当に召喚されるその時まで準備を怠る訳にはいかない――例え期末テストが近くて睡眠時間が減ったとしてもだ。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
その日、人間たちの国々は勇者であるオレとその仲間たちを魔王城へと突入させる為に、各国に残存している騎士団で合同軍を組織し最後の一大攻勢へと討って出た。
オレが転移した異世界では魔族の勢力が強くて人間達はその歴史の表舞台から追い落とされようとしていたのだが、オレが元居た世界から持ち込んだ数々の技術確認により短い期間でかなりの国力を取り戻しており、エルフやドワーフそれに獣人族らも味方に加わって魔族一強時代を終わらせようとしていた。
「ここから先はオレたちしか居ない。不要な戦闘は出来るだけ避けて魔王城まで辿り着きたいところだな」
オレは同じパーティを組んでいる猫獣人のミャウ、エルフのシーラ、神官のアスティナ、ダークエルフのレティシアたちが力んでいたので声を掛けておいた。オレを含めてたったの五人しかいないがこのパーティこそ人類が魔族の喉元へと突き付けた一本のナイフだ。
つい先ほどまでオレたちの周囲を護ってくれていた騎士団を後に残し、地平線の向こうに微かに見えている魔王城を目指していた。沈みゆく夕日がゆらゆらと揺れて真っ赤な空と禍々しい真っ黒なシルエットを描き出している。
「日没まではまだ時間がある。それまでにあと少しだけ距離を稼いでおいてどこかで休憩をしよう」
もし異世界の惑星の大きさがオレの居た地球と同じくらいならば地平線の先に見えた魔王城までの距離は約17キロメートルといったところだろう。軽装とはいえ鎧を纏っているうえに剣や盾まで持っての移動だから時速4キロのペースで歩けたとしても魔王城到着にはあと4時間以上の時間が掛かる。
今から強行したとしても目的地へ到着した頃には空腹と眠気によって皆のコンディションも最悪な状態で最終戦へと挑む事になってしまう。
それにここはもう敵地でいつ敵の魔族に発見されて襲われるかも知れないから、戦闘隊形を維持しつつ探索者のレティシアに索敵を頼みながら進んで行かなくてはならない。
これは敵との戦闘よりも過酷で常に敵の襲撃に備えて歩き続けるのだが、両手に武器と盾を構えながら極力音を立てずに進むスキルも必要となって来る。慣れれば小走りまでとは言わないがかなりの速さで歩く事が可能でこの進軍の速さを見るだけでそのパーティの練度を見て取る事が出来るだろう。
猫獣人ミャウが大きな盾を構ながらパーティの先頭を歩きオレがその後ろに続く。オレのすぐ後ろには神官のアスティナが居てその少し後ろをエルフ魔導士であるシーラが歩いてついて来る。
レティシアは索敵のためオレたちと離れてから30分くらいの時間が経っている。
特に敵と遭遇しなくてもパーティから離れて1時間程度で戻るようには言ってあるから、これから更に30分ほど進んでもレティシアが戻って来なければ彼女の身に何かあったと考えて行動をする事になるだろう。
「勇者様、ここらで休憩にしてはいかがでしょうか?」
「そうだな、そうしようか」
緊張しながら森の中を進んでいたオレたちだが、周りに木々が無く少し開けた場所へと差し掛かった時ここでアスティナからお茶にしないかと提案された。もちろんオレに他意があるはずも無く女子たちと一緒に小休憩を取りながらレティシアの帰りを待つ事にした。
こんな敵地の真っ只中で火を炊く訳にはいかないが湯を沸かすだけなら魔法で事足りる。こちらの世界へ来てから必死で手に入れた魔法袋の中からポットを取り出して水筒から飲水を注ぎ熱を加える。この時に水を温めるのには魔法を使用するが、飲水そのものを魔法で作り出す事はしない。魔法によって作り出された水は純粋なH2Oのみとなり、ミネラルなどの成分を含まないため自然の水よりも味覚が落ちてしまう。
アスティナが淹れてくれた紅茶に少し多めの砂糖を入れてかき混ぜる。こちらの世界には存在しなかった真っ白な白砂糖がキラキラとランタンの灯りを照り返しながら琥珀色の中へと溶けて消えていく。かき回された紅茶の水面が落ち着いて来るとそこにはまだ若い男の顔が写し出される。
(こっちの世界へ来てまだ3年くらいしか経ってないんだよな)
魔王城での最後の戦いを前にオレはこちらの世界へ来てから起こったいろいろな出来事に想いを馳せる。そういえば今も索敵に出てくれているレティシアは元は敵だったんだよな。そして紅茶のお替りを聞いてくれているアスティアは教会の孤児でミャウは奴隷商人の馬車に乗せられて出荷されるところだったし、エルフの国を救う戦いが終わったらお姫様だったシーラも何故かオレたちパーティの一員となっていた。
元の世界では毎日が退屈でなかなか時間が進まなかったけど、こちらの世界へ来てから電気を始めとする様々な機器を開発していると時間があっと言う間に過ぎて行った。最初の頃は魔族と戦うよりも生活に必要な品々を作って皆に感謝されるのが嬉しかった。その感情はオレが元居た世界では終ぞ感じる事の出来なかった思いだった。
だからオレは決断したのだろう。
――この世界の人々を守ってみせると。
「勇者様、レティシアが戻って来たようです」
「勇者、この先に敵の姿は確認出来なかったわ」
