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壬生狼チャンバラ  作者: 燎 空綺羅
序章 第四話 死が二人を別つとも ー中編ー
38/54

4-2-4

 武田観柳斎が手配した馬で、瑠璃達は伏見を目指すが………。

 なんと、瑠璃は乗馬が下手くそだった。

 瑠璃が軽過ぎるのか、走り出すと乗り手の瑠璃が飛ばされてしまう。

 いくら教えても、落馬してしまう。

「己を制するかの如く!馬を、制するのです!!」

「馬を、制する……!」

 また落馬した。

 嘉志太郎が告げた。

「もうやめよ!落馬の被害の方が痛いわ!瑠璃殿の体重が軽すぎるのだ!」

 武田観柳斎、はたと思いついた。

「体重が軽い?ならば、人力車や自転車、駕籠がありますな?手配して参る!!」


 まさにこれ、というので、武田の案内で瑠璃達は西洋商店へ。

 イギリス式自転車。

 高かった。

 瑠璃は仕方なく知らせを飛ばし、夏彦から使いが来て、自転車代と石鹸を拝借。

「頼れる元彼だな……。」

 瑠璃は恥ずかしいやら申し訳ないやら。

「お金ばかりあてにして、甘え、ですね。しゃんとしなくては……。」


 イギリス式自転車は楽だった。

 おなご向けの乗り物と言えよう。

「馬に追いつける!手放せませんな!!」

 こうして、瑠璃は自転車、二人は馬で、伏見奉公所までやって来た。

 少し前までは、旧幕臣の名は禁句だったが、今は新撰組が朝廷の臣下なので、聴き込みは容易かった。

「お役人さん。明治天皇陛下の臣下となった新撰組ですが、かつて、ここを本部にしましたよね?」

「はい。入隊志願でしたら、ここでも少し出来ますが、詳しい資料をお求めですか?」

「ええと。わたしは沖田総司の縁者で、沖田総司が療養した民家を知りたいです。わたしに総司さんが襲撃された事件を知らせる手紙を書いてくれた人も、調べていただけたら。」

 お役人さんは同僚と話し合い、戻ってきた。

「確かに沖田総司は襲撃されて、伏見奉公所まで走って逃げたようですが、沖田総司の療養した民家を知る生きた人は、警察官の鈴木三樹三郎さんだけです。きちんとなさった方ですから、会ってはくださると思いますが、なにぶん忙しい仕事で、旅の道中ならばかなり足止めを喰うでしょう。使いを出しましょうか?」

 瑠璃は首を振って遠慮した。

「警察官のお仕事を、邪魔してまで会いとうございません。それに、その頃の彼は、総司さんの敵のはず……ご遠慮致します。」

「では、次にお手紙の差出人の特定ですね。手紙を拝見してよろしいですか?役人には、筆跡で粗方わかります。」

 瑠璃は手紙を渡した。

 お役人さん達は、手紙を見て驚いた。

「……やはり、近藤さんでしょうか?」

「いえ。この筆跡は、鈴木三樹三郎さんのものです。沖田総司側の……当時では、三樹三郎さんの敵側でらした方に、何故わざわざ知らせたのかは、わかりませんが。ゆえに、差出人の名を書かなかったのかと。沖田総司が襲撃から生き延びたことや、近藤勇が二条城の帰りに狙撃されて負傷したことが、簡潔に書かれています。感情を抑えるかの、如く。」

 瑠璃は、聞いていても分からなかった。

「え。でも、手紙には、鈴木三樹三郎さんや阿部さんが、総司さん達を狙ったと、書いてありました。何かの間違いではありませんか?鈴木さんは、伊東先生の一派ですよね?」

「いえ。間違いありません。」

「……鈴木三樹三郎さんとは、どういう方ですか?」

「鈴木三樹三郎さんは、御陵衛士・尊王開国派、伊東甲子太郎の実弟です。近藤勇斬首にも、蝦夷共和国と武蔵国の和平にも、新撰組の朝廷召し上げにも、関与する人物です。」

「……伊東先生の……!」

 瑠璃は涙が一筋流れた。

 伊東先生は約束を守り抜いた。死んだ後、までも。

「伊東先生の、弟さん。わたしの仮初の結婚の宴席で、伊東先生がわたしに約束した……沖田総司の容態を必ず、絶えず知らせると。自分が死んでも文が絶えないように……近藤さんにも、弟にも、頼むから、と。だから、弟であった三樹三郎さんは……」

 お役人さんは、改めて真面目な顔をした。

「沖田氏縁の方よ。鈴木三樹三郎さんは、その時は敵でありながら、兄様(あにさま)の教えを守ったのだと、思います。」

「はい……。あの兄弟には、つくづく頭が上がりません。」


 伏見奉公所を出ると、武田観柳斎が告げた。

「拙者、伊東先生を崇拝したが、正直なところを申せば、三樹三郎殿を舐めておった。何が実弟か、尊王の何たるかを知らぬ小僧が、と……拙者が浅はかであった。彼は、兄に相応しい、誰よりも兄を理解した、義理堅き弟だったのだな……。」

 嘉志太郎はボヤいた。

「正直、気性の荒いわっちには、御陵衛士の伊東甲子太郎は人間とは思えぬが。弟は、地に足がついた人間だったのだな。憎しみから報復もする、敵の大事な人間も狙う。だが……瑠璃殿への義理を果たした。なまじ人間だからこそ大変な行いに思えるが……どんな感情で文を書いたのだろうな。」

