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壬生狼チャンバラ  作者: 燎 空綺羅
序章 第二話 夢を唄う鳥
8/47

2-3

「三樹三郎殿」

 三樹三郎は我に返った。

 鈴木三樹三郎と藤堂平助は、ついに作戦を遂行すべく、雪道を新撰組のオテルまで歩いていた。

「失礼致した。いざ仇討ちに来てみて、心の中では兄が俺を批判致す故。知っての通り、兄はああいうお方。復讐より実りある行為をせよと、口酸っぱく言うて来ましたから。」

 藤堂平助は、また迷いに気が滅入る。

「俺たちは……伊東先生の意思を無視して、仇を打とうとしている。だが、他に何が出来よう。伊東先生のように大きな志し無くして、俺たちには何も。」

「!静かに」

 見張り役を潜り抜け、三樹三郎は藤堂を連れてフランス式オテルに近づいた。

「このオテルは、現在の新撰組屯所です。内部に入ったら、俺は二階、藤堂殿は一階から。狙いは土方歳三、ただ一人です。」

 ランタンの灯りが二人を照らした。

「おい!ここで何をしている!?」

 三樹三郎と藤堂平助は、オテルに入り込む前に、パトロール中の相馬主計に鉢合わせた。

 相馬と藤堂は、かつての親友同士である。

 思わず相馬は気を抜いてしまった。

「藤堂……藤堂なのか!?お前、よくぞ達者で!!」

「イアアアアッ!!」

 三樹三郎、刀を抜き、一閃。

 相馬は紙一重でかわすが、続く藤堂の斬りこみを避けられない。

「主計、すまぬ!!」

「藤堂ぉぉぉぉ!!」

 しかし相馬、軽々と投げ飛ばされる。

 島田魁、相馬を逃がし、両手に剣を抜き放った。

「何やってんです、相馬副長!!三樹と藤堂が伊東先生のこと、恨まない訳がないでしょう!!こちらは近藤さんを殺られてるし!!早いとこ増援を呼んできてください、時間を稼ぎます!!」

「すまぬ島田殿、すぐ戻る!!」

 相馬、駆け出したが、島田一人に二人は責が重い。

「島田ァ!助太刀いるかい?」

「この声は、永倉組長で!?」

 永倉新八、奥方に頼まれたイクラと数の子のお裾分けを風呂敷に背負い、巨魁舞い降り、風呂敷を雪の上に置いた。

「おめぇだけで逃げられちまっては元も子もねぇわな。……なんと、お前藤堂か!天晴れ、生きていてくれたか!!」

 三樹三郎、永倉と見て勢い良く斬りかかった。

「なァがくらァァァァ!!」

 永倉は身を捻ってかわし、三樹の懐に入り込むと剣の柄で鳩尾に叩き込む。

「甘い!!三樹三郎、てめぇ俺を追いかけてきやがったか!!」

 三樹三郎、咳き込み、立ち上がることならず。

「かハッかハッ……何のつもりだ、永倉ァ!!俺の懐をとれたならば、俺を殺せたろう!!そこまで俺を侮辱したいか!!」

 永倉、耳の穴を掻きながら、ボヤく。

「とはいえ、だ。伊東殿に何の恨みある訳でも無し。伊東殿の遺族たる三樹三郎を殺めるのはな。俺ァもう守るべき世帯があらぁ。」

「たあぁぁぁぁっ!!!」

 若き剣豪、藤堂平助に押されながらも、機会を窺う島田魁。

 病弱な藤堂平助が息を切らし始めたところで、島田は渾身の反撃に出た。

「いやあああッ!!!」

 島田は藤堂の剣をへし折る勢いで、剣を二本叩きつける。

 腕はたつが今の藤堂は病人、非力になっており、島田の剛力はとても耐えられ無かった。

「く……この剛力、刀が持たぬ……!!」

 すると藤堂、身をひいて、逃げようとしたが、三樹三郎が動けないのを見てとると、三樹三郎を庇う形で、前に出て剣を構えた。

「三樹三郎殿だけは、死なせない!伊東先生の、生きた形見だ……!!」

「逃げられよ、藤堂殿ッ!!」

 永倉新八は弟のような藤堂平助を、斬る覚悟など、割り切りたくも無かった。

「なぁ、藤堂……もう一度、俺たちと新撰組をやるって訳にゃあ、いかねぇのか?」

「……新撰組を、皆を、好いてはいたよ。だからこそ、伊東先生に皆を導いて欲しかった。なのに新撰組は!山南兄を殺し、伊東先生まで。俺には……新撰組が、わからないよ……!」

