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壬生狼チャンバラ  作者: 燎 空綺羅
序章 第四話 死が二人を別つとも ー中編ー
39/47

4-2-5

 大阪から東京までは遠く、新撰組とて海路を進んだ。

 武田観柳斎が、尊王活動で学んだカタコトの英語で、異人の船乗りと交渉している。

 瑠璃も英語を少し解するが、あんなに早口では分からなかった。

 武田観柳斎が戻ってきた。

「我らをアメリカ商船に乗せてくださるそうです!たぶん!はぁ、拙者ヘトヘト。」

「まだ、武蔵国には、海路の移動船はないのですね。」

「蒸気船などは学んでおりますから、明治のうちには国内船が始まりますよ。さあ、アメリカ商船の気が変わらぬうちに乗りましょう!」

 三人が船に乗り込むと、クルクル髪の船員が手を出した。

「Japanese people, please pay the fare in US dollars.

(和人、運賃はアメリカ・ドルの支払いだよ。)」

「え。金?」

 瑠璃が慌てて金子を出した。

「わたしが払います。わたしの旅路ですから。」

 船員は、優しそうな目で困っている。武蔵国の金では無く、アメリカ・ドルを求めていたが、通じないとわかり、ため息混じりに、わかる範囲の日本語を話した。

「money、代わり。価値高いもの。キモノ。」

 価値の高い着物。

 安物の着物ではあるまい。

 つまり、嘉志太郎の着物しか、あてにはならぬのだ。

「キモノ、みせて。」

「うむ……」

 嘉志太郎が風呂敷を開くと、京で羽織りを錦に変えた為、前に羽織っていた、青地に紅葉の羽織りも入っていた。

「ブルー、キモノ?ジャパンのモミジ?」

 船員は、個人的に青地の紅葉柄に夢中になった。無邪気な眼差しで、憧れが滲み出て見えた。

 瑠璃は嘉志太郎に意思確認。

「嘉志太郎さん、こちらを、よろしいでしょうか?」

「いらんな。今の錦羽織りに比べれば。」

 瑠璃は船員にカタコトの英語で身振り手振り。

「セーラーさん!ブルー、羽織り!アウター!ほら!こう!」

 瑠璃は羽織りを羽織らせて、上着であることを知らせた。

「ブルー、アウター?キモノ……!!」

「それ、プレゼント。セーラーさん、代わりにミーたちを、クルーズさせて。大阪から、東京。貨物室でいいから。なかま、誤魔化して!」

 船員は、羽織りの上にセーラーカラーを出した。バッチリの色合いだ。

「なんて可愛い着こなしを……」

「OK!ユア、クルーズ、キョウリョク。貨物室ダメ、キモノ、センキュー。ミナ、こっち。」

 船員は、きちんとアメリカ・ドルを払った乗客の部屋へ案内した。周りじゅうがお金持ちの異人や、商人の英語達者な和人だらけだ。

 セーラーさんの上司が駆けつけた。

「What do you mean, Anton?

(どういうことだ?アントン君。)」

「These three are my guests.

(この三人は俺の客です。)

 Some of my close Japanese friends are members of the Shinsengumi.

(親しい和人で、新撰組隊士もいます。)

 They are traveling for the Emperor of Musashi Province.

(彼らは、武蔵国の帝の為に、旅をしている。)

 They should put it on a boat from Osaka to Tokyo.

(大阪から東京まで、船に乗せるべきだ。)」

「...I see. So now the Shinsengumi are samurai of the Emperor of Musashi Province. Very well.

 All right, you're permitted on board.

