第54話「返品しました。」
俺の脳内に、期待していたものとは少し違う、無機質な精算音が響いた。
《ピコーン! 緊急クエスト『堕天使を捕縛しろ』:地獄省への通報を確認。自力での解決を放棄したとみなします》
《報酬内訳:有力な情報提供 徳ポイント 1,000,000pt / クエスト放棄ペナルティ 徳ポイント △1,000,000pt》
「……おっ、おーー、プラマイゼロ。あー、増えると思ったんだけどなあ……」
世の中、そんなに甘くないらしい。俺のなけなしの知恵は、手抜きと判定され、華麗に相殺された。
だが、損はしていない。安全に事が済んだと思えば安いものだ。そう自分に言い聞かせようとした、その時だった。
「コーセー、ポイント増えたのね? いくら? さすがに自分で捕縛してないから、丸々一千万は無理でしょうけど、半分の五百万は堅いわよね? で、実際のところは?」
エマが、ジト目で詰め寄ってくる。こういう時の女性の勘は、鋭すぎる。五百万入る前提で、「私も、もうすぐ結婚ね」とか考えていそうな顔だ。ゼロだったなんて言ったら、今の俺の命がゼロになりかねない。
「え、エマ、今はポイントよりも、これを見てくれ!」
俺は引き攣った笑顔で、ユータから届いた緊急メッセージを、彼女に見せた。
『ライブ配信見てください』
俺たちは、ユータが指定してきた聖教国のライブ配信を確認した。
『緊急でお送りします! 我らが聖教国のシンボル、ベト・ハドゥド大聖堂が……ああっ、今、完全に崩壊しました! 原因は不明ですが、先日宣戦布告を行ったフェイタル・ガーデンの攻撃と思われます! 繰り返します……』
「……え? グリム、やりすぎじゃね?」
画面の向こうでは、白亜の大聖堂が、まるで巨大な何かに「上から踏み潰された」かのように、粉砕されていた。
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同じ頃、聖教国の大聖堂の地下では。
その日、大聖堂は、聖王アザゼが、今まで集めた魂を使い、更なる勇者召喚を行う儀式のために、人払いされていた。
地下にある儀式の間に、純白の法衣の背中から醜悪な黒い翼を広げた男――聖王アザゼはいた。
その目の前に、十三の影が、音もなく降り立った。
「アザゼだな。地獄省の死神課だ。用件は分かるだろ? 我々に同行してもらう。……抵抗は無意味だ」
漆黒の戦闘服にドクロの仮面を被り、身の丈を超える巨大な大鎌――ハーベスターを担いだ集団。地獄省が誇る特殊部隊【G.R.I.M】である。
「じっ、地獄省だと? 私はベリアの息子だぞ! 私に手を出すと、神罰が……」
「うるさい。お前が誰の子かは関係ない。我々は、命令に従うのみ」
「ちっ、馬鹿にしやがって」
アザゼが舌打ちをしながら、魔力任せに攻撃を仕掛けようとした、その時。
ドォーン!!
音さえ置き去りにする速度で、ハーベスターが一閃した。アザゼの攻撃ごと、切り裂く。
「ギャァァァァァッ!?」
「抵抗は無意味と言った」
リーダー格の男に斬られ、アザゼは、あっさりと気絶した。
「Aチームは、俺とこいつの移送だ。Bチーム、この場所を徹底的に壊せ。この建物そのものが、魂の牢獄になってる」
こうして、アザゼはボロ雑巾のように引きずられ、虚空へと連れ去られていった。そして、Bチームの波状攻撃により、大聖堂は完全に崩壊した。
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その圧倒的な暴力が、フェイタル・ガーデンの仕業として、世界中に生中継されている。
直後、脳内に、人生最悪の不吉な音が鳴り響いた。
ビービービー!!
《深刻な警告:世界認識の致命的な固定化を確認》
《世界中の99%が、『フェイタル・ガーデン』を人類史上最凶の魔王の集まりと認識しました。想定していた「百人に一人」を、大幅に超過しています。魔王対策課も、これを承認致しました》
《フェイタル・ガーデンのメンバーに、称号『真なる魔王』を付与します》
《ピコーン! 汚名返上、失敗しましたね。徳ポイント:△10,000,000pt》
「……い、いっせん、まん……?」
俺は、膝から崩れ落ちた。魔王認定の冤罪を払拭できず、世界に恐怖を撒き散らした責任として、判定さんに持っていかれた。
「……ねえ、コーセー。私たち、魔王の冤罪を払拭しないと駄目だったじゃない? あれ、魔王の所業にしか見えないんだけど」
やはり、こういう時の女性の勘は、凄まじい。諦めた俺は、引きつった笑顔で告げた。
「……マイナス一千万、確定しちゃった」
「コーセー! 諦めちゃダメよ。まだ一千万ポイントのクエストが残ってるじゃない!」
エマに怒鳴られ、俺はハッとした。
そうだ。聖王は連行されたが、『不当に召喚された勇者の魂を地球に返せ』は、まだ生きている。報酬は一千万。これさえクリアすれば、ひとまずプラマイゼロにできる!
俺は即座に、フェイタル・ガーデンのメンバーと、スカイのドラゴン部隊を、グループ通話で呼び出した。
「皆、説明した通り、大聖堂が崩壊した混乱で、聖教国にいた勇者たちが、ドサクサに紛れて逃げ出した。それぞれバラけて、勇者を捕まえてくれ。あー、もちろん殺さずにだ。アカリは無理せず、拠点で皆のサポートを頼む」
俺がそう告げると、フェイタル・ガーデンの面々は、それぞれのいつもの調子で応えた。
「コーセー、一千万ポイント、きっちり回収するわよ。眷属の蜂たちで居場所も捕捉しているわ」
「「お姉様の勇姿、バッチリ配信しますわ」」
「いやぁん! 逃げてる勇者くんって、なんだか守ってあげたくなっちゃう……。でもダメよ、コーセーきゅんのために、私がつかまえてあげるわん!」
「レンレン、ズッ友の私たちはチーム組みましょ?」
「終わらせて、俺はハネムーンに戻る」
「あーし、まだ根に持ってるんだよねー。ロザリーっちと開発したあれ、試そっかな?」
「私も、せっかく大量生産した聖剣を試せなくて、ウズウズしていたので、ちょうど良かったです」
「おい、ユータ、俺にも、それ一本くれ。先輩勇者様の俺が、直々に指導してやる。コーセー、終わったら蜂蜜酒で祝杯な!」
「スカイ第一航空部隊は、皆さんを勇者の元へお届けしましょう」
「うちは妊婦なんで、お留守番っすね」
よし、皆、準備OKだな。
ああ、ちなみに、信長は手当たり次第にレールガンをぶっ放そうとしたので、ロザリーに返品しました。
じゃあ、始めますか。
「魔王による勇者狩りの時間だ」
《ピコーン! 魔王っぽいこと、始めましたね? △1,000ポイント》
し、しまらねえ。
徳ポイント:△10,371,690ポイント




