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親より先に死んだ俺。異世界で徳を積んで無双したい【改稿版】  作者: 田舎浪漫


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第3話「返済期限にご注意下さい」

「徳の匂いは、あっちよ!」


 エマが触角をピンと立てて指し示した先には、一台の質素な荷馬車が泥濘んだ水溜りにハマって立ち往生していた。俺たちはこっそり近づき後ろから様子を探った。


「ば、婆さんや、もう無理じゃ……。馬の体力も限界じゃ」


「おじいさん、諦めたらホイッスルですよ。それに、この野菜を届けないと、今月の税が払えませんよ」


 泥まみれの老夫婦が必死に車輪を押しているが、車輪は泥濘みにがっつりはまり、動く気配がない。


「コーセー、 あの老夫婦を助ければ、初の徳ポイントゲットよ。さあ、助けてきなさい!」


「無茶言うなよ。俺は小型犬サイズの蜂だぞ? それに、いきなりショッキングピンクのデカい蜂が背現れたら、助ける前にあの老夫婦ショック死しちまうだろ」


 俺は草むらに身を潜めながら抗議したが、エマは無慈悲に俺の背中を蹴り飛ばした。


「四の五の言わずに行ってきなさーい!」


「うわあああ、ブブブブッ!」


 不本意ながら、俺は宙を舞い老夫婦の目の前に着陸した。

 うん案の定、老夫婦は石のように固まった。


「……ば、婆さんや。あの蜂、こっちを見てお尻を振っておるぞ。新手の呪いか?」


「おじいさん、逃げましょう。あれはきっと、人をピンク色に変えてしまう呪いの蜂だわ」


「違うわ。 応援してんだよ。 見ろ、俺のこの華麗な蜂のダンス(8の字)を!」


 俺は必死に「敵意はない」とアピールしたが、蜂のダンスは人間から見れば『今から刺すぞ』という威嚇にしか見えないらしい。

 というか、そんな気はしてたが言葉が通じてない。絶望的だ。


「あーもどかしいわね。コーセー、 貴方の毒針でも使って弾き飛ばしなさいよ」


「毒針使うってなんだよ! スキル発動したら俺は消滅するんだぞ!?」


 だが、やらなきゃポイントはゼロだしなあ。

 俺は覚悟を決めた。

 馬車の下に潜り込み、6本の脚を泥に踏ん張らせて、慎重に、慎重にお尻の先端を車輪に当てる。

 刺したら死ぬ、刺したら死ぬ……内臓が出る、魂が消える……!


「ぬおおおお、いっけぇぇぇぇぇ!」


 俺は毒針でテコの原理を使い、車輪を泥濘みから押しだした。


「今よ、おじいさん! 馬を動かして!」


 エマが叫ぶと、驚いた老人が馬に鞭をあてた。

 ズゴゴゴッ、と音を立てて荷馬車が泥沼から脱出し、乾燥した地面へと滑り出した。


《ピコーン! 善行を確認しました》


《徳ポイント獲得:1ポイント》


「……は? こんだけ命懸けの『ケツ仕事』して、1ポイントだけ…」


 俺が泥だらけで叫んでいると、老夫婦が近寄ってきた。


「……婆さんや。このピンクの蜂、荷馬車を動かしてくれたのか?」


「……ええ。きっと、困っている人を助けるピンクの神様だったのかもしれませんねぇ。ありがたや、ありがたや」


「神様、お礼にこれを。……お尻、お大事に」


 おじいさんは、荷台から小さなリンゴを一つ地面にそっと置いてから去って行った。


「あ、リンゴ貰えたじゃない。コーセー、早く食べましょ」


「誰がピンクの神様だ。てかエマ、お前も少しは働けよ」


 老夫婦が置いていったリンゴを食べながら、俺たちは深刻な問題を話し合った。


「……なぁエマ。さっきの老夫婦、最後まで俺のこと『ピンクの神様』って呼んでたぞ。感謝はされてるっぽいが、意思疎通がこれっぽっちもできねー」


 俺は前足で地面に『アリガトウ』と書こうとしたが、蜂の細い足では土を掘り返すだけで、字は書けなかった。そもそも、この世界の文字を知らねーがな。


「徳を積むには、相手のニーズを知るのが基本なのよね。なのに会話ができないんじゃ、ただの親切な害虫として駆除されるのを待つだけね」


「害虫って言うな。……なぁ、スキルに何かないのかよ。ご都合主義の翻訳スキルとかさ」 


 エマが渋々といった様子で、空中にホログラムを弾き出す。


「あるにはあるわよ。ほら、これ。念話(テレパシー):半径10メートル以内の対象と意思疎通ができる。だって、ただし」


「ただし?」


「このスキルを解放するには5000ポイント必要ね。今のあなたの残高はマイナス。……ポイントが無いわね」


「高っ! 地平線の彼方じゃねーか!」


 絶望する俺の視線の先で、エマがニヤリと、性格の悪そうな笑みを浮かべた。


「いい? コーセー。世の中にはキャンペーンという便利な言葉があるの。今なら初回限定で徳ポイント前借りプラン:30日無利息キャンペーン実施中よ。でもこのキャンペーン、30日以降の利息はトサンね。どうする?これを使えば、今すぐスキルを解放できるわよ?」


「 超暴利じゃねーか! だが……」


 このままじゃ、270万ポイントなんて、夢のまた夢。

 俺は意を決して、エマが提示したステータス画面の借入ボタンを押した。


《キャンペーン適用:スキル【念話(不完全)】を解放しました》


《警告:徳ポイントが『マイナス5000ポイント』加算されます。返済期限にご注意下さい》


『あー、テステス、マイクチェック、ワンツー!』


 早速俺はスキルを使ってみた。


「おっ、聞こえるかエマ! 俺の声、イケボで届いてるか!?』


「聞こえるけど不快ね。そのスキル不完全みたいだし、こんなものかしら?」


「え? 不完全って何だよ?」


 俺が不思議に思っていると、森の奥から一人の冒険者らしき少年が、こちらに向かって歩いてくるのが見えた。

  俺はさっそく念話の練習のために、空中に浮かび上がり、少年の目の前まで飛んでいった。


『よぉ少年! いい天気だな、何か困ってることはないか?』


 自信満々に念話を飛ばした――その瞬間。


「ヒッ……!? ピッピンクの蜂……『貢げ……すべてを……さもなくば刺す……』って、脳内に直接語りかけてきたあああああ!!」


「えっ?」


「助けてくれえええ! ピンクの蜂に殺されあああ!」


 少年は、持っていた薬草の袋を放り出して、脱兎のごとく逃げ去っていった。


「……おい。エマ。今、あいつなんて言った?」


「不完全スキルなのよ。つまり、『こちらの意図が間違って伝わる』か、もしくは『強制的に威圧感のある声に変換される』仕様みたいね。流石は地獄省の格安スキルだわ、性格が悪すぎる」


《ピコーン! 冒険者を恐怖させたため、徳ポイント△100ポイント》


「マイナス増えたじゃねーかああ! ポイント返せ! 少年待て! 今のは挨拶だ、ナイスな挨拶だったんだぁぁぁ!」


 俺の必死の呼びかけ(念話)は、逃げる少年の背中には『逃がさぬ……地の果てまで追い詰め、地獄を見せてやろう……』という死神の宣告として響き渡っていた。


 こうして俺は、対話能力を得ると同時に、この付近の冒険者ギルドで「喋るピンクの蜂」として討伐依頼が出され、報酬目当ての冒険者の襲撃に頭を悩ませるのだった。


 


 徳ポイント:△1,005,099ポイント

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