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親より先に死んだ俺【改稿版】  作者: 田舎浪漫


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第18話「ご利用は計画的に」

「おかえりなさい。早かったですね」


 ギルドの奥、支部長室。書類の山に埋もれていたユータが顔を上げた。


 その表情は部屋に踏み込んできたフェイタル・ガーデンの姿を見た瞬間に苦虫を噛み潰したような顔になった。


 ま、そうなるよな。先頭のクルスが盾にイチゴを山盛り乗せてズカズカと入ってきたんだから。


「……クルスさん。それは何ですか?」


「イチゴだ」


「見れば分かります! 私は何故盾の上にあるのかを聞いてるんです。…まあいいです。討伐証明はありますか?」


「枝ならあるわよぉん」


 レンレンが、エルダートレントから貰った枝をユータの机に無造作に放り出した。


 その枝から放たれる神聖な魔力にユータの目が一瞬でプロのそれに変わった。


「……これは……まさか、世界樹の……。まさか貴方達、和解してこれを譲り受けてきたんですか?」


「やっぱり。最初から狙ってたのねぇん?」


 レンレンが聞くと、ユータは深いため息をつき椅子の背もたれに体を預けた。


「……ええ。あのエルダートレントが、ハイエルフから世界樹と崇められる聖域の主であることは知っていました。もし下手に討伐なんてして首を持って帰ってきたら、この国はハイエルフの軍勢と全面戦争ですよ。だから、暴力以外で解決できそうなあなたたちに振ったんです」


 ユータは机の上の枝を愛おしそうに見つめた。


「それに、その盾の上のイチゴ……それこそが和解の証ですね。魔導イチゴは、世界樹が自らの意思で切り離さない限り収穫した瞬間にただの黒い腐肉へと変わる。討伐した死体からは、一粒たりとも手に入らない奇跡の果実なんですよ」


「へぇー、じゃあこれ、マジでレア中のレアってことじゃん!」


 マミが得意げにVサインを作る。


「ええ。ですから、そのイチゴの一部をギルドに納入していただければ、報酬はさらに跳ね上がり――」


「「「「だか、断る」」」」


 全員の声が完璧に重なった。


「これはあーしのクエスト用だし! 一粒だってあげないよ!」


「私の美肌のためにも必要なのよぉん」


「イチゴ、渡さない。……おいしいから」


「……不本意ながら、俺はこのイチゴを運ぶために、盾としての誇りを捨てた。報酬などで譲れるものではない」


「……いや、あなたたち、これ一国が買えるレベルの価値があるんですよ!?」


 ユータが身を乗り出して叫ぶが、エマが冷ややかに微笑んだ。


「お金なら、あの世界樹の枝を売れば十分でしょう? イチゴは私たちの果実よ。部外者に分ける道理はないわ」


 ユータはがっくりと肩を落とし、胃を押さえながら別の書類を取り出した。


「分かりました。イチゴは諦めます。その代わり、世界樹の枝はギルドに討伐証明として納品してください。それと、マミさんのクエストに関係する錬金神の像についてですが」


 ユータが地図の一角を指さす。そこは、人間が足を踏み入れることを禁じられた禁域だった。


「この先にある『ハイエルフの郷』。そこには、世界で最も錬金術を極めたとされる存在……ハイエルフのババアが住んでいます。郷の中心には、古い錬金神の像も安置されているはずです」


「ハイエルフのババア」


 俺がその言葉を繰り返すと、ユータは少しだけ意地悪く笑った。


「性格は最悪、口は悪い…ですが、世界樹と和解し、そのイチゴを腐らせずに持ち帰ったあなたたちなら話くらいは聞くでしょう。何せ、世界樹に認められた証拠をその盾の上に山盛りにしているんですから」


「 次のターゲットはハイエルフの郷ね。 そのババア、あーしのイチゴスイーツで黙らせてやるし!」


 マミが気合十分でガッツポーズを決める。


「さて。そうと決まれば準備をしてください。クルスさんは、そのイチゴを早く収納して下さい」


「……ダメだ。移す時に潰れる可能性がある。俺はこのまま運ぶ」


「ギルドの外までその格好で行くつもりですか!?……というか、あなたたち。そもそも誰かマジックバッグを持っていないんですか!? もしくは空間魔法を使える者は!? なぜSランクにもなって、イチゴを盾に山盛りにして運ぶという原始的な運搬方法を選んでいるんですか!」


 その言葉に、一行は「あ」という顔で顔を見合わせた。ユータの顔がみるみる絶望に染まっていく。


「このデタラメな連中、便利機能の類を一切持っていないのか?」


 その時、一歩前に出たのはエマだった。


「あら、ちょうどいいわ。さっきステータスみてたのよ。徳ポイントはマイナスのままだけど優良顧客だしまた前借できそうよ」


 エマが空中に指を走らせると、彼女の前に半透明のウィンドウが現れた。


「ええと……時空神の加護【神の蔵(ストレージ)】。あらゆる物質を劣化させずに無限に収納できる権能……。取得条件は…徳ポイントマイナス50万ポイント(特別融資)。ふふっ、いいわ。ポチッとな」


「は?」


 俺は驚いてエマを見たがエマはどこ吹く風だ。手をかざすとクルスの盾の上にあった大量のイチゴが吸い込まれるように空間の割れ目へと消えていった。


「あらん、私ストレージのスキル持ってるわよぉん?」


 え?


