第8話「ワンオペ」
「兄貴、あの小屋はダメだ。ピンクの蜂が、魔物がいるんだ」
「大丈夫だ。俺に着いてくるって決めたんだろ?なら俺を信じろ。それに俺はS級冒険者だぞ」
ヤスオと獣人の声がドアの向こうから聞こえてくる。俺はドア開け声をかける。
『ヤスオ、おかえり〜どうだった?』
ヤスオに声をかけると背後で、獣人の男の子が絶叫しながら妹をかばうように身を固めた。
それを見た俺は、慌てて羽を震わせ、敵意が無いことを念話で話しかけた。
『 俺は敵じゃない』
「ひっ。兄貴逃げなきゃヤバい」
《ピコーン! 学習しろ。兄弟を恐怖させ、同じことを繰り返したため、徳ポイント△2,000ポイント》
俺は馬鹿なのかもしれない。徳ポイント判定システム、いやもう判定さんと呼ぼう。
判定さん、口が悪くなって厳しくなってないか。
「落ち着けトール。あとコーセー。まだ説明していないから少し黙ってくれ」
「なぁエマ、俺の念話、一生このままなのか?ヤスオは冷たいし」
『不完全スキルの呪いね。諦めなさい。……それよりヤスオ、この子たち、どうしたの?』
エマが兄妹の首元を指差した。そこには、禍々しい術式が刻まれた鉄の首輪が食い込んでいた。
「ああ。察しの通り逃亡奴隷の兄妹だ。トールとマミだ。こいつらを街の奴隷商に連れてきゃ金になるが……まぁ、そんなことするほど俺も落ちぶれちゃいねぇがな。むしろ助けてやりたくて連れてきた」
ヤスオは2人の前に膝をついた。
「トール、マミ。こいつらは、見た目はアレだが中身はただのニー…元人間だ。呪いにかかって魔物の姿だがな。信じられないかも知れないが、今も襲って来る気配はないだろ?お前らを食ったりはしねぇから安心しろ。それより、その首輪外したくないか?」
トールとマミは戸惑いながらも、必死な目で俺とヤスオを交互に見た。てか今ニートって説明しようとしたな。ま、事実だが。
「分かった。兄貴が言うなら信じる。でも首輪外せるのか? 魔法使いでもないのに、無理やり壊そうとしたら爆発して、死ぬって…」
「外せるさ。ま、方法はこれから考えるんだがな」
ヤスオめ、思わせぶりな奴だな。一瞬外せるのカッコええーって惚れそうになっちまったじゃねえか。
「なあ、エマ。首輪を鑑定してくれ」
『そうね、見てみるわ。鑑定』
---呪われし隷属の首輪---
装着者の魂を引きずり込もうとあらゆる死の危険を呼び寄せる。この首輪に鍵は無く、外れるのは装着者が死んだ時だけ。無理やり外すと即死魔法が発動する。隷属の首輪だが、死の呪いが強く隷属の強制力は軽微である。
「おいおい、やっかいな首輪だな。外すと爆発とかなら超素早く遠くに投げようと思ってたんだがな。即死魔法は流石に無理だな」
流石は剣聖様だ。物理でどうにか出来ると思っていたらしい。脳筋め。
「そうね、やっかいだわ。私たちじゃなければね」
エマはそう言いながらステータスをいじりだした。
《ピコーン!スキル【死者の裁き(魂の浄化)】を一蓮托生にて共有できます。スキルの実行には、1回毎に100ポイント消費します》
「コーセー、私のスキル死者の裁きを一蓮托生で共有出来るようにしたわ。あなたがスキルを使って外してあげて。そうすればあなたに徳ポイントが入るわ」
なるほど。俺に徳ポイントが入るようにしてくれたわけだ。前借りしたポイントの返済があるから凄く助かる。
『おーい、ヤスオ。スキルで外せそうだ。今から2人に使うから、驚かないように説明してくれ』
俺はヤスオに念話を飛ばし、通訳を頼んだ。いきなりスキルを使って2人がまた怖がったら判定さんに特ポイント持っていかれるもんな。
