第16話「運命が交差する庭」
ユータが奥の部屋へ消えて数分後、戻ってきた手には、最高級の魔導金属で作られた黒いカードが7枚握られていた。
『ユータ、これランクは何だ?』
「……Sランクです。このメンバーを低ランクに置くのは、街を滅ぼしてくれと言っているようなものです。だからレンレンさん、クルスさん、マリンさん、さるゆきさん。このクエストに参加させたのは貴方達を強制的に昇格させる為ですよ?」
「ゆーたきゅん、Sランクにしたからって私達は縛れないわよん?」
「勿論それは分かっています。ただ、打算があるとしたら…Sランク冒険者は皆に慕われる存在です。慕ってくる人達を貴方達は無下にはしないでしょう?」
「あーし、いきなりSランクとか、マジ人生イージーモードじゃん!」
マミがはしゃぐ中、コーセーの手元にはもう一枚、別のカードが渡された。
『……従魔登録証』
「まあ、貴方の人化が時間限定なら、あれば便利ですよ?」
ユータは目を逸らしながら、そっと従魔用の首輪も一緒に差し出してきた。
俺、奴隷解放した英雄のはずなんだけどなあ……
キアラとノッテの嫌がらせにより、魔法をかけてもらえなかったツケがこれだ。
ギルド内では「あの美女が連れている巨大な蜂、Sランクの魔物かよ……」と畏怖の眼差しを向けられているが、当の本人は首輪を手に途方に暮れているがな。
「登録、完了いたしました。Sランク、ええとパ、パーティー名は……」
受付嬢の羽根ペンが、羊皮紙の上でガタガタと震えている。魔物の俺と見た目がイカツイレンレンのせいだろう。
助けを求める彼女の視線の先にはユータがいた。
「パーティ名をお聞きしても?」
ユータに問われエマが答えた。
「パーティー名は、フェイタル・ガーデン(Fatal Garden)よ」
「フェイタル……ガーデン……」
ユータがその名を反芻し、目を見開く。その響きに、ギルドにいた荒くれ者たちが一瞬で静まり返った。
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俺たちがパーティー結成を決めた後のこと、パチパチとはぜる薪の音だけが響く中、エマが夜空を見上げて呟いた。
「……ねえ、コーセー。私たち、これからどう呼ばれるのかしら。ただ化け物の集まりじゃ少し味気ないわよね」
俺は隣でさるゆきの毛繕いをしている二人の精霊――キアラとノッテを見た。大精霊たちは、自分たちこそがエマの守護者だと言わんばかりに、光と闇の粒子を散らしている。
俺は焚き火の炎を見つめながら、静かに口を開いた。
「……フェイタル・ガーデン。どうだ」
「Fatal? 致命的な、という意味かしら」
エマが不思議そうに首を傾げると、俺は首を振った。
「それだけじゃない。Fatalには『運命的な』『宿命の』っていう意味もあるんだ。俺たちは皆、この世界からはみ出した怪物だ。だけど、こうして出会ったのは偶然じゃない。出会うべくして出会った『運命』なんだよ」
「それならdestinyのほうがいいんじゃないかしら?明るい未来の意味合いも強いし」
エマの言うことは最もだ。
「俺が転生者なのは皆知ってるよな。変えたい過去があることも。俺は今、人では抗えない運命の中にいる。それは多分お前達もじゃないか?」
エマ、そしてクルスやレンレン、マリン、キアラにノッテたちを順番に見渡し続けた。
「ここはそんな俺たちの『運命が交差する庭』だ。否定的な意味合いが強いフェイタルだが…はみ出し物の俺達にはピッタリだろ?誰かが俺たちをどう拒絶しようと、俺たちはこの庭で、家族として生きていく。……もし、この運命の場所を乱そうとする不届き者がいたら、その時は俺の『致命的な』毒針で、地獄へ送ってやる。そういう意味だ」
「ふふっ、素敵じゃない。私達にふさわしいじゃない」
エマが柔らかく微笑み、クルスが静かに目を閉じ重厚な声で告げた。
「……俺の永い旅は、ようやく運命の庭に辿り着いたか」
「「いいわね。 『フェイタル・ガーデン』。私たちが、お姉様の運命の庭を一番キラキラに管理するわ」」
キアラとノッテが歓声を上げる。
「私達と対峙したら致命的な運命も意味するのね。良いと思うわ。」
「そうよん!私たちは今日から家族よん」
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「……なるほど、あなたたちらしい」
回想から引き戻された俺の前で、ユータが不敵に笑った。彼はパーティーメンバーではない。だが、このデタラメな怪物たちをギルドとして支える「運命」を、彼もまた受け入れたようだった。
「わかりました。ギルド支部長の名において、Sランクパーティー『フェイタル・ガーデン』、正式に受理します!」
「おい、聞いたか……? フェイタル・ガーデン……近寄らねえほうが良さそうだぜ」
ギルド中に地鳴りのようなざわめきが広がった。
『さて、名前も決まったことだし、初仕事といこうぜ。ユータ、いい依頼はあるか?』
俺が聞くと、一通の依頼書を差し出してきた。
「Sランクのあなたたちにしか頼めない依頼です。……商業都市イーサの街道を塞ぐ『古き森の主』の討伐。そして、その森には――」
「あー、ちょっと待ってユータっち!」
マミが横から割り込んできた。
「その森、伝説の『魔導イチゴ』自生してるってマジ!? あーしのスキル獲得クエスト【錬金神に蜂蜜酒とイチゴのスイーツを捧げよ】って出ちゃってるんだけど! これ達成しないとあーしの料理、進化しないんだよね」
「……ありますよ」
ユータが呆れたように言うと、マミの目がこれ以上ないほどギラついた。
「決まり! 最初の仕事は、ストロベリー・ハントっしょ。 フェイタル・ガーデンの初陣がイチゴ狩りとか、マジうけるんですけど」
「いいわね、イチゴ。私の美肌にも良さそうだわぁん」
「イチゴか。……主がよくケーキに載せていたな」
レンレンとクルスも、それぞれの理由でやる気を出し始める。
『よし、皆 フェイタル・ガーデンの初仕事だ! 気合入れろよ』
俺が気合を入れた瞬間、マミが俺の首輪のリボンを整えながら言い放った。
「あ、コーセーっちはペットなんだから、収穫したイチゴを潰さないように運ぶ、カゴ係ね。一粒でも潰したら、晩ごはんなしだから」
『………。』
なあ、パーティーリーダーは俺だよな?俺の落胆を余所に、最強の怪物たちは意気揚々とイーサの街を後にした。
街の外に広がる『忘却の森』。
そこは、入った者の記憶を魔力がかき乱すと言われるAランク指定の危険地帯だ。しかし、歩を進める『フェイタル・ガーデン』の面々に、迷いはなかった。
「キアラ、ノッテ! 明かりを灯して。 森の中、暗くて見えないわ」
「「任せてお姉様! !」」
森の入り口で、本来なら恐怖で震えるはずの空間が、大精霊の魔法によってスタジオのような明るさに変えられていく。
その背後で、古き森の主――巨大な樹木の怪物であるエルダートレントが、己の縄張りを侵す不遜な者たちを迎え撃とうと、不気味な咆吼を上げた。
「……うるさいわねぇん。エクスプロージョン(物理パンチ)で黙らせるわよ?」
レンレンが拳を鳴らし、地響きを立てて一歩踏み出す。
それは、凄惨な殺戮と、甘いイチゴの香りが交差する、俺たちの冒険の始まりだった。




