第45話「デスよねー」
俺が依頼を断ると、驚き叫んでいたなんちゃら王が、ようやく再起動して口を開いた。
「あ、あの……理由を聞いてもよろしいですか? S級冒険者ともあろう者が、魔王の脅威を前にして……」
「……争いは、何もうまないんですよ」
開き直った俺は、悟りを開いた賢者のような顔をして、テキトーに返した。
まあ、討伐対象が家族だから断っただけなんだが。
なんちゃら王は絶望したような顔で固まったが、そこでヤスオがひょいと手を挙げて、助け舟を出した。
「陛下、今日はあくまで顔見せだったし、互いに行き違いもあった。この話は一旦保留にして、後日改めて話し合おうぜ」
「う、うむ……そうだな。卿の言う通り、少し時間が要るようだ。……辺境伯、卿に任せる」
ヤスオのおかげで、俺たちはようやく王城から解放された。
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屋敷に戻った俺たちは、ユータも交えて、緊急の話し合いを始めた。
「さて、コーセー。城では陛下の手前ああ言ったが……」
ヤスオが酒瓶をテーブルに置き、珍しく真面目な顔で俺を見る。
「単刀直入に聞くぜ。お前、なんであの依頼を断った? S級への指名依頼で、しかも魔王二柱だ。理由があんだろ?」
「……なあ、そもそも『魔王』ってのは、どうやって決まってるんだ? 自称か? それとも、どっかの神様が指名するのか?」
俺の質問に、ヤスオとユータが顔を見合わせる。説明してくれたのは、ユータだった。
「魔王の認定は、この世界の五大国家による合議制で決まります。アグロニア王国も、その一角ですね。国家に甚大な被害を及ぼす、あるいは世界の存続を脅かす存在を、国際会議で協議して、魔王として公式に認定するんです。つまり、人類共通の敵というレッテルですよ」
「へぇ……で、今は誰が魔王に認定されてるんだ? ユータ、あんた、俺が何でこれを聞いてるか、分かってるんだろ?」
ユータが苦笑いしながら、資料を取り出す。
「陛下からは、討伐対象の名前を伏せられていたので、あの後、急いで調べました。……現在、認定されている魔王は五柱です」
ユータが資料を読み上げる。
「一柱目は、天空国家スカイの主、龍魔王ニコタール・スカイ。そこにいるレンレンさんですね。これが、コーセーさんが依頼を断った理由ですね?」
「おいおい、ユータ、待て。どういうことだよ!?」
ヤスオが驚いて、ユータの話を遮ってきた。
この際だ。ヤスオとも、腹を割って話すか。
「なあ、ヤスオ。俺が転生者って話は、したよな? お前も転生者だし、分かるだろ? 転生者のテンプレか知らんが、俺はトラブル体質みたいでさ。お前らみたいな、訳ありな奴を引き寄せるみたいなんだよ。……ま、今は続きを聞こうぜ」
俺が促すと、ユータが説明を再開した。
「二柱目は、『朧の魔王姫』です。この魔王は、私の情報でも、よく把握できていないんですよ。ターゲットが暗殺予告を受け取ってから数日以内に、行方不明になるか、精神が壊されるか、死んでいるか、なんですよね。本来は、魔王というより、ただの犯罪者なんですが……予告の内容が、魔王の思考のそれとしか思えない、ということで認定された経緯があります」
「あー、その魔王も、うちのマリンだ」
「「は?」」
ユータも、さすがにマリンが朧の魔王姫だとは気づいていなかったらしい。
「その暗殺予告ってのも、多分ただのラブレターだぞ? なあ、マリン?」
「……朧の魔王姫なんて、誰が言ったの? 私はただ、ラブレターを送った相手が、クズだったから、お仕置きをしていただけよ」
「確かに、被害者はクズ貴族ばかりですね……続けます。三柱目は、双極の魔王です。この魔王は、神聖フェニキア聖教国の、不死と治癒を司る守護精霊を殺したことで、魔王認定されました」
ユータが「フェニキア」と口にした瞬間、マリンの体から、僅かに殺気が漏れた。
ヤスオが言っていた、黒幕の宗教国家だ。
「これも、聖教国が情報規制をかけていて、詳細は分かりません。精霊に殺された、ということだけが分かっています。……一応、確認ですが、キアラさんとノッテさんは、違いますよね?」
まさか、流石にないだろう。と、俺は考えない。むしろ疑う。二人に聞こうとすると、エマが先に聞いてくれた。
「キアラ、ノッテ、どうなの?」
「「お姉様、守護精霊なんて知りませんわ」」
お、マジで? さすがに三柱目はヤバいなと思っていたんだ。
二人の即答に、ユータが心底安心して、胸をなで下ろす。
