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壬生狼チャンバラ  作者: 燎 空綺羅
序章 第三話 一徹の鬼
21/54

3-8

 明治四年、一月六日。

 オテルの屯所では、正月を祝う隊士達の姿が見られた。

 蝦夷共和国のフランス人街では、新年を祝う人々の祝砲が。

 和人には、武蔵国から輸入された餅が、配られた。

 もちろん、フランス人でも手に入れる事が出来、フランス人と和人が親しい場合は、バター醤油磯辺餅なんかにして、美味しく食卓を囲んだ。

 場所はオテルに戻る。

 少し遅れた餅であったが、これでようやく正月というもの、と、浮かれる隊士達。

 相馬と藤堂は待ちきれずに厨房に走っていく。

「餅が食べたい!島田さん、餅!!」

「お待ちあれ!島田汁粉を煮てごろうじます!!」

「なんだ、このむせ返るような、甘い匂い……?」

 土方歳三が厨房に顔を出した。

「今年は相馬と藤堂か。正月の厨房は汁粉みずちだ、おめぇら島田汁粉を食わされるぞ。」

「えぇ?土方さん、俺、汁粉は好きだよ?」

「皆最初は、そう言うな。今が花だと思いな。」

 甘過ぎても地獄だという島田汁粉、新撰組の正月の慣わしだ。

 永倉新八、奥方のお裾分けを新たに持ち、オテルの門を開けた。

「おきねさんの特製おせち料理のお裾分けでぃっ!!そぉ〜ら!!食いねぇ食いねぇ!!!」

「ありがてえ〜ッ!!」

 隊士達は喜んでおせち料理に箸をつけた。


 そこへ、オテルの鐘がなる。

「あり?」

 オテルの鐘は、正式な訪問者たる榎本武揚くらいしか、鳴らす事は無いのだ。

 土方歳三、指示を飛ばした。

「全員中庭に整列!!」

 隊士達は慌てて中庭に整列。

 土方歳三に後から相馬がついて歩き、玄関を開ける。

 榎本武揚は馬車で、芹沢鴨を連れていた。

「happy new year!

(あけましておめでとう!)

 土方君。こちらが武蔵国大使の芹沢さんだ。芹沢さん、こちらは箱館戦争の大英雄、陸軍少将で新撰組の、土方歳三君です。」

 馬にまたがっていたのは、平山五郎、平間重助、それに原田左之助である。

「来たか」

「土方君?」

「いいえ。榎本さん、そして筆頭局長兼武蔵国大使の芹沢さん、お待ちしてました。」

「健在で何よりだ、土方君。」

 相馬は真っ青になる。

「芹沢……!?」

 死んだはずの芹沢鴨だ。

 一行は中庭まで通され、皆が皆驚いた。

「芹沢鴨は、長州人に殺されたはずじゃあ……」

「馬鹿!きっと真相は、近藤局長の闇討ちだろ」

 芹沢鴨は、鉄扇を広げ、事前に公言した。

「新撰組とわたしの仲は、昔は波紋もあったが、それは会津若松あった時代の話である!今は武蔵国大使とし、天皇陛下と新撰組の縁を補うものとして、支援致す次第だ!諸君らには、わたしから敵対する意思は、微塵も無いと、考えていただきたい!!」

