役員面接
第9話「新卒20年目の新人社員」
「それでは、ご紹介します!」
司会者の声とともに、一人の男性が壇上へと上がった。
割れんばかりの拍手。
パチパチパチパチ!
「この方は、弊社の期待の新人社員!」
二十代後半くらいに見える爽やかな男性が、深々と頭を下げる。
「初めまして。新人社員の山田です!」
「よろしくお願いします!」
会場からも拍手が起こる。
諏訪は隣の社長に小声で尋ねた。
「何年目なんですか?」
「二十年目です。」
「新人じゃない!」
「弊社では、初心を忘れなければ新人です。」
「その定義なら社長も新人ですよ!」
「もちろん私も新人です。」
「社長もか!」
さらに壇上には、七十五歳の男性が現れた。
「新人社員の佐藤です!」
「もう何でもありだな!」
「勤続五十年になります!」
「ベテランの権化じゃないですか!」
司会者が説明する。
「弊社では、毎朝、新人宣言を行います。」
「新人宣言?」
社員たちが一斉に立ち上がった。
「本日も、新人として学びます!」
「宗教みたいに言うな!」
「本日も、新人として失敗します!」
「前向きだな!」
「本日も、新人として昼寝します!」
「最後だけ違う人がいる!」
会場は笑いに包まれた。
説明会の後、諏訪は社内を案内されることになった。
「こちらが営業部です。」
ドアを開ける。
そこには、社員たちが楽しそうに話し合っていた。
「何をされているんですか?」
「新しい失敗の共有会です。」
「成功じゃなくて!?」
ホワイトボードには大きく書かれている。
『本日の失敗ランキング』
第1位 会議を開いたことを忘れて帰宅
第2位 社長を三人採用してしまった
第3位 観葉植物に相談していたら一時間経過
「二位と三位が気になる!」
「弊社では失敗を笑い合う文化があります。」
「怒らないんですか?」
営業部長は少しだけ真面目な顔になった。
「怒ることもあります。」
「やっぱり。」
「ただ、人は失敗するものです。」
「……。」
「だから、失敗した人を責めるより、次に笑って話せるようにするんです。」
諏訪は少しだけ黙り込んだ。
今まで、この会社はただ変なだけだと思っていた。
だけど違った。
変なことの中に、ちゃんと理由があったのだ。
その時だった。
社内放送が流れる。
「緊急連絡!緊急連絡!」
社員たちがざわめく。
「どうしたんですか?」
「まずいですね。」
「何かあったんですか!?」
「新卒三十五年目の新人社員が、ついに自分をベテランだと思い始めました!」
「一大事みたいに言うな!」
「現在、本人は『私なんてまだまだです』と言いながらも、後輩を二百名育成しております!」
「もう完全にベテランだよ!」
社員たちは慌てて会議室へ向かっていく。
「急いでください!」
「何をするんですか?」
「初心を取り戻していただきます!」
「どうやって!?」
「みんなで褒めます!」
「優しいな!」
諏訪は思わず吹き出してしまった。
この会社は変だ。
きっと世界で一番変な会社だろう。
だけど、失敗しても笑ってくれる。
何歳になっても新人でいられる。
そして、人を肩書きではなく、その人自身として見てくれる。
諏訪は少しだけ思った。
「もし働くなら、こういう会社も悪くないのかもしれない。」
すると背後から、社長が小さくつぶやいた。
「諏訪くん。」
「はい?」
「実は、君にお願いがあります。」
「何でしょう?」
「君、そろそろ入社しない?」
「まだ不採用ですよね!?」
「特別採用です。」
「そんな制度あったんですか!?」
社長はニヤリと笑う。
「もちろんあります。」
「ない制度を作らないでください!」
その時、人事部長が静かに一枚の書類を差し出した。
そこには大きくこう書かれていた。
『株式会社アルティメット人事部 新人社員(永年)採用通知書』
諏訪は頭を抱えた。
「永年って何だよ!」
どうやら、諏訪の地上最強の就職活動は、まだまだ終わりそうになかった。
そして、物語は少しずつ、新しい章へと向かい始めていた。




