会長面接
第11話「伝説の会長は、いったい誰だ?」
「創業以来、一度も姿を見せたことのない会長……?」
諏訪は思わず聞き返した。
「はい。」
社長は真剣な表情でうなずく。
「弊社最大の謎です。」
「社長も知らないんですか?」
「知りません。」
「社長なのに!?」
「就任初日に『会長には気をつけてください』と言われました。」
「何を気をつければいいんですか!」
「それは誰も知りません。」
「ふわっとしすぎだろ!」
人事部長が一冊の分厚いファイルを机の上に置いた。
表紙には大きくこう書かれている。
『会長に関する資料(全3ページ)』
「薄っ!」
「残りの997ページは白紙です。」
「何のための千ページだ!」
恐る恐る一ページ目を開く。
・創業者である。
・性別不明。
・年齢不明。
・人間かどうか不明。
・たまに社員食堂のプリンが一つ減っている。
「最後だけ急に生々しい!」
二ページ目。
・社内の観葉植物が増えると業績が上がる。
「会長の能力なの!?」
三ページ目。
・たぶん優しい。
「情報源どこだよ!」
翌日。
社内放送が流れた。
「緊急連絡!緊急連絡!」
「またですか!」
「本日、創業記念日のため、会長からメッセージが届いております。」
社員たちがざわめく。
「会長から!?」
社長は涙を浮かべていた。
「十年ぶりです!」
「そんなレアキャラだったの!?」
会議室のスクリーンに一通のメールが映し出される。
『皆さん、お疲れさまです。』
『毎日楽しそうで何よりです。』
『お昼ご飯はちゃんと食べてください。』
『あと、観葉植物さんをよろしくお願いします。』
『追伸 プリンを食べたのは私です。』
「お前だったのか!」
社員たちは大号泣していた。
「会長ぉぉぉ!」
「プリンのことまで話してくださった!」
「そこ感動するとこ!?」
さらにメールは続いていた。
『最後に一つだけ。』
『皆さんは、なぜ働きますか?』
会議室が静まり返る。
『お金のためでもいい。』
『夢のためでもいい。』
『誰かのためでもいい。』
『理由なんて、人それぞれです。』
諏訪は黙って画面を見つめていた。
『ただ一つだけ忘れないでください。』
『仕事は人生ではありません。』
『人生の中に、仕事があるだけです。』
『だから、笑ってください。』
『失敗しても、迷っても、少しくらい遠回りしても大丈夫。』
『皆さんが、明日も会社に来たくなるような会社を作ってください。』
『それが、私の最後のお願いです。』
メールはそこで終わっていた。
いつものように意味の分からない話が始まると思っていた。
だけど、その日は違った。
誰も何も言わなかった。
社長は小さくつぶやく。
「これが、弊社の始まりなんです。」
「……。」
「採用するために会社を作ったんじゃありません。」
「え?」
「誰かの居場所を作るために、この会社は生まれたんです。」
諏訪は初めて知った。
この会社が、どうしてこんなにも変なのかを。
学歴も。
肩書きも。
年齢も。
失敗も。
何一つ否定しない。
それは、最初からそういう会社だったのだ。
その時、社内放送が再び流れた。
「緊急連絡!」
「いい話の後にやめて!」
「会長より追加のメールです!」
スクリーンに文字が映し出される。
『すみません。』
『先ほどのメールですが、一番大切なことを書き忘れました。』
『プリンは二つ食べました。』
「増えてる!」
『冷蔵庫に名前を書いていなかったので、共有財産だと思いました。』
「会長ぉぉぉ!」
「なお、人事部長のプリンだったことが判明したため、会長は三日間の反省文となります。」
「会長も怒られるんだ!」
社長は苦笑いを浮かべた。
「ちなみに、弊社で一番偉いのは会長ではありません。」
「え?」
「人事部長です。」
「やっぱりか!」
諏訪は大笑いした。
この会社は、やっぱり変だ。
でも、この会社には確かに、人を笑顔にする何かがある。
そして諏訪は、まだ知らない。
会長が一度だけ採用したという、伝説の社員――。
『地上最強の就活生』
の存在を。
その人物こそが、この物語のすべての始まりだったのである。




