①
短期集中連載です。【10/14、完結しました】
『メスガキの生態について』
第一節 メスガキの起源と分類
メスガキ(Homo provocans)は、ヒト科ヒト属に分類される小型の類人種である。
現生人類(Homo sapiens)との分岐は、およそ20万年前から30万年前に遡ると推定されている。ただし、化石資料が乏しいことから、正確な分岐年代については研究者の間でも意見が分かれている。
外見上は人間の少女と極めてよく似ているが、成体に達しても小柄な体格と幼形成熟的な容貌を維持する点で区別される。平均身長は120〜145センチメートル、平均寿命は65〜80年程度とされる。
知能は現生人類とほぼ同等であり、言語の習得、道具の使用、社会生活などに大きな差異は認められない。
〜国立生物文化研究所 編纂/改訂第七版・第2章「人類とメスガキの共生史」より抜粋〜
僕の名前は滋賀内拓海。
僕はこの夏、メスガキ飼育委員になった。
きっかけは水曜日のHRだ。
「だってお前、メスガキ好きそうじゃんw」
クラスの山下ケイさんの鶴の一声で僕はメスガキ飼育委員に決まった。
山下さんはクラスの一軍で、黒髪ショートの褐色の女の子だ。背も胸も小さいが目が大きく顔も整っていて、すましていれば人形のように可愛い。
そう思っていたのも四月のクラス替えの僅かな期間だった。
最初はよく忘れ物をする山下さんに隣の席で消しゴムを貸したり、教科書を見せてあげたりとそこそこ良好な関係を築けていたと思う。
「ねぇ拓海。私の事、ケイって呼んで良いよ」
「え? なんで? 山下さんは山下さんでしょ?」
それが気が付いた時には、僕に嫌がらせをしてくるようになった。
今回も、メスガキなんか今まで興味を持ったことすらない。生態も寿命も、飼いたいとか可愛いと思ったことすらない。なんか人間に似てる変な生き物という事くらいしか知らない。
「そんなぁ、あんまりだよ」
「はい、じゃあ決定でーw」
山下さんの言にクラスで笑いと拍手が巻き起こる。そう、僕は弄られキャラだった。
「はぁ……」
嘲笑の中、クラス委員が僕の名前を黒板に書く。僕は机に突っ伏してうずくまりながら横目でチラリと教室の角を見た。
ダンボールで作られた小屋、小屋というにはあまりにもお粗末な飼育小屋の隙間から、女の子がこちらを覗いている。新しい飼育委員がどんな奴なのか期待と不安が混じった目だった。
罰ゲーム的な感じで決まった事を彼女はどう思ってるんだろうか。
(お互いに災難だね)
僕は心の中で彼女にそう呟いた。
キーンコーンカーンコーン
昼休み。
給食を食べ終わると各々席を立って好きなことをし始める。校庭で鬼ごっこをしたり、図書室で読書をしたり、カードゲームに興じたり、漫画を読んだり、机で寝たふりをしてる奴もいる。
僕も席を立った。
小学校の頃から飼育委員は漠然と大変なイメージがあった。なので僕はいつも、掲示委員に立候補していた。
掲示委員は楽だ。週に数回、適当な掲示物をクラスの掲示板に貼る。これだけ。しかもそれすら係にわざわざ頼む方が面倒と、先生が勝手にやってくれる。
ただこの春からタブレットが導入され、ペーパーレス化とかで紙を使わなくなった。掲示物もなくなって、もともと仕事の少なかった掲示委員は今回晴れてお役御免となったのだった。
そんなことでとうとうメスガキ飼育委員になってしまったわけだが、今は春から担当してる先代光世さんに引き継ぎを受けている最中である。
「あー、別にそんなに大変じゃないよ?」
生き物の世話をするのが初めての僕にとって、帰ってきたのは意外な言葉だった。
「昼は給食の残りのパンと、この食器にあまりをぶち込むだけ。大体朝来たら無くなってるから、その繰り返しね」
「でも小屋の掃除とかトイレとか……身体も汚れるし、食器だって洗ったりとかしないといけないんじゃないの?」
「大丈夫大丈夫。だってメスガキだよ? 放課後とか、自分でなんとかしてるって。その証拠にほら、今も生きてるじゃん」
小屋の隅でうずくまって、小さく息を潜めている彼女を見た。不安そうな大きな二重の目だけが揺れながらこちらを一点に見ている。
「ほら、新しいご主人様だよ。お前も挨拶しなよ」
「……あの、美羽と言います。よ、よろしくお願いします」
へー。このメスガキ、名前あったんだ。知らなかった。
「ね、メスガキって言っても大人しいもんでしょ? 滋賀内くんも災難だけど、そう面倒なもんでもないって!」
そうだろうか。
髪もボサボサ、目もクマが出来ていて、体は洗っていない座布団のような匂いがする。生きてさえいればちゃんと飼育しているってことになるんだろうか。
「おいメスガキ、臭えぞ。そこの雑巾で毎日体拭けって言ってんだろ」
先代さんが床に落ちた雑巾を指で摘んでメスガキにぶつけた。
「あぅっ」
「お、おい、先代さん……」
「まあ、こんな感じで適当にやれば良いから」
自分の事を美羽と言ったそのメスガキは、雑巾を拾うと小屋を出てそそくさと教室を出て行った。水で濡らしてくるのだろうか。
キーンコーンカーンコーン
「あっ、もう昼休み終わっちゃった! じゃあこんな感じだから。またわかんない事あったら言ってね!」
「ああ、ありがとう先代さん」
こうして、僕のメスガキ飼育委員としての仕事が始まった。
ここまで読んでいただきありがとうございます!
評価、感想もお気軽に残してもらえますと幸いです(^^)




