第55話「増えるんだよ」
「はぁ……笑えねえ」
現在の徳ポイントは、マイナス一千万超え。コンビニバイトで換算したら、何年分だ。いや、そもそも俺はニートだったから、比較対象もないがな。
勇者狩りは、もう遅いから明日にしよう。皆にそう言われた夜、暇を持て余した俺は、村外れの家の屋根の上で、一匹ぼんやりと空を見上げていた。
この世界の星はやけに多く、月は二つ並んでいる。
これだけで、自分が今、別世界にいることを思い知らされる。
「母ちゃん、元気かな。ついでに親父も……いや、ついでじゃないな」
キアラもノッテも、自分を偽っていた。さるゆきに憑依することで。でも、それをやめた。
「俺も、自分に嘘をつくのはやめないとな」
母ちゃんにも、親父にも、俺は会いたいんだ。
「たった10分。だけど『ごめん』って、ひと言伝えられたら良い」
マリンは言えてた。それに、マリンパパは怒ってなかったしな。
あー、会えたら、エマの事も教えないとな。クルスは、父親になる。俺もエマと結婚して、父親になったら……。
「親父の気持ちが、分かるのかな」
どうせなら、レンレンみたいになるか。誰に馬鹿にされても、自分に真っ直ぐだもんな。
「憧れだな」
誰に言うでもなく、ただポツリポツリと、声が漏れた。
母ちゃんも親父も、俺の帰りをもう待っていないかもしれない。でも……。
「マイナス一千万が何だ! 俺が魔王? 上等だ!」
「コーセー……何してんの、こんなとこで」
背後から声がして振り返ると、エマが羽をゆっくり動かしながら、屋根の上に止まった。
「……聞いてた?」
「『上等だー』ってところね」
「やめて、恥ずかしすぎる」
エマは黙って、俺の隣に並んだ。しばらく沈黙が続いたあと、エマが問いかけてくる。
「コーセー、何を考えてたの」
「マイナスのデカさに……少しホームシックになってた。先は長いなって」
「あら、私のことを考えてるかと思ったわ」
俺は、何も言えなかった。
「まあ、今はいいわ。そろそろかしら?」
そろそろ? も気になるが、エマのどこか寂しげな顔を見て、話しかけようとした時、ダークフォンから着信音が鳴った。
『マミ、どうしたんだ? 子どもは早く寝なさい』
『もっしー! コーセーっち、早く広場に来てー』
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30分後。俺の目の前には、縄で拘束された召喚勇者三十人と、なぜか聖女までいた。
前回、俺が一人でなんちゃら王とグラウを捕まえたから、今回は俺が出し抜かれたらしい。
《ピコーン! 皆に嘘をつかれてハブかれたんですね。可哀想に。本当に嘘はダメだと思います △500ポイント》
可哀想なら引かないで!? 二重のダメージなんですが!
俺が判定さんに無慈悲なお告げをされて凹んでいると、聖女たちが騒ぎ出した。
「魔王、私たちを解放しなさい。聖王様も返してください」
「「そうだ、解放しろー。俺たちは勇者だぞ」」
「聖女様を縛るなんて、じ、実にすば……けしからん。解放したまえ」
「黙れ。今はそれどころじゃない」
俺は、うるさい聖女や勇者を一蹴し、問題児の魔王たちに話しかけた。
「で、マミ。何の薬使ったんだ?」
「えー、聞きたい? あーしが心を込めて作った、指毛発毛薬?」
だよな。女子勇者の指から、とんでもない量の指毛が生えてる。頭に特化させたら、地球じゃノーベル賞ものだ。まぁ、ロザリーのとこに、ノーベルいるけどな。
「いや、いい。解毒剤を、今すぐ使いなさい」
「ちぇっ」と言いながら、解毒剤を処方しだしたマミから視線を切り、次はマリンに聞く。
「マリン、作戦じゃ聖女の捕縛は無かったはずだが?」
「この女、レンレンに色目を使うから。殺さなかっただけマシよ?」
いやいや、レンレンに色目は使わんだろ。恋は盲目ってこのことか?
「ユータ、ヤスオ! 二人は何で酒を飲んでるんだ?」
「ヒック……コーセーさん……酒はいいね〜」
「コーセー、聞いてくれ。生産スキル持ちの勇者が、俺に……俺に、『大魔王』って書かれた酒瓶を渡してきたんだ。あいつは策士だった。騙しやがって、許せねー」
ユータは酔いつぶれ、ヤスオは買収された。うん。その勇者は策士だな。
「エマ、アカリとクルスはどうした」
「『今から子を授かる俺達に、若者の勇者を倒すことは出来ない』って」
「それはクルスだな。アカリは何て?」
「『魔王ごっこ飽きたっす。クルスとハネムーン戻るっす』ですって」
まあ、二人はいいか。次は、キアラとノッテだ。
「キアラ、ノッテ、配信の視聴率は?」
「80%よ。過去最高じゃないかしら?」
キアラが答えてくれた。
「そっかー。でも、あれは写してないよね?」
俺は、夜空を指差した。
「バッチリ写したわ。コメントは大盛況よ!」
ノッテ、それは大炎上って言うんだ。文字通りな。
俺は、問題児筆頭に声をかけた。
「それでレンレン。この世界に月は二つあったはずだけど? さっきまでは」
「コーセーきゅん、聞いてーん。この子たち、ちょっぴり強かったのよん。だから〜、すこ〜し本気出そうとしたら……ねん? 本気出しすぎたと思って、とっさにエクスプロージョン(物理)を上に放ったの。そしたら、なくなったのよん。軟弱なお月さんね」
《ピコーン! あまりにも可哀想なので、皆さんへ確認するまで待ちましたが……終わりましたね。これで理由は分かると思いますので……強く生きてください △10,001,024ポイント》
勇者を地球に返して、一千万ポイント返すはずが……。
なんで、逆に一千万もマイナスが増えるんだよ!!
あまりにもショックで、俺は蜂の姿でのたうちまわった。だが、それがいけなかった。
今の俺は、地球の女子高生に、ブサイクなマスコットに見えたらしい。マミの解毒剤で復活した数名の女子高生に、かわるがわる抱っこされたのだ。やめろと俺は言うが、彼女らは聞いちゃいない。
「コーセー、何をしているのかしら?」
「良かった。エマ、助けてくれ」
「喜んでいるように見えるのだけど? ……まあ、いいわ。地獄省に連絡したから、もうすぐ召喚勇者の迎えが来るわ」
「そうか。……あの、エマ」
「じゃ、迎えが来るまで、よろしくー」
俺に弁明の余地は与えられず、エマはこの場から離れていった。いや、助けて!
すると、ポンと、誰かが俺の肩に手を置いた。振り返ると、聖女だった。え? 縄どうしたの?
「浮気は不潔です」
「浮気じゃねー!!」
《ピコーン! 浮気はダ……あっ、浮気ではないですね。セーフです》
聖女が自由になっている疑問は吹っ飛び、俺は、ただただ叫ぶのだった。
徳ポイント:△20,373,214ポイント




