4-3-5
嘉志太郎が歩み出た。
「皆が本領発揮というところか。俺がここで負けると、どうなる?」
「四対四だ。嘉志太郎さんが負けたら、勝敗は瑠璃さん次第だな。」
嘉志太郎はニヤリと笑った。
「ならば安心致した。俺の相手は藤堂平助殿だ、正直分が悪い。」
藤堂平助は瞬きした。
「俺も、古傷があって、昔程強くはないよ?体力尽きればただの死にかけだし。」
「やってやれぇ、嘉志久!!酒がありゃおめぇはもっと強くなんだからよ!!」
永倉新八に嘉志太郎は苦笑いだ。
「それが、酒の席では無かろうしな。まぁ良い。全力を尽くす。永倉殿は号令を!!」
「伊東嘉志太郎に対するは、藤堂平助!!両者、構え!!」
嘉志太郎と藤堂平助は距離を取って抜刀。
藤堂平助、銀の刀身翻すは、愛刀、上総介兼重。
伊東嘉志太郎、波打つ白刃を抜き放つは、愛刀、四ツ谷正宗。
互いに北辰一刀流の構えで挑む。
嘉志太郎は直ぐ気づいた。
「……貴殿は北辰一刀流のみでは無いな?」
「左様!北辰一刀流は他流派と違い、ものの五年あれば体得出来る利点ありて、俺は天然理心流も学んでおります!」
「いざ!いざいざ、尋常にィッ!!」
嘉志太郎が怒鳴った。
「馬鹿たれがッ!!尋常に対戦してかなうものか!!」
「しょーぶッ!!!やっちまえ、嘉志久ッ!!」
さっそく斬り込む藤堂平助を、受流でかわし、嘉志太郎が永倉に怒鳴った。
「酔いも回らずに激昂出来るかッ!!」
「やァッ!!」
藤堂平助は間を置かずに、下段之霞で斬り払う。慌てて嘉志太郎は跳んでかわし、上段から防御の形崩し技、乗身之一ツ勝を振り下ろした。
藤堂平助は敢えて受けても刀は落とさず。
代わりに、額に切り傷を負ってまでも、特攻す。
「先駆け致すッ!!」
藤堂平助のカウンター、下段之打落にて、嘉志太郎は受けからの下段之突を繰り出す。
足を狙われ、ようやっと藤堂平助は下がって息をついた。
「嘉志太郎兄さん、あなた、余程幼い頃に北辰一刀流を学んだね?今や独自の型になってるよ。斎藤殿に近い、中々読めない太刀筋だ。」
嘉志太郎は息をきらしながら、告げた。
「先駆け先生とは良く言ったものだ。その額の古傷も、今の傷のように攻撃優先で負われた勲章か?」
藤堂平助は恥ずかしそうに、ハチマキで止血しながら返した。
「いや、これは、夏場の池田屋が暑くて、額の鉢鉄をはずしてたら、思い切り斬られて。永倉兄が逃がしてくれてなければ、視界が血で見えなくて、死んでいた……。」
「藤堂平助にも、上には上がいるものか。正直息が切れて仕方ないが、俺とて一撃でも当てる!!」
藤堂平助、素早く踏み込み斬りかかる。
「ならば先手必勝ッ!!」
嘉志太郎はハッと身構えた。
藤堂平助の構えは高上極意五点。
この斬込みは、絶妙剣!
すべてをかわしきれるはずも無い。
ならば、防御など無意味!
防がぬで良い!
形崩しに、全身全霊を込めよ!!
