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壬生狼チャンバラ  作者: 燎 空綺羅
序章 第四話 死が二人を別つとも ー後編ー
53/54

4-3-6

 大使館。

 土方歳三は、祝いの席で酒を一口も飲まずに、難しい顔をしていた。

 芹沢鴨は尋ねた。

「土方君。今日の君は、特にらしくないな。」

 榎本武揚はビールで浮かれて、特に突っ込んだ。

「悩みがあっても吹き飛ばそうではないか、土方君よ!無事、蝦夷共和国は天皇陛下に認められ、武蔵国大使館が完成に到るのだ。旧幕臣は、報われたのだよ!!」

 土方歳三は、ますます疑い深く眉を顰めた。

「ブリュネ元帥、アンタに尋ねたい。天皇陛下は、何故ロシアを敵視する?ロシアは触っちゃならねぇ過激な国だが、現在、あちらさんに敵対意志はねぇぜ。新撰組が、逆に脅かしてるとさ。」

 ブリュネ元帥は眉を顰めて、告げた。

「わたしも気になっていた。ロシアを脅威とするのは、我々ヨーロッパ人の癖のようなものだ。武蔵国はこれだけ近くありながら今まで無事、むしろ関係は悪く無かった。有り体に言って、武蔵国の天皇陛下が気に病むはずが無い。となれば、ヨーロッパ人が一枚噛んでいるのではないか、と……憶測の域を出ないがね。」

 土方歳三は頷いた。

「俺の欲しかった答えだよ、ブリュネ元帥。」

 その時、大使館に駆け込んだ者がいた。

 警備に務めた相馬主計と島田魁が抜刀す。

 転がり込んだのは、忍だ。

「何奴!!」

 忍びは首の手拭いを外した。

 その、顔は、山崎烝。

「山崎さん!?」

 土方歳三は名を聞いて立ち上がり、山崎烝に歩み寄った。

「長い療養だったが、それだけじゃあ無さそうだな……。仕事熱心なおめぇのこった、土産話がありそうだ。」

 被り物をはずした山崎烝は、髪がパーマになっていた。

「副長……山崎烝、帰還致しました。同時に、長らく監察をしておりました……。」

「そうだろうな……話しな。知ってんだろう、山崎?何故蝦夷共和国が、ロシア迎撃を命じられたのか。」

 山崎烝は、何らかの洗脳でも受けたように、恐怖に抗った。

「天皇陛下は……あの人に流されているのだ。明治天皇は、悪しき方では無い。けれど、あの人だけは底知れぬ。蝦夷共和国は、依然、武蔵国からしたら敵国です。勅命は、ロシアと蝦夷共和国を共倒れにする為の……いわば、罠です。」

 大使館が騒然とした。

 芹沢鴨がボヤいた。

「やはり、わたしをも邪魔に思われたか……。」

 山崎烝は庇った。

「これは、天皇陛下の計らいではありません!天皇陛下は、とんでもない男に取り憑かれただけです。」

「とんでもない男、とは……?」

 山崎烝は迷うが、伝えることを決意した。

「イギリス陸軍小隊長、ジェームズ・ドニファン中尉。わたしは彼の小隊に、和人のハーフの山崎ピーター・エバンスと、変名して潜入してきました。わたしすら見惚れる程の、カリスマ的な軍人で、兵士達は熱狂的に彼を慕い……お偉方とも、食事会でたちまち懇意になられる、魅力的な人で。フランスのナポレオン三世を動かしたのも、ドニファン中尉です。ですが、ナポレオン三世はロシアを抑える使命があるヨーロッパ側で、彼は無責任では無い。フランス移民に送り出したのは、男も女も戦える兵士です。……ロシアとの、戦争に向けて。」

