第13話「責任転嫁は良くありません」
「これで、全員終わりだ」
カチリと乾いた金属音と共に最後の一人の首輪が地面に落ちた。
俺の手から放たれた温かな光、スキル魂の浄化が、理不尽な拘束具に刻まれた漆黒の呪印を白く塗り潰し霧散させていく。
広場に集まった人々が、信じられないといった様子で自分の首筋に触れている。
そして、鉄の冷たさが消えたことを確信すると、一人、また一人と、自由を噛み締めるようにその場に泣き崩れていった。
「お疲れ様、コーセー」
隣でエマが、慈愛に満ちそれでいてどこか誇らしげな表情で俺を労ってくれる。だが、俺はまだ少し、頬を引きつらせていた。
それはこの解放作業の疲れのせいじゃない。数時間前、あの奴隷商会元締めの屋敷に突入しようとした瞬間に起きた予想外すぎる結末のせいだ。
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【数時間前・元締め邸前】
さあ、やりますか。
俺は、ダークフォン越しにバケモノ軍団の戦果を見届けた後、最後はリーダーらしく、俺自身の手で元締めを捕らえはずだった。
《ピコン! クエスト:『闇の鎖を断つ者』の達成を確認しました。報酬を配布します》
脳内に突然響いた無機質なアナンスに、俺は思わず一歩踏み出した体勢のまま固まった。
「……は?」
達成? まだ一歩も踏み込んでない。門のノブにすら触れていない。
俺はあまりのことにキョドりながら、不審者のようにキョロキョロと周囲を見渡しているた。
すると重厚な屋敷の玄関の扉がギィーと音を立て開いた。
そして、そこからゆったりと歩いて出てきたのは、拠点に待機しているはずのエマとマミだった。
「あ、コーセー。ちょうどいいところに来たわね。終わったわよ〜」
「……」
エマの頬には返り血が一滴だけ付いており、それを白い手の甲で拭いながらペロリと舌を出した。
「殺っちゃった」
「えっ?えっ?え〜?お前ら、なんでここに!? 拠点に待機してたはずじゃ!?」
背後ではマミが、困ったような、でもどこかスッキリしたような顔で苦笑いしながら無言でペコリと頭を下げる。
「ごめんね、コーセー。でも、ダークフォンでみんなの活躍を見ていたら、どうしても我慢できなくなっちゃって…」
エマの瞳に、一瞬だけ閻魔だった時の冷徹で圧倒的な暴力の光が宿る。
「あの元締めをスズメ蜂部隊で監視していたの。そしたら隠し部屋で書類をニヤニヤしながら眺めて、新しい首輪の注文書を書いていたんですもの。……マミを抱えてここまで飛んできて、スズメ蜂部隊と一緒に部屋を魔法でハチの巣にしてやったわ」
蜂だけにハチの巣にしたと……今これ笑う所か?
奴隷商の使っていた首輪は、協力な呪いを付けるために閻魔の領分である死者の魂を捕らえ作られたものだ。そりゃキレるよなあ。
ピコン!
エマの発言に困惑しているとダークフォンにメッセージが入った。
『コーセーっち、メンゴメンゴ。あーしもエマたん止めようと思ったんだけど〜何かノリでやっちゃったwww』
目の前のマミからのメッセージだった。そう、ダークフォンを手に入れてから俺たちはメッーセージのやり取りで意思疎通が出来るようになった。
本来なら俺がメッーセジを送ってエマは普通に喋れば良いんだが、俺に面と向かって話すのはまだ怖いらしくメッセージで伝えてくる。
今さらだがヤスオが早くダークフォンを買って来てくれてたらとちょっとだけ思ってしまった。
ピコン!
