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壬生狼チャンバラ  作者: 燎 空綺羅
序章 第一話 七陵星の御旗の元に
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1-5

 山口一刀流を元に、無外流となった斎藤一の剣戟は、とても未熟な土方歳三の手には負えなかった。ただ直感で剣で受け流し、竹林を走りながら、逃げながら戦うしか無い。

「ふ……今なら俺が敵前逃亡で斬られらぁな……!」

 永倉新八が叫んだ。

「お胴がガラ空きだぜッ!!」

 土方歳三は竹林から飛び出した斎藤一の斬撃に、永倉新八を信じて胴を守って剣を打ち払う。

 竹林をどんなに走っても、いつの間にか目前の竹が一刀両断され、土方歳三と斎藤一は睨み合った。

「無駄だぜ?土方歳三……だってアンタ、死ぬんだから。」

 土方歳三は、咄嗟に天然理心流の脛蹴りで竹ごと斎藤一を蹴って距離を置き、再び走りながら対策を練った。

 逃げながら、土方歳三は怒鳴った。

「永倉ァ!勝ち筋が見えやしねぇぞ!!」

 走って見守る永倉新八は、ニィと笑った。

「そいつァ、目が節穴だぜ?斎藤一の剣戟は鈍ってる。アンタを相手に、斎藤殿の奴感傷に負けてやがらあ!勝ち筋たぁ、そこにどうつけいるかよッ!!突きが来たッ!」

 土方歳三は怒鳴り返しながら、背後から来る斎藤一の突き技を身を転がして避けた。

「感傷に浸った男の殺意にゃあ思えねぇがな!!」

 永倉新八が胸を叩く。

「もうしばらく時間を稼ぎな!」

 土方歳三の応戦は続く。

 完全に、受けては逃げながらの時間稼ぎだ。

 斎藤一はこれに興醒めしてきた。

「どうしたの。アンタ、こんなに臆病だったっけ。生きることに、今の新撰組に、しがみついてる訳?」

「買い被ってくれるなよ、斎藤よ。俺ァ剣は未熟でな……一矢報いねぇでは、死ねねぇさ。」

 斎藤一は哀れみか、笑った。

「一矢報いる?俺ァ斎藤一だよ、総司とぱっつぁんに並ぶ最強の剣客のつもりだぜ?」

 永倉新八が叫んだ。

「調った!!行け、土方歳三!!」

 土方歳三は思い切った。

 追いかける斎藤一に振り向きざま、突進す。

「土方ァ!!」

「ケリをつけるぜ、斎藤ぉぉッ!!!」

 土方歳三は飛び上がって上段から剣を振りかざす。

「はぁ?ガラ空き!!」

 斎藤一は当然、土方歳三のガラ空きの胴に斬撃を繰り出した。

「端唄を!緑かいな!!」

 永倉新八に指示され、三味線を抱えた相馬主計が、爪弾きながら唄い出した。


 夏の涼みは両国の 出船 入船 屋形船

 あがる流星 星くだり

 玉屋が取り持つ 緑かいな


 その時、斎藤一の脳裏を過ぎったのは、試衛館時代である。

 斎藤一は、試衛館時代に土方歳三らと交流したが、現実主義の斎藤は、尊王の夢だけでは京へ上洛はしなかった。

 正式に壬生浪士組が幕府に認められてから、参戦したのである。

 この端唄、緑かいなは、その試衛館時代に仲間が集うと、近藤勇の義兄弟、佐藤彦五郎が三味線を爪弾いて唄っていたものだ。

 どんなに、仲間うちで笑って語らっていても。

 土方歳三は、剣の未熟さが周りに追いつくように、素振りを辞めなかった。

 斎藤一にとって、土方歳三の本質は、それであった。

 一徹の志し。


 だが、土方歳三は戊辰戦争中、近藤勇を助けたいあまり、近藤勇を降伏させた。

 土方の願い虚しく、新政府軍は、無情にも近藤勇を斬首し。

 その死を背負って、土方歳三は、狂いだしたのだ。

 壊れた土方歳三を、斎藤一は、心から、哀れんだ。


 会津戦争の敗北を経て、斎藤一が新撰組を降りた。

「残んのか?会津若松に。」

「まぁね。最期まで、浅葱色のダンダラ羽織りに相応しく、忠臣蔵してぇのさ。」

 斎藤一に、土方歳三は告げた。

「会津若松にゃ、もう勝ち目はねェぞ、斎藤。」

「あーぁ。そーゆう問題じゃないし……。知ってる?会津若松の武家のお子様達、白虎隊は、城が燃えた時に泣きながら互いを刺し殺して全滅だってさ。」

「あぁ……守って、やれなかったな。」

 斎藤一は物静かなままの土方歳三に怒鳴りかかり、胸ぐらを掴んだ。

「冷静過ぎやしねぇかアンタ!!ガキ共死なせて、会津若松は守れなくて!!何が新撰組だよ、おい!?松平公への恩義の為に、オレもアンタも、沖田ちゃんまで狂わせながら、何人殺してきたか、わかってんの!?」