「良かったです。これ以上、胃が痛くならなくて済みそうです」
「しっかし、フェニックスをやった精霊は、どんな精霊なんだろうな」
ヤスオのつぶやきに、キアラとノッテが首をかしげた。
「「フェニックス? バカみたいに火を纏った鳥ですか?」」
「ああ、そうだよ。火の鳥とか、不死鳥とか言われたりもするな」
ヤスオがそう答えると、二人が爆弾発言をした。
「あー、その生意気な鳥なら、やった記憶がありますね」
「たかが中位精霊が生意気を言ってきましたので……」
一瞬の静寂が訪れる。
「やっぱりかあー!?」
くっ。上げて落とすなんて、キアラもノッテも分かってるじゃないか。
「嫌な予想って、当たるよなあ。……なあ、ユータ。念のため、残りの二柱も教えてもらっていいか?」
キアラとノッテまで「双極の魔王」だと判明した今、俺の警戒レベルは最大だ。
エマと俺は、この世界に来てまだ一年も経っていない。マミも、つい最近まで違法奴隷だった。魔王認定されている訳がない。
問題は、今ここにいないクルスだ。絶対あいつ、何かやらかして魔王扱いされているはずだ。
「違っていて欲しいんですが……確認はしたほうが良さそうですね」
ユータが、震える手で資料をめくる。
「四柱目は、『鉄壁の魔王』です」
……まさかね。
「どんな魔王なんだ?」
「現在は、どうなったか分からないんですが、記録では、二千年ほど前に古城を占拠し、昼夜を問わず、爆発音や機械音をまき散らした魔王だったようです。近隣住民からは『爆音の魔王』とも呼ばれ、当時の軍が討伐に向かうも、ことごとく返り討ちに遭ったことから、鉄壁の魔王と記録が残っています。ある日を境に消息不明になりましたが、討伐された記録がないため、認定だけは残っているんですよ」
鉄壁で、ちょっと焦ったが、何か違うな。
「爆音? クルスっぽくはないな。あいつは無口だし、そんな迷惑な真似はしない。……もう、その魔王認定、さっさと抹消しろよー」
「そうね。クルスは、騒音をたてるタイプじゃないわね」
エマも同意する。
俺たちが魔王情報の精査に必死になっている後ろで、マミが誰かと楽しそうに通話していた。
「うんうん。はーい。またねー」
「マミ、誰と通話してたんだ? トールか?」
「クルスっちだよー。ハネムーン、楽しいだってー! それに、マスターにも会えたんだって」
「おー、ジローは天国にいるのか!」
その情報は嬉しい。
「楽しそーで良かったよ。しかし、クルスの話をしてたから、声でも聞きたくなったのか?」
「違うしー。あーし、できる子じゃん? クルスっちに聞いてあげたんだよ〜。クルスっちは魔王? って」
確かに、聞いたほうが早いか。
「それで、クルスは何て言ってたの?」
「魔王かは分からないけど、マスターが研究所にしてた城を、守ってたことあるってー! マスターの研究を狙って、盗賊がよく来てたらしいよ〜。マスターが死んでから、その城を出て、ダンジョンに引きこもったんだって」
…………。
一瞬、屋敷に、死のような静寂が訪れた。
「……そうか。寂しくなって、クルスと電話したんだな。マミ、今は大事な話し合い中だから、後でクルスの話は聞くな。……えーと、なんだったっけ? ああ、四柱目はクルスじゃなかったな! よし、ユータ、次だ次!」
俺が冷や汗を流しながら、全力でスルーを決め込み、強引に話を締めくくろうとすると、隣に座る面々が、凍てつくような視線で俺を射抜いた。
「コーセー。……諦めなさい」
エマが、哀れな子を見るような目で、首を横に振る。
「……スルーは無理があるぜ、兄弟」
ヤスオが、憐れみの表情で俺の肩を叩く。
「「クルスも魔王ね」」
キアラとノッテが、無慈悲にトドメを刺した。
「デスよねー!!」
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ひとしきり頭を抱えたあと、俺は、ふとユータが資料の最後のページを開いたまま、固まっているのに気付いた。
「ユータ? 最後の一柱は?」
「五柱目は…確認ですがコーセーさんではないですよね?」
うん?俺?何もしてないよ。
心当たりはないけど……あっ、関係ないけど今だ。異世界テンプレのあの言葉を言うのは!!言ってみたかったんだよなぁ。
「おれ、なんかやっちゃいましたかぁ」
…………
《ピコーン! 冬はまだですよ。△1ポイント》
よし。俺は異世界テンプレなんか二度と使わないと心に誓ったのだった。
徳ポイント:△225,674ポイント




