第12話「前世よりハイテク」
「よし、全員繋がったな。状況を報告しろ」
ヤスオの声が、夜の静寂を切り裂くように響いた。俺の手元には手のひらサイズの薄型魔導端末『ダークフォン』がある。
ダークフォン商会が開発した、ホログラム映像が空中に浮かび上がる次世代の通信機器だ。うん、前世よりハイテクじゃねーか。
「お前ら、こんな便利なもん持ってねーのかよ。遅れてんなぁ」
と、ドヤ顔で俺、エマ、トール、マミの4人に買ってきてくれた代物である。
『あーざーす(俺はこれ作ったの、さるゆきって知ってるけどな)』
と、ドヤ顔でお礼を言い返してやった。
そんなダークフォンから映し出されるホログラムは、各地で同時多発的に発生している「奴隷商組織壊滅作戦」のリアルタイム映像を映し出した。
■酒場地下・違法賭縛場制圧チーム:ヤスオ
画面のメインに大きく表示されたのは、ヤスオのドアップだ。
「ワハハハ!見たかコイツら、俺が剣を抜くまでもねえ!」
背景には、豪華な装飾が施された賭博場が映っているが、その惨状は目を覆いたくなるものだった。
数十人の屈強な用心棒たちが、まるで巨大なプレス機にかけられたかのように床に埋まっていた。
ヤスオは剣聖のくせに、一太刀も剣を抜いていない。ただの拳と蹴り、それだけで、領兵(ユータが領主と交渉して兵を出させた)が到着する前に拠点を完全制圧してしまったのだ。
「ヤスオ様。どうか、どうかそれ以上はおやめ下さい。我々が捕縛して裁判にかける相手がいなくなります」
画面の端では、領兵の隊長が半泣きで叫んでいるが、ヤスオはどこ吹く風だ。
「うるせえ!こいつら、俺が来た時にカモがきたってツラしてニヤニヤしながら俺の金をだまし取ったんだ。情状酌量の余地なしだ」
ヤスオは不敵に笑い、倒れた男の頭を踏みながらドヤ顔を見せた。私怨が酷すぎて見てられない。
「俺の方は見ての通り、奴隷商の下部組織だった賭博場は制圧完了だ」
■貴族邸・暗殺&救出チーム:マリン、トール
次の画面では、深い霧に包まれたホワイトハウスみたいな貴族の邸宅が映し出されてた。
「……ミッション完了よ。1匹の不潔な豚が階段から落ちて、首の骨を折ったわ。不慮の事故だわ。うふふ」
冷徹な声の主はマリン。彼女の真っ黒なドレスには、返り血一つ付いていない。
背景の窓からは、屋敷の主である貴族(奴隷商のスポンサー)が、不慮の事故を装って絶命している様子が見て取れた。
領主から捕らえて裁判をしても、敵対派閥の邪魔が入り裁けない可能性があるからと暗殺を依頼されていたのだ。
その横で、かつての奴隷としての殻を破ったトールが呆れたように、しかし誇らしげに胸を張る。
「マリンさん、手際が良すぎて怖いです……。師匠、俺の方は地下牢の隠し通路をすべて破壊して入り込みました。俺の両親を含む12名の違法奴隷を全員救出しました」
トールの背後には、ボロボロの衣服を纏いながらも、希望に満ちた瞳でトールの背中を見つめる人々がいた。トールは自らの力で人を救えた達成感に震えていた。
『トール、よくやった。しっかり拠点まで送り届けるんだぞ』
ヤスオの言葉に、トールはビシッと敬礼をしてみせた。
■違法奴隷調達実行犯襲撃チーム:レンレン、クルス
続いて表示されたのは、通信がノイズで乱れるほどの爆発音と土煙だ。
「やっほー!コーセーきゅん、見てるー!?アタシの晴れ舞台!」
魔法少女のようなピンクのフリフリ衣装を纏った筋肉質で髭面のレンレンが、カメラに向かってウインクを飛ばす。
彼女(?)の背後では、山の中にあったはずの巨大な盗賊のアジトが、跡形もなく消え去り、巨大なクレーターに変わっていた。
『レンレン……何をした?』
ヤスオが目を見開いて質問する。
「ただの愛よん?エクスプロージョン(物理パンチ)って言う魔法を使ったのよん。うふん」
一方、別の分割画面では、クルスが巨大な盾を構えて仁王立ちしていた。
「……こちらの洞窟も、処理を終えた」
クルスが短く告げると、滝の裏側にあったはずの洞窟が重力魔法によって完全に崩落している。
「中にいた者の生命活動の停止を確認。すべて土の栄養となった」
『……お前ら、加減ってものを知らねーのか』
ヤスオのツッコミは、無慈悲な結果の前では虚しく響くだけだった。
■廃村・救出&制圧チーム:ユータ、さるゆき
また別の画面から聞こえてきたのは「うええええん!」という野太い号泣だ。
「ひっく……何で……何で紅茶に、ひっく…お酒が入って……ひっく……!るんだよぉおぉ!」
画面の中では、ギルド支部長のユータが、地面に座り込んで幼児のように泣き喚いていた。
一見、戦闘不能に見えたが、その手にある聖剣は本人の意志とは無関係に神速の自動防御を行っている。
襲い掛かる盗賊たちは、ユータに触れることすらできず、次々とスプラッタにされていった。
「ユータっち、それオイラの獲物。泣きながら殺らないでおくれよ」
猿が…さるゆきがスマホを操作しながら突っ込んでいる。
そんな、さるゆきは弓を一切構えていない。豪華な装飾が施された「光と闇の聖弓」は彼の背後に神々しく浮遊している。
そこから放たれたスマホ制御の特殊矢が、さるゆきの指先一つで空中を自由に旋回、敵の急所を正確に射抜いていく。
「自動追尾、ヘッドショット、完了。……あ、今の動画、マナネットにアップしとこ。」
『お前、戦いながら動画投稿してんじゃねえよ!』
ヤスオがツッコミを入れるカオスな状況の中、領兵の隊長が報告してきた。
「……こちら奴隷救出チーム。162名の違法奴隷を全員保護しました」
■奴隷商会元締め邸・強襲チーム:コーセー
『コーセー、こっちは終わったぜ?後は元締めだけだ』
ヤスオがダークフォン越しに俺に「ビシッと決めろよ」と伝えてきた。
俺は前足で顔を叩き気合を入れ元締めの屋敷に歩き出した。




