第25話「反抗期」
「えー、もう帰るの? あーし、めっちゃ遊びたいんだけどー?」
「マミ、そもそも遊びに来てない! そしてここは危険だ。精神的にな!」
「えー危険かなあ? めっちゃかわいいじゃん!」
そう、マミが言うようにカワイイのだ。いや、可愛すぎるのだ。この国は。
海底国家ショーナン、そこはファンタジーを通り越して完全なる「ファンシー」の領域だった。
そもそも、ここは本当に海底なのか?海要素が生き物だけなんだが?普通に地上にしか見えん。
目の前のサンゴの門には、ピンク色のふわふわした文字で、巨大な垂れ幕が掲げられていた。
『おかえりなさい! マリンちゃん!!』
「……なによ、これ」
エマの引きつった声が響く。
門の周囲にいる国民らしき生き物は、どう見ても二頭身のちいかわっぽい何かにしか見えない。
「ワッ……」「プルャ……」と鳴きながら、パステルカラーの貝殻で遊んでいる。
門番にいたっては真っ白でふわふわな某アニメのゴマアザラシにしか見えない。槍は持っているが、先端がハート型だ。そいつらが寝そべりながらこちらを「キュ~?」と見つめている。
俺は、震える声で隣のエマに問うた。
「ど、どう思う?エマ」
エマは、手を強く握りしめ、戦慄した顔で呟いた。
「……これをバレたと思ったら、マリンは私たちを口封じのために殺しに来るんじゃないかしら?」
「だよな。俺もそう思う……。あいつが物騒なことばかり言っていたのは反抗期だったんだな。このメルヘンな故郷から自分を切り離すための。精一杯の自己防衛だな。」
「……コーセー、見て」
エマが指差す先にはピンクの馬車(馬じゃ無くて亀がひいてる)に乗せられたマリンが見えた。国民たちに「「「お帰りマリンちゃまー!!!」」」と合唱されながら連行されていくのが見えた。
幸いマリンはこちらに気づいている様子はない。――――ハッ!?殺気!?え、気づいてないよね?
「……マリンに、『拠点の村で待ってる』ってメールだけ入れて今すぐ帰ろう。それが、彼女の尊厳を守る唯一の方法だ」
「そうね。……異議なしよ。マリンが反逆罪で処刑されることは無いって分かったものね」
「メール送信……。これでよし。帰るぞ!」
「えー! あーし、まだゴマちゃん撫で回したいんだけどー!」
背後でマミが門番を撫で回している。それで良いのか門番よ。
俺とエマはマミを全力でスルーし、振り返り、ゲートに向かって歩き出した。
だがゲートへ戻ろうとしたその時だった。
「「「ワッ……! ワーーッ!!」」」
足元から、二頭身のファンシー生物たちが津波のように湧き出してきた。
「あそぼー!」
「いっしょに、あそぼー!!」
「どこからきたのー?」
ヤバい。逃げ遅れた。
「きゃー! なにこれ超エモーい!」
マミは速攻で二頭身軍団と円陣を組み、謎のダンスを踊り始める。
そして、俺はここで重大なミスを犯してしまった。
群がるファンシー生物から飛んで逃げようと人化を解除してしまったのだ。
「見てー! ピンクのハチさんだ!」
「ハチさんハチさん!」
『待て、触るな! 俺はただの魔物だ』
俺が必死に威嚇の羽音を立て念話を飛ばすが、二頭身軍団には通用しなかった。
「ハチさんが歌ってるぅ~!」
「ハチさん、甘いの出す?」
「ハチさん、お腹ぽよぽよ~!」
気付けば、数十匹の二頭身軍団に群がられ脚を掴まれ、俺はピンクの綿あめのように揉みくちゃにされた。
そして、その隣ではさるゆきも地獄を見ていた。
「お猿さんだ!」
「お猿さん、赤いね!」
「お猿さん、バナナ持ってる?」
「キアラ、ノッテ大丈夫か?」
「うきっ?」
ちっ。さるゆきの様子がおかしいと思ったら、キアラとノッテはさるゆきの中から離脱していやがった。
周りを見渡すと既に2人はゲート前にいる。そして、こちらをチラリと見たと思ったら手を振りゲートに消えていった。
さるゆきは今や本当にただの猿なので、その困惑顔に同情してしまう。
「あらぁん? アタシも混ぜてぇん、愛の魔法少女レンレンちゃんだぞぉん?」
「……俺の盾で波乗りするか?」
混ざりたかったらしい2人が、自身の容姿を忘れ声をかけてきた。
「「「「ギャアアアアアン!!(ガチ号泣)」」」」
あまりの威圧感とその大きさに、二頭身軍団が一斉に泣き出した。そりゃあそうなるよな。
《ピコーン! 気の毒ですが子どもを泣かせてしまったので……△10ポイント》
あっ、判定さんに気を遣わせてしまった。なんか逆にすいません。
「あらん、私が可愛すぎて泣いちゃったわぁん」
その自信はどこから来るんだ?
