第49話「『ズッ友』だもの。」
「そう、皆、魔王になったのねぇん。うふふ、お揃いじゃない。私たちも、アグロニアの真の目的を掴んできたわよん」
天空国家スカイから帰還したレンレンが、優雅にお茶を啜りながら、不敵に微笑む。その横では、マリンも、いつになく真剣な……それでいて、どこか熱っぽい面持ちで頷いた。
ここからは、二人から聞いた、スカイでの話だ。
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「いいから、今すぐ息子に会わせなさい」
「不審者め! 陛下の父親はニコタール様だ。貴様のような変態ではないわ」
門番たちの槍が突き出された瞬間、レンレンが深く溜息をついた。
「……話が通じないわねん」
次の瞬間、王宮全体を震わせる轟音と共に、フリルに包まれた魔法少女の姿が霧散する。そこに現れたのは、雲海を丸ごと呑み込むほど巨大な、漆黒の鱗を持つ伝説の古龍の姿だった。
「ひ、ひっ……!? ま、まさか……本当に、ニコタール様!?」
腰を抜かし、祈るように平伏する門番たちを余所に、レンレンは再び人型に戻り、悠然と城の奥へと入っていく。辿り着いた先には、静かに玉座に座る二代目国王、ダレル・スカイがいた。
「久しぶりねん。ダレル」
「……母さんには、会われましたか?」
ダレルは一瞬目を見開き、やがて子供のような顔で泣き笑いした。
「会ってきたわよん」
「母さんも喜んだでしょう。……ですが、父さん。まだ、その格好をしているのですね。僕は、もういい大人ですよ? もう、夜泣きなんてしません」
「いいのよん。これ、今じゃ私の立派な趣味なのよん」
沈黙が流れる。ダレルは、父のピンク色のフリルを見つめ、深いため息をついた。
「それで、今日はどうしてここに?」
「アグロニアが二百年前、私を魔王に仕立て上げた理由が知りたくてねん」
ダレルは、忌々しげに鼻を鳴らした。
「ああ、ありましたね。愚かにも、ワイバーンに乗ったアグロニアの連中が、聖地にある秘宝を出せと騒いでいました。父さんの……ニコタール・スカイの名の下に返り討ちにしましたが、秘宝なんてありもしない母さんの墓所を狙うとは、バカな人間どもです」
「……違うわん。あそこには、人間が秘宝と呼ぶものがあるのよん」
「え……?」
「私の核よん。私が元、破壊の精霊だって、教えたでしょ? サラが亡くなった時、取り出したのよん。サラが寂しくないように……それを一緒に埋めたのよん」
横で聞いていたマリンが、鋭く息を呑んだ。
「精霊核……『生命の雫』とも呼ばれる代物ね。あなたほどの大精霊の核なら、一国を買い取れる。……人間が血眼になって欲しがるはずだわ」
「……だけど、それを知っている者は一人だけなのよ。……それで、グラウは今どこにいるのかしらん?」
「父さんに、ついて行っていたのでは……?」
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「……というわけで、私の昔の側近だった卑屈の精霊グラウが、情報を売ったか……あるいは、アグロニア王そのものに憑依している可能性があるのよねぇん」
レンレンの話を聞き終えた俺は、こめかみを両手で押さえていた。
情報量が多すぎる。だが、それよりも。
「……いや、ちょっと待て。ツッコミどころが多すぎて、頭がパンクしそうなんだが」
俺は、震える指でレンレンを指差した。
「レンレン、お前……結婚してたのか!? しかも、息子もいて!?」
「えー、今そこツッコむのねぇん? なんなら私、孫もひ孫もいるわよん? ダレルたちと食事した時なんて、私をお祖父様って呼んできて……『オネェちゃんって呼んで』って泣いちゃったわん」
