第48話「聞かなかったことにした。」
「……よし。それじゃあ、それぞれが掴んだネタを共有しよう」
レンレンとマリンが天空へと旅立ってから、三日間。俺たちは、それぞれ調査を行った。三日目の夜、拠点の屋敷に集結したメンバーの顔は、どれも一様に険しい。
まずは、ユータがギルドの記録から引きずり出してきた、二百年前の真実だ。
「何一つ、なかったです。二百年前、アグロニア王国がレンレンに侵略されかけたという証拠も、軍の出動記録も、被害報告も……紙切れ一枚、残っていません。つまり、最初から捏造だったと思われます」
ユータの言葉に、ヤスオが苦々しく続ける。
「俺の方も真っ黒だった。勇者召喚には、アグロニアだけじゃなく、フェニキア聖教国とその聖女が深く関わってやがる。王国と聖教国の間で、秘密裏に軍事協定が結ばれていてな。召喚された勇者の半分は、聖教国に引き渡される予定だ。商品として」
……商品。
俺は、思わず眉をひそめた。
「フェニキアの目的までは分からなかったがな。ああ、依頼は、国王に直接断っといたよ」
「「お姉様。私たちが得た情報も、あまりよろしくありませんでしたわ」」
キアラとノッテが、ハッキングした通信記録を、ホログラムで宙に映し出した。
「断片的な情報ですけれど、アグロニアは、精霊界と天空国家への侵攻を計画しているみたいですわ」
「それだけじゃありません。アグロニアは、五大国家の協議会に、フェイタル・ガーデンそのものを、人類の敵、魔王として申請しましたわ。依頼を断ったからでしょう。個別に、マミ、コーセー、そして……お姉様も」
「……はは。ついに、俺まで魔王か。ちなみに、二つ名みたいなのも、つけられるのか?」
「「マミは、狂薬の魔王です」」
「えー、そんなの、かわいくなーい」
あー、そうなるよな。レンレンを増産したし。
「「お姉様は、冥府の魔王。シルバークイーンとも呼ばれていますね」」
「普通ね。ヒネリが無いわ」
普通だけど、イメージ通りなんだよなあ。
「「ああ、言い忘れていましたが、ヤスオにユータ。あなた達も、私たちの仲間だと思われていますよ? 不義の魔王に、酒吞の魔王さん」」
「「何でだよ(ですか)!?」」
「理由は、違法奴隷の解放よ」
エマが、眷属の蜂から受け取った情報を、話し出した。
「マリンは、意図せずでしょうけど、彼女が仕返しをした貴族は、全員、違法奴隷の事件に関与していたわ」
「ずっと腑に落ちなかったんだが、朧の魔王姫の討伐依頼が出た理由は、これか?」
俺が尋ねると、エマが頷く。続けて、ヤスオが口を開いた。
「さっきは胸糞悪くて言わなかったが、奴隷は、召喚勇者の慰み者や、聖教国への贈り物にする予定だったみたいだぞ」
「ヤスオとユータ、あなた達も、奴隷商を潰すのを手伝ったわよね? その時点で、すでに敵視されていたのよ」
「なあ、ユータの不義の魔王ってのは、何なんだ?」
俺の疑問に、エマが答える。
「コーセー、違うわ。酒吞の魔王が、ユータよ。お酒を飲むと、酒乱で殺戮を始めるのを、見たでしょう?」
マジかぁ。常に酒を飲んでるヤスオが、酒吞かと思ったわ。
え? じゃあ、ヤスオの不義って?
「……俺は昔、仲間殺しって言われてたんだよ。俺つえーって勘違いしててな。ある時、仲間を守れなくて、見殺しにしてしまった。その時も、奴隷商が絡んでたんだがな」
「すまん。安易に聞くことじゃなかったな」
俺が謝ると、「いいんだよ」と、ヤスオは目を閉じた。
「もう、分かったと思うけど、王国が私たちに依頼を出した理由は、邪魔な魔王二人と、フェイタル・ガーデンで、潰しあいをさせたかったのよ」
「ああ、俺たちの仲間が魔王だとは、知らなかったんだな」
「でも、それもバレたわ。召喚された勇者の一人が、遠見のスキルを持っていたの。……私たちの会話を、盗み見られていたみたい。だから、レンレンやマリン、クルス、キアラとノッテは、新たに魔王として申請されなかったのよ。既に魔王だと判明していたもの」
「「今は大丈夫です。私たちが、結界を張りましたから」」
良かった。今も見られているのかと思った。
……ちなみに、これが全部通ったら、判定さんの計算は、どうなるんだ。
考えたくないので、考えないことにした。
「あと……例の薬で、レンレンの顔に変えられていた女子高生勇者たちの変身が、解けて元に戻ったわ。今の彼女たちは、あんな姿に変えた私たちを激しく憎んで、復讐を誓っているそうよ」
すると、マミも報告を始めた。
「薬は、七割くらい完成かなー。勇者の力、スキルを奪うやつ。神様の力を取り上げるのは、ムズいんだよね。でも、急がないとマズいね……。あーし、ちょっとロザリーに相談してみるよ」
「さて、これからどうするかだな。……ところで、俺の二つ名は?」
「「知りたい? 聞かないほうが良いと思うけど……」」
キアラとノッテが、なぜか躊躇する。そんなに、かっこ悪いのか?
「いや、一応、知っておきたいんだが」
俺が促すと、二人はため息をつきながら、教えてくれた。
「「小蝿の魔王よ」」
……場を、沈黙が支配した。
みんな、口を手で押さえて、笑わないようにしているだけだが。
その時、屋敷の扉が開いた。
「……ただいま戻ったわん」
天空国家から、レンレンとマリンが帰還したのだ。
「おかえり、レンレン、マリン」
俺は、二つ名を聞かなかったことにした。