嘉志太郎は血で血を洗う様、もはや痛覚を殺しながら、絶妙剣に立ち向かう。
「イヤアアアアアアッ!!!」
嘉志太郎の全身全霊の形崩し、神雷は、遂に藤堂平助に剣を落とさせた。
「いたっ!!まさか、俺が特攻されるなんて。」
「一撃当てたぞ。二言は……無し……」
しかし、嘉志太郎は満身創痍で、ついに出血から倒れた。
瑠璃が駆けつけた。
「嘉志太郎さんッ!!」
武田と安藤さんが嘉志太郎の全身の切り傷を見た。
「止血して終わる問題ではござらぬ!隼人殿にもらった軟膏を!」
瑠璃が藤堂平助を睨んだ。
「どうして怒涛の連撃を?入隊する前に死人が出るのですか!」
土方歳三がため息。
「担架を出しな!藤堂よ、急ぎ過ぎだ。」
「でも俺だって、体力尽きれば戦えない身だよ?古傷が我慢出来るうちじゃなきゃ、剣どころじゃないよ……いたたたた……!」
藤堂平助は背中を抑えてうずくまり、相馬主計が庇いながらも叱った。
「だからって殺す儀式じゃねえから。藤堂は勝気すぎなんだって!」
永倉新八は慌てて平間重助に頼んだ。
「勝者、藤堂平助!芹沢殿よ、平間を借りるぞ!頼む平間、俺の義父の医師、杉村松柏を連れて参ってくれ!」
原田左之助は永倉を思いやり、隊士達に怒鳴った。
「医療班は伊東の命を繋げな!!」
嘉志太郎は意識が戻ると、担架から降りた。
「止血があれば、俺は良い。瑠璃殿の旅路の果ては、この伊東嘉志太郎が見届けるぞ!」
「嘉志太郎さん」
武田が笑う。
「皆、願いはひとつですな。」
安藤さんが瑠璃の肩を優しく掴む。
「行ってきなさい、ルリ。そして、ルリの願う剣、己で掴みなさい。」
「……承知致しました!!」
瑠璃は土方歳三の前に歩み出た。
「戦いの続行を、お願いします!」
土方歳三は、確認した。
「仲間が、負傷してもか。」
「見届けて貰えるうちに。わたしが、使命を果たすまで。」
「なるほど……クックック。覚悟した目だ。さぞかし、姉貴はおったまげたろうよ。剣客になったな、瑠璃さんよ。永倉ァ!!」
永倉新八は、嘉志久を案じながらも、もはや嘉志久も瑠璃と同様に、女では無く剣客なのだ、と思い知った。
「……構え!!」
瑠璃は平晴眼の構えを取る。
閃く瑠璃色の刀身は、命と変わらぬ愛刀、大和守安定。
「沖田瑠璃、参るッ!!」
土方歳三も、平晴眼の構えを取った。
日を照り返すは、和泉守兼定。
「土方歳三、参る……!!」
「いざ!尋常にィッ!!」
永倉にもわかっていた。
瑠璃が構えた途端に、鳥肌が立った。
「……勝負ッ!!!」
瑠璃の一の踏み込み。
土方は総司を見ていた。
総司の初撃は、小手。
土方は柄で打ち払った。
瑠璃は、続く足音は無し。
本命、二回、三回。
見えない突きが土方を襲った。
総司だ。
瑠璃に総司が重なった。
不敵な笑い、までもが。
「二回だ……二回、俺は死んだな?」
瑠璃の剣は土方の額で寸止めされていた。
「はい。胴と面で死んでいます。でも、わたしの無明剣・三段突きは、仲間を殺める剣ではありませんから……土方さんの元、総司さんの愛した新撰組を守る剣に。わたしは、そんな剣でありたいと、願います。」
「……一対の剣だ。アンタは、剣になり……総司と同じ土俵に立った。」
「……はい。わたしは剣だ。愛も友情も、殺めることでしか語れないかもしれない。だからこそ、貴方を目指した。新撰組を、目指した。わたしが、新しい沖田総司になる……!総司さんの罪は、わたしが償うし……あの人の愛した仲間たちを、わたしが守ります。わたしを、わたし達を入隊させてください、土方さん!この剣は使い手次第だから……どうか、わたしを、人を守る剣にしてください!」