 榎本武揚は今更になって、土方歳三と芹沢鴨を見比べた。

「御二方は、知り合いなのでしたか。」

 土方歳三は、自身の使命の達成を感じていた。

「待っていたぜ。芹沢さんよ。総司に、感謝しなけりゃあな。」

「わたしを、待っていたと?変わったな、土方君も。」

 土方歳三、剣を地に立て、潔く言った。

「ならば、芹沢さんよ。ひと稽古しようや。」

「稽古だと?真剣を使ってかね。」

「あぁ。長い旅だった。俺も、アンタも。だが、言葉を交わすより剣だ。剣を打ち合う時たぁ、ひとは皆、裸ん坊みてぇなもんさ。」

「土方君!?荒事はよしたまえよ!」

 榎本武揚は怯むが、芹沢が受け入れた。

「なるほど。それで水に流すというのならば、我々も応じねばなるまいな。先鋒!原田君!!」

 先鋒と呼ばれて出てきたのは、原田左之助だ。

 自慢の槍を振り回し、構えた。

「承知之助ェ!隊士は選びな、土方さんよォ!生半可者じゃ、生かす方がてぇへんなんでなぁ!!」

 土方歳三、にっと笑う。

「原田が相手じゃ、先鋒に一番強えのを出すしかあるめぇよ。永倉ァ!!」

 永倉新八、剣を京劇の如く振り回し、見参仕った。

「いよぉ!おきねさんのおせちは食ったか、左之ォ!?」

「おぅともよ!おかげさまで新年、一家団欒よ!!」

「ならば!!これより先、剣のみで語り合おうぞ!!」

「おぅッ!!原田左之助、手前の槍は種田宝蔵院流を谷三十郎に倣い、眼前貫く無双の技也!!!」

「永倉新八、手前の剣は神道無念流を岡田十松に倣い、これを改め殺さずの剣、活人剣に到るもの也!!!」

 原田はにっと笑い、賛美した。

「活人剣!ならば俺たちゃ安心して斬りあえらぁな!!」

「いざ、いざいざ!!あの松の雀が飛び立った時!!」

「あぁ!!いざ、尋常にぃ!!!」

 松の雀は飛び立った。

「勝負!!!!」


 激しい剣戟の音。

 慣れ親しんだ左之の槍はリーチが長く、当然だが鉄壁の守備を固めていた。

 左之は馬鹿にあらず。

 自身の親友、永倉新八が、新撰組最強と心得ているからこその、守りの攻防戦だ。

 親しき者同士、戦い方を熟知している。

「ドラァッ!!」

 永倉新八の剛の剣が、八相、阿頼耶識で、力づくで槍を弾きにかかるや、左之助は身をかわしながら、突き払いを繰り出した。

「どうした、どうしたァーッ!!腕が鈍っちまったか、新八ィッ!!!」

 永倉新八は突きを槍受け技、天矛逸で受け流しながら、応じた。

「おめぇを相手に、永倉活人剣じゃあ困ったものよッ!!手加減しちゃあ、俺も死んじまうかんなぁッ!!!」

 左之助は距離を取り、槍を振り回してから構えた。

「だと思ったぜ!この左之助様を舐めてもらっちゃあいただけないねッ!!さぁ、さぁ!あの技を見せな、がむしん!!でねぇと、俺がおめぇを殺しちまわぁ!!」

 ※がむしん……がむしゃら新八の意。

 永倉新八、唯ならぬ気迫で構えた。

 日を照り返すは、愛刀、播州住(ばんしゅうじゅう)手柄(てがら)山氏繁(やまうじしげ)