 島田魁が悲しい顔をした。

「そんな。レティシアちゃんが……戦争孤児に、なる……?」

 ブリュネ元帥もため息をついた。

「まやかしの、独立だったのだ……!!」

 山崎烝は続けた。

「わたしは、たまたまドニファン中尉が、イギリス王室が天皇陛下に宛てた手紙を、焼いているのを、目撃してしまいました。イギリスは関与出来ない。おそらく何度天皇陛下に手紙を書いても、抹消された。わたしはドニファン中尉を探り、イギリス小隊に潜伏していました。表向き、彼はカリスマ的な英雄で……天皇陛下も、彼の賢さに信頼を置いています。ところが、ドニファン中尉の狙いは天皇陛下なのです。何の固執かは分かりかねますが……ドニファン中尉は、明治天皇の治世に邪魔な中山忠光様を抹殺し……いま、武蔵国は、彼の支配下にある。土佐藩とドニファン中尉は同盟して、蝦夷共和国を戦火に巻き込み、天皇陛下を掌握する、という算段にて。……聴いた方々は他言無用に!知らぬふりをしながら、対策を練ってください!」

 ブリュネ元帥がボヤいた。

「移民のフランス兵は?幸いにも戦力を送られていた。彼らは、知っているかね?」

「彼らは、わかっていてフランスを離れた人達です。信仰の問題や、なかには、本当にブリュネ元帥の味方になりに来た人もいて、話しても大丈夫ですが、本国には知らぬふりを。」

 土方歳三は、告げた。

「新撰組はどうだ。隊士達は命懸けだぜ?」

「話して構いませんが、他言無用をご法度に追加せねばならないくらいには、危険です。」

 榎本武揚は、すっかり酔いが冷めてしまった。

 そして、彼こそは日の本一に優秀な外交官である。

「ただちに他国に秘密裏な協力要請を行う。内政は二の次になるが……総帥のわたしが動いては、不味いかね?」

「不味いです。貿易外交を言い訳にし、芹沢さんを各国に飛ばして、秘密裏に蝦夷共和国に集まっていただいてから、がよろしいかと。榎本武揚総帥は、有能なのが知られている。下手に動けば殺されます。」

 土方歳三はボヤいた。

「表向きの敵は、ロシア……真の敵は、武蔵国のジェームズ・ドニファン中尉ってことかい。」

「土佐藩も噛んでます。俺は脱走がバレて、海援隊に追われました。幸い、変装には慣れてます。港から船を乗り換えて振切りましたが。」

「……土佐藩?近藤さん殺しの……蝦夷共和国には、見廻組がいるからかい?」

 土方歳三に続き、榎本武揚が尋ねた。

「だが、海援隊は既に失われたはずだが。」

 山崎烝は嫌に警戒した。

「……今の海援隊の頭領は、女です。余りにも、危険人物かと。」

「女……?」


 海援隊の戦艦では、実質上の戦闘代表は、佐々木高行。事務代表は、長岡謙吉。新宮馬之助ら、土佐藩や、越前、長崎、様々な藩士の集まりで、戦闘や商業を行っている。

 天皇陛下の勅命で再結成した、海援隊である。

 つい昨晩に大砲沙汰があり、港で敵を逃がしてしまった。

 しかし、船長は憶測だけで蝦夷共和国行きを命じ、隊士達はこの無意味な厳戒態勢にほとほと嫌気がさしていた。

 起美と光枝という、軍服の女達が、海援隊隊士に詫びながら、船内を走っていた。

「ごめんなさい、姉さんが無茶をさせてしまい。」

「あのイカレ女……あれが土佐藩代表の海援隊船長だと?冗談じゃねぇぞ。勅命でなければ、アイツを海に投げ込むんだがね。」

「……姉さんは、逃げたイギリス兵士が、万が一蝦夷共和国に向かっていたら不味いと考えた。ですが、天候が阻んでます。わたし達が姉さんを止めますから、蝦夷共和国行きは無許可で辞めて大丈夫ですし、このままスケジュール通りに武器輸入を、お願いします。それから、ジェームズ・ドニファン中尉が船を乗り換えて陸に戻ります。協力お願いします。」

