第34話「天空国家」
飴を舐めて全員で乗り込むことを決めた俺たちは、とりあえず自己紹介を済ませた。タイムパトロールのメガネの方が「ロジ」、メガネじゃない方が「エラ」という。2人とも時空神の眷属らしい。
運転するメガネのロジは、流石に小さくなったら運転できないらしい。
俺は蜂の姿で舐め、5cmくらいの蜂に。マリンは二頭身の人魚姿で飴を舐めてもらった。……俺はこの問題が解決したら殺されるかもしれない。すっごい睨まれた。
ノッテは何を思ったか精霊王のウシガエル(15cm)に無理やり憑依していた。闇のウシガエル爆誕だ。「ヤメロー! 我の尊厳がー!」という叫び声が頭から離れないが…
エマ、マミ、クルス、レンレン、アカリ、そしてエラは普通に飴を舐めたが、クルスとレンレンは元がデカい。10分の1になっても30cmくらいあり、助手席は文字通りのギューギュー詰め。クルスの盾がエマの頬に刺さり、レンレンの魔法ステッキがマミの鼻に突き刺さっている。装備品も一緒に小さくなる不思議仕様をみてファンタジーだなあと思う。
あっ、キアラは精霊界でやることがあると今回はついて来ないらしい。
「よし、何とか全員乗れたな。じゃあ行くか」
「行き先は現在から5300年前の天空国家スカイです。そこに、過去と未来の精霊がいるみたいです。それでは出発します。時空の揺れが激しいので、到着時の時差ボケにご注意ください」
行き先はまさかの天空国家。
「やだ〜、私が建国した頃じゃないの〜。恥ずかしいわぁん」
5300年前。それはレンレンがまだ「ニコタール・スカイ」として暴れ回っていた頃だろう。最初の鑑定で分かっていたことだが、レンレンはこの国家の建国者だ。
建国時のことをレンレンに聞いたことがある。
『私、グレてたじゃない?暴れすぎて、勇者に聖女、魔王にカエル、敵を作りすぎちゃったのよねん。だから面倒くさくなって空に、同じはみ出し者を集めて住んだのが国家の始まりよん』
あっ、聞いた時は不思議に思っていたが、カエルは精霊王のことだったんだな。
ロジがレバーを引きアクセルを踏み込んだ。計器がチカチカと点滅し、外の景色が引き伸ばされた光の線へと変わる。
「次元跳躍、完了します!」
ロジの声と共に激しい衝撃が走り、次の瞬間、眩いばかりの青空が視界いっぱいに広がった。
「……着きました。ここが5300年前の天空国家スカイです」
生き生きとした緑を蓄えた大地に、ポツポツと家やら畑がある。そして遠くには巨大なドラゴンの石像が置かれた西洋風の城が見える。
「あそこが私が昔住んでたお城よん」
「じゃあとりあえず皆であの城に行って情報収集するか。レンレンに案内してもらえるしな」
「あっ駄目です!同一人物が違う時代で接触することは、時空法で禁止されています」
「じゃあレンレンはお留守番ね」
俺の言葉にロジが待ったをかけ、エマの言葉でレンレンは絶望の顔をしていた。
「良いわよん。私クルスと待ってるわん」
「なぜだ。俺は関係ないだろう」
実際問題、レンレンを一人この場に置いていくことはリスクしかない。クルスには申し訳ないが、尊い犠牲…いや監視役としてクルスを残し俺たちは城へと向かった。
「ヤッホー、あーしが遊びに来たよ〜レンレンっちいる?」
「おいマミ!遊びに来てないし、昔はニコタールって名前のはずだ。ってドアをドンドンしない」
出会った頃のマミは本当にどこにいったんだろう。俺がドンドンするマミを止めていると中から筋骨隆々の男が出てきた。
「だれだお前ら?小人族か?」
男の野太い声が頭上から降り注ぐ。見上げれば、丸太のような腕に、鋼のような大胸筋。5300年前のレンレンの部下だろう男に怪しいものを見る目を向けられる。
「あ、えーっとね、あーしたちはレンレンに会いに来たんだー」
「レンレン?誰だそりゃ?しかし、この羽音のうるさい虫といい……もしや、城に忍び込もうとする魔物の偵察か?」
男が巨大な斧に手をかける。ヤバい、物凄い殺気だ。当然マリンが反応し懐の銃を抜き、エマも指先に黒い炎を灯しかける。
ここでやり合ったら、ロザリーを見つける前に歴史が物理的に終わる気がする。
「待て待て待て! 違うんだ。 俺たちは、その……ニコタール様の家来になりたくて面接に来たんだ!」
