第57話「理由なんて無いのにな」
「おはようございまーす」
朝っぱらからうるせーのは、聖女ことミレイだ。
「……おはよう。朝から何か用か?」
ここ、俺の寝室なんだけど?
「私、フェイタル・ガー……」
「却下!」
俺は蜂の姿で窓から飛び出そうとしたが、あっさりと捕まえられた。
「何で虫とり網なんか持ってるの?」
「私、小さい頃から虫採り得意なんです」
この、くそ聖女。変な笑い方をしながら、妙な圧をかけてくる。逃走をあきらめた俺は、改めて聞いた。
「で、フェイタル・ガーデンに入りたいとかじゃないよな?」
「ファイナルアンサーです」
「……え? うん!? は?」
日本の古いネタで答えてきたミレイに、俺がビックリしていると、さらにぶっ込んできた。
「分かりませんでしたか? 昔、ヤスオに教えてもらったんですが……ああ、彼は私の幼なじみです」
なるほど……って、さらっと言うな。
まあ、気になったので、俺はミレイと話をした。
ヤスオとミレイは幼なじみで、冒険者として同じパーティーで活動していたらしい。ある依頼をきっかけに離れ離れになったこと。これが五百年くらい前の話だから、お互い死んだと思っていること……。
え、二人とも普通の人間だよね? 何で生きてるの? 濁された。
まあ、入れるしかないか。
「なあ、フェイタル・ガーデンに入るのは構わないんだが……魔王扱いされるかもしれないぞ?」
「ああ、それなら大丈夫です。これ、見てください」
ミレイが、フェニキア新聞の朝刊を見せてきた。
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聖教国、未曾有の危機――「慈愛の聖女」が【堕天の魔王】へ
■ 先日、我が国の象徴である大聖堂が、轟音と共に崩壊した。聖教国評議会の緊急会見により、この惨劇が、反社会魔王勢力「フェイタル・ガーデン」の手によるものであること、そして、その手引きをした黒幕が、国民の敬愛を一身に集めていた聖女・サマエである疑いが濃厚になったと発表された。これを受け、聖教国評議会は、五大国家協議会に対し、サマエを「堕天の魔王」として認定するよう申請した。
■ 聖王の安否不明、勇者の消失
混乱は、これだけに留まらない。襲撃直後から、国家の主権者である聖王陛下との連絡が途絶えており、安否が絶望視されている。さらに深刻なのは、聖女の庇護下で静養中だった勇者たちまでもが、行方不明となっている点だ。教団側は「聖女が勇者たちを連れ去り、魔王の切り札にしようとしている」との見解を示しており、周辺諸国に最大級の警戒を呼びかけている。
■ 揺らぐ信仰、混沌の時代へ
かつて「民の希望」と呼ばれた聖女は、なぜ国を裏切り、魔の道へと堕ちたのか。その理由は、未だ謎に包まれている。聖教国守備隊は、「堕天の魔王」となったサマエの行方を追うべく、全軍に動員令を発令。国民の間には動揺が広がっており、平和の時代は、一夜にして終わりを告げた。
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「えーと、一つ聞いていいか? 俺たち、結構大勢の前で勇者や聖女を拉致したはずなんだけど……なんで被害者じゃなくて、黒幕扱いされてるの?」
「自分で犯行声明を出しました」
「…………」
俺が言葉を失っていると、
「コーセー、この子バカなの?」
ビックリした。いつの間にか、後ろにエマがいた。
「バカ……そうかも知れませんね」
ミレイは、少しだけ笑った。眉の端が下がる、変な笑い方だ。
「【不義の魔王】に釣り合うように、【堕天の魔王】になってきただけですから」
重っ。えっ、この子、メンヘラ? ヤンデレ?
「あなた、地雷系聖女なのね」
「……ミレイ、ヤスオには話したのか?」
ミレイの表情が、一瞬だけ止まった。
「……まだです」
「そうか」
俺は、ため息をついた。これ、絶対ヤスオに話すより先に、パーティーに入れろって流れだろ。なんで俺が板挟みになってんだ。
「エマ、どう思う?」
「釣り合いを取るために魔王になってくる女を、どう思えと?」
エマが、ジト目で俺を見る。
「……入れるしかないじゃない」
「……ファイナルアンサー?」
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その夜。
「おー、コーセー。今日は何の飲み会だ? まあ、俺は飲めれば何でもいいんだがな」
「新しい魔王の歓迎会だよ。フェイタル・ガーデンに入るからな」
相変わらずノンキなヤスオに、俺は答えた。新たな魔王をフェイタル・ガーデンに迎え入れるべく、村総出で、歓迎会の準備をしている。大丈夫か? この村。
「ああ、聖女様が、堕天の魔王に認定されたんだってな」
「ああ、その聖女様だよ。もう少ししたら来るから、気にかけてやってくれ」
というか、気づいてやれ。
「みんなー! 今日は、あーし特製の蜂蜜だれに浸けたお肉で、ビィビィキューだよー!」
俺とヤスオが話していると、マミがバーベキューの準備を始めた。エマやマリンも、それを手伝う。キアラとノッテは、何か機材を色々準備している。進行は、ユータがするらしい。
俺はニートだったから、歓迎会とか知らんけど……司会進行って、いるの?
