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壬生狼チャンバラ  作者: 燎 空綺羅
序章 第四話 死が二人を別つとも ー後編ー
51/54

4-3-4

 芹沢鴨が沖田瑠璃達を連れてオテルの中庭に行くと、土方歳三は集まった隊士達に怒鳴った。

「全員整列!!」

 隊士達は動揺しながらも、整列する。

「女だ……」

「馬鹿野郎。あの踏み込みがわからねぇのか?」

「え……?」

「俺なら逃げらァ。あの女はただ者じゃねえ。」

「てめぇら!!無駄口を叩けば斬る!!」

「「はっ!!」」

 土方歳三は芹沢鴨に確認した。

「芹沢さん。仕切るならアンタだ。」

「いいや。土方君に任せよう。」

「……隊士志願者は名乗りな!!」

 瑠璃が一歩踏み出す。

 土方歳三にはわかる。

 椿の羽織りは、トレードマークだ。

「沖田瑠璃!沖田総司と近藤勇五郎より天然理心流を学び、その死出の旅路を終えて、(おの)が剣を見定めて参りました!」

 土方歳三が若干微笑んだ。

「よくぞ、来てくれたな、瑠璃さん……いいや!その剣は総司の代わりに俺が見届けるぜ。次!!」

 嘉志太郎が踏み出した。

「随分と傾いた色男だ」

「あの羽織りは、錦じゃねえか?それに、あんなに美しい面は……?」

 永倉新八が思わず歓声を上げた。

「いよッ!!嘉志久ッ!!日本一ィッ!!!」

 嘉志太郎は念願の永倉新八に一喝。

「黙れ永倉殿よ!ろくな名乗りが出来ぬ、下がっておれッ!!」

 隊士達は意外な激しさにざわついた。

「燃えるような気性だ」

「最強の永倉殿に一喝とは……」

 永倉新八は大喜びだ。

「カッカッカッ!!激しさ怒涛の如くってな!」

「伊東嘉志太郎と申す!御陵衛士の伊東殿とは無関係ながら同じ名にて。北辰一刀流を学びながらも、空白の期間があり、腕前は衰えた次第!旧幕思想で英雄永倉新八を追って参った、此処に入隊を志願す!」

 土方歳三は、永倉新八に聞いた正体は伏せたまま、見定めた。

「衰えたと言いながらも、一部も隙がねぇぜ、嘉志太郎さんよ。藤堂平助!!」

「はいっ!!」

「嘉志太郎さんの手合わせは、藤堂に一任するぜ。」

 嘉志太郎は藤堂平助と聞いて驚く。

「北辰一刀流の申し子、先駆け先生、藤堂平助殿か?俺では彼のような猛者の相手にならんぞ?」

「案ずるな。アンタは藤堂に値する剣客さ。次!!」

 渋々、あゆみ出て、笠をはずしたのは、武田観柳斎だ。

「武田先生だ!!」

「生きてらしたのか……!!」

 武田観柳斎は朗々と声を張る。

「元軍師、武田観柳斎、舞い戻って参った!新撰組が尊王に変わったとは信じ難いし、殺されかけた恨みも恐れも消えはせぬ。だが、我が命にも代え難き友を助けるべく、拙者は此処に参った所存!」