 剣を下段に構え、踏み込み一閃。

 永倉新八の剣は下から上へと流れ、左之助の槍を絡め取り、下へと弾き落とした。

 あまりの技量。

 あまりの神速に、皆、息を呑んだ。

 永倉新八、刀を鞘に納めながら、告げた。

「永倉活人剣、新・龍飛剣。原田左之助、討ち取ったり!!」

 原田左之助は降参の手を上げた。

「ヘヘッ!がむしんは、こうでなくちゃあよ!!」

 藤堂平助が真っ先に原田、永倉に駆けつけた。

「原田兄、永倉兄!!いまの、大丈夫なのか!?」

「へーきへーき!!」

「活人剣にゃあ驚いたがな!前の新八なら、俺の槍を容赦なく斬り捨てたね!」

 藤堂平助は涙ぐんだ。

「やめてよぉ!二度と誰も死なないでよぉ!!」

 二人は笑いながら藤堂を撫でた。

「泣くな藤堂、決着はついたんでぃ!」

「新八め、相変わらず強ええやな!!芹沢さん、先鋒は俺の負けだ。」

 芹沢、頷いた。

「うむ!原田君、永倉君!見事な果たし合いであった!」

 榎本武揚、ハラハラし、泡を吹きそうである。

「な、何故、味方同士で斬り合いをするのだね!?」

 土方歳三が、告げた。

「野蛮かい?これが、新撰組の新しい入隊儀式……壬生狼チャンバラだから、さ。」

 芹沢鴨が尋ねた。

「次はどうするね?土方君、生憎わたしは二度と剣を振るえぬ身体だ。フェアじゃなかろう。その分、平山君と平間君を手勢に加えたいのだが。」

「待ちなよ。芹沢さん。」

 斎藤一が歩み出た。

「平間重助はともかく、平山五郎は土方に武が悪すぎでしょ。笑いながら何人斬ってきたか、そいつさぁ。」

 平山、これを受け、ニヤニヤしながら斎藤一に向き合った。

「へぇ?斎藤君のような天才が、俺みたいなゴロツキを警戒しちゃう訳だ。光栄だねぇ。もし、俺が土方君を斬ってたら?」

 斎藤一は、睨みを効かせた。

「土方は俺の獲物だ。させねぇよ?」

 土方、斎藤一に頷き、告げた。

「斎藤、平山五郎を頼む!藤堂!平間重助を任せる!三対三だ!」

「う……うん!!皆を守る為なら……先駆け、おして参る!!」

 藤堂平助も決意し、先駆け先生の気構えを発揮した。

 芹沢鴨、鉄扇を扇ぎ、背広を脱いだ。

 筋骨隆々、人の域を超えた筋肉美、モンスターマッスルである。

「よろしい。わたし達の因縁も、この戦いで水に流そうではないか。剣には剣の、男には男の作法があろう。」

「安心しな。俺ぁ……近藤さん直伝の天然理心流で行く。」

「近藤君の剣……?まぁ、よろしい。では、雲の影がオテルに落ちた時。斬り結ぼうではないか。」


(走り続けた。一徹を、通した。だが……俺が置き去りにしてきた、近藤さんは。)


「いやあああッ!!」

 藤堂平助は正眼、脇構之打落にて、平間重助の剣を押し切って行く。

「お、お手柔らかにッ!!」

 怯む平間に藤堂平助、待った無し。

「剣に容赦が、通じるものかぁッ!!!」

 先駆け先生、藤堂は、ついに一瞬で形崩し、村雲にて、平間の剣を斬り飛ばした。

「一本!!」

「さぁて、ど〜かな〜?」

「!!」

 平山五郎は、卑怯にも藤堂平助の背後から斬りかかる。

「危ねぇ!藤堂!!」

 間一髪、土方歳三の不器用な太刀筋が、平山五郎の剣を弾いた。

「また、背後から斬られるかと……ゴホッゴホッ」

 土方歳三は斎藤一と共に、古傷からの体力消耗の著しい藤堂平助を庇って前に出、構えた。

「下がってなよ、平助!おい、土方!平山五郎にアンタじゃ太刀打ちできゃしねぇよ。平山は俺に任せて、アンタは芹沢さんの相手をしな!」

 芹沢鴨は鉄扇を広げ、扇いだ。

「平山君と同時には、わたしは動かんので、安心しなさい!平山君を使っているぐらいだから、それぐらいは融通せねば、フェアでは無かろう!それから、平山君!得意の不意打ちは仕方ないが、卑怯はよしたまえよ!」

「はいはーい!そんじゃあ平山五郎、あえてあえての、心理戦と行きますか!」

 平山五郎はなんと真っ先に土方歳三を仕留めにかかった。

 ただでさえ未熟な剣客の土方は、平山の手馴れた居合いをかわせない。

 しかも、この居合い、胴狙いではない。

 首だ。

 平山の踏み込み、射程距離からの居合いは、土方歳三の首を斬り落とすだろう。

 間髪入れず斎藤一の剣戟が、平山五郎の居合いを弾き飛ばした。

 斎藤一はキレていた。

「てめぇ、わざわざオレの獲物狙いやがったな?なに?オレをキレさせて、お前に得あんの?」

 平山五郎はニッコリ笑った。

「だって斎藤君、実力隠すでしょ〜?我流の斎藤一の剣は、俺にも太刀筋がわからない!これってさぁ、斎藤一の最強剣を見る、千載一遇の機会でしょお!?」

 激しい斎藤一の打ち込みが始まった。

 閃くは、愛刀、鬼神丸国重。

 素早い踏み込みに型は無く、先の読めない攻防戦に平山五郎は舞い上がった。

「やべぇやべぇ!後手に回るのが精一杯で、うっとり♡」

「オレの剣をご所望かい!?そんなら、てめぇの身体で味わいなよ!!」

 いくら打ち返しても、斎藤一の手の内は読めない。

 踏み込み、繰り出す剣戟、予測不能。

「興奮しちゃうねェ〜!まったく先が読めない、斎藤君の太刀筋は!!山口一刀流の節が感じられながらも、ぜんっぜん型に縛られちゃあいない!すごいすごい!!オレが防戦一方だ!!」

