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壬生狼チャンバラ  作者: 燎 空綺羅
序章 第四話 死が二人を別つとも ー前編ー
34/47

4-1-11

 慶応四年、四月二十五日。

 近藤勇、斬首。


 近藤勇の生首は、京にて数日間の晒し首となる。

 人集りの中で、遠巻きに見ていた瑠璃は、近藤勇とわかるや、涙しかけたが、泣くことは出来なかった。

 総司がどんな思いでいるだろうか。

 伊東先生が死んだ。

 今、近藤勇までもが、この仕打ちだ。

 総司が一番辛い時に、己が泣く訳にはいかない。

 瑠璃は吹っ切って歩き出した。

 のぶさんに手紙を書かねば。


 沖田総司は、松本良順に匿われ、千駄ヶ谷の植木屋、平五郎宅にうつって、床に伏せっていた。

 近藤勇の死に関して、皆、硬く口止めされていた為、総司は近藤勇の死を知らなかった。

「ゴホッゴホッ、……近藤さんは、どうされたのでしょうね。お便りは、来ませんか?」

 のぶは泣きそうになるのを抑えて、総司を励ました。

「歳ちゃんと彦五郎さんがついてるからね。近藤先生は勝ちまくって忙しいのよ、きっと。甘味と里芋を買ってくるわ。夕餉は総司ちゃんの好きな芋煮にしようね。」


 総司は、甘味も夕餉も、あまり食べなかった。

「総司ちゃん……?美味しくなかった、かな?」

「なんか、昨晩も、吐いちゃったから……。わたしの墓には……椿の花が咲いた枝を、手向けにしてくださいね。」

 のぶは、もう我慢出来なかった。

「やめようよ!瑠璃ちゃん、今も総司ちゃんを愛してるのに!死んじゃだめだよ!!」

 総司は、穏やかに答えた。

「知ってる。お瑠璃さんを、信じてる。」

 のぶは言葉を失った。

 総司は、わかってる。

 でも、瑠璃を残してくしか、出来ないんだ。

「のぶさん。泣かないでくれて、ありがとう。でもね。時が、来るから……。」


 五月六日。

 松本良順はついに、旧幕臣の軍医として出立す。

 幕臣、榎本武揚は、明治天皇の叔父、輪王寺宮の江戸脱出を手助けす。

 榎本武揚の忠言を聴かず、新政府軍を嫌った輪王寺宮は南北朝を唱え、奥羽越列藩同盟の盟主となる。

 陸奥国、出羽国、越後国の諸藩が、仙台藩にて、会津藩と庄内藩の、朝敵赦免嘆願の活動から始まったが、嘆願が拒絶されるや、列藩同盟は新政府軍に対抗する軍事同盟となった。