「女の子はメイク道具に洋服、たくさん無いと困るものん。ストレージは必須よねぇん」


「……私も、深海の真珠に収納機能があるわ。……身一つでは愛を探す旅はできないもの。暗器も隠さなきゃいけない」


 マリンが首元の真珠を気だるげに指差す。


 は?


「私も、影の収納魔法使えますわお姉様」


「さるゆきのポシェットもマジックバッグですね」


 ノッテとキアラもさるゆきの中からひょっこり顔を出して告げた。


 てか別々に話してる所初めて見たな。


「まさかクルスも?」


 エマが青い顔をしながらクルスに振り向く。


「マスターから譲り受けたマジックバッグがあるな」


「あ、あーしも! 今のクエスト達成したら、『無限冷蔵マジックバッグ』のレシピ分かる気がするんだよねー。だからエマたんとコーセーっちがそんな無理してローン組まなくても良かったかも?」


 マミが追い打ちをかけるように、ケラケラと笑った。


 直後、エマの背後に過去最高密度のどす黒いオーラが立ち昇るのを俺は見逃さなかった。


「……あなたたち。……なぜそれを今言ったのかしら?」


「「「「だ、だって聞かれなかったし……」」」」


「……ぐ、ふふっ。いいわ。50万ポイントなんて、この世界の悪を根絶やしにすればすぐに貯まるはずよ。まずはその辺の生意気なハイエルフの郷から掃除しましょうか」


 エマは漆黒の微笑を浮かべて部屋を出て行った。皆も続いて出ていく。久々のポンコツを見せたその背中に向かい俺はつぶやいた。


「ご利用は計画的にー!!」


---トール視点---


 俺の名はトール。元奴隷で今は師匠たちが作った村の自警団の団長をしている。


 フェイタルガーデンの皆がハイエルフの郷へ向けて旅立って数日。村は現在ある問題に直面していた。


 そこは、以前は枯れたダンジョンだった。だが、エマ様が村に預けていった蜂の眷属たちが洞窟全体を黄金の六角形が連なる新たなダンジョンへと作り変えていたのだ。


「ちょっと味見させてもらうぜ」


 そこに、蜂蜜酒をつまみ食いにやってきた師匠が鼻歌まじりに足を踏み入れた。


「「「ブゥゥゥゥゥゥン!!」」」


 幾重にも重なる羽音が響き、金色の鎧を纏ったような蜂たちが殺到した。


「おわっ!? 待て、俺は身内――ぎゃあああああ!!」


 剣聖ともあろう御方が「不法侵入への教育」を叩き込まれ、全身をパンパンに腫らして入り口まで吹っ飛んできた。


『……女王、不在。……規律、絶対。……侵入者、排除』


 蜂たちは、エマ様の許可がない限り、一滴の蜂蜜も外に出さない鉄の掟が敷かれていたのだ。


「これじゃ、蜂蜜酒を造れないわぁ……」


 お袋がマミのくれたレシピを抱えて途方に暮れていた。蜂蜜酒を村の特産として製造するようにエマ様からも言われていたんだけどなぁ。困り果てた俺はダークフォンでマミに連絡をすることにした。


『あ、トール兄? なに、ハチミツが採れない? あー、あの子たち真面目だからねー。エマっち、どうにかしてあげてよー』


『あっ』


 マミがそう言うとエマ様が驚いた声をだした。


『ごめんなさい、忘れていたわ。あの子たち女王蜂の命令がないと動けないの。私の代わりに代理女王が必要だったわ。…そうね、貴方たちのお母さんを女王代理にするわね』


 そう言ってエマ様が何かを呟くまばゆい光がお袋を包んだ。


「 な、なにこれ、頭がムズムズするわぁ」


 光が収まった時、俺は絶句した。狼獣人であるお袋のピンと立った耳の間に蜂の触覚がニョキッと生えていたのだ。


「あらあら、なんだか蜂さんたちの気持ちが分かる気がするわぁ」


 お袋が触覚をピコピコ動かしながらダンジョンへ一歩踏み出すと巨大蜂たちが一斉に伏して跪いた。


『……新たな女王、確認』


『 ママ、女王様じゃん! 最高!』


 マミが通話越しにケラケラ笑い、お袋は「蜂さん、そこは整理整頓してね」と触覚を揺らしながら蜂たちを指揮し始めた。


 そうしてお袋の指示で収穫した濃厚な魔導蜂蜜を使い親父たち村人がダンジョンに新たに作られた醸造所で最高級の蜂蜜酒を仕込んだ。


 村はこれからもっと発展していくだろう。


「……うめぇ。まだ仕込み段階なのに、五臓六腑に染み渡るぜ」


 横で師匠がグラスを傾けて飲んだくれている。


 ダンジョンそばに作られた畑では、悪さをした罰だと連れて来られた新入りのレンゲが「蓮華をもっと咲かせないと」と虚ろな目をしている。うん、レンゲのおかげで蜂蜜の質がさらに良くなったらしい。まあ、何故か鞭を持った蜂たちに囲まれているのは少し同情するが。


「マミ、大丈夫か?辛くないか? 」


『あはは、トール兄ったら心配しすぎ! こっちはこっちでエマたんが「借金返済(物理)」とか言って超張り切っててウケるよ。次はハイエルフの郷! 映えるババアの写真、送るからねー!』


 通話を切る前に聞いたマミの声は生き生きとして楽しそうだった。


 皆がいつ帰ってきても良いように俺も頑張るか。


「あっ、ししょー!!」


 蜂蜜酒をまだ飲もうと、ダンジョンに侵入し返り討ちに遭う師匠に叫び声をあげるのだった。


徳ポイント:△530,876ポイント

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