「あんた達、あのイカレ女をせいぜい落ち着かせておけ。船の乗り換えは任せな。日の本は、ドニファン中尉次第なんだろ?」

「はい!」

 起美と光枝は走った。

 船長室に来ると、船長の身の回りの世話役、伏見新兵衛が、殴り飛ばされてドアから飛んで来た。

「痛たたた……」

「大丈夫ですか、新兵衛さん!」

 船長の怒鳴り声が響いた。

「わしに酒が出せぬのか!!おのれは、海援隊と同じ、わしの(てき)かッ!!」

 船長は、楢崎龍(ならさきりょう)、かつての坂本龍馬の伴侶である。

 素早く抜刀し、新兵衛に斬り掛かる。

「酒を出さんと、こうだッ!!」

「わああああ!!」

「やめて姉さん!!だいたい、お酒はお医者様が禁じられて、姉さんは中毒の病なのよ!?」

「起美は許す。可愛い妹よ。新兵衛、剣を抜けェ!!」

 新兵衛は慌てて剣を抜いて身を護った。

 楢崎龍の剣戟はめちゃくちゃだが、その怪力たるや危うい一撃だ。この女、いざ火事場となるや馬鹿力を見せる。

 楢崎龍は、笑いながら啖呵をきった。

「殺せ、殺せ!!殺されにはるばる海援隊に来たんだ!これは面白い殺せーッ!!」

 ヤバい女だ、と、新兵衛は青ざめて、平に平伏した。

「とびきりの酒樽を運んで参る!御容赦くだされ!!」

 楢崎龍は手酷く痛い平手打ちを新兵衛に食らわした。

「はぁ?斬り合いくらいしろ、意気地無しめ!それに酒なら初めから持って来んか!!わしは、坂本龍馬の妻だぞ!!」

 礼儀正しいイギリス中尉が、仲裁に入った。

「そこまでにしたまえ、龍君。今のうちに行きなさい、新兵衛君。酒樽はドアの横に置いて、ノックして去ればよろしい。龍君は自分で運べるし、少し落ち着く時間が必要だ。いいね?」

 新兵衛はイギリス人中尉に頭を下げた。

「ドニファン中尉、親切に!ありがとうございます!」

 新兵衛は、坂本龍馬の生前から、龍馬に妻に何かあったら力を貸すよう頼まれていた。

 新兵衛は坂本龍馬を信頼し、その上で楢崎龍を守ることにしたのだ。

 海援隊では、唯一の楢崎龍の守り手だった。

 しかし。

 それであっても、彼女は横暴なアルコール中毒だ。美しさなど消えてしまうくらい、狂って騒ぐ身勝手な女。新兵衛とて、度々坂本龍馬を疑った。

 龍の美しさと突飛さに惚れ込んだだけの、一介の男なのではないかと。

 新兵衛が立ち去ると、光枝が龍を説得した。

「姉さん、蝦夷共和国行きは辞めましょう。向こうの海は雪の中です。ドニファン中尉を陸地へ送り、予定通りに武器輸入を。」

「……海援隊など死ねばよい!蝦夷に逃亡されていたらわしらは!!追撃し口封じに殺せェ!!」

「姉さん!……船は?船は、姉さんと龍馬義兄さんが、海外の何処までも行く為の、大事なものでしょう?船を、沈没させたいの?」

 楢崎龍はため息をついた。

 光枝の説得は上手いところをついた。

 坂本龍馬は、すべてが終わったら、一緒に船で日の本を一周しよう、と告げた。龍は、世界の何処までも、龍馬と行こう、と切り返し、龍馬は嬉しげに、笑った。

 船は、大事なものだ。

「……わかった。蝦夷には行かぬ。船は沈ませぬ。起美、光枝、席をはずしとくれ。土英同盟の話題になる、他言無用ぞ。」

「「はいっ!」」

Copyright(C)2026 燎 空綺羅

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