第38話「皆知ってるか?」
俺たちは、なんとか時空旅行から帰還した。
戦艦大和みたいな軍艦にリメイクされたタイムマシンに乗せてもらい、頭のイカれた偉人エルフ組に本来の時間軸まで送ってもらったのだ。
「ではな。君たちとの共同研究、有意義だったよ」
甲板からロザリーが手を振る。その横で、ちょんまげ姿のエルフが腕を組んで頷いた。
「人間五十年、いずこかでまた会おうぞ」
お前は人間でも五十年でもないけどな。
「是非に及ばず」
意味も知らんけど、俺はテキトーに返しておいた。
ロジとエラに置き去りにされた後、俺たちは一年ほど時空旅行に付き合わされた。強制である。
皆知ってるか? 信長は本能寺で死んでないんだぜ? 学校じゃ教えてくれないだろ。
「こいつ面白いよね〜」という軽いノリで本能寺まで行き、死ぬ直前の信長を救出(拉致)してきた。そしてロザリー、チャールズ、マミの共同研究という名の人体実験で、耳と寿命だけエルフ化。ちょんまげエルフは、普通にキモい。
信長だけじゃない。ガリレオ、ジャンヌと、偉人エルフ組は増える一方だ。みんな拉致……もとい勧誘である。
そうそう、ロズウェル事件って知ってるか? 宇宙人っぽいやつが見つかったとかいう。あれ、実は俺だった。
最後にもう一つだけ。やらかしては徳を積み、またやらかしては徳を積みを繰り返し、俺の徳ポイントは△174,221ポイントまで減った。やらかしも多かったが、救った魂も多かったのだ。
とにかく、この一年は内容が濃すぎる。詳しくは、また別の機会にじっくり話すとしよう。
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見慣れた中庭に降り立つと、懐かしい屋敷が俺たちを迎えてくれた。
「……やっと、帰ってきたのね」
エマが屋敷の壁にそっと触れ、安堵の溜息をつく。
「おっつー! いやー、一時はどうなるかと思ったけど、なんとかなるもんだねー!」
相変わらず反省の色がないマミが、ソファにどっかりと座って伸びをした。
その時、屋敷の玄関の扉がゆっくりと開いた。
「……おかえりなさい、お姉様」
出てきたのはキアラだった。両手を胸の前で組み、背筋がいつもよりぴんと伸びている。笑顔は、ほんの少しだけ固い。
エマは一瞬だけ目を見開き、それから静かに微笑んだ。
「ただいま、キアラ。……用事は、もう済んだの?」
「はい。ちょうど、終わったところです」
《ピコーン! ……気の毒ですが、嘘は嘘です。△1ポイント》
判定さんの声は、いつもよりずっと小さかった。
俺はキアラを見た。
思い当たることは、いくつもあった。海底国家へ行く前から元気がなかったこと。冒険者活動以外では、さるゆきに憑依しなくなったこと。屋敷に帰ってこなくなったこと。エマのそばにいたがっていたはずなのに、最近は妙に距離を取っていること。
エマは「そう」とだけ言って、それ以上は何も聞かなかった。気づいていないのか、気づいた上で聞かなかったのか。俺には分からない。
「皆さんも、おかえりなさいませ」
キアラが深く頭を下げる。いつもなら「おキアラー!」と飛びつくノッテも、今日は何も言わず、そっとキアラの隣に並んだ。
さるゆきだけが、空気を読まずにバナナを食べていた。
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俺は、武装を解こうとしているアカリに声をかけた。
「なあ、アカリ。ふと思い出したんだけどさ。俺たち、一年近く時空を飛び回って、色々歴史を修正しただろ?」
あの隠しクエストを思い出す。
《隠しクエスト:時空旅行している馬鹿を止めろ! 達成報酬:徳ポイント100万ポイント》
「このミッションって、成功になるのか?」
アカリが面倒くさそうに端末をパチパチと叩く。
「あー、100万ポイントっすか。それなら、閻魔大王様からメッセージが届いてましたよ」
「閻魔大王から? 律儀にお褒めの言葉でもくれたか? それともポイント振り込みの通知か?」
期待を込めて画面を覗き込もうとする俺に、アカリは真顔で告げた。
「『お前ら全員、地獄に来い』だそうっす」
「…………。」
聞き間違いか? 一年も偉人エルフ組に振り回され、ようやく我が家に帰ってきた英雄への第一声が、これか。
「俺たちに死ねってかぁぁぁぁッ!!」
俺の絶叫が屋敷中に響き、窓ガラスがガタガタと震える。
隣でマミが「えー、地獄でオフ会? 楽しそー!」と呑気に言っているが、俺の胃は限界だった。
「どうやら、ロジとエラの報告書、捏造がバレたみたいっすね。……あ、お迎えの門、そこに来るっす」
「うん? 呼んだか?」
呼んでねーよ! 久々に喋ったと思ったら、「来るっす」と「クルス」を聞き間違えるな。
クルスをスルーして、アカリが指差した先を見る。中庭のど真ん中に、禍々しい角の生えた「地獄直行の門」が鎮座していた。
「行かなきゃ、だめか?」
正直、地獄はまだ行きたくない。俺たちは、ある意味地獄みたいな旅行から帰ってきたばかりなのだ。
「……来月になったら、行きましょ?」
青い顔をしたエマが言うと、皆が一斉に頷いた。全員、行きたくないらしい。
それを見て、俺は叫んだ。
「よし、明日から春休みだ〜!」
伝え忘れていたが、この世界にも四季がある。冬を終え、季節は春を迎えようとしていた。
俺の宣言に、皆が狂喜乱舞し、お疲れ様会の準備を始める。ノッテがテーブルを出し、マミが厨房へ走り、レンレンは謎のポーズの練習を始めた。
その輪の端で、キアラがおずおずとお茶の用意を手伝っていた。エマが黙って、カップにお茶を注ぐ。
うーん…エマに言うべきか。キアラ本人に聞くべきか。それとも、何も言わずにおくべきか。
どれも、間違いな気がした。エマに言えば、キアラの嘘を暴くことになる。キアラに聞けば、問い詰めることになる。言えない気持ちは、少しだけ分かるつもりだ。
たった1ポイントのマイナスが、やけに重い。
俺は、お茶を淹れているキアラに近づいた。
「……お茶、俺にももらっていいか?」
「どうぞ」
差し出されたカップは、少しだけ震えていた。
そんな中、アカリだけは苦笑いしていた。
(大丈夫っすかね〜? 皆、気づいてないみたいっすけど……ロザリー、ひと月ずれで私たちをこの時間軸に送ってるっすよ。閻魔大王様のメッセージ、届いたの、一ヶ月前っすからね……)
「ま、いいっすね。あー、わたしも蜂蜜酒くださいッス」
徳ポイント:△174,222ポイント