ヤスオの説明が終わったみたいだ。なのに怯えながらこちらを見てる。うん、安心させる為にも早く外してあげよう。
スキルの使い方は何となく分かるから、まずはトールに向かって首輪に魂の浄化をかける。バキッ!首輪が外れた。良し!次はマミの方だ。魂の浄化!バキッー!マミの首輪も、激しい音と共に外れる。
「「……外れた」」
トールとマミが信じられないといった様子で、自分の首をさする。
そして判定さんの無機質な声が、立て続けに響き渡った。
《 ピコーン!違法奴隷兄妹を解放しました。2,000ポイント獲得》
《ピコーン!首輪に囚われし魂(1,304名)を解放しました。194,085ポイント獲得》
《ピコーン!獲得した徳ポイントから利子を含む前借り分を返済に充てます。△30,200ポイント》
《ピコーン!クエスト『闇の鎖を断つ者』が発生しました。この地域の違法奴隷商組織を壊滅させ、違法奴隷を解放しろ》
《ピコーン!達成報酬 100,000ポイント及びスキル【念話・完全版】の解放》
「エ、エマ。めっちゃポイント貰えた。あとクエストっていうのが発生したみたいなんだ。ど、どうすれば良いんだ?」
情報量に頭が追いつかず慌ててしまう。
「コーセー、落ち着きなさい。徳ポイントが高いのは、世界のシステムに重要な魂を解放したからよ。本来 魂って人がどうこう………」
エマが長々と魂について語りだした。うん、難しくて良く分からんからダリィなと思いながら聞くこと5分弱。漸く魂講義が終わり、それよりヤスオたちに状況を説明しなさいとエマに叱られた。
小屋の前で、夜の帳が下りる。パチパチと爆ぜる小さな焚き火が、トールとマミの幼い顔を赤く照らしていた。ヤスオが買ってきた干し肉の匂いが漂う中、俺は、興奮気味に念話を飛ばす。
『みんな聞いてくれ。俺に判定さん…じゃなくて天の声みたいなのが聞こえたんだ。それで、このあたりの奴隷商組織を根こそぎぶっ潰せってクエストが発生したんだ』
俺は皆の顔を見渡し、トールとマミが何故か怯えているが続けて話した。まあ例によって不完全スキルの呪いが、俺の言葉を最悪のものへと変換しているんだろうが。
『報酬は徳ポイントと、念話スキルの呪い解除なんだ。手伝ってくれないか?』
「ヒィッ!? 『生贄を……ピンクの祭壇に捧げ、絶望の淵へ叩き落とす……』!? おにいちゃん、やっぱりこの蜂、元人間なんかじゃなくて、本物の魔王だよぉ」
マミがトールの背中にしがみつき、大きな瞳を涙で潤ませる。
「落ち着けマミ! 俺が、俺が盾になるから… 生贄にされる前に、せめてお腹いっぱいお肉食べたかったな」
「待て待て!トール、マミさっき説明しただろ!こいつの念話は変な翻訳されるんだよ。本気にするな。コーセーは俺以外に念話を飛ばすな。学習しろ」
…ぐぬぬ!
酔っ払いのダメな大人に叱られ、正論過ぎて反論も出来ない。人生ではじめて(まあ一回死んだが)俺の頭にぐぬぬ!という変な擬音が鳴り響く。これが悔しいってやつか。デジャヴ再びだな。
『コーセー。クエストをクリアすれば完全版の念話スキルが手に入るんだから今は我慢するのよ。……それよりヤスオ、聞いてたわよね? クエスト手伝ってくれるかしら?』
エマがヤスオに問いかける。酒瓶をラッパ飲みしていたヤスオは
「徳ポイントは良く分からねぇが、俺たち冒険者はその天の声をスキル獲得クエストって呼んでるな。教会の奴らは神託って言ってるがな」
あー、やっぱりあるよなー宗教。ファンタジーな世界に来てあれだが、神なんて嘘くさい存在だと思ってたんだけどな俺は。まあ目の前に元神族wがいるから今さら否定は出来ないんだよな。
ガンッ!
