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就活するは我にあり  作者: 諏訪貴信


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グループ面接

第6話「人事部、人事じゃなかった」


諏訪はもう驚かない。


……いや、驚く元気がなかった。


「失礼します。」


会議室のドアを開ける。


そこには十人の面接官が座っていた。


全員、名札を付けている。


人事部長

人事課長

人事主任

人事係長

人事見習い

人事補佐

人事サポート

人事アシスタント

人事インターン

人事の友達


「最後の人、何?」


一番端の青年が立ち上がる。


「友達です。」


「採用されてないじゃん!」


青年は笑顔で答えた。


「毎日遊びに来ています。」


「自由すぎるだろ!」


人事部長が咳払いをした。


「では、面接を始めます。」


「お願いします。」


「まず質問です。」


「やっと普通の面接だ……。」


「あなたは人事部だと思いますか?」


「……え?」


「私たちを見て、人事部だと思いますか?」


諏訪は部屋を見回した。


「えっと……人事部ですよね?」


十人が一斉に首を横に振る。


「違います。」


「違うの!?」


人事部長は静かに名札を外した。


その下から新しい名札が現れる。


営業部長。


隣の課長も名札を外す。


経理部。


主任。


開発部。


係長。


清掃担当。


友達。


本当に友達。


「そこだけ本当なんだ!」


人事部長──いや、営業部長が言った。


「弊社には人事部がありません。」


「じゃあ今まで誰だったんですか!」


「みんなで交代していました。」


「文化祭の受付じゃないんだから!」


その時、部屋の隅から一人の女性が現れた。


黒いスーツ。


眼鏡。


無表情。


「失礼します。」


営業部長が姿勢を正す。


「来た……。」


社員全員が緊張し始める。


諏訪もつられて背筋を伸ばした。


「この人は?」


営業部長が小声で答える。


「本物です。」


「何が?」


「人事です。」


部屋の空気が凍る。


女性は静かに名刺を差し出した。


人事部 部長


諏訪は目を丸くした。


「人事部、あるじゃないですか!」


女性は淡々と言う。


「あります。」


「じゃあ何で今まで出てこなかったんですか?」


「人を見るのが仕事なので。」


「いや、人事だからそうなんだけど!」


女性は資料を一枚取り出した。


そこには諏訪の評価がびっしり書かれていた。


「ツッコミの精度。」


「リアクション速度。」


「困惑時の表情。」


「ため息の長さ。」


「笑い声の音量。」


「全部見られてた!」


女性は初めて少しだけ笑った。


「面接とは、質問をすることではありません。」


「……。」


「その人が、質問されていない時間に何をするかを見ることです。」


諏訪は思わず黙った。


これまでの意味不明な試験。


受付。


説明会。


社長とのやり取り。


全部、試験だったのかもしれない。


女性は静かにファイルを閉じる。


「諏訪さん。」


「はい。」


「あなたは、今のところ非常に優秀です。」


「本当ですか?」


「ええ。」


諏訪は少し照れくさそうに笑った。


「ありがとうございます。」


女性は続けた。


「ただし、一つだけ問題があります。」


「何でしょう?」


女性は真顔で言った。


「あなた、そろそろこの会社に慣れてきていますね。」


諏訪はハッとした。


「……確かに。」


「それは弊社では危険です。」


「危険なんですか!?」


「慣れた瞬間、次の試験に進みます。」


「嫌なRPGみたいなシステム!」


女性は静かに立ち上がった。


「では、最終試験のご案内です。」


諏訪は息をのむ。


「ついに最終……!」


「はい。」


女性は封筒を差し出した。


諏訪は震える手で開封する。


中には紙が一枚。


大きく書かれていた。


『株式会社アルティメット人事部 入社後採用試験のお知らせ』


諏訪は三秒ほど固まった。


「……え?」


女性はうなずく。


「弊社では、入社してからが本当の就職活動です。」


諏訪は静かに天井を見上げた。


「……今までのは前座だったのか。」

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