 松本良順はそこで軍医をした。

 当時のアメリカ公使は本国へ、「いま、武蔵国には二人のミカドがいる。現在、北方政権の方が有力である。」と伝え、アメリカの新聞にもそのようにある。

 成立間もない五月中に、新政府軍は東北へ侵攻を開始し、戦の中で軍医・松本良順は野戦病院のように仲間たちを治療していく。

「国が変わる……だが、(おの)が忠道を捨てる理由にはならざり。」

 医師とて侍、志しありて将軍、徳川家茂を看取った軍医の戦いであった。


 六月半ば。

 のぶが、ようやく甘味屋で椿の練り切りを見つけ出し、喜んで植木屋に帰宅した。

 ろくに食べれなくなった総司でも、椿の練り切りなら、元気になるだろう。

 のぶが草履を脱いで植木屋に入って行くと、松本良順の看護婦達が、総司の寝床の傍らに座っていた。

 看護婦が、眠る総司の顔に、布をかけた。

「え?……やめて!総司ちゃんは死んでない!!」

 のぶは咄嗟に駆けつけて、総司を守った。

 布をはずし、呼びかけた。

「総司ちゃん!総司ちゃん、起きて!椿だよ、総司ちゃん!!」

 松本良順の医院の看護婦達は、のぶをいたわった。

「のぶさん。貴女は土方歳三さんの姉であり、沖田総司さんの実の家族のようでした。よく、泣かずに堪えましたね。」

 のぶは、察してしまった。

 眠る総司は、息をしていない。

 総司は、死んだのだ。

 のぶは力無く座り込んだ。

「ご臨終です。咳は激しかったですが、幸い、眠りながら亡くなりました。」

 のぶはようやく自身に涙を許した。

 辛かった。

 歳三に、彦五郎に、支えて欲しかった。

 だが、のぶがやらねば、誰が弔う?

