第19話「エルフフロンティア」
「……止まれ、愚かな人間どもよ。ここから先は森の聖域。穢れた足で踏み入れることは許さん」
鬱蒼と茂る古木の影から鈴を転がすようなそれでいて冷徹な声が響いた。
そして、俺たちの足元にシュッ!シュッ!と音と共に無数の矢が突きささった。その一本一本が寸分違わず同じ間隔で地面を穿ち、これより先に進むなと言わんばかりのラインができた。
「テンプレ、きたあああああ!!」
俺は猛烈に感動した。異世界転生の醍醐味であるエルフの洗礼を受けたのだ。テンションが爆上がりだ。
だが疑問もある。あのエルフは俺たちが人間に見えているのか?もしそう見えるなら眼科にいけと思ってしまう。俺もエマも今は人化していない。クルスは人間を模しているがでかすぎるだろう。マリンはエルフに擬態しているし、そもそも人魚だ。さるゆきは猿。マミは獣人。レンレンは…うん。どうみても人間に見えるはずがない。
「あらぁん、歓迎されてるわねぇん。でも、その程度じゃあ、私たちの歩みは止まらないわよぉん?」
レンレンが優雅に腰をくねらせて歩みを進めると再び矢の雨が降り注いだ。それをクルスは重厚な盾を掲げ、すべての矢を空中で弾いて地面に落とした。
「魔導障壁か。警告は済んだ。……タクティカルユニット展開。各員、擬態解除」
声が響いた直後、森の景色がノイズと共に歪んだ。現れたのは弓を持った優雅なエルフではなかった。
「……がち?」
そこにいたのは、前世地球で見たことがあるような迷彩柄の戦闘服に身を包みタクティカルベストを装着したエルフの集団だった。
顔にはペイント、耳には無線機。彼らが構えているのは、美しき木製の弓ではない。黒光りするアサルトライフルに似た物だった。
「目標確認。ロケットランチャー装填完了」「目標、盾持ちの巨漢。一斉掃射。……撃て!!」
ドォォォォォン!!
凄まじい爆発音と共に、対戦車ロケットが俺たちの目の前で炸裂する。さらには森の奥から、ディーゼル音……エンジンの重低音を響かせて迷彩を施した重戦車が樹木をなぎ倒しながら姿を現した。
「ちょっ……待て待て待て! ファンタジーどうしたああああああ!!」
俺の絶叫が虚しく響く。
「弓は!? 精霊魔法は!? なんでフルオートで鉛弾バラ撒いてるんだよ! 迷彩服エルフとか属性過多だろ!! 誰も森を守ってねぇじゃねーか!」
「コーセーっち、うるさーい。……てか、あのデザイン、あーしの好みかも。マットな質感が超エモくない? 写真撮っていい?」
マミがダークフォンを構える横で、クルスが「……今の爆発で、ストレージ内のイチゴは無事か?」と、戦火の中でもイチゴの安否を確認している。
「あらぁん。その武器と 私のパンチとどっちが速いかしらねぇん」
レンレンはニヤリと笑う。マリンも何やら暗器を構えた。
「あの鉄の塊……装甲の隙間が弱点ね。あそこに爆縮の暗器を放り込めば、三秒で鉄屑になるわ。……あっちの迷彩服も、熱源遮断が甘い。私の視界からは、心臓の鼓動が丸見え……」
「マリン、怖い怖い。 暗殺者の本能出ちゃってるから! 今は交渉?のターンだから!」
うーん。一触即発だなあ。エルフのテンプレは嬉しいが面倒くさい状況に頭を悩ませていると新たな人物が現れた。
「止めな、お前ら。そいつらは今の玩具じゃ傷一つつけられやしないよ」
森全体に響き渡るような力強い声。戦車の上に飛び降りてきたのは白衣を纏った美人エルフだった。
そのエルフはよく見ると、白衣はヨレヨレで薄汚れており、首にはメガネらしきものをぶらさげている。そして手には、よく分からないがタブレット端末みたいな物を持っている。
「(どこの馬の骨かと思えば、ニコタール·スカイに、馬鹿弟子の遺物もいるねぇ)……世界樹を救ったのは、あんたたちだね?」
エルフはボソッと何かを呟き尋ねてきた。
世界樹…ああ、あのエルダートレントの事だな。こいつ何で知ってるんだ?
