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壬生狼チャンバラ  作者: 燎 空綺羅
序章 第四話 死が二人を別つとも ー前編ー
32/47

4-1-9

 ある日、療養に飽きて遊びたい総司がごねているところへ、宮川勇五郎が付き合った。

 勇五郎は、勇の兄・宮川音五郎の次男で、勇がぜひ娘の婚約者にと、養子縁組を望み、まだ年若い二人を同居させていた。

 勇五郎が正式に婿養子になるのは、勇の死後である。

「勇五郎さん、遊ぼう!」

「いいよ、総司さん。囲碁がいいかな?将棋がいいかな?」

 総司は苦笑いだ。

「えー。それら、わたし滅法弱いんで。対局は、同じくらい弱い土方さん限定ですよ。枕投げとかしたいですねぇー。」

 勇五郎は注意した。

「枕投げは埃が出るから、肺結核に良くないよ?……昔話でもするかい?」

「昔話?父上から何か聞きましたか?近藤さんのおもらしとか?」

「え!?総司さん、その話はくれぐれも内密に。あのー、まずは俺から行く?」

 総司は笑顔で瞬き。

「ん?何を?」

「恋話。この勇五郎も幼き日から、色々ありました。」

「……たまさんいないよね?出かけてます?」

「たまは親友の家にお泊まりです。傷つけるような日は選ばないよ。」

 総司は照れたり気にしたりしながら、好奇心に負けた。

「……聞きましょうとも!わたしにも疑問があるんで、質問よろしいですかね?」

 勇五郎は素朴に笑って頷いた。

「いいよ。昔話だからね。」

 総司はちょっとニヤけて、冷やかしながら尋ねた。

「じゃじゃーん。ずばり、勇五郎さんがおなごに惚れるきっかけは!?顔?才能?剛腕?」

「ん!?剛腕や才能では中々惚れなくない?俺は馬鹿な頃は、おなごの顔で惚れてたけど、途中で変わったな〜。顔より中身は大事だ。肝心なのは、義理堅くて慎ましいところだったなぁ〜。」

「慎ましさ……?控えめな人が好みなんです?」

 勇五郎はニッコリした。

「うん。控えめな人好きだし、俺は強い男じゃあないから、自分がしっかりして守ってあげなくちゃ、て、思えるからね。」

 総司は陽気に尋ねた。

「でも、古い価値観じゃないですかね?強いおなごと助け合うのも、新時代ですよー!」

 勇五郎は苦笑い。

「誤解だよ総司さん。強いおなごも好きだよ。でもね、俺が弱い人間だからさ。強いおなごに惚れたら、頼りきりになってしまう訳よ。負担ばかりの悪い男になる。だから、相性的に、控えめなおなごを選ぶ訳よ。」

 総司は感心した。

「そうか……えらい!己を知り、弱さを戒めてらしたのか!」

「でも例外もあったな。普段は控えめなのに、学問の話になるとすごい早口になる子もいたよ。好きな話だと生き生きする。結局は、生き生きした目が、一番惹かれるんだよね。馬鹿の俺には、叶わない恋だったけどさ。賢い先生に見込まれて、その子は学問の探求に。お識ちゃん、いま、幸せなのかな……。」

 総司は他人事にならず、勇五郎の手を取り、励ました。

「幸せだと、願うしかないじゃないですか!気落ちしちゃダメだ、勇五郎さん!わたしだって馬鹿だったよ。京で、剣の才覚ある人に恋をして。目が生き生きしてたのに、わたしはあの人を曇らせてばっかりだ。」

