第44話「争いは何もうまんよ。」
『なあ、エマ。……やっぱり、やりすぎちまったみたいだぞ』
俺は引き攣った顔を隠しながら、なんちゃら王たちに会話を聞かれないよう、隣に立つエマに念話で話しかけた。
『そんなことないわよ、コーセー。あんな糞ガキ共、魂ごと消滅させなかっただけ、有難いと思ってもらわなきゃ。むしろ足りないくらいだわ』
『……いや、判定さんに「マイナス5万」って言われたんだが……』
「えっ」とエマが短い声を漏らし、慌ててステータス画面を確認する。
『ちょっと……やりすぎたわね……。これじゃ、結婚が……』
さっきまで玉座にふんぞり返っていた威厳はどこへやら、エマは涙目になっていた。
そんな中、床に膝をついてブルブル震えているなんちゃら王に、俺は営業スマイルで話しかける。
「ま、いろいろありましたが……なんちゃら王様。依頼は受けますよ。詳しく説明してもらえます?」
手っ取り早くマイナスをプラスにするには、魔王討伐という超高難易度クエストのボーナスを狙うしかない。
なんちゃら王は、側近らしき痩せた男を必死に手招きした。側近は、震える足で資料を抱えながら前に出てくる。
「えー、い、依頼内容は……我が国がしょ、召喚した異世界の勇者様の、せ、戦闘くんりぇんと……二柱の魔王とうばちゅへの同行になります……っ!」
「二柱? 魔王って、そんなにいるの?」
というか、側近さん、噛みすぎだ。聞き取りづらくてしょうがない。
「戦闘訓練は分かりました。その二柱の魔王とは? 落ち着いて話してください。危害を加える気はありませんから」
「はっ、はいっ……! ご存知の通り、この世界には五柱の魔王がおりますが……」
ご存知ないけどな。この世界の設定を、今初めて聞いたわ。
「こ、今回は、我が国に極めて害をなす、天空国家スカイの龍魔王、ニコタール・スカイの討伐と……」
「……ブフッ!?」
吹き出したのは、俺だ。
ニコタール? ……え? やっぱりレンレン、魔王だった?
俺は思わず、横で魔法少女の姿のままヒゲを弄っているレンレンを見た。
レンレンの昔の敵に魔王がいたとは聞いたけど、まさか、本人が魔王扱いとは。それにしても、自分の名前が出たのに、よくそんな知らん顔ができるな。
アグロニア王国は、魔王本人に魔王討伐を依頼してるのか? バカなのか?
「ど、どうかされましたか……? やはり、龍魔王は恐ろしい存在で……」
「いや、なんでもないです。……それで、もう一柱の魔王とは?」
俺が冷や汗を拭いながら聞くと、側近は声を潜めた。
「はいっ。もう一柱は、正体がハッキリと分かっていないのですが……通称、朧の魔王姫と呼ばれております。神出鬼没で、我が国の貴族も、四百年ほど前から多数の被害に遭っておりまして……朧が現れたと思われる現場には、必ず、心臓を突き刺す人魚の紋章が描かれた紙があり……」
人魚の紋章ねー。ふーん。
俺は、パーティーの隅で無表情に佇んでいるマリンを、ちらっと見た。
すると、いつもはクールなマリンが、不自然なほど素早く「ぷいっ」と目を逸らした。
確定? いや、確定じゃないよね?
あっ、テヘペロした。確定じゃん!
え、何このパーティー。
魔王軍の幹部どころか、魔王本人が二人も混ざってるの? 昨日、依頼を受けるかって聞いた時、知らなかったとはいえ、よく了承したな。君たち二人は、バカなの?
ホント、どうすんのこれ。
「なあ、キアラ、ノッテ。お前らは違うよね?」
「「知らないわ」」
だよね。この二人は、人間に魔王認定されていても、気づいてなさそうというか、興味がなさそうだな。よし、今はスルーしよっと。
俺が二人に確認していると、エマが絶望から立ち直った。
『コーセー。魔王二柱って、ボーナスポイント凄そうじゃない?』
エマは、仲間を倒したフリをして、ポイントだけ掠め取るという計画を思いついたらしい。
うん。無理だと思う。判定さんを騙せるはずがない。判定さん、優秀だもん。
《ピコーン! その通りです。ごまかせません。まあ、今回はギリギリセーフです。あーそうそう。オシリア様に「挨拶をちゃんとしなさい」と言われましたので……今さらですが、自己紹介を致しますね。私、地獄省倶生神部密告課のドウミョと言います。今、席を外していますが、もう一人バディにドウジョもいます。あなたの言う判定さんは、実は二人組でした〜》
いや、ホント今さらだな。
これからは、名前で呼んだほうがいいのか?
《ピコーン! 今まで通り、判定さんでいいですよ》
判定さん、分かりました。
《ピコーン! それと、先ほどは褒めてくれましたね。今回だけですよー。4649ポイント獲得です》
ヨロシクって……ヤンキーやん。それにしても……。
『エマ。判定さんが誰だか知ってる?』
『もちろんよ。倶生神部の人たちよ。密告課の調査報告がなければ、地獄で裁判はできないもの……あっ!?』
『うん。俺たちのことは筒抜けだから、言動には気をつけような』
『そっ、そうね』
エマはまた涙目になり、「ママ、今のはデスジョークDEATH」とつぶやいている。
エマさん、時折見せるポンコツは、今はいらんよ。
「はあ」
ため息をつきながら、俺はパーティーを見渡した。顔面をレンレンに変えられた女子高生勇者たち、傷だらけの顔で放心状態の男子高生勇者たち、そして、討伐対象の魔王本人たちが二人も混ざっている俺たち。
よし、決めた。
「あっ、やっぱ依頼受けるのやめまーす!」
俺のおどけた声が、謁見の間に響いた。
「「「「「えええーーーっ!?」」」」」
うん。俺以外が驚くのを見るのも、たまにはいいね。
魔王討伐? 争いは何もうまんよ。
徳ポイント:△225,673ポイント