 土方歳三は真顔だった。土方には、既に両肩に背負う、新撰組の大勢の隊士達の命がある。

 会津若松の子供たちまで、背負うゆとりなど無かった。

「それでも新撰組は、前に進まなきゃならねぇ。俺が、新撰組を報いさせる、その時まで。会津若松がなくなっても、新撰組は歩みを止めねえ。」

 斎藤一は悲しそうに、土方歳三の胸ぐらを離した。

「馬鹿野郎。もう既に、新撰組なんか存在しねぇよ……オレはパス、降りさせてもらうわ。」

「俺がある限り……此処が、新撰組だ……」

 斎藤一は静かに言った。

「その近藤勇ごっこは、一人でやってなよ。……次に会う時は、オレがアンタを殺してやるから。なぁ、壊れちまった土方歳三?後生だ……死なせてやるから、それまで、死ぬなよ?」

「ふ……ありがてえこったな。斎藤。必ず俺を殺しに来いよ。」

 新撰組は二分割された。

 斎藤一と共に会津若松に残った隊士達。

 そして、土方歳三についてきた隊士達だ。


 殺してやれ。

 胴を薙げば、死なせてやれるだろう。

 何をしている、斎藤一!

 剣を止めるんじゃあ、ない!

「殺してやらなきゃ、土方が止まれねぇんだよ、斎藤一ェッ!!」

 斎藤一の剣が止まったところで、土方歳三は上段斬りを放つ。

「永倉活人剣、不撓剣(ふとうけん)……」

 いわば、逆刃打ちである。

 斎藤一は呆然と膝をついた。

「な……永倉、活人剣……?」

 永倉新八、声を張る。

「これぞ永倉活人流、不撓剣・逆刃打ち!!勝負あった!!これにて死合終了でござろう!!」

 斎藤、自身が一本取られたと悟ると、拍子抜けして頭をかく。

「あーらら。三味線まで持ち出して、端唄たぁね。しっかし、俺が情けでこんなに動揺するなんてな……次は、ちゃんと殺してやるから。それまでは、せいぜい死ぬなよ?土方歳三。」

「斎藤……言う通り、俺は初め蝦夷地に心中する隊士を、募っていた。だが、そこから先何が起きるか。フランス艦の介入で生き延びて……人生、捨てたもんじゃあねぇな。俺はこの蝦夷共和国で、今度こそ新撰組の報われる使命を果たしてぇ。尊王も佐幕も、今は消えた……近藤勇が俺に託した、新撰組の志しを探さにゃならん。近藤さんの、俺の夢には、まだ、夢の続きがあるのさ。」

「土方さんの夢の続き……ま、確かに、蝦夷共和国にはしっかりして貰わないと、蝦夷地を拠点にされちゃ武蔵国はあっという間に敗退しちまうし?けどさぁ。近藤さんが死んでから、確かにアンタ暴走状態よ?」

 島田魁、相馬が、斎藤に返す。

「土方さんが走り出したのは、わかってます。斎藤さん。土方さんは近藤さんを失ってからがむしゃらに走ってます。」

「でも、俺達は土方さんを追って一緒に走ってる側なんです。土方さんを見てたら、いつしか土方さんの夢は、俺達の夢になって……生きてるのは、奇跡なんですが……。」

 島田魁、冷や汗を手拭いで拭う。

「斎藤さん、ごめんなさい。斎藤さんはお優しいから、土方さんの苦しみや、俺達を解放する為に、剣を奮ったんですよね。俺達は土方さんがある種おかしくなったのは、承知の上なんです。苦しみながら走って来たことも。傍から見たら俺達自身も、もはや、おかしいかと。」

「えぇ……島田、マジに?ちょっと、俺はごめんですよ?俺は武蔵国の藤田五郎巡査、仕事の為にある程度は関わりますけど、土方さんの暴走特急には絶対に乗らないからね。」

 土方、斎藤の肩を叩く。

「斎藤。島田の言う通り、お前は昔っから優し過ぎた。山南以上に、伊東のことを不憫に思ってきただろう。武蔵国は今や尊王志士が当たり前で、伊東は英雄だろ。お前は、その辺の境遇を見知りしている。教えてくれ、武蔵国をよ。今はあちらと上手くねぇと、俺の側についた隊士全員、命懸けだ。」

