第15話「人って一晩で変わるものなんだ」
「なあ、俺も冒険者になろうと思うんだ。皆、俺とパーティー組んでくれないか?」
俺は目の前の人外共に尋ねた。
「私も冒険者になるわ。パーティーももちろん。私とコーセーは一蓮托生だものね」
エマも一緒になってくれるみたいだ。良かった。
「私もいいわよん。コーセーきゅんといたら退屈しなそうだもの〜」
「お前たちと冒険。……それもまた運命かもな」
「皆で愛を探す冒険ね」
「「お姉様を貴様だけに任せられない」」
レンレン、クルス、マリン、キアラとノッテが答える。
「決まりだな」
ドラゴンのオネェ、余命1年のホムンクルス、人魚の逃亡犯、双子の精霊が憑依した猿、そして元神と転生者の蜂。
「パーティーを組んだからには隠し事はもうなしだ。俺はこの世界を俺の目で見て回りたい。冒険をしながら徳を積んで、あの日に帰っていつか両親に謝りたいんだ。それを手伝って欲しい。皆も何かあれば頼って欲しい」
「私は暇つぶしよん。退屈は敵だわぁん。私は私を貫くだけねぇん」
1万年以上の時を生きたレンレンが空を眺めながら言う。
「俺は、最後に生きた証が欲しい。それを探すのを手伝ってくれ。後1年だがな」
クルスが、鉄のような拳を胸に当てる。
「私は愛を探いるの。貴方を刺すか、誰かを刺すか……楽しみね」
マリンの瞳には相変わらず危うい光が宿っている。
「「私達はお姉様を支える」」
キアラとノッテが、エマの左右で胸を張る。
「俺たちは英雄ってがらじゃない。ただの『はみ出し者』だ。だが、そんな事は関係ない」
俺は焚き火の前に手を差し出した。
「このパーティにいる間は、お前たちの力を頼らせてくれ。俺の力も、好きに使え。文句はないな?」
次々と手が重なる。レンレンの熱を帯びた手。クルスの冷たく硬い手。マリンの透き通るような柔らかな手。キアラの光り輝く手。ノッテの漆黒の手。そして最後にエマが一番上に手を添えた。
「史上最悪にややこしいパーティの結成ね。せいぜい、私を頼ませてよ? コーセー」
「ああ、約束する」
焚き火の残火に照らされた7人の影が一つの巨大な影となって地面に伸びた。
まともな人間が一人もいない、世界で最も危険で最もデタラメなパーティが、この夜密かに結成された。
翌朝。広場には旅装を整えた俺たちが並んでいた。二日酔いで真っ青な顔のヤスオとユータが俺の前に立つ。
「ヤスオ。俺達も冒険者として旅に出ることにした」
俺の言葉に、ヤスオはやっぱりかと力強く俺の肩を叩いた。
「それがいい。お前みたいなヤバい奴を、こんな狭い所に閉じ込めておくのは世界の損失だ。たまには戻ってきて、また蜂蜜酒で乾杯しようぜ」
「ああ、約束だ。トールとマミもしっかりな」
「はい! 俺も、もっと強くなって、いつか皆さんに追いつきます!」
トールの真っ直ぐな瞳に、少しだけ胸が熱くなる。
皆と一通りの挨拶を終えて、俺たちは歩き出そうとした。
「待って! あーしを置いていくなんて、無いわ〜」
背負い袋をパンパンに膨らませたマミがトールの制止を振り切ってこっちにきた。
「マミ!? お前、何言ってるんだよ!」
「お兄ちゃんは黙ってて。あーし、皆と一緒に行くって決めたの」
マミは俺の前に立ち、腰に手を当てて仁王立ちした。
「あーし、ここにいても退屈なだけだし」
え、ついてくるの?
