4-2-13
一月間。
瑠璃達は、明治四年三月まで、嘉志太郎を見舞ったり、天然理心流の稽古をして過ごした。
疲れて談笑したり、試合に挑んだり。
新しい仲間たちに、佐藤彦五郎は、三味線を持ち出し、端唄を贈る。
春はうれしや
二人揃って 花見の酒
庭の桜に おぼろ月
それを邪魔する 雨と風
チョイと咲かせて 又散らす
「安藤さんの技は、強いけど、実戦にはひとひねり必要だね。」
佐藤彦五郎の指導下で、みんな強くなったが、嘉志太郎は療養中だった為、拗ねた。
「鍛えられて羨ましくてならんな。武田も、強くなったか?」
武田観柳斎は下半身太りしていた。
「はい!拙者は相変わらず剣は不得手ながら、彦五郎殿の指導とのぶ殿の飯で、足腰の踏ん張りは身につきましたぞ!」
「貴殿は肥えただけではないのか?」
瑠璃は、専称寺で、風呂敷いっぱいに詰めた、首から落ちた椿の花を、沖田総司の墓所に散りばめた。
「総司さん。束の間のお別れです……わたし、行きます!貴女が愛した新撰組を守る、志しある剣に、なります!!」
瑠璃は総司のお守りであった椿の帯留を三分紐につけて、三分紐を帯に縛りつけた。
三月二十日。
沖田瑠璃、伊東嘉志太郎、武田観柳斎、安藤アントン益次郎は、松本良順、佐藤彦五郎、佐藤のぶに見送られて、品川湾から、蝦夷共和国行きの船に乗り込む。
「あり?異人さ〜ん!大丈夫?運賃、アメリカ・ドルじゃないよ〜?」
平山五郎に、安藤さんはアメリカ・ドルを持って瞬き。
「ロギン、あるよ?ドル、だめ?」
平山五郎は平間重助に話して、安藤さんをご案内。
「芹沢財閥は貿易から始まってますから。これだけあればたくさんお釣りが出ますよ。さ、こちらで、換金しましょうね。」
「oh、カンシャイタス!」
平山五郎は瑠璃に興味津々。
「なんですか。貴方、殺意が消せておりませんよ。わたしは、運賃を払いましたが?」
「凄っ!わざわざ死角に入って見てたのにさぁ!ね〜お姉さん、アンタその足取り!極めてんじゃない?腰のモノ!抜きなよ、ちょっとだけ殺し合ってみな〜い?……あれ。その目は……ひょっとして俺、死んじゃうフラグ?」
瑠璃が凄い殺気で平山五郎を睨むと、嘉志太郎が庇いでた。
「左様。やりあえば、貴殿の死が待っていようぞ。彼女と死合える域は、もはや永倉新八や斎藤一のみだ。下がれ下郎、悪趣味な人斬り癖だな?返り血の匂いが臭くてならぬ。」
平山五郎は嘉志太郎にびっくりして後ずさる。
「うわっ!!顔面偏差値なに、アンタ!?色男過ぎてもはや物の怪じゃん!!アンタ絶対俺の女には近づくなよ、人斬りでも女の問題にはヘラるからさぁ〜!!」
嘉志太郎はため息をついた。
「嘉志太郎さん?なんだか、深いため息ですが……」
「実はな。永倉新八を追った時も、この顔が災いした。永倉を匿った旧幕臣は、婿入りした永倉の所在地を、こんな美人には話せぬと申してな……後生だから永倉新八の平和を壊さないでくれ、と、追っ払われたのだ。手がかりは無いまま、京まで行く羽目になったぞ。」
瑠璃は、わかる気がした。
「美し過ぎる人のしがらみは、男でも女でも、変わらないものですね。同性から妬まれて、以前は永倉さんの家庭の為に、警戒されたのですね。」
「だが、京への旅路は、無駄足では無かったな。瑠璃殿や、仲間たちと出会えたのだから。わっち達、いや、俺達は……水滸の絆で結ばれた仲間だ。本当に地上の星のように、惹かれ合い、そして向かうのだろう。更なる星集う、新撰組へと。」
不敵に笑う嘉志太郎に、瑠璃は微笑んだ。
「勿論です。この先も。新しい道を、共に行きましょう。新しい、嘉志太郎さん。」
武田観柳斎は慌てて船から逃げようとした。
「やっぱ無理ィ!!拙者、船降り申すから……あ!既に品川湾から出ている!?」
