第50話「特に無いがな。」
国盗りを宣言した俺たちは、即座に行動を開始した。
イーサの街にある屋敷を捨て、俺たちが向かったのは、ヤスオの領地内にあるハニー村だ。
ヤスオが私財を投じて整備してきたこの村は、今や、王国に絶望した者たちの希望の砦となっていた。
「おかえりなさい、師匠! それに……コーセー様たちも!」
村の入り口で俺たちを迎えたのは、かつて奴隷商から救い出した、マミの兄のトールだった。以前より逞しくなった体つきと、その澄んだ瞳。彼は今、この村の若者たちのリーダー格になっている。
「トール、急で悪いが、ここが戦場になるかも知れん。……王国軍が攻めて来てもいいように、防衛態勢を整えてくれ」
ヤスオの言葉に、トールの表情が引き締まった。
「……分かっています。王国の連中が、僕たちを勇者召喚の生贄にしようとしていたことも、助からなかった命があることも、エマ様の蜂さんから聞きました」
王国は、勇者召喚を成功させた。それは、救えなかった命があった、ということだ。
「……戦わせてください。僕たちはもう、ただ震えて待つだけの奴隷じゃない」
トールの言葉に、周囲の村人たちも力強く頷く。
「よし。だが、俺たちは魔王らしい。俺たちが直接軍を率いると、ただの侵略戦争になってしまう。俺たちが勝っても、この国に住む人たちは幸せになれない」
俺は、真っ直ぐトールを見た。
「トール。お前が、革命の旗頭になれ」
「え……僕が、ですか?」
俺は、トールの肩に手を置いた。
「俺たちがサポートする。お前は、この腐った王国を内側から作り直す、正義の象徴になるんだ」
「はっ、はい!」
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村の集会所で、トールを革命の旗頭に据えた作戦会議が始まった。ギルド支部長をしていたユータが司会進行を買って出て、それぞれの役割を確認していく。
「マミさんは、薬の完成を急いでください。あの勇者たちの力は、フェイタル・ガーデンのメンバーには大した事ありませんが、この村をはじめ、無関係の国民に牙を剥く可能性があります。力を奪うのが得策です」
「りょーかーい! ロザリーっちに、手伝ってもらうねー! ちょっと、あーし時空間通話してくるから、会議すすめといて〜。ここ電波悪いんだよねー」
そう言って、マミは村で一番高い櫓に向かっていった。
え? ダークフォンも、電波的なやつなの? キアラとノッテに聞けば一発なんだろうが、聞くと長くなりそうなので、やめておいた。
「キアラさん、ノッテさん。あなた達が、光マナネット商会とダークフォン商会の会長ですよね? 王国関係者の通信を遮断することはできますか?」
「「余裕よ」」
キアラとノッテが、不敵に笑う。
「頼もしいですね。あとは、革命が正当なものである事を証明するために、これまで集めた証拠を含めて、王国民と世界に向けて、動画配信してください。ただし、聖教国関連は、まだダメです」
「「分かったわ。戦闘もライブ配信するわ」」
王国の中枢は情報が遮断され、世界には一方的に、相手を非難する情報を流す……もう、サイバーテロやん。
うーん。異世界の戦いって、こんな感じだっけ?
