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親より先に死んだ俺。異世界で徳を積んで無双したい【改稿版】  作者: 田舎浪漫


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第20話「過去の偉人」

 ハイエルフのババア(見た目は20代の美人)に連れられ、俺たちエルフフロンティアのメインストリートを歩いていた。見上げるほどのビル群、飛び交うエアカー、そして到着したのは、お馴染みのMのマークがホログラムで回転する魔導・クイック・キッチン。通称マックだ。


「いらっしゃいませー! スマイル魔導チャージ中ですよー!」


 店員エルフの淀みのない接客を受けながら俺たちは各々バーガーセットを注文し、窓際の席に陣取った。


「そういえば、まだあんたの名前を聞いてなかったな。ババアじゃなくて、本名を教えてくれよ」


 俺がそう切り出すと、彼女はストローを咥えたまま面倒くさそうに答えた。


「ロザリンド・フランクリン。この郷の最高技術顧問の錬金術師だよ。ロザリーとでも呼びな」


「……ロザリンド、フランクリン?」


俺はその名に聞き覚えがある気がした。どこで聞いたっけ?


『エマ、鑑定だ。このバ……ロザリーのステータスを覗いてくれ』


 俺が念話でエマに頼むとポテトを食べていたレンレンが冷徹な声で制止した。


「やめておきなさいなぁん。エマ、コーセーきゅん。彼女はねぇん、私たちに負けず劣らずの化け物なのよぉん。女の年齢知ったら…ねぇ?」


「ほー! ニコタール、あんた分かってるじゃないかい」


 ロザリーがニヤリと笑う。


「あたしの本当の年齢を知って、まだこの世界で息をしているのは仲間以外じゃ、そこのニコタールと、ドワーフの老害くらいなもんさ。……それでも見るかい? 二重螺旋の深淵を」


 二重螺旋……この世界の住人が比喩として使うはずのない言葉だ。そうた。思いだした。ロザリンド·フランクリン、DNAの二重螺旋構造の解明に貢献した女性研究者の名前じゃねーか。


「…単刀直入に聞く。ロザリー、あんた……転生者なのか?」


「転生者、ねぇ。懐かしい響きだ。あんたもかい?」


 ロザリーはポテトを一本口に放り込み、咀嚼してから窓の外のサイバーパンクな街並みを眺め、俺の返事を待たずに続けて話す。


「あたしが『こっち』に来た頃には、まだこの郷には緑なんて腐るほどあったよ。あまりに暇で、泥臭い森の生活に反吐が出たね。だからあたしが持っていた『知識の断片』を、錬金術でこの世界に実装し直したのが今のエルフフロンティアさ。もちろん一人じゃないさ。他にも暇を持て余した変人たちが大勢いたからねぇ」


 ロザリーは指を折りながら、さらりと言ってのけた。


「物理法則をこねくり回してたアルベルト。重力の計算にうるさかったアイザック。魔物の進化を観察してたチャールズ。芸術肌のレオ。爆薬作りに命をかけてたアルフレッドはこの世界では私の旦那さ」


「えっ?何か聞き覚えある様な」


「ああ、親友のマリーとはよく女子会をしたもんさ。その旦那になったトーマスもうるさい発明狂でねぇ。まあ、みんなで協力してこの街をつくったのさ」


 俺はコーラを噴き出しそうになった。


「アインシュタイン、ニュートン、ダーウィン、レオナルド・ダ・ヴィンチ、ノーベルにキュリー夫人か?それにエジソン!? 世界史のオールスター感謝祭かよ! 全員この街に転生してるの !?時代がバラバラなんだが」


「ハハハ! 知識に時代なんて関係ないさ。魂が集まればそこが最先端だよ。まあ、この街には今はあたししか居ないがね…」


「亡くなったのか……仲間との別れは辛いよな」


「何言ってんだい。殺すなよ。あいつらは今アイザックの理論が完成したとか言って、今は時空旅行してるよ。あたしは興味なかったから居残りさ」


 何故か皆が俺を冷たい視線で見てくる。いやいや紛らわしい言い方やめてください。って「時空旅行!?」もう、そっちの話が気になるって!ロザリーは愉快そうに笑い、今度は……黙々と「ビッグ・ユグド・バーガー」を口に運んでいたクルスを指差した。


