第30話「社訓デス」
海底国家から、帰ってきて早いもので3ヶ月が過ぎた。
俺たちは冒険者ギルド『イーサ支部』を拠点に、日々ちまちまとした依頼をこなしていた。
「……よし、これで今月の利子は返済できたぞ。明日は久しぶりにゆっくり休もう」
「そうね。私も疲れたわ」
この2ヶ月、俺たちは主に迷子の猫探し、お年寄りの荷物持ち、村のドブ掃除といった、驚くほど地味で、それでいて確実に徳を稼げる人助けばかりの依頼を選んできた。支部長のユータからは「頼むからSランクに相応しい依頼を受けてくれ」と小言を言われたが。
だが貴族の護衛だとか、ダンジョン攻略だとか、銭は増えても徳ポイントにならない。そんな依頼なんかクソ喰らえだ。
今の俺にはそんな余裕は無いんだ。
あれは二ヶ月前の夜だった。
--------------------------------------------
「今日の依頼も稼げたなー。《Sランク冒険者による講習会》2時間で、1人金貨20枚の仕事って最高だわ〜」
「そうね、ただ私はもうこの仕事はゴメだわ」
「あー、エマの受講者数やばかったもんな」
エマは眷属のハチ達を使い戦闘訓練をしたのだが、その受講者数は定員100名を軽く超え200名の受講者がいた。殆どが、エマの美貌に魅せられた冒険者ばかりだったが。ちなみにエマにはファンクラブが出来ている。
次に多かったのがマミのクッキング教室100名。こちらは女性冒険者と本職の料理人が多数参加していた。あと、数名ロリ疑惑のある冒険者も参加していた。
3番目はマリン。80名ほどの参加者がいたが…うん、詳しくは語れないが、受講者は幸せそうだった。
4番目がクルスだ。50名のマッチョ達がクルスの重力魔法で負荷をかけられながら一糸乱れずスクワットをする姿は普通に凄かった。
そして俺の30名。俺は新人冒険者と模擬戦。特筆することもなく無難にこなした。
ランク外として、さるゆき(キアラとノッテ)はギルドの通信システムの更新と職員向けのパソコン教室みたいなのをしていた。
レンレンは……ギルドの隅でイジケてた。
「まあ、イーサの街にフェイタルガーデンの屋敷も買えたし、次はエルフの国のエアーリムジンでも買うか?」
「あれ、金貨5000枚らしいわよ?ま、買えるわね」
「「アッハッハ」」
エマとそんなゲスな話をした皆が寝静まった夜だった。
寝ていたハズの俺が何故か前世の怖い人達の事務所みたいな所にいた。
そんな事務所で黒服スキンヘッドグラサンの集団に囲まれソファに座っている。
目の前には派手なスーツを着たボスらしきインテリヤクザ風な角が生えた男。その男が口を開いた。
「おたく、ずいぶんと稼いでますねぇ?」
「ああ、まあはい順風満帆…デスネ」
「で?」
「…で?とは、ど、どういったイミデショウ?」
「気づいてますよね〜?さっきから、目がうちの社訓みてますよ?」
一つ。審査不要、誰でも貸すよ
一つ。借り逃げ許さぬ地獄の取り立て
一つ。他人の徳で食う飯うまい
非常にヤバい。返済とか忘れて普通に異世界満喫してたよ。まさか夢の中に取り立てくるとか思わんよ…
「あー、夢の中ぐら行きますよ。うちの社訓見たでしょ?正直、地獄に行くのコストかかるから嫌なんですよー。まー行きますけどね。その点、夢の中はローコストで楽なんです」
「す、素敵な社訓デス」
「…で?今月の徳ポイントの返済もしないで、お金稼いで贅沢三昧。いい身分ですね。ん?」
「……………す、スイマセンでしたー。しばし、しばしお時間を頂けないでしょうか」
「そう言って飛ぶ人多いんですよねー。……まあ、今回は良いでしょう。1週間以内に遅延分含めて、最低6万ポイント返済して下さい。次は…ありませんよ?」
--------------------------------------------------
そう。前世でも経験したことの無い、恐ろしい取り立てに遭ったのだ。
翌日から俺のダークフォンには1時間置きに徳ポイントの督促メッセージが入るようになった。消費者センターあったら絶対電話してやるのに。
まあ悪いのは俺なんだけどな。だから、この件でパーティーメンバーに迷惑は掛けれない。そう思い、この2ヶ月間は皆には自由行動をしてもらっていた。
そして返済に追われた俺は、エマと2人で活動し利子はなんとか返済出来たので、今日は久しぶりの完全休日を取ることにした。
拠点としているイーサの屋敷で、俺たちは思い思いの時間を過ごしていた。
エマはテラスで優雅に読書。タイトルが『自己破産』と書いてあるが…見なかったことにした。
マリンは俺たちから2週間遅れで帰ってきた。あの後の事をマリンは何も言わないし俺も何も聞かなかった。最近はヤスオの所に情報収集にいったりしてるみたいだが……まあ今も不特定多数の相手に恋文と言う名の呪いの手紙を書いたりしてるので大丈夫なのだろう。
マミは俺がオーダーしたトンコツラーメンを色々試作してくれている。俺の曖昧なレシピの知識だけでほぼ完成形に近づいて来ている。今日の昼が楽しみだ。
レンレンは鏡の前で新しい決めポーズの練習。リビングでしないで欲しい。
クルスは庭で「零戦の盾」のワックスがけに余念がない。
さるゆきはバナナを食べてる。キアラとノッテは最近、冒険者活動以外では憑依しなくなった。
そんなキアラは最近帰ってきていない。光マナネット商会が忙しいらしい。
逆にノッテはエマの側にベッタリだ。ダークフォン商会は大丈夫なのか心配になる。
「……しかし平和だ。これだよ、俺が求めていたスローライフは」
俺がエマの淹れた紅茶でひと息つこうとしたその時だった。
リビングの中央、何もない床の上に、突如として禍々しい魔法陣が浮かび、光が溢れ出した。
「な、なんだ!? 敵襲か!?」
「この魔力……懐かしいわね」
エマが本を閉じ、鋭い視線を光の渦に向けた。光が収まった後……そこには、額から二本の鋭い角を生やし、虎柄のナース服?を着た赤髪ショートボブの女が立っていた。
「……え? オーガの獣人?」
俺がポカンとしていると、エマは鼻で笑いながら立ち上がった。
「違うわ。あれは『獄卒』。……私の元部下よ」
「エ、エマ様ぁぁぁ!!やっと、やっと 見つけましたぁ〜!!」
「アカリ、久しぶりね」
俺はスローライフの終了を悟った。
徳ポイント:△537 ,428ポイント