平山五郎はこの怯える武田に尋ねた。
「どーしたの、おっさん?さっき出港したけど。なんか怖かった?俺かなぁ?」
瑠璃と嘉志太郎が駆けつけた。
「どうした今更!気をしっかりせぬか、武田よ!!」
「拙者、やはり元は、新撰組の闇討ちから逃げ延びた武田観柳斎にて!The 不信感!!聞けば蝦夷共和国の新撰組屯所はフランス式オテルで、二段ベッドの四人部屋!我が身は潔白な同性愛者なれば、嘉志太郎殿と瑠璃殿の為!相部屋の数合わせに参戦する次第でしたが……新撰組をどこまで信用して良いものか……今は朝廷側といえど、また殺されるのは御免にござる!!」
平山五郎が顔を出した。
「そんなら、大丈夫だぜ、武田さ〜ん?」
瑠璃はキッと平山五郎を睨んだ。
「盗み聞きなさらないでください!!それに、武田さんの命の悩みを安請け合いするなんて、不誠実な方!!」
糸目の平山五郎だが、さすがに瑠璃の気迫には目を開けて否定した。
「違う違う!!俺らもね、あいつらに暗殺されかけた、芹沢一派なの!!長州人の仕業で誤魔化されたらしいけど!後から来た武田さんは知んないかもしれないけどさぁ!壬生浪士組は、芹沢鴨が代表局長だったわけ!それが芹沢さんの寝込みを襲って斬った張ったの一大事よ!でも、土方君、今は芹沢さんときちんと仕事してっからさ〜!!」
「本当にござるかぁ?芹沢鴨殿と上手くやってても、土方君は尊王が嫌いだったはず。」
「そこは、深く知んないけど。土方君は懺悔室通ったり、柄にもないことしててさぁ。新撰組でも伊東甲子太郎を倣い、伊東派の藤堂平助から、学び舎の時間を設けてるらしーよー。ただ、藤堂くんだけじゃ、頭がおっつかないって、困ってたけど。服部武雄って人が一番伊東先生を理解してたらしくて、生きてないか探してるんだってさー。」
「なんと!藤堂君がいま、新撰組におられるのか?拙者、勇気が湧いて来ました。藤堂君は御陵衛士です。ならば、拙者にも自衛手段がありましょうとも!」
嘉志太郎はため息をついた。
「くよくよしおってからに。だいたい、旧幕思想の俺が、斬りかかってはおらぬだろう。いまは新時代だぞ、武田よ。」
瑠璃は申し訳なさそうに、平山五郎に頭を下げた。
「申し訳ない対応を致しました。からかわれるかと思って……武田さんの力になってくださり、恩に着ます。」
「いーよぉ。でも、恩につけいるなら、蝦夷共和国で死合ってくんない?俺の生き甲斐は殺し合いだからさ!」
瑠璃は呆れたが、約束した。
「せっかく見直したのに。わかりました、手合わせは約束します。ですが、わたしは意味の無い人斬り刀には、なりませんから。」
安藤さんが帰ってきて、尋ねた。
「タケダ?オテル、四人、相部屋ってなに?」
「新撰組のオテルですぞ。隊士は相部屋!女剣客の瑠璃殿や、まだ半分男に至らぬ嘉志太郎殿は、拙者と安藤さんが相部屋になってお守り致すのです!!」
安藤さんは苦笑いだ。
「アンドー、セーラーだし、サムライの新撰組、なれるかわからない。それに、アンドー、ノーマル。男だよ?ルリと、同じ部屋、まずくない?」
嘉志太郎は、ふむふむ、と頷いた。
「瑠璃殿は、男がいても着物を脱ぐしな。」
「!それは、はじめ嘉志太郎さんに理解が至らなかっただけで!」
「ルリ……痴女?」
「安藤さん!真に受けないで!」
「ハッハッハッ!拙者は気にせぬので、瑠璃殿はありのまま、マッパで構いませぬぞ!拙者の恋するマッパはガイのマッパにて候!!」
「武田さん!からかってますよね!?」
船旅は始まった。
朗らかに、志しを高め合う友と共に。
目指すは、蝦夷共和国へ。
後編に続く
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