「なに……? ニコタール様の家来だと?」
男の手が止まる。俺は畳み掛けた。
「そうだ。 ニコタール様の右腕になりたくて来たんだ」
「……ニコタール様の右腕は俺だ。殺すぞ?……」
あっ、やっちまった。男がまた殺気立ってしまった。
「そのくらいの意気込みで仕えたいという意味よ。勿論、右腕はセンパイのあなたよ」
「センパイだと?……良いだろう。入れ。 ニコタール様は今、城の奥で『退屈だ、何か面白いものを持ってこい』と暴れておられる。面接はちょうどいい暇つぶしになるだろう」
城の扉が重々しく開く。俺は冷や汗を流しながら、フォローしてくれたエマに感謝を伝える。
『ありがとな、エマ!助かったよ』
『コーセーもまだまだね』
通された城内の壁には巨大なドラゴンの爪痕が装飾のように残されている。歩いているのは筋肉隆々の戦士か、怪しげな術師ばかりだ。
「さあ、着いたぞ。この奥が玉座の間だ」
扉を開き、自称右腕が俺たちを玉座に座る男に紹介する。
玉座にふんぞり返る黒髪の益荒男は、破壊の精霊に相応しい鋭い眼光を放っていた。
「……何だ、その貧相な虫けらどもは。俺様を笑わせに来たのか?」
過去のレンレンであろうニコタールが傲岸不遜に言い放つ。現代のレンレンからは想像もつかない、刺すような殺意を孕んだ「俺様」口調。その瞳は、ただ退屈を紛らわすための獲物を探している肉食獣のそれだ。
「レンレンっち、その喋り方草生えるんだけど〜」
マミを連れてきたことを一瞬で後悔した俺は冷や汗を流しながら、必死に言葉を取り繕おうとした。
「え、えーっと。ニコタール様! 俺たちは、貴方様の退屈を紛らわせるためにやってきました」
「あ? 俺様は虫を飼う趣味なんてねえぞ。……それより、その後ろにいる小汚ねえカエルは何だ?」
ニコタールの鋭い視線が、ノッテが憑依しているウシガエルに注がれた。
「……ほう。その薄汚いツラ、精霊王モーモーじゃねえか。影に隠れてコソコソと……。さては貴様、ついに腹を括ったか? どこの馬の骨とも知れぬ刺客どもを雇って、この俺様を『討伐』しに来たってわけだなぁ」
「レンレンのくせに不遜な態度ね。お姉様、少し教育しても良いですか?」
ノッテが、ウシガエルの体から飛び出して臨戦態勢を取る。
「ハッ、 闇のぉー。久しぶりじゃねーか!今日は光のは一緒じゃねーのか?」
その時だった。時空を越えた移動の負荷が原因か分からないが、時間がまだあるはずの飴の効果が切れた。
「え……? ちょっ、ちょっと」
ドォォォォォン!!
城内に凄まじい魔力の奔流が吹き荒れ、俺たちは一瞬にして元のサイズへと膨れ上がった。
「……面白い。姿を偽って近づき、一気に本性現して叩く算段か。カエルの分際で、なかなかえげつねえ策を練るじゃねえか!」
ニコタールがニヤリと、狂気に満ちた笑みを浮かべて立ち上がる。その手には、現代の彼女が持つ「魔法ステッキ」などという可愛いものではなく、どす黒い魔力を放つ、無骨で巨大な戦槌が握られていた。
「いいぜ……。まとめてかかってきな。その小癪な首、一つ残らず俺様の玉座の飾りに加えてやるよ」
「待て! 誤解だ! 俺たちは――」
俺の叫びも虚しく、ニコタールは一気に地を蹴った。
「問答無用! ――死ねッ!!」
凄まじい風圧と共に、戦槌が俺の鼻先へと振り下ろされる。
まずい、この時代のニコタールは、話し合いなんて単語を知らない暴君だった。
「ちっ! クルスがいないなら、この物理は男の俺が止めるしかないか 」
俺はすぐさま人化して刀を抜き馬鹿力をギリギリ受け止める。マジ、レンレン覚えてろよ!現在のレンレンに八つ当たりすることを心に誓い、応戦する。
ヤスオに剣術習って無かったらヤバかったなこれ。
「コーセー、援護するわ。ちょっとレンレンには本当に教育が必要みたいね。ノッテ、マリンも手伝って。アカリあんたもよ」
「もちろんですわ、お姉様」
「了解」
「エマ様との共闘初めてっすね」
皆が戦闘態勢をとる中、タイムパトロールの2人は隅でウシガエルを抱えガクブルしながら抱き合っていた。何なんだこいつら……
ロザリーを追ってきたはずが、「最強の味方」が「最悪の敵」として立ちはだかるまさかの展開に。
こうして転生して初めてのガチバトルが幕を開けた。