 藤堂平助が人間不信に陥る程の訳が、新撰組側にはあったのだ。

「変わっちまったのは、藤堂、お前なんだか。それとも、俺たちが変わっちまったのかも知れねぇやな。」

「……どうか。剣を納められよ。永倉兄は、敵ではなかろう。」

「さてな。伊東殿は俺も好きだったよ。だが、俺は生憎憎まれ野郎を見届けると、志しに決めていてな?さぁて、来たか土方歳三!!」

 相馬が息を切らし、土方歳三と斎藤一を連れて来た。

「ご苦労だったな相馬。島田、待たせたな。永倉……は……なんでいやがる。」

「この永倉新八、おきねさんからのお裾分けに参った!イクラと数の子、それから……おぉ!下の段のたくあんが凍ってやがらァ!!」

 たくあん大好き土方歳三、黙ってはいない。

「永倉ァ……奥方のたくあんは蝦夷地では貴重品だ。雪の上に置きやがったのか?許しちゃおけねぇ。」

「面目ねぇ!!しかし?しかし然してェ!!ここに対峙した男が四人!!因縁後引く腐れ縁、何も起こらぬはずもなく!!」

 藤堂は土方歳三の顔を見て、青ざめたようだった。

「土方さん……!」

 三樹三郎、立ち上がり、睨みつけた。

「斎藤一ェ!!兄様(あにさま)に用立ててもらった金子を返しな!!この腑抜けの蒟蒻野郎!!」

「あーりゃりゃ……まぁ……そうなるよな……。」

 土方歳三、剣を鞘から引き抜いた。

 返せば風を斬る、銀の刀身、和泉守兼定。

「藤堂平助に鈴木三樹三郎か……お前らに堂々、新撰組に戻れと申すのは、許されんな。俺が伊東甲子太郎を殺すように任じた。お前らもまた、近藤さんの死の要因になった。だが、今日の武蔵国は尊王派で出来ている。」

 三樹三郎、刀を構える。

「当たり前だ!!日の本は兄様のお考えについて歩いた!!この人斬り集団めが!!お前らは思想ありきとのたまいながら、思想の芽を摘んで殺す!!貴様らは兄様を犠牲に、仮初の平和を謳歌したのだ!その罪状、実弟たるこの三樹三郎が裁く!!俺は、俺が納得するまで、この剣を振るおうぞ!!」