「ああ、そこのデカブツの生み親はあたしの弟子のジローだねぇ。あいつも美しいものを作らせたら天下一品だったが、まさか最後にあんたを完成させてたとはね。ゼロ戦とやらをこえたんじゃないか?」


「……え、クルス。 お前、ジロー…堀越二郎が生みの親なのか!?」


 俺の叫びに、クルスはバーガーを飲み込み、静かに頷いた。


「……マスターは言っていた。『美しいものは、同時に強くなければならない』と。……俺の装甲、俺の盾。そのすべての設計図には、風の流れを計算した数式が刻まれている」


「ゼロ戦の設計者が、最終的に行き着いたのが『盾を持った巨人のホムンクルス』か!」


「フン、ジローの奴、普通のヒト種だったからねぇ。あたしとチャールズが長命種のエルフに進化させてやるって言っても『空を飛ぶのはいつか終わる。もちろん僕もいつか終わる。師匠僕は人間のままでいい』なんて泣かせること言ってたよ。もう逝ったんだろ?」


 ロザリーが懐かしそうに目を細める。


「その話はマスターに聞いたことがある。誰が人体実験に付き合うかバカヤローって言ってたな」


 おい、クルス!感動の話にぶっこむなよー!!しかし、


「この郷、ヤバすぎるだろ。フロンティアどころか、地球の天才たちの掃き溜め……いや、聖域じゃねーか!」


「ハッ、理解が早くて助かるよ。……さて、マミと言ったかい? あたしの工房へ来な。あんたのそのキラキラした直感が、あたしたち老いぼれの理論を越えられるかどうか……試してやるよ」


「エモーい! スカウトされちゃった! 錬金術のトップ、あーしが乗っ取っちゃうし!」


 マミがケラケラと笑い、ポテトを掲げる。俺は、歴史とロマンが詰まりすぎて胃もたれしそうなバーガーを噛み締めながら、この「エルフフロンティア」という異常な街の深淵に、一歩足を踏み入れたのかもしれない。


 ロザリーが指先一つで呼び出したのは、流線型のボディがネオンを反射する最新鋭のエアー・リムジンだった。

 ドアが重厚な音と共に跳ね上がり、俺たちは贅沢な革張りシートに身を沈める。リムジンは静かに浮上すると、ビル群の間を縫うように走る空中レールへと滑り出した。


「……なあ、ロザリー。さっきからビルとホログラムばかりだけど、この郷を治める女王様とかはいないのか? ファンタジーならほら、森の最奥に絶世の美女が鎮座して、皆に慕われてるもんだろ」


 窓の外、巨大なホログラムの新作ポーション・エナジーの広告を眺めながら、俺は素朴な疑問を投げかけた。ここまで「ハイエルフの郷」のイメージとは、あまりにもかけ離れていたからだ。

 ロザリーはシャンパングラスを傾け、不敵な笑みを浮かべた。


「ハッ! そんな非効率なもん、数百年前にリストラしたよ。絶世の美女? そんなものが老化でシワを増やしたり、色恋沙汰で判断を誤ったりするのを待つなんて、リスクでしかないからねぇ。……今のこの街の女王は、あたしたち科学者ギルドが総力を挙げて作り上げた司法、行政、立法を管理するAI――マザー・コンピュータさ」


「管理AI……。ついにファンタジーを完全に捨てやがったな」


「 彼女は常にに国民全員へのアンケートを魔導通信で実施している。今日のランチの価格設定から、次世代魔導エンジンの予算配分まで、民意をリアルタイムで集計し、即座に政策へ反映させる。……感情に左右されず、常に『最大多数の最大幸福』を計算し続ける。これ以上の民主主義があるかい?」


「ポチポチ投票で国が決まるのか。便利なんだか、味気ないんだか」


 俺のツッコミをよそに、リムジンは郷の中心にそびえ立つ白銀に輝く水晶の塔「セントラル・コア」へと吸い込まれていった。


 


 塔の最深部、厳重なセキュリティゲートをいくつもくぐり抜けた先に、その空間はあった。

広大なドーム状の部屋の中央には、無数のケーブルと透過ディスプレイに囲まれた、その表面には金色の電子回路が血管のように走り、青白いホログラムの光が神々しく揺らめいていた。


