社長面接
第10話「観葉植物、ついに部長になる」
ある月曜日の朝。
諏訪が出社すると、社内が妙に騒がしかった。
「おはようございます!」
「おめでとうございます!」
「ついにこの日が!」
クラッカーが鳴り響く。
パン! パン! パン!
「今日は何の日なんですか?」
諏訪が尋ねると、人事部長が静かに答えた。
「昇進の日です。」
「誰か部長になるんですか?」
「はい。」
「山田さんですか?」
「違います。」
「新卒五十年目の佐藤さん?」
「違います。」
「まさか社長!?」
「違います。」
人事部長はゆっくりと壇上を指差した。
そこには、一鉢の観葉植物が置かれていた。
「まさか……。」
「観葉植物さんです。」
「やっぱりお前か!」
社員総立ちの拍手が起こる。
「おめでとうございます!」
「部長就任、おめでとうございます!」
「これからもご指導よろしくお願いします!」
「誰も違和感を持ってない!」
諏訪は思わず評価資料を覗き込んだ。
昇進理由
五年間、一度も遅刻なし
一度も欠勤なし
文句を言わない
常に職場を癒している
空気が読める
酸素の供給に貢献
「最後、人類全体に貢献してる!」
さらに続きがあった。
欠点
会議に参加できない
返事をしない
たまに葉っぱが落ちる
「人間でもありそうな欠点だな!」
社長がマイクを握る。
「それでは、観葉植物部長から一言いただきます!」
会場が静まり返る。
シーン……。
「…………。」
「何か言って!」
「素晴らしいスピーチです!」
「どこが!?」
社員たちは感動して涙を流していた。
「深い!」
「言葉にしないからこそ伝わるものがある!」
「みんな疲れてるの!?」
人事部長は静かにメモを取っていた。
『本日の観葉植物部長のお言葉』
『…………。』
「議事録どうなってるんですか!」
その日の午後。
諏訪は社長室に呼び出された。
「失礼します。」
部屋に入ると、社長と観葉植物部長が向かい合って座っていた。
「実は相談があります。」
「はい。」
「観葉植物部長の部下になってくれませんか?」
「嫌な予感しかしない!」
「君には適性があります。」
「何のですか?」
「ツッコミです。」
「役職じゃない!」
社長は真面目な顔になる。
「諏訪くん。」
「はい。」
「君は知っているかい?」
「何をですか?」
「弊社で一番偉いのは、社長ではない。」
「え?」
「部長でもない。」
「まさか……。」
「新人社員だ。」
「新人!?」
「何年働いても、新人の気持ちを忘れない人が、一番偉い。」
諏訪は少しだけ驚いた。
「失敗してもいい。」
「迷ってもいい。」
「笑われてもいい。」
「ただ、人に優しくあることだけは忘れない。」
「……。」
「それが、弊社の理念です。」
いつものように変な話だと思った。
でも、不思議と嫌な気持ちはしない。
社長は笑って続けた。
「ちなみに、観葉植物部長は今年で六年目の新人です。」
「やっぱりそこは新人なんですね。」
「もちろんです。」
「葉っぱも新人です。」
「葉っぱにまで新人制度が!」
諏訪は思わず笑ってしまった。
この会社は、やっぱりおかしい。
でも、この会社のおかしさは、誰かを笑いものにするためのものじゃない。
誰かが失敗しても、笑って前を向けるためのおかしさなのだ。
その時だった。
社内放送が流れる。
「緊急連絡!緊急連絡!」
「またですか!?」
「観葉植物部長が、社長室の日当たりの良い場所へ自主的に移動しました!」
「自主的じゃないだろ!」
「高い主体性が評価され、本日付で執行役員への昇進が決定しました!」
「昇進が早すぎる!」
諏訪は、もうツッコむことすら少し楽しくなっていた。
そして、彼はまだ知らない。
この会社には、誰も会ったことのない伝説の社員――。
『創業以来、一度も姿を見せたことのない会長』
が存在することを。
その正体が、人間なのかどうかすら、誰も知らないのであった。