「まぁ……そぉね。新撰組が時代に逆走して来ただけだからね。」

「だからてめぇしかいねぇ。本日付で新撰組三番隊組長、兼、会計士を任ずる。」

「い・や・だ。どさくさ紛れにアンタねぇ。だいたい会計やりたくないって昔も言ったよ俺!?わかる?武蔵国の間者なの俺は、これでも警察官なんです!!」

「お前は根が真面目だからな。ある程度の情報はくれてやる。俺もお前も、仲間を守る目的は変わりねぇはずだぜ。」

「あーあ、嫌なこったよ。アンタそんなに大雑把な性格してたっけねぇ?」

 土方歳三はニヤリと笑った。

「蝦夷地からは、近藤さんを見習うよう、心がけてきたのさ。ちったァ優しく、大雑把でなきゃ、指揮官は務まらねぇからな。」

「……はいはい!ただしなんかムカついたら横領してやるからね!」

 三番隊組長、斎藤一、邂逅からの再加入となる。

「相馬!島田はこれから中庭で遊んでるレティシアちゃんを、家まで送っていく務めだ。これより島田の分も隊内を指揮せよ。」

「承知!皆の衆!これより各自、箱館市中見回りとする!二番隊は西から回れ!一番隊と四番隊は俺について来い!それ以外は屯所で待機とする!」

 土方歳三、永倉新八と斎藤一に促した。

「永倉、斎藤、ついてきな。蝦夷共和国の蕎麦屋を教えてやる。」

「ンン?奢りか?ムフフ。」

「蕎麦……?武蔵国から輸入もしてないのに?」


 蕎麦屋は、フランス人と幕臣のないまじりで経営していた。

 混じり気のない茶が出されて、次に蕎麦が配膳される。

「茶は唐土産。蕎麦粉はフランス産でな。フランスでも、ブルターニュ地方で蕎麦粉が採れるらしい……幕臣の中には、醤油や味噌まではわからずとも、そば打ちが趣味の人がいてな。つゆこそフランス式だが、この店は蕎麦がうめぇ。赤くて驚くだろうが、食ってみな。」

 斎藤一は渋々箸をつけるが、これが美味かった。

「この変わり蕎麦、うまっ……赤い野菜が、また美味いし。これはマグロ?創作蕎麦ねぇ。」

「おう!!うめぇうめぇ!!」

 永倉新八が夢中で頬張るかまぼこに、斎藤一はようやっと気づいた。

「ぱっつぁん、なに?そのかまぼこ旨いの?」

「うめぇのなんの!!斎藤殿も食いねぇ!!」

 斎藤がかまぼこと思って口に入れたのは、美味極まる至上のパテである。

「旨!え?なに、これ?洋食って、カレーとかエビフライじゃないの?」

「武蔵国についたのはイギリスだ。蝦夷地はフランスがついたから、洋食にしても飯の内容が違ぇんだろうな。」

「土方殿、ほーれ!」

 永倉の餌付けで土方歳三はムシャムシャとパテを貪る。

「確かにうめぇかまぼこだ。隊士達に持ち帰るか……」

 土方歳三、店主のフランス人を呼び、言葉がわからないなりにパテを隊士分注文して、紙に署名し、オテルの屯所に帰ってからは、見回りも終わり、永倉と斎藤の歓迎会も兼ねて、皆酒を酌み交わしパテやご馳走を食べて祝った。

「副長相馬、仕切らせていただきます!新撰組の再結成を祝って、三三七拍子!!」

「蝦夷共和国万歳!」

「蝦夷共和国に新撰組あり!!」


 夜になって土方は領収書をすべて斎藤に渡してきた。

「会計仕事だ。まぁ、蕎麦とかまぼこ代くらいのもんだがな……」

 斎藤はアラビア数字にびっくりし、慌ててフランス語辞書を引きながら夜は老けていく。

 少し前まで、洋書を学ぶだけで死刑だったが、臨機応変に警察官にまでなった斎藤、時代は割り切って辞書を引くのに迷いはなし。

 解読すると、斎藤は愕然とした。

「……あのかまぼこ!パテ?パテひとつ一円!?(現代価値:3800円)隊士が100余名だから……借金軽く百円越え!!(現代価値:38万越え)うわ、もう署名しちゃってんじゃねーか!!……これは今日から新撰組の借金よね?……あんのクソ土方ぁー!!!」

 斎藤の悲鳴も虚しく、夜は老け朝日を迎える。


 新撰組、はや二人邂逅せしめせり。永倉新八と斎藤一を取り戻し、次なる隊士は誰なるや。


 これにて壬生狼チャンバラ、次戦へ続く。


 終劇

Copyright(C)2026 燎 空綺羅

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