 隊士達と見物していた永倉新八と原田左之助が、ニヤリと笑った。

 相馬主計が慌てて尋ねた。

「永倉さん、原田さん両名!解説お願いします!お、俺たち平隊士には、あの二人の戦いが何事かわからないです!」

「平山五郎は確かに天才格だが、なぁ!こと、人斬りに関しちゃあよ!しかし相手はあの斎藤一!新八ィ、どう見る!?」

「うむッ!左之よ!かつて、沖田総司は猛者の剣、斎藤一は無敵の剣であった!!我流だからこその強みッ!!斎藤殿のがむしゃらさは、山口一刀流に留まらず、生き死にの場を百と超えた、最強の自由剣でぃ!!」

 平山の守りを突き抜けた斎藤一が、平山五郎の首すじに剣を突きつけた。

 平山五郎、剣を捨て、降参の姿勢を取る。

「あーぁ。まだ楽しみたかったのに、オレの実力不足かぁ〜。」

「一本!!」

 芹沢は尋ねた。

「これで数ではわたしの出番はなくなった。新撰組の勝利ではないかね?わたしの側は三人敗退した。平山君の敗北で、もはやあいこもなくなったろう。」

 土方歳三が前に出た。

「俺がいるぜ、芹沢さん。これは、俺からアンタに大事なもんを、譲り受ける儀式だ。試合は続行するぜ。」

「……!アンタまさか!」

 土方歳三の胸ぐらを掴んだ斎藤一を、事情がわからない永倉新八が取り押さえた。

「やめろやいッ!!所詮俺たちゃ、剣をかわさにゃ分かり合えねェ!!土方歳三は、芹沢さんと分かり合おうとしているッ!!邪魔すんないッ!!!」

 永倉新八に羽交い締めにされながら、斎藤一は怒鳴った。

「逃げんなッ!!土方ァ!!」

 芹沢鴨は、永倉新八に一理あると判断し、鉄扇を構えた。

 傷だらけの、巨魁。

 一命を取り留めた芹沢だが、もはや剣を振るう筋は切断されている。

「わたしと死合うことで、土方君、君が分かり合えるならば。この芹沢鴨は提案を飲もうとも!!さぁ、さぁ!かかってきたまえよッ!!」

 土方歳三、日を照り返すは、愛刀、和泉守兼定。

 構えは近藤勇に習いし天然理心流。

「……参るッ!!」

 走る剣戟の音。

 芹沢は剣こそ扱えぬ身体だが、鉄扇だけでこの破壊力ッ!!

 土方歳三が回避した一撃は、中庭のマリア像を砕き割る!!

「あぁッ!!蝦夷共和国のフランス移民の芸術作品が……!!」

 オテルの彫刻が壊れるたび、後始末の責任者たる、蝦夷共和国、総帥、榎本武揚は頭を抱えた。

「新撰組でも稽古を欠かさなかったのだろう、土方君ッ!!さぁ、君の浮島を見せたまえ!!」

 土方歳三は過去に戻り、近藤勇の教えを思い出す。

 土方歳三は、ゆっくりと平晴眼の構えを取った。

 そして踏み込み、相手を真っ向から斬りつける剛剣。

「ぉぉおおおおおッ!!!」

 五月両剣である。

 芹沢はこれを慎重に払った。

 力加減に気をつけねば、鉄扇は土方歳三の和泉守兼定を砕くだろう。

「未熟なり!さぁ、カウンターを防いでみたまえッ!!」

 芹沢鴨のカウンター技が迫る。

 土方歳三は、今までの生き地獄を振り返った。

 辿り着いたぜ。近藤さん。

 ようやく、新撰組は、報われる。

 総司。芹沢鴨を逃がしてくれて、ありがとうよ。

 相応しい男だ。

 土方歳三は、和泉守兼定を、捨てた。

「「!??」」

 隊士達が青ざめた。

 斎藤一が歯を食いしばり、永倉新八が唖然としている。

 藤堂平助だけが、叫んだ。

「土方さぁんッ!!!」

 土方歳三は、使命を果たした。

 もはや、近藤勇や沖田総司の待つあの世ばかりが、彼の居場所のはずだ。

Copyright(C)2026 燎 空綺羅

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