「次に、レンレンさん。天空国家スカイに、もう一度行っていただけますか?」
「あらん? どうしてかしらん? ダレルには、この前会ったばかりよん?」
「なあ、協力が欲しいなら、五大国家に頼めばいいんじゃないのか?」
俺が尋ねると、答えたのはヤスオだった。
「無理だな。五大国家は、人間主体の国ばかりだ。アグロニアが声をかけりゃ、向こうにつく」
「ええ。こちらが幾ら道理を説いたところで、人間主体の国家の協力は期待できません。逆に、アグロニアは協力を取り付けられるでしょう」
ユータが頷く。
「だから、彼らが見下している亜人種が、手を組んでいる事実を見せつけるのね」
エマが、先を引き取った。
「その通りです」
ユータが続ける。
「天空国家スカイの竜人種をはじめ、亜人種が協力関係にあり、敵対することが無謀だと、知らしめなければなりません。ですから、スカイの協力を取り付けてください。帰りは、少しでも援軍を率いて戻ってきてほしいんです」
「分かったわぁん」
「私も、天空国家に行くわ」
「駄目です。マリンさんは、海底国家ショーナンです。やることは、レンレンさんと同じです」
ユータはそう言うと、ポケットから一枚の写真を取り出した。
「ああ、拒否はダメですよ? これは、マミさんから頂いた、人魚姿のあなたの写真です。世界中にバラ撒きますよ?」
「くっ、卑怯よ。そんなの、断れないじゃない」
流石、元ギルド支部長。人の扱いがうまいわあ。
《ピコーン! 乙女の秘密を脅しのネタにするなんて……クズです。△10,000ポイント》
「ユータ、良くないぞ! そういうのは! 普通にお願いしないとダメだ」
《ピコーン! 遅い! 人の扱いがうまいと、褒めましたよね? 窘めるべきです。△10,000ポイント》
すんません。リーダー失格です。
「失礼しました。コーセーさんのおっしゃる通り、今のは私が悪かったです。マリンさん……レンレンさんの若かりし頃の写真を報酬に、行って頂けませんか」
「そういうことなら、仕方ないわね。私も吝かではないわ」
ユータめ。最初から……何でもないです。
《ピコーン! セーフにしておきます》
「後は……できれば、クルスさんにも参加して頂きたいところですが……」
「あー、私がメッセージをアカリに送ったから、すぐ帰ってくるわ」
天国にも電波が通じるのか。ダークフォン、恐るべし。
それにしても、さすがエマ。有能だなあ。出会ったころのポンコツは、どこに行ったんだ?
「ユータ、俺はどうする?」
「ヤスオ、あなたは、協力を得られそうな冒険者を勧誘して来てください。リストを一応作ってありますので」
「ああ、それは良いんだが、ギルド支部長だったユータのほうが、スムーズに行くんじゃないか?」
確かに、俺もそう思うわ。
「そうしたいんですが、私は、ギルドを追われた身です。表立って動くと、王国に気づかれやすいんですよ。それに、これから聖武具の大量生産に入りたいんです。革命軍全員が聖武具を持っていたら、面白くないですか? ただ、一人では、さすがに厳しいので、ドワーフの国に応援を頼んでいますがね」
うわぁ。全員が聖剣持ちとか、卑怯だろうなあ。
《ピコーン! 卑怯なことをするのですか?》
しません! えっ、今日、判定さん厳しくないですか?
《ピコーン! 今日はドウミョが休みで話し相手がいなくて、じっくり見て粗探しをしているとかではありません》
あっ、はい。変なことを聞いてすいませんでした。
「エマさんは、蜂を使った情報収集をお願いします」
「分かったわ」
後は、俺か。
「俺は、何をすればいい?」
「はい? ………あ、コーセーさんは、何かあれです。はい。あー、トールさんのサポートをお願いします」
ユータが、今考えたであろう役割を、俺に告げる。
うん。俺のこと、絶対に忘れてたな。ユータ、俺泣くぞ!?
「時間の猶予は、二週間くらいでしょう。それまで各々行動をお願いします」
ヤスオが、トールに、大将らしくビシッと締めろと促している。
「――全員、準備にかかれ! 俺たちが、この国の闇を終わらせるんだ!」
村人たちの咆哮が響いた。
ただの小蝿だと思って舐めているアグロニアの王、そして、裏で糸を引く卑屈の精霊グラウ。
……お前たちが作った魔王という虚像が、本物に変貌する瞬間を、特等席で見せてやるよ。
《ピコーン! 汚名返上ではなく、本物の魔王になるという決意表明ですか?この場合、天国省の魔王対策課へも通報を行います。神々に魔王と認定されますと…》
ごめんなさい。言葉の綾です。他意はありません。
とにかく、俺たちは動き出した。
まあ、俺がする事は特に無いがな。
徳ポイント:△295,679ポイント