 勇五郎は、つい、尋ねた。

「何人目の恋?総司さんは、遊女とは遊ばない感じがする。」

「初恋です!一人だけ!今となってはそれも悔い!初恋だから、未経験が馬鹿をやらかした!医者の娘で、遊女ではないですよ。」

 勇五郎は驚いた。

「総司さんかっこいい。初志貫徹なんて、なかなか出来ないよ。」

「まぁね!わたしの恋は揺るぎませんから!そりゃあダメ人間でしたが、愛には自信がありますよ!」

 勇五郎はさとった。花瓶に大事に刺された椿の枝を見て。

「……椿の人、だね?総司さん、たまにもらった椿の帯留め、すごく喜んでたから。思い出の花なの?」

 総司は笑った。

「あぁ、不思議でしたか?おっしゃる通り、椿はわたし達の特別な花でして。」

 勇五郎は、こんなにいいひとの総司がフラれるはずは無い、と思った。

 しかも、おなごも総司も剣に生き生きしていたようだし。

「破談にしたのは、もしやお義父さん?武家の娘じゃ無かったから?」

 総司は慌てて近藤勇を庇った。

「違うよ!近藤さんは正しかったんだ。わたしが彼女を悩ませるから、わたしから助ける為に、彼女を裕福な商家に娶らせたんだから。」

 勇五郎は、深い経緯を知らないだけに、近藤勇の行動は余計なお世話だと感じた。

「でも……総司さんと椿の人は、剣に強くて生き生きして。唯一の人だったんじゃあ、ないの?人間は成長するんだ。馬鹿やらかしたって、きっと今の総司さんは違うはずだ。」

 明るかった総司が、いきなり泣きだした。

「うっ、うっ、ひぐ……っ!勇五郎さん!!辛いよぉ!!あの子が好きなんだ!!別れたくなかったんだ!!」

 勇五郎はびっくりして、涙でビショ濡れの総司を励ました。

「総司さんごめんね。辛いのは、総司さんだね。余計なお節介した。」

 総司はぐしゃぐしゃに泣きながら、告げた。

「確かにわたしが悪かった!けど!今のわたしは違うんだ!生きたかった、生きて幸せにしたかったんだ!あの人を、好きだったんですよ!!忘れられないほど、愛した人なんですよ!!本当なら、とても考えたくないんだ!わたし以外と伴侶になって、幸せでいてだなんて!……だけどさ!幸せだと、願うしか出来ないよ!!彼女が不幸だったら、わたしは悲しいんだからさ!!」

 勇五郎は、総司の想いを汲み、肩を支えた。

「……生きよう。治療に専念して、生き残って、総司さん。生きてれば、第二の恋があるよ。俺とたまみたいに、昔と違う幸せは、きっと先の道にあるから。」


 翌日。

 勇五郎の説得で、近藤勇と宮川勇五郎が出稽古へ。

 たまは、瑠璃を連れて、互いに一礼して、正座した。

「総司の手前、貴女の迎えが出遅れたこと、詫びさせて欲しい。」

「お構いなく。」

「瑠璃さん。偽名を使いなさい。総司はあれでも巷では人斬り扱いです。偽名で素性を隠し……帳簿に載せます。我が天然理心流の、門下生と認めましょう。」

 瑠璃は躊躇いながら、尋ねた。

「おなごのわたしが、門下生になってよろしいのですか?」

 近藤勇は、話しながら勇五郎を紹介した。

「おなごが門下生になってはならん決まりはありません。総司とて吾輩より強いです。ただ、吾輩は過ちを犯しました。新撰組は戦い続けるしかないでしょう。故に、兄の息子たるこの勇五郎に、近藤道場を任せます。勇五郎、この方がお瑠璃さんだ。指導を頼むぞ。」

 勇五郎はたまと顔を合わせ、つい拍手した。

「とはいえ、俺から瑠璃さんに教えられるのは、防具のつけ方や脛蹴りぐらいでは?その、綺麗な椿の羽織に合わせた、えんじ色の袴。帯刀した刀の抜かりなさ。踏み込みからして、常に足音を消してますね?」

「勇五郎先生、お褒めにあやかりましたが、わたしが目指す総司さんは、もっと上を行く剣客です。是非とも稽古させてください、天然理心流を。」

 たまは、惚れ惚れした。

「素晴らしい向上心。自分と同じおなごとは、思えませぬ……。美しい方なのに、貴女の眼には剣しか映らぬかのような。台所仕事しか脳の無いたまは、恥ずかしゅうて。」

 瑠璃は気さくに微笑んだ。

「わたしも毎日台所仕事しますよ?つい先程など、焼いてたししゃもを焦がしまして。料理は下手くそです。頭が剣でいっぱいの、剣馬鹿なものですから。」

 瑠璃は、正式な天然理心流の門下生となった。

 帰り道、近藤勇は勇五郎に、口酸っぱく教えた。

「総司に話すな。そして、いざ幕府の側で戦う我等に関わること無く。京が戦になったら、彦五郎さんが守っている江戸の近藤道場へ。天然理心流と門下生を任せるぞ。」

 勇五郎は考えた。

「うーん。」

「勇五郎?」

「天然理心流は、任されましたが……俺には、瑠璃さんの太刀筋、速すぎて見えないんですよ。明らかに、指導する側じゃあないというか。こう、俺の腕では足りない……。」

 近藤勇は唸った。

「馬鹿を言え。吾輩とて剣で総司にかかれば赤子同然よ。道場主の役割は、皆の責任を背負うことにある。……お瑠璃殿は、いずれ奥義、無明剣・三段突きが完成されるだろう。士道を導いてやりなさい。吾輩らとは違う、新時代の、剣客としてな。」

