第53話「遊びに行ってやる」
俺の宣戦布告は、集会所を、そしてマナカメラを通じて全世界を凍りつかせた。
なぜ、あのタイミングだったのか。
理由は、トールが「この国を立憲君主制の民主国家に変更します!!」とドヤ顔で言い放った、その直後に届いた通知だった。
《ピコーン! 緊急クエスト:『偽りの聖域解体』が発生しました》
【クエスト1:不当に召喚された勇者の魂を地球に返せ】
内容:不当に拘束された勇者たちの魂を解放し、元の世界へ送還する。
報酬:徳ポイント 10,000,000pt
【クエスト2:堕天使を捕縛しろ】
内容:聖教国のトップ『聖王』の正体である堕天使を無力化し、捕縛する。
報酬:徳ポイント 10,000,000pt
……二千万! 合計で、2000万ポイントだ!
今までゴミ拾いやドブ掃除でコツコツ稼いできたのが、アホらしくなるほどの巨額報酬。これを見逃したら、一生後悔するレベルのボーナスステージだ。
条件は、聖王を捕まえて、勇者を帰すだけ。楽勝だな。
ちなみに、このクエストの発行は天国省の管轄で、判定さんは関わっていないらしい。ただ、今回は、オシリア様が天国省へ働きかけたことだけは、教えてもらえた。
エマパパより、エマママの権力の凄さを垣間見た気がした。
『……ちょっとコーセー! あんた、何を勝手なことを言い出してるのよ!』
念話で、エマの鋭い声が響く。壁際で涼しい顔をして立っているが、その内心が、パニックに近い怒りで充満しているのが伝わってきた。
『宣戦布告なんて聞いてないわ! 今はアグロニアの事後処理が最優先でしょ。わざわざ聖教国を刺激して、この状況で敵を増やすメリットがどこにあるの!?』
エマの正論。だが、俺は確信を持って、念話で一言だけ返した。
『エマ、落ち着け。聖教国の聖王を捕まえて、勇者を地球に帰らせれば、徳ポイント2000万だ』
『……は?』
『クエストが発生した』
コンマ数秒後、念話越しに、エマの「理性のスイッチ」が切り替わる音が聞こえた気がした。
『……コーセー、もっと聖教国を煽りなさい』
豹変である。さすが俺のパートナー、話が早くて助かる。
2000万ポイントあれば……余裕で両親に会えて、エマとも結婚できるな。欲しかったんだ、この大金が。
俺は、カメラの向こう側と、目の前で拘束されている男を、冷めた目で見下ろした。
「……さて、フェニキア新聞の記者さん。いや、工作員のあんたに言っておく」
場が、しんと静まる。
「俺たちが戦争を煽った? 違うな。俺たちは、本当の敵を見極めていただけだ。トールが掲げた民主主義がこの国を救うなら、俺の仕事は、その邪魔をする古い利権……つまり、聖教国の腐った神話をぶち壊すことだ」
会場のモニターに映るコメント欄が、一気に加速する。
『え? うちの国とやるの?』
『魔王がマジギレしてる』
『民主主義ってパンに塗るやつ?』
『聖女様は俺が守る』
「聖王、聞こえてる? ……お前らが勝手に決めた、俺達『魔王』が、遊びに行ってやるからな」
こうして、俺の謝罪会見は、謝罪せずに終わった。
横でトールが「……えーと、民主主義についての動画、もうアップしていいですか?」とおどおどしていたが、もはや世界中が、フェイタル・ガーデンの次なる一手に釘付けになっていた。
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アグロニア王国改め、「アグロニア民主王国(仮)」では、トールがぶち上げた『立憲君主制の民主国家』を形にするための第一歩、「第一回総選挙」の準備が始まっていた。
「よーし、僕が初代首相になって、この国を最高に自由な国にするぞー!」
鼻息荒く立候補しようとしたトールだったが、エルフフロンティアのアステリアに作成してもらった、憲法草案の分厚い束に阻まれた。
「……トール。残念だけど、被選挙権は二十歳からよ。あなた、まだ十代でしょ?」
「えええっ!? 僕が言い出しっぺなのにー!?」
エマにツッコまれて、トールの絶叫が響いたが、法は法だ。民主主義において、言い出しっぺ特権は存在しない。
一方、俺とエマは、防壁の上で「聖教国への進軍計画」を立てていた。
「ねえコーセー。スカイのドラゴン部隊も、信長の戦車も、いつ聖都に突っ込むんだ? ってソワソワしてるわよ」
「……いや、あんな宗教ガチ勢の中に突っ込むわけないだろ」
「じゃあ、どうするのよ? クエスト、諦めるの?」
「まさか。……エマ、作戦名は『おまわりさ〜ん、この人です』だ」
俺はニヤリと笑い、ダークフォンを取り出して、ある人に電話した。
「もしもし、おまわりさんですか?」
『誰がお巡りさんじゃ。お前、エマに手ぇ出してねーだろうな?』
俺が電話した相手は、地獄省魂管理部部長の閻魔大王。通称、エマパパさんだ。
「あー、お巡りさん? 今日は善良な市民である僕から、情報提供です」
『お巡りさんじゃねぇ。さっきから何言ってんだ? 情報提供? ふざけてると魂……』
「あっ、パパ。今メールで、魂を不当に扱うやつの証拠を送りましたー。こんな奴、怖いんで、逮捕してください」
閻魔大王の話を遮り、俺はメールを送った。
『お前のパパでもない! メール? ……聖王を名乗る堕天使が、地球から魂を密輸して、兵器転用してる? ……あー、確認したが、儂にどうしろと言うんじゃ。管轄違いじゃな。担当部署に情報は渡しておくわい』
脳内に、心底めんどくさそうな声が響く。
「こいつ、ヤバいでしょ? 今すぐ逮捕しないと、オシリアさんに言いますよ?」
『……よし、わかった。今すぐ死神課の特殊部隊【G.R.I.M】を出す。堕天使は任せろ。……ところで、エマ。そばにいるんだろ? 捕まえていいのか?』
閻魔大王が、唐突にエマに話しかけ、エマが答える。
「パパ、何のこと?」
『気づいてなかったのか。聖王を名乗る堕天使は、お前の元婚約者のアザゼ君だよ』
「……関係ないわ。グリム、早く派遣してね」
エマがそう言うと、閻魔大王は「分かった」と言って通話を切った。
「婚約者いたんだな……本当に、良かったのか?」
「……ねえ、コーセー。婚約者は、親が決めたことよ? それに、元よ!」
「そうか……。ま、これで勝確だな」