日本の現代っ子並みの速さで目の前のマミはメッセージを打っている。
『コーセーっち、既読スルーはヒドいよ〜』
ちなみに、メッセージでのマミのキャラは普段の内気な雰囲気は身を潜め、いつの時代のギャルだよ!とツッコミたくなるほどキャラが崩壊している。多分こっちが本来の姿なんだろ。
俺は前足を使い返信する。ニッコリマークのスタンプを。
「はぁ」
マミがため息をつきながら、またメッセージを打っている。ピコンと次はエマのダークフォンが鳴った。エマはメッセージを確認し、俺の方を向いた。
「コーセー、貴方もう少し女心を勉強しなさい。まあ、今は先に勝ち鬨をあげるべきね」
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「……まあ、結果オーライ、なんだろうけどさ」
俺は地面に山積みになった大量の首輪を見つめながら呟いた。
その瞬間、再び視界の端で光が溢れ、判定さんがこれまでにない音量で鳴り響く。
《不当に拘束されていた魂(9,257名)の解放を確認しました》
《徳ポイント獲得:1,388,550pt》
《累計解放者数が10,000名を突破しました。隠し称号:【万の魂を救いし救世主】を授与します》
《【万の魂を救いし救世主】による恩恵を選んで下さい》
俺はエマとステータスを確認した。徳ポイントのマイナスが減ったのを眺めながら話す。
「……救世主、ね」
「ああ、徳ポイントのマイナスも消えたなな」
「そうね。60万ポイントくらいプラスになったんじゃないかしら。それよりもどれにするの?」
エマが訪ねてくる。恩恵の報酬のことだろう。なんで選択式なんだよ。全部くれよ!悪態をつきながらまたステータスに目をむける。
《【万の魂を救いし救世主】による恩恵を選んで下さい》
《人化(1日5時間限定)》
《瞬間移動(1日5回限定)》
《蘇生魔法(1回限定)》
《転生(またやり直しますか?)》
《シークレット(あなたの運次第)》
詳細は見なくても分かるが、最後の選択肢は何だよ。でもなあ。ガチャりたい気もするしなぁ。だが【人化】も捨てがたい。
クエスト:『闇の鎖を断つ者』の達成報酬で【念話・完全版】が解放されたから、これからは皆と普通に会話はできる。
しかし、この見た目では街に行って冒険者になったり屋台の買食いだったり異世界っぽい事が出来ない。
【瞬間移動】は、まあ飛べるからいらん。【転生】は俺にまた死ねと?俺は意外とエマとのここの生活を気にいっているから無いな。う〜ん。実質2択か。いや1択か。
「決めた【人化】にするよ!」
「何で【人化】なの?」
「こそこそせずにエマとこの世界を見て回りたいからな。【一蓮托生】のスキルでエマも人化出来るだろ?」
ふっ、決まった。エマはこれで俺にベタ惚れだろ。俺はエマを見る。
「ふーん。じゃあ【人化】をポチッとな。」
エマは淡々と【人化】を選択した。いやお前どこのぼや◯◯ーだよ!どっちかというと、◯◯ンじょ様だろ!てか顔を赤らめるとかしろよー!?
そしていつもの様に連続でピコーン!ピコーン!と通知が鳴り響いた。
《スキル【人化(1日5時間限定)】の解放に特ポイント600,000ポイントが必要です》
《警告:徳ポイントが不足しています。不足分『マイナス12,276ポイント』加算されます。返済期限にご注意下さい》
《スキル【人化(1日5時間限定)】を解放しました》
「え?どういうこと?」
「……コーセー。ステータスのスキル獲得画面に、小さく注意書きが書いてあったわ」
「何が書いてあったんだ?」
「えっーとね、『この恩恵は、スキルを獲得する権利を解放するものです。スキルを獲得するには別途、徳ポイントが必要です。ご理解頂いたうえでご利用下さい』だって。」
「詐欺じゃねーか。判定さんやりやがったな!」
《ピコーン!注意書きにしっかりと明記しておりました。あなたの確認不足です。システムを貶め、責任転嫁は良くありませんね。 △5,600ポイント》
「……ぐぎぐぐ」
「コーセー、人化は使えるんだし良いじゃない。それにもし蘇生魔法選んでいたら500万ポイントの支払いだったわよ。人化で良かったと思うべきね」
何かすっきりしないけど、エマの言う通り良かったと思うべきなんだろう。うん、そう思えば人化ゲット出来てラッキーくらいに考えるか。
そんなことを考えていると、ヤスオに呼ばれた。辺りを見回すと祝勝会の準備が出来たらしく皆、盃を手にしている。
「今日は俺の奢りだー!(領主の金だけどな!)コーセーもこっち来い!」
「コーセー! 領主が用意してくれた祝勝会が始まるわよ。徳ポイントなんて今は忘れて私たちも行きましょう」
エマが俺の手を引き、弾んだ声で笑う。広場では、ヤスオが暴れ、またしても酒を飲まされた燕尾服姿のユータが「うえええん! 紅茶が苦いよぉおぉ!」とシルクハットを投げ捨てて泣き始め、さるゆきがそれをニヤニヤしながら全世界にライブ配信している。
自由になった人々が、俺達を「救世主」と呼び、涙を流して拝んでいる。
まあ、たまにはこういうのも悪くないか。俺は苦笑いしながら、騒がしい仲間の輪へエマと2人で、どうせならと人化してから足を進めた。
徳ポイント:△17,876ポイント