「……はい!そういうことなら、任されました!」

 

 十二月十一日、新撰組は会津公用方の命で、屯所を引き払い、京を去り大阪へ。

 ついて行くときかぬ沖田総司を駕籠に乗せ、つね、たま、勇五郎は、各自沖田総司に別れを済ませ、近藤勇に頼んだ。

「お義父さん。総司さんを、お願いします。」

「うむ。ゆくか、総司!」

 総司は駕籠の中から呑気に返した。

「死出の旅路でしょ?離れませんよ、わたし。ずっとずっと、一番隊組長ですから。」


 会津藩のお達しあって、新撰組は大阪へと旅立った。

 伏見一円を固めよ、との命令である。

 時は薩長土の同盟にあり、朝廷の幕臣への圧迫は強まり、志士達は一触即発、今にも戦になりかねん気配であった。

 新撰組は伏見市中を警護で、隊士に巡邏させていると、時々隊士が怪我をして帰ってくる。

 これに、副長・土方歳三は不審の目を向け、永倉新八に市中見廻りを頼んだ。

 永倉新八は夜十時ごろ、腕利きの隊士十人、島田魁、伊東鉄五郎、中村小次郎などを引き連れ、市中に怪しい挙動の者があれば斬り捨てる覚悟で巡邏したが、一人たりとも出会わず。

 やや拍子抜けしながら、新撰組本部に借りた伏見奉公所に戻っていくと。

 とある土塀に、守宮(やもり)のように身をつけて忍ぶもの達があった。

「なんでぇ、てめぇら!!どこのどっから来やがった、何奴でぇい!?」

 永倉新八の一喝で、彼らはバラバラに逃げてしまった。

 油断ならじと、永倉はその件を土方歳三に報告した。

 翌朝、永倉新八は計らずも怪しい手紙を拾った。

 永倉の部下の小林啓之助が、落とした模様だが、永倉が呼び止める間もなく小林は朝餉に走って行ったのだ。

 宛名は、篠原泰之進。あの伊東に並ぶ賢い弁論の、伊東派残党である。

 近藤勇は天狗なのが癪だが、かといって永倉が、友情を捨てた訳でなし。

 仕方無しに永倉は手紙を読んだ。

 手紙には、新撰組の秘密をことごとく書いてあり、前夜の永倉らの出勤さえ書かれていた。

 永倉は手紙を、土方歳三の元へ運んだ。

 文に目を通した土方歳三は、告げた。

「この時にあって新撰組に反逆者ありきとしれば、いかな隊士達とて動揺しちまう。島田魁に話して、連れて来な。小林は誰にも気づかれぬよう絞殺し、密葬するものとするぜ。」

 永倉新八は眉を顰めた。

「土方歳三よ。俺んとこの伍長の島田魁に、俺の部下の小林を殺させるってえのかい?そりゃあ、情けもへったくれもねぇやな!しかも、伊東殿は俺の敵じゃあねぇやい!」

 土方歳三はまっとうに尋ねた。

「おめぇの反感で新撰組を全滅させてぇかい?小林がやってることは、そういうことだぜ。伊東の生前に戻る道でもあるなら、行きな。だが、永倉よ。おめぇも、幕臣の誉れあって新撰組に着いて来た。違うか。」

 永倉新八は根負けし、島田魁に訳を話し、二人で小林啓之助をつれて、土方歳三の部屋の襖を開けた。

 小林は、永倉新八の表情から、自身の死に場を見抜いていた。

 土方歳三はじろりと睨み、小林に言った。

「御用の儀は。」

 小林は、自ら首を差し出した。

「永倉組長。お世話になりました。島田さん、お願いします。」

 永倉新八は涙ぐんだ。

 島田魁は、その怪力で、小林を絞殺した。

「……こんなのは違う!胸糞悪ぃ。」

 永倉新八に、島田魁が応えた。

「俺も、胸糞が悪いです、永倉組長。だけど、伊東さんは死んで、もう、旧幕臣を助けられるのは、新撰組だけなんです。内輪揉めしていては、本末転倒だ。俺は汚れ仕事だってやります。新撰組である為に。」

※引用……地図と読む新撰組顛末記 永倉新八


Copyright(C)2026 燎 空綺羅

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