 永倉新八は睨んでいたが、心配げに武田を支えに来た瑠璃や安藤さんに微笑み、安心させる武田を見て、納得せざるを得なかった。

「なんでぇ。一皮剥けたなら、もっと早けりゃあよ。」

 左之助がカラカラと笑った。

「ようやっとわかったか、がむしん!絆を悪く言いやがったら、また殺すぜ、俺ァ!ソイツは、俺とてめぇを否定するようなもんだからよ!」

「左之ォ!はじめっからそう言えやい!!」

 土方歳三は武田を睨み、冷やかした。

「絆の為か。俺におべっかをせんでいいのかい?武田さんよ。アンタ剣はまるきりダメだろう。」

「拙者がおべっかを使って応じる男ではなかろう、土方君よ。隼人殿にお会い申した。貴殿のような一徹の志しに、拙者のおだて芸など何が通じようものか。」

「ふ……久しく兄貴の名を聞くたぁな。田村銀之助!!」

 整列そっちのけで土方の軍服を繕っていた美少年が、呼ばれて瞬きした。

「はい……?土方さん、まだ軍服は直っておりません。」

 武田観柳斎、その愛らしさに瞬きす。

「え?何ですかな?拙者の知らない美少年いる……。」

「田村銀之助は後々入隊してな。幼さ故、俺や榎本さんの身の回りの世話を一任してきた。銀之助。剣を取り、この人と手合わせしな。」

 田村銀之助はたじろいだ。

「銀之助は、剣は扱えませぬよ?」

「安心しな。武田観柳斎は、からきし剣が不得手だ。おめぇじゃなきゃ、対等じゃねぇのさ。」

「こ……心得ました!」

 土方歳三はチラ、と安藤さんを見た。

「さて、そちらさんだが……。」

「アンドー、名乗っても?」

 オテルの玄関の鐘が鳴る。

 正式な客人しか、オテルの鐘は鳴らさない。

 現れたのは、なんと陸軍を統括するジュール・ブリュネ元帥である。数名の部下を連れ、まずは大使、芹沢鴨に深々と一礼した。

「武蔵国大使殿。安藤さんの件、武蔵国にはなるべく穏便に言い換えますよう、お取り計らいお願い申し上げる。」

「計らいましょう。ところで、何故箱館戦争の大英雄、ブリュネ元帥殿がこちらへ?」

「ふふ。箱館戦争で自力の戦果を出したのは、土方少将ですよ。」

 ブリュネは土方歳三と合図し、廊下に正座した。

「どうやら、わたしは間に合ったらしい。」

「あぁ、来てくれてありがてえ。安藤さん。名乗ってくれ。」

 安藤さんはブリュネ元帥の登場に驚いたが、改めて一歩前に出た。

「アンドーは、元アメリカ商船警備水兵、アンドー・アントン・マスジローにゴザル。カンジは、こう……安藤アントン益次郎……と、かきます。アンドーは、戊辰戦争のおりから、旧幕臣に関わる夢、ありました。叶わぬ夢だった、ラスト サムライへの関与は、いつしか、ルリと出会い、決意し……アンドーは武士道に、歩みだしました。斬られて果てても、悔いは無し。そして……アンドーのアメリカも、フランス王の支援で独立しました。蝦夷共和国は、仲間です。」

 隊士達は、改めて考えさせられた。

「安藤さんは、旧幕だが、俺達は伊東先生の学び舎が無かったら、彼を夷狄として敵視していたのか……。」

「そういうこったな。ブリュネさん。ご意見伺いたい。」

 土方歳三に、ブリュネ元帥は正座したまま、頷いた。

「我らの独立は、ナポレオン三世の心変わりによるし、わたしは手紙を書いただけで、フランスで何があったかはわからない。わたしは、英雄などではありませんが……安藤さんの志しは紛れもなく、わたしと通ずるもの。かつての侍の在り方を、抗ってでも、失わぬ信念。……わたしが安藤さんと手合わせ致しましょう。」

「感謝するぜ。ブリュネさんよ。永倉ァ!!初手は武田観柳斎!!」

 永倉新八は勢いよくかけ声を上げた。

「元軍師、武田観柳斎!対するは、田村銀之助!!構えッ!!」

 武田と田村は抜刀して構えた。

「いざ!いざ、いざ、真剣にィッ!!」

 隊士達は、正直舐めていた。

「勝負ッ!!!」

「あいやしばらくッ!!!」

 武田が全力疾走。オテルの中に走り出した。

 隊士達は唖然。

「……え?」

 相馬主計が怒鳴った。

「土方さん!!敵前逃亡は斬らねば!!」

 土方歳三は、ニィ、と笑った。

「あぁ……斬れればな。銀之助、追い込め!!」

「は、はいぃッ!!」

 銀之助が追うと、隊士達も気になって追いかけた。

「……あっ!?」

 なんと、武田観柳斎はオテルの礼拝堂のイエス様の聖櫃を盾に、鉄砲を構えているでは無いか。

 ついてきたブリュネ元帥が感心した。

「卓上の学問かと思っていたが、甲州流兵法とはなかなかの策士。」

「鉄砲を持っています!鉄砲をください!」

 隊士が銀之助に貸してやると、正式に習いこそしなかったが、銀之助は鉄砲弾を撃つ。

 すかさず武田観柳斎は聖櫃に身を隠す。

「イエス様の聖櫃。頭が回る男だ。信仰も手玉にとるか。」

 銀之助は弾込めして進むが。

「長椅子が邪魔過ぎるッ!!長椅子が無いのは、脇道二本と正面の聖櫃までの一本道だけ……これじゃあ、俺はまるで的だ!!」

 武田観柳斎はすかさず一発放ち、銀之助の耳を弾丸がかする。

「ひっ!」

「左様!甲州流兵法とはまず卓上で築城を学び、建築を覚えて軍略に生かすものなり!!これ即ち、武田信玄による戦であり、後の武田の旧臣、小幡景憲が定めた兵法である!剣には遥かに及ばぬ拙者でも、この軍略ならば三人は打ち倒そうぞ!さぁ、次なる弾は威嚇にあらず!!」

