第14話「隠す必要なんてなかったな」
「お前ら! 今日は最高の勝利だ。乾杯!!」
人化した俺が、乾杯の音頭を取ると、いくつもの木製ジョッキが激しくぶつかり合った。
「うおおおおお! 待ってましたぁぁぁ! この匂い、この輝き! 蜂蜜酒解禁だぁぁぁ!!」
ヤスオが獣のような咆哮を上げ、琥珀色の液体を喉に流し込む。
それにしても何で俺とエマが人化したことに誰も疑問を持たないんだ?というか興味がない感じがする。うーんもっと騒がれると思ったんだけどなあ。
「興味がないわけじゃ無いわよ。ヤスオとユータが色々と疑問を持たないように根回ししていただけよ」
エマが答えてくれた。え?この世界じゃ心読めないんじゃないの?あっ、顔に出てた?
それから宴は一気に加熱した。下戸のユータが飲まされて裸踊りをはじめ、負けじとヤスオも脱ぎだして、それを止める弟子のトール。助けた人達も領主と領兵も皆でキャンプファイヤーを囲んで騒ぎ、笑い声が夜空に吸い込まれていった。
深夜。狂乱の宴が嘘のように、広場は静まり返っていた。周囲には蜂蜜酒の甘い香りと、泥酔して使い物にならなくなったヤスオやユータたちのいびきが重なり合っている。
俺は、一人火の粉を見つめていた。その隣に、音もなくエマが腰を下ろす。
「……人化したら、あなた髪の毛ピンクなのね、似合ってるわよ」
「エマも、さらに美人になった」
よし、惚れたな、これは。俺は鈍感系主人公じゃない。ここから俺たちのムフフな異世界生活が始まるんだ。
「コーセー。一人で盛り上がっているとこ悪いんだけど、あなた念話しながら妄想してるわよ?鈍感じゃなくて勘違い系主人公ね?」
冷めた目でエマが俺を見ている。
「……遠くに逃げたい。」
「あら、二人きりで愛の逃避行の相談かしら? ウフッ、情熱的ねぇ」
俺のつぶやきに反応して、暗闇から現れたのはレンレンだった。
「起きてたのか、レンレン」
「私たちに何か用事かしら?初代国王様?それともニコタール様のほうが良いかしら?」
エマの誰何にレンレンの動きが止まった。
彼女――いや、15763歳のエンシェントドラゴンは、髭を撫でるような仕草をしながらニヤリと笑みを浮かべた。
「参ったわねぇ、お嬢さん。やっぱりバレてたのねぇん。それとも 私の『空中散歩チャンネル』の視聴者かしらん?」
「登録者82人のチャンネルなんて見ないわよ」
レンレンが姿を現したのを合図に、他の三人も次々と影から踏み出してきた。
「俺のことも、バレてるか?」
巨大な体を揺らして現れたのはクルスだ。
「クルス。お前の寿命……あと1年だったな」
俺の言葉に、クルスは重々しく頷いた。
「そうだ。俺を作っマスターはもういない。だからどうする事も出来ない。生命活動が停止するまで残り295日だ。」
「あら、あなた死期が近いのね。貴方と結婚して未亡人になるのもありかしら?」
マリンが、舌舐めずりをしクルスを見る。その瞳には、メンヘラ特有の病んだ光を宿して。
「マリン、一時的にとはいえパーティーを組んだ仲間のことをからかうな。海底国家に引き渡すぞ?」
「私はエルフよ?ってやっぱり、ばれてるわよね」
俺がマリンを嗜めていると、ドサリと急にさるゆきが倒れた。
「「じゃあ私たちのこともバレているのね英雄さん?」」
さるゆきの身体から出てきた2人が俺に問いかけてくる。
「ああ、知ってるよ。光と闇の大精霊のお二人さん?なんてお呼びすれば?」
俺も問いかけると、2人は困った顔をして答える。
「「私たち精霊に名前の概念はない。好きに呼んで」」
エマが少し考えるよな素振りをみせてから2人に向き合った。
「じゃあ、光の精霊さんはキアラ、闇の精霊さんはノッテね」
「「え?……」」
エマが2人に名前をつけると、2人の精霊、キアラとノッテの身体が一瞬眩く光り、2人は驚いた顔をしながら口を揃えてエマに尋ねた。
「「エマ…様は神なのですか?」」
「エヘ、バレちゃった。元よ。今は地獄のクイーンビーね」
「エマ。何が起きたんだ?」
「名前を持たない精霊に、神族が名前をつけるとね、眷属になっちゃうの。元神族の私でも同じみたいね」
「「エマ様、いえお姉様とお呼びしても?」」
「ええ、良いわよ」
やったーとはしゃぐキアラとノッテを他所に俺たちの反応はそれぞれだ。
「やっぱりねぇん。あの方にそっくりだもの」
「神だったのか」
「恋愛の神様かしら?」
レンレン以外は気付いていなかったみたいだ。俺のことも気付いて無いかも知れない。
「なあ、皆実は俺も……」
俺も意を決して告白しようとする。自分だけ秘密があるのは、共闘した仲間に失礼だと思ったからだ。
「転生者よねぇん」
「マスターと同じニホンからだな」
「バレバレよ?」
「「お姉様の眷属は私たちだけで良い」」
うん。バレてた。何で?
「何で分かるんだよー!?ってキアラとノッテは殺気を、向けてくるなー」
思わず大声で叫んだせいで夜空に俺の叫びが木霊した。
「うるせー」
イビキをかきながらヤスオに酒瓶を投げられた。
それにしても、みんな気づかないふりをしていただけとはね。隠す必要なんてなかったな。




