エピローグ「全然違うじゃん」
火にかけたヤカン。ピーピーとお湯が沸く音で目が覚めた。
「あぁ、カップ麺食べようとしてたんだった」
カップ麺にお湯を注ぐ。
……。
俺の家って、こんなに静かだったか?
「母ちゃんどこいったんだろ?」
俺は母ちゃんを探す。オヤジもいない。
テレビをつける。笑点をやっていた。今日は日曜日だ。仕事は休みのはずだ。
俺はスマホを手に取り、電話をかけた。
「――この番号は現在使われておりません」
え?
…………ああ。
思い出した。
全部。
二人は、もういないんだ。
俺は二人の死に目に会えなかった。
違う――――会わなかったんだ。
親子喧嘩を理由に。
ずっと、それきりにして。
ピコーン
《残り5分》
唐突に響く声。
え? 何?
驚いた俺は、周りを見渡した。
誰もいない。
目に入ったのは、壁に貼られた、子供の頃に描いた二人の顔。
緑と赤のクレヨンで描かれた、似ても似つかない二人の顔。
でも、思い出せない二人の顔。
俺は絵を剥がし、仏間に向かった。
二人の遺影があった。
オヤジが少し照れくさそうな顔で、母ちゃんは笑っていた。
剥がしてきた絵を見た。
「全然違うじゃん」
オヤジ、こんなにしわくちゃな顔だったか。
母ちゃん、もっと痩せててキレイだったろ。
最後に見た二人の顔は
オヤジは怒ってた。
母ちゃんは泣いていた。
オヤジに、母ちゃんに
『こんな家族なんか……』
自分を棚にあげて言った言葉は、最低だった。
ピコーン
《残り3分》
まただ。
周りを見渡すが、やっぱり誰もいない。
だけど……写真の二人と、目が合った気がした。
自然と声が出た。
「ごめんって謝りたいって、ずっと思ってた」
「違うね」
俺は二人を見た。
「いや、ごめんなのは違わないんだ」
あの言葉を謝りたかった。
ずっと、そう思ってた。
でも、違う。
あれを謝りたかったんじゃない。
本当の気持ちを、言えなかっただけだ。
ずっと。
喧嘩の前も、喧嘩の後も。
言えないまま、時間が経って、気づいたら終わってた。
ピコーン
《残り1分》
「オヤジ、母ちゃん」
握ったままの絵を見た。
「大好きだよ」
あの頃と同じ言葉。二人が微笑んでくれた気がした。
ピコーン
《時間です》
俺は、目を閉じた。
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意識が浮上し、目を開くと――自宅ではない知らない場所にいた。洞窟のような場所に、玉座が一つ。その玉座には、綺麗な女性がいた。その女性は、天と書かれた冠を被り、手には笏と閻魔帳?を持っている。
ああ、俺、死んだのか。
まあ、仕方ないか。それにしても、閻魔様は何で泣いてんだ?
「二堂幸成。判決を言い渡す――」
完




