第43話「うん。分かった分かった」
「話を伺いましょう! 辺境伯殿?」
「わざとらしい、下手な敬語はやめろ」
俺が茶化すように言うと、ヤスオは顔をしかめ、「いいから真面目に聞け」とユータに目配せをした。
「私から説明しましょう。あなた達、S級冒険者フェイタル・ガーデンに、アグロニア王国のヴォルド・ルクス・アグロニア23世国王陛下から、直々に指名依頼がありました。依頼内容は、魔王を討伐する異世界勇者のサポートです。魔王討伐の監督責任者として、辺境伯でS級冒険者、そして剣聖の肩書きを持つヤスオも同行します。この依頼、受けますか?」
へー。この世界に転生してだいぶ経つけど、この国の名前、初めて聞いたわ。
しかし、異世界勇者ねぇ。
「皆、この依頼、受けていいか?」
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依頼を受けることを決めた翌日、俺たちは早速、王城に呼ばれた。
「いいか、一応、粗相はするなよ。相手はプライドだけは高いが、この国の王だ。……まあ、俺にとっては、酒を奢らせる相手にすぎんがな」
ヤスオがそう言いながら、俺たちを先導する。
俺は人化して、ピンク色の髪に、腰には刀。エマはラフな洋装で、銀髪を靡かせている。妖艶な空気を纏うマリンは、いつもの黒いイブニングドレス。
そして、ヒゲを生やした魔法少女のレンレン。最近はあまり憑依をしなくなった、ふわふわ浮くキアラとノッテ。マミは、茶髪にピンクのメッシュを入れた、一昔前のギャル姿。
先頭を行くヤスオは、辺境伯のくせに酒瓶を持ち、「あ、ここ禁酒だっけ? まぁいいか」とフラフラ歩いている。
そして、謁見の間に足を踏み入れた。
「……フン。これが辺境伯の推挙した冒険者か。金に汚い冒険者よ、余のために尽くせよ」
玉座に座るヴォルド・ルクス・アグロニア23世は、こちらを一瞥するなり、鼻で笑った。周りにいる貴族たちも、俺たちを見てクスクスと嘲笑する。
かなりイラッときたが、俺の視線は、国王よりも、国王の左右に並ぶ集団に釘付けになった。
「……え、マジ? あいつら、コスプレ集団か何か?」
「男いらなくね?」
「Sランク冒険者のパーティーとか言ってたから期待してたのに。あのピンク頭のリーダー、なんか弱そうじゃね?」
「俺たちのほうがよっぽど強いだろ。勇者だし」
制服姿の男女、計30人。
日本から召喚された、異世界勇者たちだ。彼らの目は、期待と不安、そして「自分たちは選ばれた特別な主人公だ」という慢心に満ちていた。
彼らは、俺たちをゲームのNPCくらいにしか見えないのだろう。
金髪のリーダー格らしい男子が、ドヤ顔で眩い聖剣を召喚してみせる。
「あのー、王様? 俺たち勇者っすよね? 最強スキルとかもらったんで、さっさと魔王倒しに行っていいっすか? 経験値稼ぎたいんで。あ、そこのイケメン気取ってるリーダー? は、雑用係としてなら使ってやってもいいっすよ。女は、俺たちのお相手でもしてもらおうかな。あー、ヒゲの化け物とふわふわしてる幽霊は、チェンジで」
「えー、委員長、あんなケバイ女や年増がいいの? なんかペチャパイの子もいるしー。私のほうが可愛いし〜」
あーあ。言っちゃった。慢心って、怖いね。
「……ねえ、コーセー。もういいかしら」
エマの額に、青筋が浮かんでいる。
今のエマや皆を止める? それは、自殺と同義だ。
俺は、首を縦に振った。
「キアラ、ノッテ、マリン、レンレン、マミ……教育的指導の時間よ」
「「任せて、お姉様! 馬鹿どもに裁きを!」」
まず動いたのは、精霊の二人だった。キアラが魔力を爆発させ、最上階にある謁見の間の天井と壁を、豪快にぶち壊す。
「なんちゃら王様ー、修繕費は辺境伯に請求をー」
俺が手を挙げてそう言うと、ヤスオの肩が、ぴくりと動いた。
「動かないでねぇ」
続いてノッテが闇魔法を展開した。逃げようとする近衛兵や貴族たちを、影の手で、一瞬にして拘束する。
「なっ……何事だ! 衛兵! 衛兵!!」
なんちゃら王が叫ぶが、その横には、いつの間にかマリンが立っていた。
「陛下、あまり動くと……手元が狂いますわよ?」
妖艶に微笑むマリンのナイフが、王の首筋を撫でる。少し血が滲むくらいの、絶妙な斬撃。王は青ざめて失禁した。
「なんちゃら王様、労災入ってますかー」
俺は、一応聞いてみた。答えはない。
「いやぁん、若い男の子がいっぱい!」
レンレンが、猛烈な勢いで高校生男子たちに突撃した。
「ちょっと! やめろ! くるな!!」
「愛のジョリジョリよぉぉん!!」
抱きつかれ、頬に思い切りヒゲを擦りつけられた男子高校生たちが、阿鼻叫喚の叫びと共に、次々と崩れ落ちていく。
「ヒゲが! ヒゲがぁぁぁ!」
「痛い痛い痛い! ジョリジョリする!!」
「よかったねー、愛してもらえたねー」
俺は、崩れ落ちた男子たちに、心を込めて拍手を送った。
「ペチャパイ? へー。そう。あーしのことかな? へー。ウケる。へー。あーしがペチャパイかあ。うん。分かった分かった」
あ、ヤバい。マミが一番きれてるわ。
マミが女子高生の集団に、不思議なガスを放出した。それを吸った女子高生たちは、一瞬でレンレンみたいになった。
「「「いやぁぁぁ! 私の顔がぁぁぁ!!」」」
「大丈夫だよー。効果は12時間だからー」
マミは、にこにこしている。
「レンレン増産計画、続いてたのかーい!!」
俺のツッコミは、悲鳴にかき消された。
「……勇者の聖剣召喚ね、ホイッ」
酒を煽りながら歩み寄ったヤスオが、金髪リーダーの構える聖剣を、手刀でバキィッ! と粉砕した。
「なっ……俺の聖剣が……!?」
「いいか、小僧ども。そして金づ……陛下」
ヤスオが千鳥足で彼らを見下ろし、説教臭く言い放つ。
「お前らの『チート』なんてなぁ、この連中の前じゃ『ままごと』なんだよ。陛下も陛下だ、こんなガキに世界が救えると思ってんのか? 酒の飲み過ぎで、頭が腐ったか?」
ガキ、か。
こいつらにも、帰りを待ってる親がいるんだよな。
俺は、床にへたり込む彼らを見ながら、ふと思った。
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風通しの良くなった謁見の間。玉座には、エマがふんぞり返っている。俺たちはその側に並び立ち、前には、王、貴族、兵、異世界勇者の全員が、正座をして、ビクビクしながらこちらを見ていた。
「……さあ、コーセー。話を進めて」
満足げなエマに促され、俺は口を開く。
「反省した?」
「なぜ、余が反省せねば……」
「エマ、女王やってみる?」
「いいわね〜。私が女王になったら、こいつらどうしようかなー?」
エマと寸劇をしていると、なんちゃら王が、慌てて頭を下げた。
「大変、申し訳ございませんでした!」
「うんうん、それで、よろしい」
《ピコーン! 説明は必要ありませんよね? △50,000ポイント》
あっ、やり過ぎた。
徳ポイント:△230,322ポイント




