第24話「地獄の沙汰も金次第」
エルフフロンティア最高級ホテルのスイートルーム。窓から差し込む朝日は眩しいほどだが、俺たちの空気はどん底だった。
「……はあ。どうしたもんかね」
俺は豪華な朝食を前に重い溜息をついた。
「コーセー。世界樹のクエストの達成報酬いくら残っているかしら?」
「うーん、皆に分配したのが1人金貨100枚で…パーティー資金に残したのは金貨300枚だったかな。何か欲しいものでもあるのか?」
「違うわ。保釈金に決まってるじゃない。『地獄の沙汰も金次第』って言うでしょ?あれ本当なのよ。この国もその制度があるってアステリアに聞いたのよ」
えー…エルフフロンティアは確かに有りそうだけど地獄も金次第なのか?そんなの金を持った悪人は赦されまくりじゃん。
「あら、何か勘違いしてそうだから言うけど、地獄に現世のお金は持ち込めないわよ」
「うん?余計分からなくなったんだがどういうことだ?」
「あなたは良く知ってるはずよ。地獄のお金は徳ポイントのことよ」
「ああ、なるほどな。でも、それじゃあ悪人が死ぬ前に全財産を慈善団体に寄付したらそれなりに赦されるんじゃないか?」
「そうね。1000円寄付して1ポイントってところかしら?1億で10万ポイントね。でも分かるでしょ。善行はポイントを稼ぎにくく、悪行は簡単にマイナスが増えていくのよ。例えば薬物の使用者は1回使用するごとにマイナス1万ポイントよ。あれって魂にも影響するから。売人とかだいたいマイナス3億ポイントくらいで地獄にくるわね」
それは寄付ぐらいじゃ赦して貰えそうにないな。俺のマイナスが可愛く見えてきた。
「話を戻すわよ。保釈金のことなんだけど、マリンはやっぱりどうにもならないわ。レンレンは金貨100枚で保釈はしてもらえそうよ」
「パーティー資金で何とかなるか。よし、まずはレンレンを引き取りに行こう」
行動に移すために、俺は皆に声をかけた。
「やっとムズい話し終わったねー。あーし、頭パンクしそうだったよ」
難しい話しだったか?俺にはマミが錬金術の話しをしている時のほうが難しいんだが。
そして、マミにデコられるのを警戒して部屋の隅で零戦の盾を構えたままスタンバイしているクルスにも声をかける。
「うむ。仲間を助けに行こう。うぉっ、マミ少し離れてくれ」
いや、クルス。ビビリすぎだろ。後はキアラとノッテか。ああ、エマが声をかけているな。
「……お姉様。わかりました」
「お姉様。もちろんついていきますわ!」
うん?どうしたんだ?キアラの元気が無いな。逆にノッテは闇の大精霊とは思えないぐらい光輝いているんだが。さるゆきは、バナナ食っているな。
様子がおかしい2人を見ていると、備え付けの大型ディスプレイが勝手に起動し、アステリアver18の顔が映し出された。
『――フェイタル・ガーデンの皆様。至急、セントラル・コアへお越しください。ニコタール・スカイの件で、緊急のご相談があります』
ナイスタイミングだ。俺達はすぐにホテルから移動した。
セントラル・コアの面会室。俺たちを待っていたアステリアのホログラムは、昨日までの冷徹な裁判官の面影はなく、ホログラムなのにどこか億劫そうで処理速度が低下しているように見えた。
「相談って、レンレンの拘禁刑のことか?俺たちもあるんだが」
俺が尋ねると、アステリアの演算ノイズが激しく走った。
『はい。我が国において、被告人ニコタール・スカイをこれ以上拘束し続けることは国家を崩壊に導くことが明らかになりました。ニコタール・スカイを閉じ込めておける檻がこの国には存在しません』
「どういうことだ?」
『あいつは昨夜、収監された後に檻が可愛くないという理由で、特殊魔導合金の格子を素手で引きちぎり、看守をバックドロップで沈め、独房内で勝手に獄中ライブを開始しました。現在、刑務所の壁面には修復不能な亀裂が入り、囚人たちの半数が彼女の歌による精神汚染で廃人寸前です』
だからか!判定さんに謂れもないマイナスを食らった悪夢を見たと思ったら現実じゃねーか!
