第42話「生きた証」
あの後、大臣ママの強烈なゲンコツで魂の形が変わるほどの衝撃を受け、意識を失った俺だったが、肌を焼く物理的な熱さで目が覚めた。
「みんな……っ、せめて、せめて天国へ行ってくれ……! 火をつけろぉぉぉ!!」
号泣するトールが、俺たちの遺体(仮死状態)を、キャンプファイヤーばりの火力で焼こうとしていたのだ。
「熱い熱い熱い! 焼くな! まだ生きてるし、天国じゃなくて、ちょっと地獄には行ってたけども!」
燃え盛る炎の中から俺たちが一斉に飛び起きると、トールは「ヒィッ、ゾンビィ!?」と叫んで腰を抜かした。
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あれから一ヶ月。
この一ヶ月は、迷子の猫探しやドブ掃除に戻って、地道に徳を積んだ。稼げたのは、たったの2800ポイント。プラス100万への道は、まだ遠い。
そして今日。ハニー村(元奴隷たちの村)の特設結婚式会場では、クルスとアカリの結婚式が執り行われていた。
「……えー。新婦のアカリ君は、地獄省の期待のホープであり……」
アカリの上司、閻魔大王が、鼻を啜りながら祝辞を述べている。アカリに百年の産休と育休をもぎ取られたショックで、時折「儂の貴重な労働力が……」と本音が漏れている。だが、招待客席の最前列で大臣ママが扇子をパチンと鳴らすたび、背筋を伸ばして「素晴らしい夫婦だ!」と叫び直していた。
「……続いて、新婦友人代表。エマ様、お願いします」
司会の声で、エマが立ち上がる。
「アカリ、おめでとう。あなたが、まさかクルスとゴールインするなんてね。クルス、あなたの盾で、アカリと生まれてくる子をしっかり守ってあげて。私も結婚できるように、頑張るわ」
エマの視線が、俺の心臓を射抜く。
徳ポイントをプラスにするまで、あと……うん、頑張ろ。
「えー、続きまして、新郎友人代表……コーセー様」
俺はマイクの前に立った。
「えー、クルス。お前が『愛は無限』と言い出した時は、正直、何を言ってるんだと思いましたが……その思いを形にできたことを、嬉しく思います。末永く、アカリとお幸せに」
《ピコーン! 友の門出を心から祝う、良い祝辞でした。ご祝儀です。2000ポイント獲得です》
えっ。判定さんからのご祝儀? 俺、渡す側じゃなくて、もらう側なの?
この後も、色々あった。
キアラとノッテが編集した二人の思い出ムービーが流れたり、マミが作った巨大ウェディングケーキに入刀したり、なぜかレンレンが新婦の衣装で、誓いのキスの間に割り込もうとしたり。ロザリーたち偉人集団も、どこからか聞きつけてやってきた。
「……はぁ。賑やかね」
「そうだな。で、あいつらハネムーンはどこに行くんだ?」
「天国旅行らしいわよ。ママのコネで、特別入国許可が出たんですって」
俺とエマが並んで話していると、アカリがブーケを投げに外へ出ていった。
「結婚式も終わりだな。明日からまた、徳ポイント稼ぎ、頑張るか」
「ええ、頑張りましょう」
……あっ、マリンが吹っ飛ばされた。ブーケを手にしたのは、レンレンだった。
誰と結婚するんだよ。
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---クルス視点---
俺がマスターと過ごした時間は、たった五十年ほど。だがマスターは、その短い時間で、俺に多くを教えてくれた。
『僕の武器は、納得がゆくまで自分の頭で考えることだった。そうして出来たのが君だよ、クルス』
『僕らは今、一日一日をとても大切に生きているんだよ。時間は有限だ。愛は無限だがね』
俺は馬鹿だった。マスターが死んでから、つい数年前まで、俺はとあるダンジョンの最奥でスローライフを送っていた。話し相手は、もっぱらダンジョンにいたゴーレムだった。まあ、奴らは話せないから、拳で語るしかなかったが。
そんなある日、アイテムボックスを整理していたら、マスターからの未開封の手紙が出てきた。
『最愛の息子へ
僕が死んだら、家族をつくりなさい。
僕が生きた証は、君だ。君は、君が生きた証を見つけるんだ。
父より』
俺は焦った。あんなに時間は有限だと言われていたのに……。俺の生命活動が停止するまで、あと三年。
俺の生きた証か。ダンジョンのゴーレムじゃダメか? ……多分、ダメだな。
外に出て、冒険者になった。家族を見つける以前の問題が起きた。俺はコミュ障らしい。人が、近寄らない。
気づけば、残りは一年を切っていた。
そんな時、初めてパーティに誘われた。フェイタル・ガーデン。俺たちは、家族らしい。
良かった。やっと、見つけた。
生命活動を延ばしてもらった。もう少し、この家族を知りたいと思ったからだ。
あの日、初めて愛の告白をされた。
「いやー、クルスがいたら毎日おぶってもらうんすけどね。どうっすか? 私のところに、お婿に来ないっすか?」
俺は即答した。
「良いだろう。結婚しよう」
「え? じょ……」
「子どもは三人は欲しい」
俺には、二つの家族ができた。
これが、俺の生きた証だ。
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「じゃあ、クルス、アカリ、ハネムーン楽しんでこいよー」
「ああ。帰ってきたら、また一緒に冒険しよう。俺はアカリと、生まれてくる子のために、稼がなければならない」
「クルスっち、アカリっち、お土産待ってるね〜」
「アカリ、クルス、いってらっしゃい」
「エマ様、みんな、行ってくるっす」
俺たちは二人を見送り、拠点の屋敷へ帰ろうとした。
「よし、帰るか。明日からまた頑張るぞ」
「おーい、お前らちょっといいか?」
酒臭いヤスオが、ユータと一緒に近づいてきた。
「うん、どうしたんだ?」
「お前ら、俺と魔王倒しにいかね?」
……魔王? レンレンの昔の敵に、確かそんなのもいたけど、あれは五千年以上前の話だ。この時代にも、魔王っているのか? レンレンじゃなくて?
まあ、いるなら、テンプレの魔王討伐で、徳ポイントを荒稼ぎしますか。
「話を伺いましょう! 辺境伯殿?」
徳ポイント:△180,322ポイント




