第56話「ただいまって言えるかね」
女子高生から何とか抜け出した俺は、マミと、ある仕事をしていた。
「マミ。勇者たちのスキルを奪える薬は?」
「ロザリーっちにアドバイス貰って完成させてるから、モチロン! まあ……あれだけど」
「……あれとは?」
「あれだよ、あれ。副作用がボーボボなるんだよねー」
そう言ってマミがポーチから取り出したのは、やたら怪しく発光している飴玉だった。
ボーボボって……まさかね。
「まあ、考えても仕方ないか。スキルを奪ってくれ」
「まっかせて♪」
だが、マミが配った怪しい飴を、勇者たちはなめようとしない。まあ、俺も同じ状況なら、絶対になめないな。
するとみかねたマミが、レンレンに合図した。
「あら〜ん、皆、ひとりで飴をなめれないのねぇん? わ・た・しが熱い口移しで、なめさせたげるわーん」
なんてことでしょう。あれほど拒否していた勇者たちは、一斉に飴をなめた。
勇者たちの身体から、淡く光る煙が抜けていく。これで、スキルを奪えたのだろう。なんか、鼻毛がすごいし。
「あー、お前らのスキルは奪わせてもらったぞ。チートは終了だ」
「「「はあ? ふざけるなよ。スキル返せー」」」
騒ぎだす勇者たちをよそに、俺は事務的に伝える。
「お前らにスキルは返さない。これから地球に強制送還するからな。地球にスキルはいらないよ」
「「「は? 帰れるのか」」」
「お前らは召喚された転移者だ。地球で死んで転生してきたんじゃない。帰れるさ。待ってる家族がいるだろ?」
帰れると聞いて、安堵し涙する者。チートが、ハーレムが、と騒ぐ者。反応は様々だが……。
帰って「ただいま」って言うんだ。それができるのだから。
夜が明ける前に、地獄省の迎えが来た。エマの両親――地獄省大臣のオシリアさんと、魂管理部部長の閻魔大王が、直々にだ。
「地獄省です。不当召喚の被害者の皆さんを、地球へお送りします。お荷物はありませんか?」
「「え、なにこのオバサン」」
ゴン! ゴン!
あー、その発言はダメだ。エマママは怖いんだよ。二人ほど逝った。
「皆さんは被害者ですので、優しく丁寧にお送りする予定でしたが……少し、性格に問題がある様ですね」
「いきなり殴るオバサンのほうが、性格……」
ゴン!
また一人逝った。人間は学習する者だ。俺は前回学んだ。
「決めました。お帰り頂く前に、皆さんには、少し地獄を見てもらいます。文字通り」
ざわめく勇者たちをよそに、地獄省の死神部隊が、一人ずつ勇者を連れて虚空に消えていく。
そんな中、一人の勇者が、複雑な顔で振り返り、俺を見た。
「……魔王。癪だけど、ありがとな。俺たちを地球に返してくれて」
「気にするな。地球に帰って、親を安心させてやれ」
最後の一人も、虚空の向こうへと消えていった。
鼻毛については、誰も触れなかった。大人の判断だ。
その瞬間――。
ピコーン!
《クエスト達成:『不当に召喚された勇者の魂を地球に返せ』》
《報酬:徳ポイント +10,000,000pt》
「……よし。とりあえずは、前回のマイナスを相殺できたな」
俺が徳ポイントを確認していると、エマの両親が近づいてきた。
「まだ、マイナスなのね。エマが嫁げるのは、いつになるのかしら?」
「儂は認めておらんがな」
そう呟くエマのお父さん、閻魔大王を無視して、お母さんが続ける。
「まあ、頑張りなさい、コーセーさん。浮気はだめよ? エマを泣かしたら……ねえ?」
そう言って、二人も虚空に消えていった。
スカイやショーナン、エルフの部隊も、同時に自国へ帰っていった。
あとは、いろいろ残った後始末だな。
「そういえば、選挙の結果はどうなったんだ?」
俺がユータに問うと、彼はダークフォンを見せてきた。
「ちょうど速報が出ましたよ」
画面には、「アグロニア民主共和国(仮)初代首相、確定」の文字。
そして、写真。
「……なんで、マミのお母さんが?」
「僕も驚いていますが。得票率、断トツで一位でした」
「……お母さん、立候補してたの?」
「してたみたいですね」
俺は、マミを見た。マミは、ダークフォンを見ながら、さも当然という顔をしていた。
「マミ、何かした?」
「あーし? 何もしてないよ? ママが立候補したのは知ってたけど、あーしには関係ないし」
「……本当に何もしてないのか?」
「あーしはしてないよ。ママにお願いされて、蜂さんが蜂蜜と蜂蜜酒を、アグロニア中にポスティングしてたけど」
マミのお母さん。それはアウトです。
「ユータ、選挙法の認知度が低い。今回のは無効にして、やり直しをするよう働きかけてくれ」
こうして、マミのお母さんがアグロニア初代首相になることは、幻に終わった。
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「コーセー、そろそろ、あの子をどうするか決めないとね」
「……ああ」
エマに話しかけられ、俺は振り返る。
縄から抜け出し、ぽつんと一人で立っている聖女がいた。
勇者たちは、全員帰った。各国の部隊も帰った。フェイタル・ガーデンのメンバーも、思い思いに休んでいる。
なのに、彼女だけが、帰らなかった。
「帰っていいぞ。フェニキアも大変だろ」
俺がそう言うと、聖女の視線が、すっと動いた。俺ではなく、その先――少し離れたところで、蜂蜜酒の瓶を傾けているヤスオの背中へ。
え? もしかして、惚れた?
「フェニキアには、もう戻れません」
「なんでだ?」
「アザゼ様……いえ、アザゼは、神の怒りに触れたのですよね? 今、私が戻れば……」
そこで、聖女は言葉を切った。
「どこかに行くあてはあるのかしら?」
「……ありません」
エマが、細い目でじっと聖女を見ている。俺も、しばらく黙って聖女を観察した。
「名前は?」
「ミレイ、です」
また、視線がヤスオの方へ流れた。今度はもっと短く、まるで無意識のように。
あー、やっぱ惚れてんじゃん。
「……今日は泊まっていけ。また明日、話そう」
そこへ、ヤスオが、空の瓶を置きながら、のっそり近づいてきた。
「……聖教国の聖女が、なんでまだいるんだ?」
ミレイはヤスオを見た。ヤスオも、ミレイを見た。
「あなたに関係ありません」
ミレイが、静かに答える。その声は、さっきよりほんの少しだけ、低かった。
「そうか」
ヤスオは、それ以上聞かず、興味がないのか、踵を返して歩き去った。その背中を、ミレイは、じっと見送っていた。
その後、ミレイを村の宿に送り届け、俺はまた一人、屋根の上にやってきた。
「あいつらは、ちゃんと『ただいま』って言えるかね」
まあ、オシリアさんに教育されて帰るから、大丈夫か。
俺は空を見上げた。地球と同じ。
月が一個足りない、夜空だった。
徳ポイント:△10,373,214ポイント