 田村銀之助は半泣きで降参姿勢を上げた。

「土方さ〜ん!俺まだ死にたくない!たくさん身の回りのお世話をして、たくさん稼いで裕福な大人になりたいです!!」

 隊士達は驚いて、武田観柳斎を見直した。

「まるで、城攻めの軍略だ」

「フランス伝習隊もいいが、甲州流兵法もすごいぞ!」

「「武田!武田!武田!」」

 止まぬ武田コールの中で武田観柳斎は立ち上がり、鉄砲の煙をフッと吹いた。

「ところで田村銀之助君。拙者が奢りますゆえ、美味しい飯処は如何かな?」

「えぇ〜?ご馳走ですかぁ〜。兄上が許してくれるかな……俺、たっかいフランスそば粉のガレット屋さん、腹いっぱい食いたいです!!」

 微笑む武田。

「健全かな、健全かな。」

 永倉新八が叫んだ。

「勝負あった!勝者、武田観柳斎ッ!!」

 安藤さんも拍手喝采だ。

「タケダ!アタマが良い!!」

「先手必勝で走り出して、追いつかれて斬られていたら、敗北でしたがな。」

 嘉志太郎が口酸っぱく言った。

「彦五郎殿の道場でも言ったが、俺に仕込めというに。」

 土方歳三が隊士達に号令す。

「中庭に戻って整列!」

 皆で中庭に戻り、土方歳三は告げた。

「次!安藤アントン益次郎!ブリュネ元帥、お願い致す!」

「かしこまりマスル。」

「承って候。」

 永倉新八が号令を上げた。

「安藤アントン益次郎に対するは、ジュール・ブリュネ元帥ッ!!さぁ、構えッ!!」

 安藤さんとブリュネ元帥は一定の距離を置き、安藤さんが坐禅。ブリュネ元帥はピンと来た。天然理心流ながら、あたかも安藤さんは、北辰一刀流の座業だ。

 ブリュネ元帥は、自らも坐業した。

 永倉新八は困惑する。

「か……構え?」

「アンドー、未熟ゆえ。まず、精神統一せねば、平晴眼にも、到らない。」

「わたしも気づきました。安藤さんと、同じ理由にて。いつでも開始されよ、永倉殿。」

 永倉新八は天性の才能と異常な本能の剣であり、座業の二人に戸惑いながらも、土方歳三に目配せした。

「心配いらねぇ。はじめな。」

「……いざッ!!いざ、いざいざ、尋常にィッ!!勝負ッ!!」

 静まり返った。

 斎藤一が声を潜めて尋ねた。

「ブリュネ元帥、剣の心得あんの?」

 土方歳三が静かに答えた。

「ブリュネ元帥はフランス人伊達らに旧幕臣だぜ。いざ自らが危うい場面では剣もこなす。まぁ、鉄砲の扱い程じゃねえが、充分な侍だ。」

 瑠璃は心配げに安藤さんを見ていた。

 安藤さんは、一月間の、佐藤彦五郎の指導に、すべての精神を回していた。

 平晴眼の構えから天然理心流は始まる。

 浮島すらも。

 平晴眼すらまだ掴めない。

 だが、座業は安藤さんを導いてくれる。

 彦五郎さんいわく。

 安藤さんの座業は、浮島に繋がるものだ。

 安藤さんには、普段は気配などわからない。だが、座業は知らせた。

 ブリュネ元帥が片足を上げて鞘から柄に指を立てた。

 気配、音、動き。

 安藤さんは彦五郎が告げた気がした。

 今だ、安藤さん!

 安藤さんは素早く片足を上げ、迫るブリュネ元帥の剣戟から身を守る一撃、奏者を繰り出す。

 ブリュネ元帥は身を起こし、安藤さんは立ち上がりの隙をついて、かけ声一線。

「いああああああああぁぁぁッ!!!」

 立ち上がりながら仕掛けるは、飛龍剣である。

 ブリュネ元帥は咄嗟に守りに出たが、間に合わない。

「いかん!」

 芹沢がぼやく。

 安藤さんの一撃を防いだのは、ブリュネ元帥を蹴飛ばして剣を受け止めた平山五郎である。

「充分っしょ?俺が出たら死んじゃうぜ〜?」

 永倉新八は慌てて叫んだ。

「勝負あった!勝者、安藤アントン益次郎ッ!!なんでぃ、強えぞ!?平晴眼も出来ねぇのに浮島だとッ!?」

 安藤さんはホッとして、膝をついた。

 瑠璃が駆け寄る。

「安藤さん!頑張りました!やはり、才があります!」

「アンドー、ヒコゴローの合図、聴こえた。」

 ブリュネ元帥は剣を納める。

「見事な浮島であった。座業の浮島から奏者、続く飛龍剣とはな。異人のわたしでは相手にならなかろう。人選ミスだな、土方君よ。」

 土方歳三も息を飲んで見ていた。

「そいつは言いがかりだぜ、ブリュネ元帥よ。まさか、アメリカ人が浮島をするたぁ思わなかろうよ。俺だって浮島には到らねぇんだからな。」

 安藤さんは告げた。

「ヒコゴローの教え。アンドーの座業。手合わせ、ありがとうございました。」

Copyright(C)2026 燎 空綺羅

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