ダークエルフのレティシアは魔力よりも魔法耐性と身体能力が高く、もし武器のみで戦ったならオレと良い勝負が出来るほどの実力者だ。黒い装備に包まれたその長身はプロポーションも良く元居た世界の言葉で表現するなら”ボンキュボン”のお姉さまといった感じかな。美しいロングの銀髪を後ろで束ねて左側の肩から前に垂らしていて、形の良い切れ長の瞳は紫色の光を湛えている。
「おかえりレティ、疲れてないか?」
「これくらい大丈夫よ。でも私の事を心配してくれるのは嬉しいかな」
昨日の敵は今日の友とは良く言ったもので、知らない者が見ればまさかオレたち二人がほんの一年前まで生命を賭けて戦っていたなんて思わないだろうな。オレに敗れて自分の命を絶とうとしていた彼女だが、21世紀の日本からやってきたオレが自殺なんて許してやる謂れは無い。それでも死ななければいけないなんて言う彼女を止める為に言ったセリフが少しマズかった。
『お前の命はオレのものだ。勝手に逝く事はこのオレが許さん!』
後から知ったのだがダークエルフ族の仕来りでは”相手の命が欲しい”と言うのは求婚する時のセリフだったらしい。そんな事は最初に教えてくれよって思ったんだけど、その時レティに抱き着かれて大きな二つのメロンがオレの胸に押し付けられたらそんな細かい事なんてどうでも良くなってしまったんだよな……。
オレが両手に持ったカップを覗き込んでいるとアスティナから紅茶を受け取ったレティシアがすぐ隣に座る。彼女がオレにぴったりとひっつくように座ったので彼女の太ももの柔らかさが伝わってくる。
「少し寒かったので隣いいよね?」
いいも何も、もう座っているどころかお互いの身体はこれ以上無いくらい接近している。元居た世界では彼女はおろか同級生の女子と話す事も余り無かったこのオレだから、彼女の行う高レベルな男女のコミュニケーション的行動に対して十分な対抗策など持ち合わせてはいなかった。
内心では自分に自信を持てなくて何故彼女たちに好かれているのか理解出来ていないオレは、いつ彼女たちからの好意が消えてしまわないかとそんな事ばかりを考えてしまう。この事が相手に悟られないように極力平静を保つよう努力をしているが、それが逆に平然とした態度と受け取られてしまい彼女たちからはスキンシップOKだと勘違いされて困っている。
「あっつーーー!」
「あらごめんなさい。少し寒そうでしたから手が滑ってしまいましたわ」
レティシアの白くて美しい背中に約100度近くはありそうなお湯のしずくが数滴跳んで白い湯気を放ってた。
「もう何て事するのよ、この悪魔神官!」
今まで腰かけていたレティシアが立上がり、背中に手を回して身体を捩る姿がかなり艶めかしい。立上がったレティシアの背中をトン!と押して今度はアスティアがオレの横に来た。彼女はレティシアと違って少し隙間を作って座ってくれるからオレとしては有り難かったりする。
「そんなにぴったりくっつかれては勇者様がお困りです」
両親の居ない彼女は今ではオレの妹の様な存在でもあり、時々だがこうしてオレのピンチを救ってくれる救世主でもある。でも紺地に白いラインの入った神官服のロングスカートに深いスリットを入れてくれと何度も頼んだがその悉くを却下されてしまうのは二人の秘密だと思って気にしないようにしている。
「それなら反対側でひっつくからいいわよ!」
「こっち側の席はもう埋まってるにゃ」
「なんであんたたちはいつも私の邪魔ばかりするのよ。とーっても危険な索敵任務から戻ったばかりなんだから少しは遠慮してくれてもいいでしょ!?」
「いやにゃ!ここは絶対に譲らないにゃーー!!」
レティシアがミャウの尻尾を引っ張っているがそれでもミャウはオレの隣から離れようとはしない。こと腕力だけなら獣人のミャウの方がやや有利かも知れないな、なんて考えているとオレの後ろから色白で華奢な腕がオレの首筋に抱き着いて来た。
「勇者さま寒くないですか? こうしていればお互いが温かいです」
「そ、そうだな……」
レティシアとは違って余り自己主張をしないシーラの慎ましやかなアレが背中に押し付けられたオレは、何度も目をパチパチさせながら全ての精神力を動員して心の平静を保つ。みんなと知り合ってからまだそれほど長く一緒に時間を過ごした訳ではないが、彼女たちの生命とその先にある未来を守りたいと願う。
だが今夜はもう遅い、夜は魔物の時間だ。レティシアの索敵によってこの周囲に敵が居ない事は判っているし、わざわざ敵が有利な時間帯にこちらから不利となる戦闘を仕掛ける必要も無い、今日はこの場所に結界を張って皆と一緒にキャキャウフフで休むとしようか。
『よくぞここまで辿りついたな勇者たちよ』
「魔王よ、今日こそ皆の為に貴様を倒してみせる。喰らえ必殺のーー!!」
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
『おい勇者よ、どうした早く目覚めぬか……』
「あれ?なんで魔王がここに?!」
『あれも何もここは我が城ぞ。迷いの森で行き倒れていたお主たちを予の配下どもが見つけてここまで連れて来てくれたのだ』
「すると、あのモテモテだったオレはゆm……」
……オレの苦悩は続く。
(;´・ω・)「あれって第15話に出て来た女の子たちですよね?」
( ゜Д゜)「でも全てフィクションだったがや……」
これまでの戦績
1勝16敗(不戦敗12・完封負け3)
1引き分け・無効試合6