「ああ、助けたけどあいつ猛スピードで走って逃げたよ」
そう答えるとエルフはハハハと愉快そうに笑った。
「そりゃそうだろうさ。 昔は信仰だの神格化だのと世界樹を敬う連中も多かったがね。最近じゃあたしの研究が捗りすぎて、あいつを大陸間魔導通信用の電波塔に改造しようとしたんだよ。そしたらあいつ、泣きながら逃げ出しやがったじゃないか。だから逃げ癖がついたみたいだねぇ」
信仰対象の世界樹を電波塔にって、このエルフはマッドな博士なのか?ヤバい。エルフのイメージがどんどん壊れていくよ。
「逃げるわ。 てか何で世界樹を助けたこと知ってるんだよ?」
「そりゃあ見張りをつけてるから報告は聞いてるさ。あの緑の精霊に良いようにされてる時も、助けを求めてきたら電波塔の契約をしてからと思っていたんだよ。あんたたちが助けちまったがね」
そんなことよりとエルフは続けた。
「……狼娘。……その指先、その魔力の流れ。『錬金神の加護』かい? 昔から欠陥だらけで今の時代じゃゴミスキル呼ばわりされているみたいだが……」
「え、そうだよ? ゴミスキル?神スキルっしょ」
マミがケラケラ笑ってみせると、エルフは驚愕し目を見開いた。
「……ほう錬金スキルの良さがわかるかい。面白い。いいだろう、特別に通してやるよ。」
助けたの知ってたなら、攻撃せずに通せよ!と思いながらも口には出さず、案内に従い俺たちは古木の巨大な門をくぐった。
「……はぁ?」
そこに広がっていたのは、緑豊かな森の村ではなかった。
天を突くようなガラス張りの超高層ビル群。空を縦横無尽に飛び交う光の尾を引くエアカー。ビルの壁面では巨大なホログラムのエルフ美少女が新作のポーションを宣伝し、通りにはエルフたちがタブレットを片手に、スーツ姿で闊歩している。
それは、かつて俺がいた東京の街をさらに数百年、魔法技術でブーストさせたようなネオンきらめくサイバーパンク大都会だった。
「……ようこそ、ここが、エルフの郷『エルフフロンティア』だよ。自然? そんなもんはVR(仮想現実)で十分さ」
エルフの言葉に、俺は周囲を見渡し、魂の底から叫んだ。
「緑はどこ行ったんだよおおお!! 森林浴させろよ!!ツリーハウスは? 癒やし要素ゼロじゃねーか!!」
「コーセーっち、見て! あそこのビル、イーサの街にもあったマック(魔導・クイック・キッチン)あるじゃん。 無料Wi-Fi飛んでるし、超最高なんだけど」
「マックはエルフが出してるチェーン店だねぇ。あそこが本店さ」
美人エルフが言う。何だろ。テンプレ来たーと叫んだ自分をぶん殴りたい。
「エマ。一応、聞くけどさ、ここ本当にファンタジーの世界だよな?」
「えっええ、そのはずよ多分」
エマも困惑しながら答える。うーん、このままじゃ話が進まないな。俺はエルフに向かって聞いてみた。
「なあ、この郷には錬金を極めたハイエルフのババ…婆さんがいるんだろ?会えたりしないか」
「おや、気付いてなかったのかい?そこのニコタールとホムンクルス…その猿も気付いてるみたいだが。あたしが錬金を極めたハイエルフのババアだよ。実はあんたたちの事もドワーフの老害から連絡はきてたよ」
ああ。ユータが性格悪いと言ってた意味がわかった。さっきは口に出すことを躊躇ったが、
「知ってたなら、攻撃せずに通せよー!」
今度は全力で叫んだ。なんでやねーんの動作付きで。だがそれは素人の俺がしていいことでは無かった。軽くだがエルフのババアに手が当たってしまったのだ。
「なんだい。腹が減ってイライラしているのかい?案内してやるよ、あたしたちの街にな」
《ピコーン!イライラして八つ当たりは駄目だぞ! △100ポイント》
ヤバい。ババアと判定さんに、さらにイラッとしてしまった。
《ピコーン!イライラしたら駄目だぞ!あと、ババアを連呼しすぎ。悪口は罪だぞ! △100ポイント》
悪口ダメ。絶対。スイマセンでした。だから判定さん、その話し方はやめてください。
《ピコーン!可愛さを演出したのですが、あなたを苛つかせるのは本意ではありません。忠言は他者を思い遣ってこそ。500ポイント獲得です》
「コーセー置いてくわよー」
ありがとう、判定さん。エマに呼ばれ俺は皆を追いかけた。
徳ポイント:△530,576ポイント