「コーセーっち、私を連れていかないと、蜂蜜酒の作り方、誰にも教えないんだからね! 」
「それは困るな」
俺はエマと顔を見合わせ、苦笑した。
「いいんじゃない? この子ポテンシャルすごいわよ」
エマの許可が出たなら受け入れるか。
「わかったよ、マミ。お前が俺たちの『胃袋』担当だ。ただし、俺たちの本当の姿を見ても泣くんじゃないぞ?」
「泣かないわよ! アーシ変わったの」
うん、キャラがいつの時代かのギャルになってる。人って一晩で変わるものなんだな。
「まあ、良いいか。じゃあ最初は俺とエマ、マミの冒険者登録からだな」
「私もギルドに戻りたいので、街までご一緒させて下さい、ヒック。登録も私がすれば、早いですし、ヴッ」
青い顔をした二日酔いのユータも一緒に行くことになった。
「よし、行こう!」
「ゔぅおゔぁゔぉえー」
置いてこうかなこいつ。
「ねえ、ちょっちいい? あーし、ずっと気になってたんだけど」
街へ向かう馬車の荷台。ガタゴトと揺れる振動の中で、昨日までの村娘からギャルへと劇的な転身を遂げたマミが、身を乗り出して口を開いた。その視線の先には、器用に前足(?)でダークフォンを操作する「さるゆき」がいる。
「なんでずっと、この猿がついてきてるわけ? しかも、その画面、さっきから流れてるの『空中散歩チャンネル』だよね? 登録者82人の超絶過疎アカの。……マジ謎なんだけど」
俺は苦笑いしながら、隣に座るエマと目配せをした。
「マミ、こいつはただの猿じゃない。……さるゆきの中に光と闇の大精霊が入っているんだ」
「キアラ、ノッテ。挨拶してあげて」
「「お姉様をよろしくね、マミ」」
さるゆきの体から、光と闇の精霊が顔をのぞかした。
普通なら腰を抜かす場面だが、マミは「精霊? うけるー! めっちゃ美人じゃん!」と、ダークフォンで二人の写真を連写し始めた。
「……驚かないのね、この子」
エマが呆れたように呟くと、他のメンバーもついでにと改めて自己紹介を始めた。
「私はレンレン。ドラゴンの魔法少女よん。物理なら任せてちょうだい」
「…俺はクルス。寿命まで残り290日を切った、主なきホムンクルスだ」
「私はマリン。故郷に指名手配された人魚よ。愛を探す旅をしているわ」
「へー! メンツ濃すぎて草はえるんですけど。ドラゴンに動く人形に人魚とか、あーしのパーティー、最高じゃん」
と、鼻歌交じりに受け流した。だが、マミの視線がふとクルスで止まった。
「でさ、クルスっち。あーしのスキル【錬金神の加護(癒しの料理)】なんだけど…クルスっち死なないかも?今、あーしスキル獲得クエスト発生しててー… 」
「そうか。その時は頼む。もう少し生きてみたくなった」
「わかんないけど、とりあえずやってみる価値はあるっしょ! あーしの料理食べれば、たいていのことは解決するし!」
そう言ってVサインを作るマミに俺は尋ねた。
「スキル獲得クエストはどんなのなんだ?」
「えっと。なんかよく分からなくてさー。錬金神に蜂蜜酒を捧げよだったかなあ?達成で錬金の極み?くれるってー、ガチ意味わかんなーい」
「…なあ、エマ分かるか?」
「多分、蜂蜜酒を飲みたいのね。その錬金神は。錬金神の像に蜂蜜酒を奉納すれば良いんじゃないかしら」
くっそ俗な神だった。でもマミが成長して、クルスが死なずにすむなら、まあいいか。
「……皆さん、少しよろしいでしょうか」
二日酔いで青白い顔をして震えていたユータが重々しく口を開いた。
「私の前でとんでもないカミングアウトをしないで欲しかった」
「でも〜ゆーたきゅん知ってたでしょ?エルダードワーフさん?」
レンレンの返しに一同の視線がユータに集まる。
「私のこともバレていましたか。ええ、皆さんのことは存じていましたよ。特に破壊の権化の異名を持つレンレンさん。あなたが私のギルドにいると知った時は本当に驚きでした」
「やめてよ〜その名前可愛くないから好きじゃないのよ」
「えー、ユータっちも凄いの? でもさ、ただのゲボ吐きおじさんだよね? ギャップ萌え狙い?」
「……ぐふっ。……否定はしません。今の私は、ただの酒に溺れた敗残兵です」
ユータはマミの容赦ない正論に胸を撃ち抜かれ、馬車の端で項垂れた。
やがて、平原の向こうに巨大な城壁が見えてきた。商業都市イーサ。この地域の物流の要であり、冒険者たちが集う大都市だ。
「やば谷園!!コーセーっち、エマたん! 人化が解けてるじゃん」
マミに指摘されエマと互いを見るとエマも俺も元の魔物の姿に戻っていた。
「このままじゃ、街に入れないわね。キアラ、ノッテ何とかならないかしら?」
「「お姉様、任せて!」」
そう言った2人が魔法を発動させるとエマは人化した時と同じ絶世の美女として偽装された。高位の魔法使いでも簡単には見破れないらしい。
「おお、二人とも流石だな。よし、俺も頼む」
「「貴様はお姉様のペット枠だ。従魔として街に入れ」」
「扱いひどくない!?」
2人にも、エマにも抗議したが、「諦めなさい」とあしらわれピンクの蜂の姿で街に入ることになった。
当然、門番が色めき立ったが冒険者ギルド支部長のユータが同行していたおかげで普通に街には入れた。
これからは人化する時は1日の制限時間を考慮しないとなと反省しながら俺達は冒険者ギルドに向かうのだった。