『フェイタル・ガーデンの皆様ようこそいらっしゃいました』


「これがマザー·コンピュータ、統合統治体 アステリアver18だよ」


「さあマミ、とりあえず、あんたが持ってきた『クエストの品』を出しな」


「…?う〜んロザリッチ。錬金神様の神像がないよー?」


「あー、神像はアステリアに組み込んだのさ。その方がシステムが安定するからねぇ。さあいいから捧げな」


 組み込んだ?本当、過去の偉人やりすぎじゃね?なろうのデタラメ主人公達もここまでファンタジーの世界観壊さないって。

 ロザリーに促され、マミはエマのストレージから二つの品を取り出した。

 一つは黄金の蜂蜜酒。もう一つはマミが世界樹のイチゴをその魔力と直感で極限まで煮詰めた、至高のイチゴ・コンポート。


「お待たせ! 錬金神様、特製のデザートとお酒持ってきたし! これでクエスト完了でしょ?」


 マミがそれらを神像の祭壇?アステリアver18に供えた瞬間、ラボ全体の計器がチカチカと点滅し、まばゆい黄金の光が炸裂した。


《――キターーーーーーッ!! やっと、やっと届いたわぁぁぁ!!――》


 すると管理AIの冷徹な合成音声とは全く違う、ひっくり返ったような黄色い悲鳴がラボに響き渡った。

 そして光の中から現れたのは、マザーAIのホログラムとは別の、ふんわりとした赤と青のドレスを纏い、頭にフラスコの飾りをつけた錬金神のホログラムだった。

 彼女は実体化した手でイチゴのコンポートをひったくるように手に取ると一気に口へ放り込んだ。


「んんん~~~っ!! これよ! この『禁断の糖分』! 自分で作るとどうしても論理的な味になっちゃうのよね。 この直感だけで煮詰めたバカみたいな甘さ、最高だわ!!」


「……あの、神様。お酒の方は飲まないんですか? みんなが頑張って作ったんですけど」


 俺が呆然としながら尋ねると錬金神は蜂蜜酒の瓶を宝物のように抱きしめ、頬を林檎のように赤らめてモジモジし始めた。


「……これ、私が飲むわけないじゃない。あのね、これを持って鍛冶神のところへ行くのよ! ずっとデートに誘ってるんだけど…あいつ、典型的な職人気質の引きこもりでしょ? 『俺を唸らせる最高級の酒でも持ってこねぇ限り、工房の火は落とさねぇ』なんて抜かしやがって……。これで、これでようやく、あいつをピクニックに連れ出せるわ!」


「神様の個人的なデートのワイロかよ!!」


 俺の絶叫がラボに虚しく響く。世界を救うためでも、人類の進化のためでもない。神様がクエストを出した理由は「自分が甘いものを食べたい」という食欲と、「好きな男を釣るためのエサが欲しい」という、あまりにも人間臭すぎる乙女心だったのだ。


「ま、まぁ動機は何だっていいじゃない! 品物は最高級、私の心は満たされた! 約束通りあなたに私の『極み』を授けるわ!」


 錬金神が上機嫌で指先をパチンと鳴らすと、マミの全身に虹色の魔力が渦巻いた。そして錬金神のホログラムは消えアステリアに戻った。


【緊急クエスト:『錬金神に蜂蜜酒と苺のスイーツを捧げよ』をクリアしました】


【スキル進化:錬金神の加護(癒しの料理)→ 錬金神の寵愛(錬金の極み)】


「うわ、なんか脳内アップデートがエグい! これ、この街のビル全部イチゴ味のチョコに書き換えられるし、最新のダークフォンも砂粒から作れる気がする!」


「やめな、そんなことしたらアステリアが論理崩壊してしまうよ」


 ロザリーがツッコミを入れつつ、どこか楽しそうに笑った。


「まあ、あーし錬金の極み貰っても、美味しい料理作ることしか興味ないんだけどね〜」


「「マミ、料理も良いけど今度ダークフォンをバージョンアップするの手伝って」」


「キアラっちにノッテっち、もちOK」


「やっぱり、あんた達だったかい。光と闇の。今はキアラとノッテかい」


 マミとさるゆきから出てきたキアラとノッテが話しているとロザリーが気づき会話に交ざった。


「うん?あなた達、知り合いなの?」


「「お姉様、知り合いと言うか、そこのマザーAIアステリアを開発する時、あと光マナネット商会、ダークフォン商会を起ち上げる時に互いに技術提携をしただけの仕事仲間ですわ」」


 なんだと?


「やっぱり、入国の時に攻撃受ける必要無かったじゃねーか!?」


 俺は再び叫ぶのだった。

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