「それでは、準備が整いましたので、主役を呼びましょう。どうぞー」
ユータの合図で、ミレイが入ってきた。聖女らしい淡い色の髪に、紫の修道服。緑と赤のオッドアイ。
「皆さん、改めて、ご挨拶を。元聖女のサマエこと、堕天の魔王ミレイです。よろしくお願いします」
ユータが「じゃあ、カンパーイ」と言うなか、ヤスオはポカンとしている。気づいたっぽい。
俺は聞いてみた。
「ヤスオ、どうしたんだ?」
「いや、昔の知り合いと同じ名前で驚いただけだ。そいつは、もう死んでるんだけどな」
おー、良い反応!
「本人かもよ?」
「無いない。髪は真っ黒だったし、目も真っ黒で、それにな……」
「それに?」
「すげーブスだった」
!? 殺気!
ミレイから放たれた殺気に、ヤスオが反射的に刀に手を掛ける。
「てめぇ、どういうつもりだ? 聖教国を裏切ったと思ったら、次は俺達を裏切るのか?」
ヤスオが吠えた。カツカツと靴を鳴らしながら、ミレイが近づいてくる。
「裏切る? 『不義』の魔王さんが、面白いことを言いますね」
「よし、その喧嘩買った」
一触即発。そんな時、空気を読まない派の魔王が、皆を連れてやって来てくれた。
「ミレイっち、あーし特製お肉食べたー? ……うん? あー! ヤスオっち、あーしの料理ひっくり返してる!!」
「ねえ、何事かしら?」
マミが騒ぎ、エマが尋ねた。
「エマさん……私はただ、彼が女性のことを『すげーブスだった』と言ったのが聞こえたので、そんなこと言ったらダメですと、たしなめようと……」
「あーん、ヤスオちゃん。そんなこと言ったらダメよん」
「「サイテー」」
レンレン、キアラとノッテに責められ、たじろぐヤスオ。さらに、
「愛を知らないのね?」
「愛は尊い」
マリンとクルスも続く。いや、クルス。お前、ハネムーンはどうした? アカリも横で「そうッス」と頷いている。
ヤスオは、皆の冷たい視線に、顔が青くなっている。
「蜂蜜酒、一年間、おあずけね」
あっ、エマの最後のひと言で、ヤスオは血反吐を吐いた。ヤスオには、ゲンコツより効く攻撃だったらしい。
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---エマ視点---
「何で伝えないの?」
「伝えようとするんですけどね。本人を前にすると、どうしても……」
「そうね……真実を伝えるのは難しいわ」
私たち二人は、バーベキュー会場から少し離れた東屋で、話していた。
「昔も、アイツ、私のことブスって言うことあったんですよ。酷くないですか? アザゼに変えられたのも、髪と目の色だけですよ?」
「それでも好きだった……違うわね。今も、大好きなのね?」
ミレイは、顔を赤く染めて答えてくれた。
「……大好きです!! ……ところで、エマさんは、コーセーさんとお付き合いされているんですか?」
「私たちの関係ね……どうなのかしら」
曖昧に答えた私は、コーセーを見た。
まだ、言えていないことがある。……私は、伝えられるだろうか。
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---ヤスオ視点---
俺は今、すごく後悔している。
「コーセー、何でお前は、俺より酔ってんだよ。まだ一杯目だぞ」
「まあまあ、ヒック、ヤシュオ、お前も飲め」
子どもに飲ませるんじゃなかった。
「なあ、やシュオ」
「何だ? 水か? 吐くなよ。もったいねーからな」
「お前、きじゅいてんだりょ〜?」
こいつ……これ聞くために酔ったんじゃねぇだろうな。
「なんのことだよ?」
「ミレイに、きまっヒクッ、てりゅだろ」
はあ、俺って、結構演技派なんだけどなあ。自信なくすぜ。
「あの笑い方、忘れるわけねーだろ! 最初見た時から、気づいてたよ……」
「ヒック、そう言ってやりぇ……zzz」
こいつ、寝やがった。
……言えない理由なんて、無いのにな。何で言えないんだろうな。