 ひとしきり泣いてから、のぶは立ち上がった。

「お寺を……探さなくては。旧幕臣に寛容なところを、探して……お墓に弔わなきゃ……総司ちゃんの目印だわ。瑠璃ちゃんが、辿りつく為に。」

 松本良順の医院の看護婦達が、申し出た。

「松本良順先生なら、お寺探しに力添え出来ます。のぶさんは、遺体を冷やし安置してお守りください。」


 夜半、看護婦達が松本良順に文を出す。

 一月後には、仙台から手紙が来た。

「弔うには、専称寺がよろしい。わたしが口添え致そう。こちらも形勢は不利なままだ。わたしが帰るまで、遺体を保存するように。」


 のぶは、毎晩夢にうなされた。

 総司の遺体が腐り、虫に食われていく。

「やめて!やめて!!」

 夢の中ののぶは、必死に総司の遺体の虫を払う。

 のぶは、だいたい深夜に起きて、総司の遺体を冷やす為に、手を尽くした。


 奥羽越列藩同盟は、諸藩が次々と降伏し、ついに九月には、中心だった会津や仙台が新政府軍に降伏す。

 松本良順も投獄されるが、明治二年に赦免され、東京の早稲田に西洋式病院を設立。

 沖田総司を専称寺に弔った。


 慶応四年は、明治元年となる。

 明治元年、十月二十日から、土方歳三と榎本武揚の奮戦す、箱館戦争が始まった。

 新政府軍と、旧幕府軍の、最後の戦いである。

 元・海軍副総帥、榎本武揚は、勝海舟の説得に応じ数々の船を譲るが、自分達の主力艦、開陽等の温存に成功。

 この無敵の開陽があれば、形勢不利を覆すに充分であった。

 いわば、最後の武士道たる旧幕臣達の結束。

 彼らの志しに感銘したフランス軍人、ジュール・ブリュネらは、敗北しか見えない旧幕臣側に見切りをつけ、帰国命令を出したナポレオン三世に逆らい、旧幕府軍に同行す。

 ナポレオン三世説得の為の手紙を怠らず、最後の侍となる。


 蝦夷地の新政府軍を撃退し、旧幕府軍は十月二十六日に、五稜郭へ無血入城し、榎本武揚は艦隊を箱館へ入港させた。


 十月二十七日、土方歳三を総督として七百名を率いて、松前藩に武力鎮圧を試みる。

 松前城は、藩主は既に逃げており、僅か百名が残存したが、二十八日に数時間で落城す。

 松前城の残兵は、江差方面へ敗走した。


 十一月十二日、旧幕府軍は五百名が江差に向けて進撃す。

 十五日、江差に迫ると、既に松前兵は撤兵し、江差攻略の支援に来た開陽と海軍が、江差を無血占領していた。

 しかし、この時いきなり天候が悪化し、主力艦・開陽が座礁。

 開陽を助けに来た、回天と神速丸だったが、神速丸も座礁。

 数日で開陽は沈没した。

 開陽の損失により、旧幕府軍は制海権の維持が困難となり、新政府軍の蝦夷地上陸を許してしまうこととなった。


 十二月十五日、旧幕府軍によって箱館政権発足。

 蝦夷共和国の誕生であった。

 総帥・榎本武揚は、蝦夷地開拓の嘆願書を、イギリス、フランスの軍艦に託した。


 ここが、時代の分かれ目となった。

 ブリュネの説得。

 ナポレオン三世。

 そして、()()()()()()()()()()()という、男。


 場所は蝦夷地。

 新政府軍は冬が過ぎるのを待ち、翌、明治二年、二月に、八千人の兵と、軍艦四隻で、青森へ入る。

 三月に宮古湾海戦にて、旧幕府軍は敗退。


 四月九日、早朝。

 新政府軍は蝦夷共和国・乙部に上陸した。

 圧倒的兵力差に押し負ける蝦夷共和国軍だが、イギリス船から仙台藩を脱藩した見国隊四百名が加入した。

 連日の敗戦が続くが、二股口の戦いで土方歳三の指揮が始まると、十三日正午過ぎから、十六時間に渡る激戦で、新政府軍は疲労困憊により稲倉石まで撤退。初の勝利を飾った。

 二十二日、土方歳三は再び新政府軍を撃退。

 さらに新政府軍は二回敗退。

 以降、新政府軍は二股口を迂回する道を山中に切り開き、四月二十九日、矢不来が新政府軍に突破される。

 退路をたたれる危険があった土方歳三軍は、五稜郭に撤退した。

 五月一日、新政府軍は兵を集結、箱館総攻撃の態勢を整えた。

 二日、旧幕府軍のフランス軍人ブリュネら一同は、訳あってフランス船で箱館を脱出。

 十一日、新政府軍四千名は海陸両方から、箱館総攻撃を開始した。

 新政府軍は四稜郭、箱館山を占領。

 箱館山の番兵、新撰組は遁走し、砲台、弁天台場に逃げ込んだ。

 この時の局長は相馬主計であり、共に戦ったのは島田魁である。

 土方歳三は五稜郭におり、知らせを聞いて新撰組救出に向かう。

 途中で陸軍奉行添役大野右仲と会い、共に一本木関門に至る。

 その時、蝦夷共和国軍の艦隊が敵艦を撃沈させた為、土方歳三らの士気は大いに高まった。

 土方歳三は、

「この機を逃すなッ!!」

 と、大野に命じ、自ら指揮をとった。

「退却する者あらば斬る!!

 斬れ!!進めぇ!!

 撃て!!進めぇ!!

 此処が、俺が……新撰組だァッ!!!」

 歴史の分かれ目であった。

 土方歳三には、しっかりと新政府軍の狙撃兵のマークがつけられていた。

 土方歳三は、あわや、此処で死ぬやもしれなかった。

 そこに現れたのは、フランスのコルベット艦ル デュプレックス率いるフランス艦隊である。

 ブリュネの説得に応じた。

 いや。

 ドニファンの策中に落ちた、ナポレオン三世の計らいであった。

 二十五歳のア・パリ中尉は、フランス公使の明治天皇拝謁に同行し、ナポレオン三世の手紙をを天皇陛下にお読みいただいた。

 コルベット艦ル デュプレックスの海の彼方への大砲砲撃に、新政府軍も蝦夷共和国軍も目をむいた。

「休戦である!!フランス皇帝ナポレオン三世陛下のお達しあり、フランスはここに蝦夷共和国との同盟条約を果たし、フランス海軍の増援を送るものとし、改めてフランス公使は明治天皇に拝謁したのだ!!結果、蝦夷共和国と明治天皇は和平!!明治天皇のご命令であるぞ、新政府軍はただちに撤兵せよ!!蝦夷共和国は成立!!植民地ではなく、正式な独立である!!この国は、フランス移民と和人により、開拓の地となるのである!!」

 ア・パリ中尉の代わりに叫んでいたのは、束の間いなかったジュール・ブリュネと、その部下カズヌーブ、マルラン、フォルタン、ブッフィエらである。日本語が流暢な彼らの通達により、箱館戦争は終戦。

 明治二年 。

 箱館戦争、五月十七日、終結。



 中編へ続く

Copyright(C)2026 燎 空綺羅

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