 藤堂、剣を構える。

「三樹三郎殿に助太刀致す!背中の傷に恥じ、この命に変えても伊東先生の仇討ちを遂げようぞ!!」

 土方歳三、斎藤一にボヤく。

「斉藤。両名殺すな。生かして捕らえろ……。」

「また無茶ばっかり。そんなの、あいつらの腕前次第でしょうに。だいたいアンタ、藤堂の剣筋にかなう訳?切込隊長の先駆け先生だよ、あいつ。」

「近藤さんは藤堂を殺すなと、あの時も命じたんだぜ。近藤さんの弔い合戦ではあるが……俺もまた理由は違うが、手加減してやりてぇのさ。」

 斎藤一は目を細める。

「そ。なら、死ぬなよ。俺がアンタを殺す時まで。」

「ふ……相変わらず、この命ももてちまっていけねぇや……肝に銘じておこうか。」

 永倉新八、叫ぶ。

「いざ!!いざ、いざ、いざ!!尋常にぃ!!!」

 相馬が不安げに土方と藤堂を見、島田が相馬の肩を叩いて頷く。

「大丈夫です相馬副長。土方さんは、きっと違う道を切り開く。」

「島田さん……」

「土方さんは斎藤さんを受け入れる時に、きっと今のような状況も考えたはずです。俺は信じますよ。」

「……あぁ。俺も、信じよう!」

 永倉、叫んだ。

「勝負ッ!!!!!」


 斎藤一が、特攻する藤堂平助の、正眼からの鍔割りを受け流し、カウンターで突き払う。

 藤堂平助は北辰一刀流、その戦闘スタイルはまさに先駆け先生に相応しく、突撃あるのみ。

「ヤアアアアッ!!!」

 藤堂平助は斎藤一の突き払いを、刀受け、拳之払で横に払い、勢い良く上段から撥を打つ。

「藤堂平助。疲弊してるでしょ?」

「はあっ、はあっ、はあっ」

 斎藤一が本気を出すまでも無く、藤堂平助は背中の古傷から、体力を損なっていた。

「かつての藤堂平助の剣ならいざ知らず、さぁ。今のお前、頑張れば頑張るほど、自滅するよ?」

「……うるさいッ!!うるさい、うるさいッ!!」

 藤堂平助の八相、地からの地生之相下段は、かなりの連撃で、斎藤一でなければ、打ち返しは出来ないものだ。

「斎藤ォ!!」

 土方歳三は斎藤一に加勢に来たが、永倉新八に蹴飛ばされた。

「永倉活人剣は人を生かす剣だ。こんなとこで、こいつらを殺める剣にあらず!」

「斎藤が危ねぇぜ?」

 永倉新八は力尽きた藤堂平助が膝をつくのを見せた。

「斎藤殿の狙いははなから自滅でい!さぁ、土方歳三!まだ三樹三郎が残ってらい!!」

 鈴木三樹三郎は腹を庇いながら構え、自らも北辰一刀流、二ツ勝で仕掛けてきた。

「うおおおおぉッ!!」

 土方歳三は上段、白刃返しで受けて払い、本能的に気づいた。

 土方歳三と三樹三郎の身長差では、三樹三郎は下段が有利だし、土方は上段が有利!

 土方の力押しは効くし、三樹三郎には胴や足を取りやすい、ということだ。

 気づかれる前に叩かねばなるまい。

「オラァッ!!」

 土方歳三は上段から不知火で切り落とす!

 受ける三樹三郎は不利な上段技に、筋肉が痙攣した。

「くぅッ!!」

「派手な技はけしかけるなや!生かしてぇのならな!!」

 永倉新八の罵声に、土方歳三はたたみかけた。

 まだ訓練中の形崩し、隼落としに出たのだ。

 要するに、この勢いに乗って三樹三郎の刀を落とさせてしまえ、という、血は流さないが強引な勝ち筋だ。

 土方歳三はこの難しい技を失敗し、三樹三郎は力負けして剣を落としたが、土方の剣も飛んで行ってしまう。

「……ん?」

「ヘッタクソ!!まだまだ、修行あるのみよ!!」

 鈴木三樹三郎は手を挙げた。

「降伏する!藤堂殿に手を出すなッ!!」

 永倉新八が叫んだ。

「勝負あった!!」

 斎藤一、静かな目で三樹三郎を煽る。

「降伏、しちゃっていいの?アンタの立派な兄さん、俺たちみたいな壬生浪の毒牙にかかってご愁傷さま。」

 藤堂が三樹三郎を庇い、怒鳴った。

「やめてくれ!!斎藤殿、貴方なりに伊東先生に思うものがあるやもしれぬ。死ぬまで戦わせてくれる、俺たちに恥のない死を選ばせてくれるのやも。だけど、今の俺たちは、考え及ばぬ!!」

 三樹三郎が藤堂を落ち着かせた。

「良い。藤堂殿、良いのだ。生きておればこそ、復讐も果たせる日が来よう。今は敵に抵抗するなかれ。落ち着かれよ。」

「……汚い。新撰組も、生き汚い俺たちも……綺麗だったものは、山南兄や伊東先生だけだ。」

 土方歳三は命じた。

「藤堂、鈴木三樹三郎、しばらくは屯所で飯を食っていきな。俺も……再会を祝うのに、てめぇと対峙せにゃならぬ。相馬、島田。二人を連れて行きな。」

「はい!」

 藤堂と三樹三郎が連れて行かれると、永倉はガッカリして、土方にがなった。

「何も捕らえるこったァあるめェよ!!剣を通じて伝わろうに、心がよ!!」

「永倉……剣の師範に言うセリフじゃあねぇが……剣だけじゃあ、解決しねぇモンがあんのさ。そいつが、新撰組が置き去りにしちまったもの。近藤さんにわかっていて、俺にはわからなかったものだ。大事なものならば、俺ァ探らねばならねぇ。」

 斎藤一、ニヤニヤし、永倉を冷やかした。

「まぁ、ぱっつぁんにゃわかんないでしょ。ぱっつぁん剣奮ってなんでも解決しちまうし。」

 永倉、むすくれて、斎藤に怒鳴る。

「剣の道は友を呼ぶんでぇい!!死線を超えにゃ、男の絆は結ばれぬ!!」

「ほーらほらほらー。ほらねー?好敵手と親友になるの、ぱっつぁんだけよ。無茶言うなってのー。」

 永倉、ますますむすくれ、風呂敷を土方に押し付けた。

「土方歳三!俺ァ帰って奥方と枕並べて寝らぁ!!お裾分けの中身、斎藤殿にはやるない!!」

「えーッ!?」

「そうか。ありがてえ。たくあん食い放題だぜ……」

「ちょっと土方歳三。俺にはともかく、隊士達にはたくあん分けてよね!?」

Copyright(C)2026 燎 空綺羅

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