(……そうか。今では、彼ら新撰組は、武蔵國の帝の侍か。よろしい、乗船を許可する。)」

 船員と上司が英語でやりとりしているのを、瑠璃達はハラハラと見ていた。

 船員がフランクな笑顔になって戻ってきた。

「OK!いけた!ユア ネーム?タケダファミリー?」

「武田は拙者だけですぞ。」

「え。なんて?」

 瑠璃が嘉志太郎に訳した。

「名前を聞かれています。」

「伊東嘉志太郎だ。……異人には漢字がわからぬよな。カシクで良いぞ。」

「沖田瑠璃です。セーラーさん、センキュー。ユア ネーム?」

「タケダ、カシク、ルリ?マイネームイズ アントン!」

「安藤?」

「ソレ、アントンのニックネーム?OK!」


 アントンさんこと安藤さんは、仕事が休み時間の度に世話しに来てくれた。

 来る度に新しい日本語を覚えてくる。

「みんな、ディナー?アンドー、たべたよ。」

 瑠璃達はイギリス式カレーに夢中だった。

「こちらの献立、とても美味しいです!栄養価がすごい……!安藤さん、このディナーは、アメリカ?イギリス?」

 安藤さん笑う。

「イギリス人にならった、インドのカレー!インド、イギリスの植民地。でも、インドの方が、カレー、ぜったい、旨いよ!サグパニール、忘れないアジ。」

 瑠璃達は瞬きした。

「安藤さん、船乗りだから、行ったことがあるのですか?インドとは……どこ?」

「お釈迦様、生まれた国。ジャパンの仏教、インドから来た。」

 三人は驚いた。

「インドは天竺?……天竺は、カレーの国なんですか?」

「YES。天竺のカレー、イギリスより、美味しいよ。」


 翌朝は、ブレックファストのパンが出た。

「これは、朝餉……?」

「パンは手掴みするものですぞ。こうしてジャムを塗って、と。ちなみにスクランブルエッグなど、おかずはフォークを使いなされ。」

「忘れていたが、武田殿は軍師で尊王派か……異様に異国に詳しいな。」

 安藤さんがチラッとドアを開けた。

「安藤さん」

「グッモニ……おはよ、ルリ!ソーリー!今日、仕事!」

 安藤さんは、乗客で唯一英語が不自由な瑠璃達を気にかけてくれていた。

「おはようございます安藤さん、そしてお気遣いなく、行ってらっしゃい!Go!」

 武田観柳斎は寝起きで夢の狭間だ。

「安藤殿、日の本にはおらぬタイプのやんちゃで優しい殿方……ドキッ!異人との禁断のラブ ロマンス!高ぶる拙者のマイ ハート!う〜ん、ドラマチックですなぁ……!」

 嘉志太郎はもう武田に慣れてしまった。

「安藤殿は貴殿に振り向かんぞ。しかし、確かに優しい異人だ。言葉まで学んで世話に来る。わっちの羽織りだけで、ここまで親切をするいわれも無かろうに。」

 瑠璃は、考えた。

「日の本に、海向こうに夢見た伊東先生がいたように……安藤さんにも、日の本に夢があるのかも。」

「夢?」

「安藤さんと、上司さんの会話、ちょっとだけどわかるんです。日の本の帝や侍を、すごく尊重していました。羽織りに喜んだのも、侍に夢があるから、かもしれない。」


 何日か経ち、船旅の瑠璃達は日にちの感覚が狂い出した。

 その間、嘉志太郎が呼吸困難で倒れ、船医が嘉志太郎を診て、直ちに瑠璃に尋ねた。

「和人のおなごの侍くん。彼は、本当にガイ……?何故心拍数がこんなに遠い?」

 武田がしゃしゃり出て船医に怒った。

「嘉志太郎殿は立派なガイですとも!そして拙者はゲイですとも!!」

「こんな時に笑わせないで武田さん!」

 瑠璃は笑いを堪え、真面目に嘉志太郎のピンチなので、船医に答えた。

「おなごに生まれたガイなのです。聴診器で心拍数が遠いのは、乳房の上だからです。胸が大きく、サラシで見えないくらいに潰しています。」

 船医は納得して、脱がせて、何とかサラシをゆるめてから、また診察した。

「少しづつ呼吸は安定してきた。だが、こんなビッグ バストでキツいサラシを続けていたら、クシャミでもしたら肺に穴くらい空く。潰すのは危険過ぎる。わたしなら裏道を使うな。東京に行くはずだね。ドクター松本良順に会いなさい。彼はオランダのドクターポンペから学んだ武蔵国一のドクターだ。この件を病と認定して、わたしが手紙を書くから、嘉志太郎君を診てもらうように。」

 瑠璃は病の認定に困惑した。

「乳癌で乳房を切除するのと、同じ、ですよね。おなごがガイなのは、病ということですか……?」

 船医は考えてから、答えた。

「わたしの見解では、病じゃあない。神が、人間の器を間違える。或いはガイらしく育てられたら、レディでもガイになる。だが、時代がまだ人間に追いついていない。だからこその裏道と言えよう。病といえば治療の利点があるから。胸を切除出来る。資金は必要だが、ドクター松本良順はローンくらい組んでくれるはずだ。」

 瑠璃は、船医を信頼し、尋ねた。

「だからこその裏道……ありがとうございます、ドクター。わたしからまだ質問して宜しければ……医学的には、同性愛は?ドクターの解釈に興味があるのです。」

 船医は、ため息し、しかし真面目に答えてくれた。

「それは、神学的にも医学的にも、難題だね。人間は本能で異性に惹かれる仕組みだ。種の存続の為の遺伝子的な作り。親から受け継いだ遺伝子が、子を成すために異性を求める。公式な場ならこう意見するだろう。同性愛が主流になると、子が絶えて、人類は途絶える。だが、わたし個人の見解では、それは病では無い。神が許さなくとも、愛の形だ。」

 瑠璃は、納得しながら、一番知りたいことに悩み、塞いでしまった。

「……何故、剣は恋をしたら、愛する人を斬るのだろう。」

「それは、自問自答か、侍問答か。剣は無機質。人斬りの道具だ。剣の恋とは、殺意の妄念ではないかな。まぁ、わたしは異人のドクターで、侍ではないから、あくまで個人的な解釈だが。」

 つまり、沖田総司は、人になれたのだ。

 愛して生きたいと、願ったのだ。

 ならば、瑠璃はどうか?

 後悔していた。

 逃げてあの人を台無しにした、己を悔いた。

 愛する人を斬る妄念に、今の瑠璃は覚悟している。

 総司の生前に死合いたかった。

 総司の剣を超えたかった。

 瑠璃の想いは、愛では無いのだろうか。

Copyright(C)2026 燎 空綺羅

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