アステリアは深く(擬似的に)溜息をついた。
『……よって、彼女の刑を「罰金刑」に切り替えます。今すぐ、あのジャイアンを連れてこの国から出ていってください』
「なんか。ごめん」
俺はレンレンのポテンシャルと夢にまで現れる判定さんの恐ろしさに改めて戦慄した。
「罰金はいくらなのかしら?」
「拘禁刑に至った理由、昨夜の刑務所の損害、被害者への弁済も含めて3億エルペイでしょうか。金貨で3000枚ほどです」
「高すぎるわ。そんな額すぐには払えないわ。リボ払いでもいいかしら?」
「お姉様!ダークフォン商会から立替させて頂きますわ。支払いはあいつにさせますし」
エマ。俺はもう徳ポイントの債務でいっぱいいっぱいなんだ。リアルマネーの借金は勘弁してくれ。しかし、ノッテの申し出はありがたいが何故俺を指差す。
「ノッテ。立替は必要ない。罰金はなんとかなる。それよりもアステリア。マリンも解放してくれよ」
アステリアの表情は再び冷徹なビジネスモードに戻った。
『それは不可能です。ニコタール・スカイは国内での事ですが、マリンは海底国家からの「国際指名手配犯」です。国家間の犯罪者引き渡し協定は、AIである私にとっても絶対の法理です』
「やっぱりダメか。マリンはどうなるんだ?」
『予定通り、本日正午に転移ゲートを通じて海底国家の外務省に引き渡されます。彼女はあちらで国家反逆罪で裁かれることになるでしょう。……深海は、地上の法が届かない場所です』
海底国家。そこへマリンが連れて行かれれば、もう二度と会えないかもしれない。
「行くわよ、コーセー」
エマが立ち上がり、俺の袖を強く引いた。
「マリンをパーティーに誘った時からこうなることは予想出来たでしょ?」
「まあ、そうだな。アステリア、その転移ゲートを俺たちも使わせてくれ」
『転移ゲートは一般にも商業及び観光用に解放されています。有料ですが』
マミが「海底国家でもデコるしー!」と拳を突き上げ、クルスが「マリン殿の盾になりましょう」と静かに頷く。
こうして、フェイタル・ガーデンの次の目的地は、青く深い海の底――マリンの故郷である海底国家ショーナンへと決まった。
エルフフロンティアの巨大転移ゲート前。俺たちは、ようやく釈放されたレンレンを回収し、順番待ちの列に並んでいた。時刻は既に正午を回り日暮れが近い。
「コーセーきゅんごめんねぃ。アタシが迷惑かけたせいでマリンちゃんをすぐに追いかけられなかったわぁん。あんな可愛い子が深海の冷たい牢獄に閉じ込められているなんて……私、心が張り裂けそうだわぁん!」
「いいんだよ、レンレン。それより体は大丈夫か?」
「少しスースーするけど大丈夫よん。心配してくれるなんて、優しいのねぇん」
お分かり頂けただろうか。そう。罰金はレンレンに体で払ってもらった。レンレンにドラゴン形態になってもらい逆鱗を引っぺはがし素材として売却したのだ。
そして罰金どころか、高額な転移ゲートの使用料を払っても、まだ金貨5000枚ほど残っている。エンシェントドラゴンの名は伊達じゃなかった。
俺は喜んでいるのか知らないが、抱きついてこようとするレンレンを飛んで交わしながら(現在蜂形態)係の指示に従い転移ゲートへ進む。
「よし、漸く俺たちの番だ」
「ええ、行くわよコーセー。待っててマリン。閻魔の私が、その運命を書き換えてあげるわ」
エマが銀のドレスを翻しゲートへ踏み出す。それに皆が続く。
『海底国家ショーナンへ転移します。転移酔いにご注意下さい』
アナウンスが流れ、一瞬の暗闇と浮遊感が訪れた。
『海底国家ショーナンへ到着しました。ご利用ありがとうございました』
俺たちは海底国家ショーナンへとやって来た。
「…よし、帰ろう」
転移ゲートのあるエレベーターの様な箱の入り口から出て1秒。俺は無表情のまま、一歩も動かずに踵を返し、今来たばかりのゲートへ引き返そうとするのだった。
徳ポイント:△538,076ポイント