「わたしも、気になりました。鈴木三樹三郎さんが。多忙な人に、仇側のわたしが会うのははばかれますが……三樹三郎さんが何故、新撰組を許したのか。今の蝦夷共和国が。新撰組が、気になる。」


 大阪城には、さすがにツテも無しには入れなかったが、三人は城を見上げた。

「総司さんは、近藤さんと大阪城で療養し、軍医の松本良順先生の治療を受けたそうで。鳥羽・伏見の戦いには不参加。惨敗だったらしいですが……。」

「その手紙は、誰が?」

 瑠璃は手紙を出した。

「山崎烝さんです。その後の手紙では、新撰組行方不明者となっていますが、今も大阪で療養中です。今から、お訪ねしようかと。」

 武田が、告げた。

「ならば、お訪ねなさいますな。山崎君とて、回復していたら蝦夷共和国に向かうでしょう。無闇に踏み入ってはならない。命を、背負い過ぎますな、瑠璃殿よ。」

「………それは、そうです。」

 嘉志太郎が笑った。

「珍しくまともだな、武田殿よ?」

「そりゃあ、拙者とて真面目にもなります!瑠璃殿は既に背負い過ぎた節があり申すゆえ!」


 イギリス小隊の滞在するホテル。

 ジェームズ・ドニファン中尉は、自室に客人を迎えていた。

 明治天皇の祖父、麝香間祗候(じゃこうのましこう)、中山忠能の子、中山忠光である。

 文久三年、八月十七日に、尊皇攘夷浪士の一団を率いて挙兵。天誅組の変の首謀者であった。

「イギリス公使でもない貴殿なぞが、何故わたしを呼び出てした。」

 血気盛んな中山忠光に、ドニファン中尉は優しく笑った。

「中山忠光様。どうぞ、落ち着かれくださいませ。今の武蔵国は天皇陛下の元、やがて安寧の世を迎えられます。どうぞ、旧幕思想の民がいたとて、過激をなさいますな。」

 中山忠光は、既に、東京におりながら、旧幕を語る民を、およそ四名、斬り殺し、明治天皇に尊王の行き届かぬ治世を苦情申し立てていた。

「ジェームズ・ドニファン。天皇がわたしの愚痴でもこぼしたか。明治の世であろうとも、戦いは終わってはおらぬ!何が武蔵国の安寧かッ!!生ぬるいわッ!!まだまだ、国には旧幕があちこちにごろついておるでは無いかッ!!」

 ドニファン中尉は笑いながら語った。

「武蔵国のすべては、神たる天皇陛下の民であり、天皇陛下が救済なされる和人なのです。思想ゆえに血は流れた。ならば、尊王を勝ち得た天皇陛下には、武蔵国の民を皆、平和と安寧に導く使命がございます。忠光様。明治天皇(かみ)が望まぬ殺生は、天誅とは呼べませぬゆえ。」

 中山忠光は、鼻で笑った。

「貴様は宗教論者か?明治天皇に神の器を求めているのか?父も天皇も、甘いわッ!!人の世は戦あっての賜物よ!夷狄ジェームズ・ドニファン、貴様とてイギリス側でわかっておろう!神は平和など与えはしないッ!!戦がなければ国は育たぬ、故になッ!!」

「はい。神は人々を救済はしない。残忍な、貴方のような権力者を蔓延らせては、グロテスクな敗者の死体の山ばかりを積み重ねる。だからわたしは天皇陛下を離しはしない。わたしは救済する……武蔵国の和人を。」

 中山忠光は眉を顰めた。

「何を」

 瞬間、中山忠光の首が跳んだ。

 ジェームズ・ドニファン中尉の居合斬りは、返り血すら浴びずに。

「神はわたしが従える……正しく民を救済する為にな。」

 物音がした。

 ジェームズ・ドニファンはすかさず天井裏に剣を突き刺した。

 天井を打ち壊せば、落ちてきたのは、山崎ピーター・エバンス、こと、山崎烝であった。

 血を流しながらも、素早く窓ガラスに飛び込み、二階から着陸し、走り出す。

 騒ぎで兵士たちがドアを開けた。

「Are you okay, Lieutenant Doniphan?

(大丈夫ですか、ドニファン中尉!?)

 Ah, Tadamitsu Nakayama...?!

(あ、中山忠光様が……!?)」

 ドニファン中尉は涙した。

「Tadamitsu Nakayama was murdered by Peter Evans Yamazaki.

(中山忠光様は、山崎ピーター・エバンスに殺られた。)

 For the sake of His Majesty the Emperor, I must pursue Yamazaki.

(わたしは天皇陛下の為に、山崎を追わねばならない。)

 Please hurry up and send me off to Shinagawa Bay!

(至急、馬車を出し、わたしを品川湾に送りなさい!)

 Go ahead and send a messenger to Narazaki Ryu of the Kaien-tai!

(先行して、海援隊の楢崎龍(ならさきりょう)に、使いを出してくれ!)」

「I got it!!

(了解しました!!)」

 ジェームズ・ドニファン中尉は外套を羽織る。

「Yamazaki Peter Evans... Ninja. Yamazaki Susumu...? Hehehe. No way...

(山崎ピーター・エバンス……忍者。山崎烝……?ふふふ。とんでもない……。)」

Copyright(C)2026 燎 空綺羅

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