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壬生狼チャンバラ  作者: 燎 空綺羅
序章 第一話 七陵星の御旗の元に
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1-2

 日の本は、本土は武蔵国となり、蝦夷地は蝦夷共和国として、分裂した。


 結局武蔵国から独立したはよいが、このまま政権が一歩滑ればフランスの植民地である。

 元より総帥、榎本武揚は、許しさえ与えられるならば、朝廷に顔を背けるつもり無く、今はただひたすらに、オランダ、フランスとの外交を深め、ロシアと駆け引きし、世界から移民を募い、国家としての成長を待つばかり。


 蝦夷共和国。

 国旗は菊の花に七陵星。

 30%がフランス移民、30%がアイヌ民族、タイ移民、ベトナム移民が10%、和人が30%。

 蝦夷共和国成立以来、武蔵国からは和人の蝦夷共和国移住を禁止された。

 アイヌ民族との共生の為に榎本は奔走し、旧幕臣達はアイヌの住まい、狩猟区域を、アイヌ人と交渉。旧幕臣達は、保護区の森の多さに怯んだが、そこは榎本武揚の器ありき、和人の屋敷は小さく二階建てに建築し、海外製品の輸入から工業革命を迎える。

 法律で決められたアイヌの狩猟区域には、和人やフランス人は立ち入らないし、アイヌが来ない森では盛んに狩りをし、また、フランス人の連れてきた家畜の豚は大いに育ち、余すところ無く食べられた。

 美味しいキノコも増える。フランスも日の本もキノコ愛好家である。

 だが、蒸気機関の煙だけは、アイヌの森を脅かす。榎本武揚の当面の悩みである。

 タイ人はこの北の大地に辛くて旨いスープ、トムヤムクンやら、焼きそばパッタイの出店で、蝦夷共和国の腹を温めている。

 ベトナム移民は、タイ人より上手くやれていて、フランス語を解するし、安くて美味しいバインミーがフランス移民を喜ばせた。

 フランス人のレストランは大いに賑わい、旨いことこの上ないが、榎本武揚らは米が恋しく、しかし武家一派故に、農作物の扱いは知らぬ。

 仕方なしに外交上問題の無いタイからタイ米を輸入したが、これが割と旨く、こってりして美味しいフランス料理のお供、サフランライスになるのであった。

 宗教体型はフランス人と少しの和人がキリスト教カルヴァン派で、ほとんどキリスト教国家である。

 武蔵国では天皇陛下=神を国教として詔を賜ったが、蝦夷共和国では和人は少数だし、外交上仕方ない。

 幕臣達も聖書まで読まずとも、ミサの後に世間話をするのが日課となる。

 同時に菩薩像に祈るのだから、フランス人には変な顔で見られてはいるが。

 中には、アイヌの信じる大自然のカムイを信じる和人もいるし、仏様を信じるフランス人もいる。

 ちなみに、タイ米輸入の影響から、タイ人移民が現在進行形で増えており、辛くて酸っぱい旨い飯屋台が増え、幕臣らはタイ人に身振り手振り交渉しながら、寒い日は熱心にトムヤムクンを買いに行くのだ。

 蝦夷共和国は一年余りで飯旨国家になってしまった。

 男達がベトナム人やタイ人の飯に食いつく中、一方で、和人のご婦人方はフランスの飯屋に行きたがる。ドレスを着る理由になるからだ。

 新聞も忘れちゃいけない。フランス人が売る新聞は、この時、ダルタニアン物語やモンテ・クリスト伯で知られる大文豪、アレクサンドル・デュマの死を知らせていた。

 デュマ・ペールの文学はいま、日本語訳の真っ只中で、もうしばらくしたら蝦夷共和国は大いに賑わうことだろう。

 移動手段は馬の騎乗、または馬車による。

 ただし、蝦夷共和国は金銭面では苦しい。名産の鮭やら豚は輸入できるが、まだまだ新参国家で、軍艦も欲しいしミニエー銃も欲しい。

 貧しさで国民から通行税を搾り取る有様。国の内部は物価が安いから困らないが、外交上は非常に困っているのだ。

 蝦夷共和国建立から2年後、郵便制度開始。郵便マークは榎本武揚によって作られたのである。

 ※蝦夷共和国……えぞきょうわこく。現在の北海道。

 ※武蔵国……むさしのこく。現在の日本。


 明治三年、二月二十九日。

「榎本さん。蝦夷共和国の様子を見てきたが、今のとこ安泰だ。俺ァ、新撰組に戻りてぇが、降格してくれるかい?」

 まさに、蝦夷共和国は国家としては充分だと、陸軍奉行並から出世して、陸軍少将になっていた土方歳三が、五稜郭に出廷し、総帥、榎本武揚に、新撰組への降格を求めた。

 榎本武揚は、フランス艦が来るまで持ち堪えたのは、この土方歳三の指揮によるから、到底手放したくは無かった。

「何故だね土方君。君は、ブリュネ元帥と共に、我らの最大戦力だ。蝦夷共和国はまだまだ未曾有の危機に瀕するやもしれないし、君の陸軍務めを軽んじることなかれ。我々幕臣には統率が足りない。これは、君の口癖だ。」