土方歳三は、ハッキリ告げた。
「俺はアンタを哀れみはしねぇ。俺は、総司とは似た者同士でな……剣の為ならば、地獄も厭わん。伊東甲子太郎から、鈴木三樹三郎から、慈悲や対話を学んでいても……根本は変わっちゃいねぇ。アンタはすげぇ剣客だ。どこでだってやっていけらぁ。それでも、アンタは総司の愛した俺達を守る為に……俺に、剣を預けていいのかい?」
「はい。例え、これがわたしの自己満足だとしても。己の在り方くらいは、わたしが決める!」
「ふ。ふてぇ女だ。総司にそっくりだな。」
土方歳三は、やがて笑った。
「新撰組ィ!!四名入隊だ!!」
隊士達はわっと騒ぎはやした。
「天才だ!沖田組長の惚れた娘が、沖田組長並に強えぞ!!」
「アメリカ人の安藤さんの剣と言ったら!まさに新時代だ!」
「芹沢さん、祝いの席を持ちてぇ。」
芹沢鴨は苦笑いだ。
「どうなるかと思ったがね。平山君!榎本さんに使いを出しなさい。大使館で祝おうではないか!!」
「永倉ァ!」
「おうよッ!!」
「瑠璃さん、いや、沖田瑠璃。以後は、稽古をするなら、永倉か斎藤にしな。」
瑠璃と永倉は視線をかわし、自然と剣を構えた。
「死合ってみたい……!」
「へへッ!考えるこたあ、同じだなぁッ!!」
斎藤一が二人の剣馬鹿に拳骨を落とした。
「痛い!」
「斎藤殿!何故邪魔すんでぃ!?」
「巨魁だろーが女の子だろーが叱りますよ、俺ァね。お二人さん、大事な銘刀を置いて、木刀を使いなよ。だってその瑠璃色の剣、大事なもんじゃないの?ぱっつぁんと死合えば、真っ先に折れるよ?ぱっつぁんも。この娘、突きが風を斬る剛力だからね?」
「それは、そうです……!」
「ならば!!」
二人共、木刀に持ち替えて、構えた。
「「参るっ!!」」
祝いの席は、武蔵国大使館の完成祝いと共に行われた。
大使館に入り切らなかった隊士達も、オテルで酒と馳走を振る舞われ、賑やかな夜となった。
瑠璃達は、杉村松柏先生の治療を終えた嘉志太郎のベッド近くで、室内で宴をし、代わる代わる挨拶に来る隊士達に受け答えした。
「絶対組長格だよ、瑠璃さん!」
「そう、でしょうか……?」
「あの技はなに?安藤さん!なんでいきなり強く!?」
「浮島だよ。んー、たぶん、アンドーだけ学び方、違う。」
「嘉志太郎さ〜ん!あの特攻は惚れるね!ちなみに錦のシミ抜きやっときました〜!」
「助かる。しかし、斬り合う場合、錦は邪魔だな……」
ヤキモチ観柳斎、時刻も回ると、部屋から隊士達を追い出しにかかった。
「嘉志太郎殿は早く寝て、療養せねばなりませぬので!さぁ!部屋を出なければ修道の拙者が腰を振り始めますぞッ!!あ・ワン、あ・ツー……」
「わぁー逃げろー」
永倉が立ち上がり、嘉志太郎に告げた。
「さぁーて。俺ァ、奥方の夕餉を食いに、帰っからよ。嘉志久は療養の身でい、酒は我慢しろやい。暴れだしても、夜はこの永倉新八は自宅で奥方と枕並べて、寝てごろうじるから、また明日、昼間に俺が来たら飲みねぇ!!」
「ふ。甲斐性のある度量になったな、永倉殿よ。夜遊びせんで帰れよ。」
ヤキモチ観柳斎は手ぬぐいを食いしばる。
「キィーッ!!やはり敵は永倉殿ッ!!ナイスガイ対ナイスゲイ、にて候ッ!!」
瑠璃が責めるように永倉に告げた。
「永倉さんは罪作りな人ですね。二人のゲイを悩ませるから……」
「ん?何が?」
嘉志太郎が猛否定だ。
「瑠璃殿ッ!!俺はゲイではないぞッ!!!」
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