「……。コーセー。俺たちはこの国で出来ることは無いみたいだ。後は任せた」
正しく自己評価を出来ているクルスが、謎のポージングを取っているレンレンを引きずりながらゲートへと退場していった。その背中に哀愁を漂わせて。
残された俺たちは2頭身軍団を泣き止ませるために遊びに付き合うことになった。何故かそこにはマミも混ざっていたが。
そして1時間ほどたったころ、王の使いと名乗る蛸がやってきたんだが……何でこの人だけリアルな蛸なんだよ!
「ほっほっ、私は魔法耐性が強すぎるんですじゃ」
「どういうことかしら?」
「ほっほっ」
結局、この蛸は俺達の疑問には答えてくれず「王がお呼びです」と亀がひく貝がらの馬車に俺たちを乗せて王宮へと連れて来られた。
王宮は想像通り竜宮城の様な見た目だった。そして暴れん坊な将軍様がいるような謁見の間に俺たちは案内された。
玉座に座っていたのは、マシュマロのようにぷくぷくした顔で(…まあフグだな)真っ白な烏帽子をかぶった二頭身の人魚の王だった。
『エマ、あいつ柄杓持ってるぞ、取り返さなくていいのか?』
『コーセー。黙りなさい。私が元閻魔でもそのネタはだめよ。空気を読みなさい』
俺が念話でエマに、今にもおじゃと言いそうな王をイジったら普通に怒られた。反省。
「……おじゃ。よく来たの、地上の珍しきハチさんとサルさんよ。お仲間も。おじゃる」
やっぱり「おじゃ」って言ったよ、この王様!
ドン!
オフッ。歓喜に沸いていると、隣のエマから強烈なひじ打ちを脇にくらった。
『何するんだ……』
『コーセー、あっちを見なさい。……もう、助からないわよ、私たち』
エマが念話で俺に話しかけ、引きつった顔で指差す先。
そこには、2頭身の人魚(下半身がオレンジ色の魚)になったマリンがいた。いやマリンなのか?
『い、いや、エマ。アレがマリンと確定した分けじゃない。面影ないし。顔も幼すぎるだろ』
『こっそり鑑定したから確定よ。あれはマリン』
そう言われると、可愛い顔でこちらを見ている人魚が、急に般若の顔で俺たちを睨みつけている様に見えてきた。
『見たな。……よりによって、この姿を。コロス、コロス、コロス……』
何なら幻聴も聞こえるし。
マリンの殺気が、深海の水圧より重く、俺の小さな羽にのしかかる。
「おじゃる。我が娘、マリンが世話になったの。お礼に宴を用意したぞよ。存分に楽しむのじゃ。おじゃおじゃ」
「王様ー。あーし、パフェ食べたーい」
何でこの殺気でマミは平然としているんだよ。さるゆきは…バナナ食ってるし。
『……エマ、助けてくれ。あの目は本気だ……』
『無理よ』
マリンの「今すぐ消滅しろ」という視線と、王様の「おじゃ」が響く、地獄よりカオスな状況に俺は頭を悩ませるのだった。
徳ポイント:△538,086ポイント