 土方歳三はにっと笑い、たちあがりざま、申し上げる。慌てて、身の回りの世話役の田村銀之助が、土方歳三の外套を持って来た。

「榎本さん。蝦夷地にわたる際から今日まで、俺の忠言は確かに、統率が足りぬ、ただそれ一言だった。だが、幕臣はあれ以来何もしなかった訳じゃねぇさ。今は上手く支え合ってる。フランス人だって味方だしな。榎本さんが捨て難ぇってんなら、俺は陸軍少将を辞退はしねぇさ。ただ、一時的に本来の居場所、新撰組に帰りてぇ。世界情勢、また、他国からしたら蝦夷共和国は武蔵国を攻め込む美味い土地だ。そこにつけいる不届きな輩あらば、今より身軽になって取り締まりてぇのさ。俺は、只今より陸軍少将を休み、新撰組局長の任につかせていただきてぇ。」

 榎本武揚は頷き、土方歳三の長らくの願いを優先した。

「いつかこうなるとは、わかってはいたんだが。大いに世話になった、土方君よ。有事の際には、陸軍少将に戻ると約束して貰えるならば、君の願い、新撰組への帰還を止められる者がおろうか。行きなさい土方君。君が守った、新撰組へ。」

「榎本さん。あんたは俺に身も知らぬ夢を見させてくれたよ。それが蝦夷共和国だ。だが、俺にも近藤さんをあんな目に合わせてしまった業がある。国を背負って生きるあんたと、隊士達を背負う俺では、役割は違うのさ。」

「国が。夢が潰える日まで、君がそう願うならば、わたしも国政を奮迅致そう。さぁ。君は新撰組の土方くんだ、昔も今もね。」

「ありがてぇ……。」


 フランス人の小さな女の子が、島田魁と雪で遊んでいた。

 島田魁のご近所さんで、普段から島田手製のお大福をお裾分けしている縁の、レティシアちゃんである。五稜郭で島田を見つけるなり、ひっついて帰らなくなってしまったのだ。

 そこは人の良い島田魁、ご両親には責任持って帰り道を送ると約束してある。

 レティシアちゃん、雪をこねては、あらゆる角度から調整し、島田に指示を出した。

「おすもうさん、もっとここまるくしてね。もっと。うーん……ここはなだらかにして。」

「うんうん……これ、何作ってるのぉ?」

「これはね!おすもうさんの、おっぱいだよ!!肉感的にするのよ!!もっともっと!!」

「……へぇ〜、すごいねぇ……」

 島田にも入っていけないレティシアちゃんワールドがある。

 土方歳三は、島田魁の前に颯爽と現れた。

「島田!島田魁!!」

「はい、土方さん!」

 島田、起き上がり、土方に尋ねた。

「榎本総帥とは、お話になられたので?」

「折り合いはつけたぜ。本日づけで陸軍少将を休み、今日から俺も昔のまんま、新撰組のバラガキだ。」

 島田魁は、涙ながらに頭を深々と下げた。

「お疲れ様でした、陸軍奉行並、そして陸軍少将、よくぞ今までお勤めになられました。そして、土方さん。おかえりなさい。」

 土方は島田を見て微笑した。

「島田、お前もよく戊辰戦争をこんなとこまで着いてきたと思うよ。真面目なお前だ、世話かけたな。さて、待ってたんだろう?屯所に案内して貰えねぇか?」

「ずるい!おすもうさんと先にあそんでたのは、わたしだからね!」

 フランス人の女の子に、土方はようやく気がついて、女の子を叱ろうとする田村銀之助を制した。

「そいつァ悪かったな。島田、この子は?」

「あ。この子は俺の幼い友達のレティシアちゃんです。フランスから帰化した宇佐見さんちの子で、大福あげたら懐いちゃって。何でか、俺を力士だと思ってるんですよね。力士の存在は武蔵国にでも行かなきゃ、知らないはずなんですが。レティシアちゃん、帰りに送らなければ危ないので、同行させてよろしいでしょうか?」