「いったあー!?」
「魂に響く拳骨よ?」
痛みに悶えながらエマに抗議すると「私の感が殴れと言ったわ」と告げてきた。
この世界に落ちてから心の声は読めなかったのに、無駄に感が鋭い。これ以上は藪蛇になると思い俺は沈黙した。
「何やってんだお前ら?ちゃんと聞け。スキル獲得クエストは、まあ滅多にないんだが、達成すると聞こえた本人だけでなく参加した奴にも貢献度に応じた強力なスキルが貰える。俺の酒神の加護(状態異常無効)もスキル獲得クエストで手に入れたんだぜ?」
『と、いうことは?』
「もちろん手伝うぜ……それにな、俺が借金をするようになったのも奴隷商が運営する賭場で負けたせーだ。奴らゆるせねー。俺の人生を狂わせた罪、利息まとめて組織ごと精算してやる!それにだ。クエスト達成したら俺の酒神の加護、さらに成長しそうな気がするんだよな」
ヤスオが柄にもなく、大剣の柄を強く握りしめた。単なる正義感ではなく、ギャンブルの負けを組織の壊滅で上書きしようという、極めて俗で私怨に満ちた決意。だが、その瞳に宿る剣聖の鋭い光は、間違いなく本物だった。
「あの……兄貴、」
トールがマミの肩を抱きながら、おずおずと一歩前に出た。
「俺たちの親も、仲間の獣人たちも、まだあの冷たい檻の中に捕まってるんだ。……お願いだ、みんなを助けてほしい。俺も、何でもする。囮にだってなるから」
「ああ任せとけ。ガキの涙を肴に飲む酒ほど不味いもんはねぇ。俺の酒に誓って、全員助けてやるよ」
『いやそこは剣に誓えよ!』
「……」
俺のツッコミをすまし顔でスルーし、ヤスオは枝を拾い地面にメモを書き始めた。
「よし、作戦会議だ。 敵は街の地下、そして郊外の廃村に拠点をいくつか持っているらしいが詳しいことは分からない。だから情報が必要なんだが…」
ヤスオが全員を見回し考えている。
「これは俺がするしか無いか。よし明日から俺が街で情報収集と、必要な物資調達をしてくる。次はトールだ」
「はい!」
「お前はクエストに参加したいなら、今のままじゃただの足手まといだ。明日から俺が街に行っている間、基礎修行だ。山道を10往復ランニング、その後に木刀で素振り1000回。お前のその『狼の嗅覚』を戦闘で活かす方法も、俺が帰ってきたら実戦形式で教えてやる」
「わかった……わかりました!師匠!」
「師匠じゃねぇ、が…まあいいか。次は料理番だ。いいか、戦いには栄養が一番大事だ。だからこれを、エマ…」
『私が料理をした事あると思う?』
エマの発言にヤスオはバッと首を振り俺をみる。仕方ない。言ってやるか。
「……コーセー!」
『ハハッ。料理は食べる物だ。作る物じゃない!』
「……マミ。俺が教えるから料理を覚えてくれ」
マミが不安そうな顔で、しかし力強く「はいっ!」と頷く。そこでヤスオが急に立ち上がり、自分の頭を抱えて叫んだ。
「待て。待て待て。街での情報収集も俺。買い出しも俺。トールの教育も俺。マミの料理指導も俺。おまけに明日の朝飯の準備も俺。 お前ら蜂コンビは何してんだよ! 完全なワンオペじゃねーか!!」
『あら、失礼ね。私たちはヤスオが買ってきた物資で、本格的に蜂蜜酒作りを始めるのよ(主にコーセーが)。これが私たちのメインクエストなんだから。それに私は全体の統括(寝てるだけ)を担当するわよ』
エマが女王然として、ふんぞり返る。
『そうだよ、ヤスオ。俺は『働き蜂』だからな。ヤスオが一生酒に困らないくらいの極上の酒を作らなきゃいけないんだ。適材適所だろ? 』
「……クソっ。 まぁいい、美味い酒のためだ。全部やってやるよ。 あー、忙しくなりやがる。何でこんなことになったんだ…B級冒険者のままが気楽でよかったかも?」
ヤスオはぶつぶつ文句を言いながらも、どこか楽しそうに、焚き火を見つめながら酒瓶を傾けるのだった。
徳ポイント:△868,634ポイント