「もうやめてやれよ! 息子が立派な王になってるのに、親父がピンクのフリフリで『わよん』とか言ってる絵面、地獄すぎるだろ。孫たちの教育に悪いわ!」
「失礼ねぇ。これでもスカイじゃ、神として崇められてるんだから」
ギャーギャー言い合う俺たちを、エマが冷徹な一喝で黙らせた。
「コーセー、その話は後よ。それで、他に情報は?」
マリンが、エマに応じて口を開く。
「天空国家には、私のお眼鏡にかなう男はいなかったわ。でも、見つけたの」
エマが、引き気味に答えた。
「そっ、そうなのね。ところで、マリンがお仕置きしたクズたちのこと、教えてもらえるかしら」
「私が魔王扱いされた原因の貴族たちのことなら……たまたま、奴隷の書類を見てしまったの。だから、お仕置きしたのよ。その書類もあるわ」
マリンが書類を取り出し、エマに渡す。エマは目を通すと、眉をひそめた。
「……『召喚儀式用供物、奴隷百名』。署名は、アグロニアの貴族たちね。あー、完全につながったわね」
「そうですね」
ユータが口を開いた。
「つまり、卑屈の精霊グラウがニコタール・スカイの精霊核を欲し、アグロニアを裏で操って、二百年前に行動に移した……ということですね」
「だけど、レンレンっちの息子に返り討ちにあっちゃってー、世界を味方に付けるために、魔王に仕立て上げたんだね!」
マミが身を乗り出し、キアラとノッテが声を揃える。
「「それで、倒すための戦力……勇者を召喚するために、奴隷を生贄にしたのね」」
「二百年かけて、勇者召喚がようやく成功し、改めて行動に移したってことか」
ヤスオが、吐き捨てるように言った。
マリンが、静かに告げる。
「聖教国に思う所はあるけど……ただの協力関係みたいね。今は、アグロニアの問題を優先すべきね」
「コーセーきゅん、どうするのかしらん? 私、サラの眠る場所を狙われて、ちょ〜っとブチギレてるのよん。グラウに、私の定めた禁忌を思い出させるわん」
レンレンの瞳に、古龍の威圧感が宿る。エマも、静かに俺を見た。
「コーセー、もちろんやるわよね?」
「……ああ。これで徳ポイントがマイナスになろうが、もう知ったことか」
俺は皆を見渡し、不敵に笑った。
「アグロニア王国の歴史を終わらせる。……国盗りの時間だ」
《ピコーン! 国盗りは、本来であれば△100万ポイントの重罪です。ですが、仲間の墓所を狙われた件と、違法奴隷の件を鑑み、情状酌量とします。△50,000ポイント》
……宣言しただけなのに。
しかも、本当に「知ったことか」の直後に来やがった。
「私も、ギルドを追われるでしょうし、フェイタル・ガーデンの一員として協力しても?」
ユータが恭しく礼をし、ヤスオも肩をすくめて笑う。
「じゃあ、俺もだな。いいか、兄弟?」
「もちろんだ。今日から二人とも、フェイタル・ガーデンだ」
《ピコーン! なお、ユータさんとヤスオさんがファミリーに加わりましたので、一蓮托生の対象が二名増えました。お二人の善行も悪行も、あなたに加算されます》
……酒吞の魔王と不義の魔王が、俺の連帯保証人になった。
「あはは! じゃあ、あーしも早く薬を完成させなきゃね!」
マミが明るく声を上げる中、ふと、ある光景に目を止めた。
「ところでさ、マリンっちは、何でレンレンっちとずっと腕組んでるの?」
「マミ、私とレンレンは『ズッ友』だもの。当然でしょ」
くそ、みんなスルーしてたのに、ここでぶっ込みやがったな。
しかし、マリンは澄ました顔で言っているが、違う。絶対に違う。さっき聞いた墓の話と、ニコタール・スカイとしての漢気に当てられて、完全に惚れてやがるんだよ!
「……はぁ」
俺は締まらない空気に溜息をつき、これからの激闘に思いを馳せた。
徳ポイント:△275,679ポイント




