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第二節 人類との共生の始まり
人類とメスガキの関係が文献上に初めて登場するのは、紀元前2800年頃のメソポタミア文明である。
ウルク遺跡から出土した粘土板には、家畜、使用人、職人などの記録と並んで「小さき嘲笑者」と訳される存在への言及が確認されている。
この記録には、穀物の配給を受ける代わりに、住居の清掃や子供の遊び相手を務める者として記されている。
当時のメスガキは人類と共に集落で生活していたと考えられるが、両者の関係が対等であったかどうかについては議論がある。
紀元前1500年頃になると、エジプトや地中海沿岸でもメスガキに関する記録が見られるようになる。
特に古代ギリシャでは、メスガキによる挑発行動が哲学的議論の対象となった。
中世後期における最も有名な15世紀フランスのメスガキ哲学者、ワカラセリヌンティウスの断片資料には、次のような一節が残されている。
ーー小さき者は我らを愚かと笑う。しかし、愚かと笑われて怒る者こそ、己の愚かさを証明するのである。ーー
『メスガキの生態について』
国立生物文化研究所 編纂/改訂第七版・第2章「人類とメスガキの共生史」より抜粋
放課後。
部活もやってない僕はいつもならこの時間は直ぐに家に帰るところだ。惰性で見ているトレンディドラマの再放送をつけながら、ジュースを飲んで晩飯までダラダラとネットサーフィンをする。至福の時間だ。
でも、メスガキの事が少しだけ引っ掛かっていた。ご飯は昼休みに先代さんがあげてくれたけど、これからしばらくの付き合いになる。いちおう挨拶くらいはした方が良いんじゃないか。
小屋はダンボールで仕切られているだけで、誰でも、いつでも出入りする事ができる。
今まで気にした事もなかったけど、誰かが近くを横切るたびにビクッとしたりオロオロしたり、ちょっと可愛い。
それに、不潔なのはメスガキだから多少は仕方ないにしても、顔は山下さんと比べても遜色ないくらいには整っている。まあ、天然パーマなのか手入れされていない髪はボサボサで、教室の隅にある飼育小屋ーー所謂ダンボールハウスで寝ているせいか、目元に大きなクマもある。
なるほど。
こうしてみると、確かに人間とは瓜二つだ。
だからといって積極的に世話してやろうという気にもならないが、初日だし少しくらい優しくしてもバチは当たらないだろう。
僕は席を立ってメスガキの方に近づいた。メスガキは椅子のガタッという音に反応して少し体を震わせたが、僕が近付くのを警戒しながら恐る恐る見上げた。
「そんなに怖がらなくてもいいよ。別に何もしないからさ。美羽……って言ったっけ? 美羽ちゃん、知ってると思うけど今日から僕が君のお世話係だから。まあ、何というか、よろしくね」
「はい、よろしくお願いします」
美羽はかしこまって頭を下げた。
その様子を見て僕は首を傾げる。
「もしかして具合でも悪いの? 図鑑とかテレビだともっとこう、メスガキって生意気なんじゃないの? 『ざーこ♡』『前髪スカスカ♡』とか、元気なイメージなんだけど。もしかして持病とかあったりする?」
「いえ、多分、性格、なんだと思う……思います」
「ふーん。あ、別に怯えなくても良いからね。別に何かしようってわけじゃないし。みんなも近くを通ったりするけど、君に関心があるわけじゃないから。放っておいたら良いと思うよ」
「はい……ありがとうございます」
あれ、なんか落ち込んでる? なんで?
はあ……思ったより面倒臭いな。先代さんの気持ちが少し分かった気がする。コミュニケーションが取れるのに人間じゃないから、なんか疲れるんだな。
「おっ、飼育委員。早速ヤってるねぇ〜〜w」
「うわっ! び、びっくりしたぁ〜。もう、脅かさないでよ!」
ヒョイと僕と美羽の間に顔を挟ませながら、山下さんが顔を覗かせた。
「悪い悪い。んで? どうかな〜? ケイちゃんが任命してあげた飼育委員になった感想は? どう、やっぱりメスガキ好きなのぉ?」
ぐいっと顔を近づけながら、見上げるようにこちらを見る。距離が近くて制服や髪の毛からリンスみたいな良い匂いがする。はだけた胸元からチラリと下着が見えた。水色と白の縞々だ。控えめだが形のいい胸に沿って、少しだけ谷間が見えた。
「べっ、別に好きじゃねーし!! ってか、興味なかったし!!! てゆーか、酷いよ。勝手に指名するんだもん。山下さんに推薦されたら逃げ場ないって……」
「ふーん、ムッツリなお前にぴったりだと思ったんだけど。今も私のブラウスの中、見てたっしょ? このむっつりスケベ♡ 変態♡ ゴミ童貞♡」
意地悪く笑う山下さんを見て、僕は内心興奮してしまった。いや違う! 僕は断じてムッツリなんかではない!
「なっ、なななな、見てないし! 全然違うから!」
「えっ、童貞じゃないの…………?」
「えっ? いや、まあ……童貞だけどさ」
「だよねー! ウケるー! 童貞が許されるのは小学生までだよねー!?」
ううっ、悔しいー! でもここで焦って反論しても山下さんの思うツボだ! ここは我慢してやり過ごさないと、明日またネタにされるぞ。
「……あ、もうこんな時間だ! そろそろ良いかな? 僕、メスガキ飼育委員だからさ。そろそろお世話しないと」
「えっ、あっ……そうだね。邪魔してごめん……」
「それじゃ、また明日」
「うん……また明日」
……ふう。覗き見の事はこれで何とかなったか。
山下さんを見送ってようやく僕は胸を撫で下ろした。さ、家に帰ってドラマでも見るか。
「あの……」
ん?
「お世話、してくれるんですか……?」
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