「かまわねぇぜ。きちんと連れて歩きな。」

 島田魁、身体つきはまさしく巨漢、力士に間違われるのは無理も無く。この男の剛腕にて、甲冑の重たさに逃げ切れなかった永倉新八がその命を助けられたほどだ。

 土方歳三は屈んで、レティシアちゃんの雪造形を眺めた。

「レティシアちゃんよ。雪で、パイパイ作ってんのか。女にしては変な形だが。」

「ちょっとぉーマドモワゼルの前でパイパイって言わないでよね!へんたーい!!これはおすもうさんのおっぱいですぅー!!」

「なるほど。こりゃあ、島田のパイパイか。」

「違うんです土方さん、この子ちょっと不思議な子でして、あれですよ。別に俺が上裸で出歩いた訳じゃないです。」


 島田の案内で、新撰組が屯所の代わりにしている三つの小さな寺へとやってきたが、どれも隊士の人数には合わず、窮屈なこと至極極まりない。

「土方さん!」

 相馬主計、安富才助、大野右仲、慌ただしく出て参ると、何やら急ぎの話。

「島田さんに案内していただきながら、この状況、大変面目ない。見ての通り、新撰組は蝦夷三官寺に収まりきらず……」

「新しい屯所が必要って訳か。確か、デカい修道院があったな……」

 土方歳三が隊士を引き連れて修道院のシスター達を追い出すと、直ちに知らせを受けた榎本武揚が馬車で飛んで来て、ことの危険さを知らせた。

「シスターさん達に手出しはいけない、直ちに修道院をお返しせねば。キリスト教国が攻め込んでくるぞ、土方くん!修道院や教会は、西本願寺のようにはいかないのだ。」

「なら榎本さん。代わりの屯所をくれ。」

「参ったな。第一レジマンの新撰組、しかも元陸軍少将の土方君の為には、どうにか捻出して館を建てたいが……これは、今すぐどうこうの話なのだろう?」

「あぁ。遅かったぐらいにはな。」

「この鍵を。箱館の港近く、街道沿いに、西洋式オテルがある。フランス式の洋館なんだが、そこの大富豪は蝦夷共和国の何が悪いというのか、ある日真っ青になってフランスに帰国してしまって。廃墟にするよりかは、君たちが住み込んで清掃もしていただけたら、わたしには見返りもあるのだが。」

「清掃はするが、内装は建て直すぜ?隊士の部屋は子割りに、邪魔な壁はぶち抜く。」

 榎本武揚、土方歳三を制した。

「それは必要無い。わたしから二段ベッドを提供するから。軍隊式に、部屋は四人相部屋で、二段ベッドで大丈夫だろう。くれぐれも、壁はぶち抜かないように。」

 その箱館の港近く、街道沿いのフランス式オテルは、百人を超える新撰組に充分な広さを有しており、多少の狭さは、相部屋に榎本が回した二段ベッドにより改善され、あと何十名か隊士を募集しても大丈夫な部屋数を確保出来た。

 島田魁が土方歳三に耳打ちした。

「土方さん。相部屋というと、二人部屋は修道が出ます。」

 修道とは、同性愛だ。禁忌でこそ無いが、相手の了承の無い性行為は厳罰である。

「確かにな。特に若い隊士は三人以上の相部屋にせよ。二人以下で夜を過ごしたやつぁ、翌日取り調べの上、相手の了承無く手出しした奴は厳罰だ。まぁ、腹を切る訳でなし。ちょいと俺から拷問するだけさ。」

 美少年周りのウキウキしていた隊士らは、即座に顔を青くして三人以上にまとまった。

 土方歳三はさらに告げた。

「それから、島田や他の奴らの案あって、ご法度をひとつ足す。今まで四つだったが、今後は五つのご法度だ。今までの条例通り、道徳さえしっかりしていりゃ、怖くも何ともねぇ話さ。妻子ある隊士は遊郭や女の遊びを禁ずる。」

「ええ!でも、それは近藤局長だってしていましたよ!?」

「近藤さんは近藤さん、俺たちは俺たちだ。武士たるもの生涯に女一人幸せにしてやれず、遊郭にうつつを抜かしてどうする。ただし、妻に問題がある場合は俺や島田が相談に応じ、離縁まで世話してやる。遊郭は禁じるが、その分、妻子ある隊士のリスクを配慮し、前線には出さん。敢えて前線に出たくば、この土方歳三を通しな。」

「えぇ!?」

「鬼のはずの土方さんが……!?」

「まぁ、だからといって敵前逃亡は斬り捨てるがな。」

 隊士達は笑いながら頷いた。

「それでこそ、土方さんだ」

「俺たちは鬼の副長、土方歳三についてきたんだ。」

 オテルの玄関口に、ドアに背を預けた巨魁、新撰組を語らう。

「昔よりゃあ、いささか風向きがまともなようで。」

 土方歳三、巨魁に声をかける。

「おめぇさんは、力を貸しちゃくれねぇのかい?」

「福山で婚姻式がある。俺は俺で忙しいが、また、あんたの顔を見に来ようか。」

 巨魁、するりと身を翻し、立ち去るのみ。

 永倉新八、土方歳三との邂逅、これにて。

Copyright(C)2026 燎 空綺羅

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